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富士通、新社長に野副上席常務
~黒川社長「ワンマンコントロールに限界」

3月27日 発表



 富士通株式会社は27日、6月に野副州旦経営執行役上席常務を代表取締役社長とする社長人事を発表した。黒川博昭社長は相談役に退く。

野副州旦氏

 代表取締役会長には、代表取締役副社長の間塚道義氏が就任。現代表取締役会長の秋草直之氏は、取締役相談役となる。また、この人事に先立ち、野副経営執行役員常務は、4月1日付けで経営執行役副社長に就任する。

 野副新社長は、'47年7月13日生まれ、福岡県出身。'71年早稲田大学第一政治経済学部経済学科卒業後、同年富士通に入社。ニューヨークやワシントンでの駐在経験を経て、2001年4月政策推進本部長、同年6月常務理事、2002年6月執行役兼ビジネス開発室長を経て、2003年12月経営執行役兼ソフト・サービス事業推進本部長に就任。ソフト・サービス事業の赤字体質の改善に尽力した。2005年10月には経営執行役常務として、ソリューションビジネスサポートグループ副グループ長、マーケティング本部長、ビジネスマネジメント本部長を兼務。2007年6月には経営執行役上席常務に就任した。

 黒川社長は、野副氏を後任に指名した理由として、「バランス感覚がある、優れたリーダーである点」を挙げ、「数百億円の赤字事業だったソリューション事業の立て直しや、地に落ちたプロダクト事業を立て直すといった実績があり、変化に対する柔軟性、私にはない海外での経験、幅広い人脈が社内外にある点を評価した。富士通のマネジメント手法を変えていくには最適な人材」とした。

間塚道義氏

 一方、会長に就任する間塚氏について黒川社長は、「私がSEの時代に、営業として盟友だったのが間塚さん。また、富士通の伝統的な営業とSEを分離した組織を強引にひとつにするという改革ができたのも、間塚さんがいたから。富士通で誰が一番お客のことを知っているかと言われたら、私が自信を持って間塚さんの名を挙げることができる。富士通はお客様のパートナーとして成長していくという観点から、野副さんをサポートしてもらう意味で、会長に就任してもらう」と語り、「新たな体制で、今年度からスタートしている3カ年の中期経営計画を確実に進めることを期待している」とした。

 社長に就任する野副氏は会見の席上、「これまで、社長の指示を実行する黒子の役割を果たしてきた」とする一方で、「黒川社長には褒められたことも、評価されたこともない。その点からも、今回の話は、青天の霹靂であった」とした。

 また、「黒川社長は、2003年から、経営モデルをお客様起点へと変更した。一方で、ソリューションを通じて、価値を提供できる企業への転機が訪れているタイミングでもある。お客様起点の経営モデルを一層強化するとともに。ソリューション、プロダクト、サービス、保守、運用を、ワンストップで、スピーディーに提供する企業を目指す。また、従業員が生きがい、働きがいを感じ、夢を持って、この会社のために尽くしたいと思う、活力のある会社を目指したい。中期経営計画は、スピーディーに実行すれば達成可能だと思っている」などと述べた。

 会長に就任する間塚氏は、「富士通に入社して40年を超え、そのうち35年を営業の第一線でやってきた。さらにそのかなりの部分が製造業の営業担当として、黒川社長とは、SEと営業という立場でやってきた。野副氏は、人の意見をよく聞く、本質をきっちりと見抜く、切れのいい人。そして親分肌であり、聞いたことを叶えることができる人。私自身の役割は、変わらないお客様起点への取り組みを浸透させ、顧客の声、外部の声を経営に反映させること。経営執行は野副さんに任せる」とした。

黒川博昭氏

 一方で、黒川社長は、社長退任の理由として、「ワンマンコントロールの私の手法に弊害が出てきたことが要因」とした。

 黒川社長は、2003年6月に社長に就任してから、「お客様起点」を打ち出すとともに、「元気で、健康な富士通」への改善を目指してきた。2年連続の赤字からの脱却や、成果主義で疲弊した社員と経営陣との関係改善、顧客満足度の向上といった課題が山積した中での社長登板だったからだ。

 「私は、お客様の信頼を取り戻すこと、従業員の心と行動で富士通の強さを取り戻すこと、営業利益をあげることに力を注いできた。SEを長年やってきた経験から、プロジェクトマネジメントしか知らない。その経験をもとに、強いワンマンコントロール体制を敷いて、経営してきた。これはシンプルな経営手法であり、社員の努力、お客様の支援によって、2,000億円近い営業利益を生む体制に改善できた。昨年、3カ年の中期経営計画を打ち出し、成長と利益をもたらす富士通へと変えていく段階に入った。その転換期において、強いところをより強くする経営、ポートフォリオを考えたマネジメントが必要となり、リーダーを変える必要があると、ずっと思ってきた」と語る。

 黒川社長は、かねてから「私の社長時代は短ければ、短い方がいい」と冗談混じりに語っていたが、今回の会見後のコメントでも、「2006年度の終了段階で、私の役目は終わったと思っていた。だが、秋草さんと相談したところ、すぐにバトンを渡せる状況にはないという結論に至った。そこで中期経営計画を策定する一方、次のリーダーを探してきた」こと明かす。

 次期社長人事については、昨年から秋草会長との間で話し合いを行なってきたことを明らかにし、今年2月に、野副氏に社長就任を打診したという。

 「話を聞いた野副さんは、とんでもない、という顔をしていた。こちらではベストな選択だと考えていた。秋草さんがうまく野副さんを説得してくれた」と黒川社長は笑う。

 また、黒川社長は、ワンマンコントロールの弊害について、次のように語る。「まず、私の意向を確認してからやるという動きや、常務会でも私の意見を待っているという雰囲気が出てきた。口うるさい常務を揃えたつもりだったが、私が、なぜ意見を言わないのかと、常務会で言うことすらあった。一方で、下からの情報に統制がかかるといったことも見受けられるようになった。この言葉が社長の耳に入っては困る、というようなことも出てきた。社長に就任した時には、ワンマンコントロールが効果を発揮したが、今こそが、その経営手法の潮時だと判断した。リーダーを変えた方がいい時期だと感じた」とした。

 黒川社長は「社長としてやり残したことはない」と語る。それは、「ゴールや区間がない駅伝競走のようなもので、タイミングを見て、次の人にたすきを渡していくもの。やり残したこととは意識するものではなく、新たなリーダーのもとで課題を解決し、また新たな課題を発掘して取り組んでいけばいい」と語る。

 だがその一方で、「私の社長としての評価は、ほかの人が決めるもの」としながらも、「自分で採点するならば60点ぐらい。もっとうまくできただろうなということはあるし、事業によって、良いところ、悪いところがある。また、伸ばしていかなくてはならない事業もある。これからは、私の経営手法では通用しないと感じている。だから、新たなリーダーに託すことにした」とする。

 グローバル化を目指す富士通にとって、海外経験があり、また、事業立て直しで実績を持つ野副氏を指名したのも、黒川社長体制からの大きく転換を図るという意味では最適な人事ともいえる。また、それを支援する会長として、黒川社長と長年コンビを組んだ間塚氏を指名したのは、黒川社長が作り上げた「お客様起点」を維持するためには順当な人事といえよう。

 ところで、今回の人事では、黒川社長が取締役から外れる一方、秋草会長は取締役相談役となる。これについて黒川社長は、「富士通自身が、これから何をやるかということは、現在の役員と共有できている。その上で、社長、会長の2人が、経営に腕を振るえるようにするために、思い切って私が経営から外れた方がいいと判断した。一方で、会長の秋草さんと、私が一緒に経営から退くと、対外的な影響も大きい。対外的な活動をしていたのは、秋草さんであり、そのために取締役に残ってもらった」とした。

 だが、黒川社長はこんなことも漏らす。「10年前に妻を亡くし、92歳の母が毎朝ご飯を作ってくれる。子供として、母といる時間を増やしたいとも考えている」こうした個人的な想いも、今回の取締役を退くことに影響しているのかもしれない。

 一方、野副氏は、現在の富士通の課題を「グローバル化にある」とする。「現在、収益性のある事業基盤を確立できたが、この体制のままでグローバル展開するには限界がある。海外の市場で通用するプロダクトが必要であり、サーバー、ネットワーク、ストレージといったTRIOLE領域の製品を強化しなくてはならない。ただ、富士通単独ではリソースに限界がある。この部分は、サン・マイクロシステムズ、インテル、SAP、マイクロソフトといったグローバルパートナーとの連携によって、グローバルで戦える事業体制を確立する。国内では、4年ぶりにサーバー製品でのトップシェアを獲得したが、この勢いをグローバルに展開することが不可欠。また、富士通単独の営業損益の改善も課題。ひとつひとつ実行に移したい」などと語った。

 野副氏の実行力には定評があるが、その一方で、黒川社長以上のワンマン経営になる可能性も一部では指摘されている。

 自らも、ゲシュタポとの社内評価があることを話題に持ち出しながら、「SIアシュアランス勘定といった予算を用意し、最初から赤字とわかっていながらも、やらなくてはならないSI案件において、社員のモチベーションを下げないという施策を用意した。ゲシュタポの側面とともに、善人の側面もある」などとかわした。

 果たして、野副新社長体制となり、富士通はどう変わるのか。いずれにしろ、グローバル化の推進とともに、これまで以上にアグレッシブな企業体質になるのは間違いなさそうだ。

□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□ニュースリリース
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2008/03/27-1.html
□関連記事
【2003年7月8日】富士通、黒川社長が就任後初の会見
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0708/fujitsu.htm

(2008年3月28日)

[Reported by 大河原克行]

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