B3ステッピング採用「Phenom X4 9850 Black Edition」速報レビュー
2007年11月に販売されたAMDのPhenom。約半年が過ぎ、リビジョンアップしたリフレッシュバージョンが登場した。AMD CPUファンには真打ち登場と言ったところだろうか。新たなリビジョンはB3と呼ばれTLBに関するエラッタが解消されている。そして同時に最高クロックも更新された。今回、B3リビジョンのPhenomの中でも最高クロックとなるPheno X4 9850 Black Edition(以下、Black Editionは省略)を入手したので速攻レビューしてみたい。 まずPheno X4 9850の仕様をPhenom 9600と比較しておこう。今回はリビジョンアップであって、基本的な仕様は従来のB2リビジョンのPhenomと同等である。プロセスは65nm SOIのままであるし、L1~L3キャッシュの容量にも変更は無い。ただし、最高クロックモデルとして2.5GHzのPhenom X4 9850と2.4GHzの9750が追加されたわけだ。もっとも高クロックになったのは良いが、Phenom X4 9850の場合、コア電圧も上がり、TDPも30Wほど上がって125Wになっている点には要注意だ。 また、Phenom X4 9850は(未発売のPhenom 9900を除けば)シリーズで唯一HyperTransport(以下HT) Linkのクロックが2GHzに引き上げられている。実際のところコンシューマ用途において1.8GHzでもHT Linkの帯域が不足することはまず無いことだが、Phenomシリーズ最上位の証としてみることができる。
【表1】新旧Phenomの仕様比較
●ベンチマーク それではベンチマークに入ろう。環境は表に示した通りで、CPUはPhenom X4 9850および、9850をベースにAMD OverDrive 2.10でクロック倍率とHT Linkクロック等を落としたPhenom 9600相当(厳密なリビジョン間の比較にはならないので注意)。現行の最上位であるPhenom 9600との性能差が気になるが、今回、時間の都合でPhenom 9600を用意できなかった。そのためエラッタ解消に伴う性能の変化については検証できていないことをご了承頂きたい。ライバル比較としてはほぼ同じ価格帯のクアッドコアCPU Intel Core 2 Quad Q6600(2.4GHz)を用意した。 マザーボードはAMD CPU環境がMSIのK9A2 Platinum、Intel CPU環境がIntel DX38BT。グラフィックスカードは都合により、世代は古いがハイエンドに属すGeForce 7900 GTXで共通とした。
【表2】テスト環境
まずCPU関連でSandra XIIの「Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark」(グラフ1)、「.NET Arithmetic/Multi-Media Benchmark」(グラフ2)と、PCMark05のCPU Test(グラフ3、4)を比較しよう。 Phenom 9600に対するPhenom X4 9850のCPUクロック比は108%程度であり、それに近い性能向上を確認できる。Core 2 Quad Q6600と比較すると、Whetstoneが良く、DhrystoneとMulti-Media系が弱いというPhenomの傾向はそのままだが、コアロジックに変更が無いのだからこれは当然だ。しかしPhenom X4 9850がCore 2 Quad Q6600に肉薄していることは評価できる。 次はSandra XIIの「Cache & Memory Benchmark」(グラフ5)と、PCMark05の「Memory Latecy Test」(グラフ6)。基本的にはレイテンシもキャッシュに収まる範囲では、Phenom X4 9850がPhenom 9600よりも8%ほど高い性能になっている。
そのほか実行したテストは、「PCMark Vantage」(グラフ7)、「CineBench R10」(グラフ8)、「3DMark06」(グラフ9、グラフ10)である。 PCMark Vantageは、Phenom X4 9850がいくつかのテストでCore 2 Quad Q6600に肉薄するスコアを出している。特にGamingではCore 2 Quad Q6600を超え、全体的に見たOverallでは僅差でトップに立っている。つまりPhenom X4 9850がCore 2 Quad Q6600とほぼ同等と呼んでも差し支えないといったところだ。ただしMusicとTV and Movieに関しては不得意な傾向がある。 CineBench R10に関しては、対Penom 9600比で8%を超える数値が出てはいるがテストの性格上ほぼ誤差の範囲と言ってよい。ただしCore 2 Quad Q6600との開きが大きいと受け取れる結果でもある。3DMark06のCPU Testではクロック通りの差が確認できるほか、Phenom X4 9850がもっとも良好なスコアを示している。
最後は消費電力。3DMark06のGame Test実行中のピークをワットチェッカーにて計測している。もちろん目測であるので若干の誤差が生じるが、Phenom X4 9850は確かに消費電力量が増えている。もともとPhenomシリーズはピーク消費電力量が高いが、もう一段増えたことは残念だ。もちろんピークが続くわけではないものの、ほぼ同じ構成ではCore 2 Quad Q6600の方が最大消費電力が少ないということになる。
●総評 常日頃、コストパフォーマンスとパフォーマンス/ワットを謳うAMD。まず価格を見ると、Phenom X4 9850は1,000個ロット時の単価で235ドル、Phenom X4 9750は215ドルで、執筆時点ではまだ価格が出ていないが、9650や9550に関しては200ドル以下となるのではないだろうか。とりあえず初回ロットにはプレミアが付くとしてもこれを過ぎればPhenom X4 9850も2万円半ば~後半あたりで落ち着くと思われる。メインストリーム帯ではあるが、クアッドコアCPUのハードルをさらに下げる製品であることは間違いない。 ただしパフォーマンス/ワットに関して、今回のPheno X4 9850が「良い」と言い切れるかどうかは微妙。ほぼ同価格帯に位置するCore 2 Quad Q6600に肉薄し、一部超えるスコアのテストもある。しかし125WのTDPがやはりネックとなる。これが仮にハイエンドの「FXシリーズ」ならユーザー層的にも納得できるところだろうが、メインストリーム向けで125Wというのは疑問が残る。 さて、Phenomの購入に際し、既にPhenom 9600 Black Editionを持っているユーザーにとってこの製品はどう映るだろう。エラッタ解消とクロック向上の代金が235ドルということとなる。200MHzアップの2.5GHzであれば、Phenom 9600 Black Editionではかなり高確率で動作してしまう範囲であることは否めない。エラッタ無視でオーバークロックで行くか、エラッタ重視で買い替えるか、それとも新リビジョンでさらなるオーバークロックに賭けるか、悩ましいところだ。 とは言え、エラッタを気にしていたユーザーは、それが解消されたB3リビジョン製品では購入を踏みとどまる理由が無くなったのは確か。メインストリーム価格帯のクアッドコア製品の選択肢が増えたことは歓迎できるだろう。 □関連記事 (2008年3月27日) [Reported by 石川ひさよし]
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