1月のMacWorld Expoで発表された新製品といえば、なんといってもMacBook Airなわけだが、もう1つ注目すべき新製品があった。それが「TimeCapsule」だ。 TimeCapsuleを一言で表せば、NAS機能付きの無線LANアクセスポイント(ルータータイプ)ということになる。もちろんNASとして、あるいは無線LANのアクセスポイントとして利用できるのはMacだけでなく、Windowsからの利用も可能だ。サポートする無線LANはIEEE 802.11a/b/g/n(ドラフト)だが、2.4GHz帯(b/g)と5GHz帯(a)を同時に利用することはできない(初期設定は2.4GHz帯)。 TimeCapsuleを既存のアップル製品で例えれば、HDDを内蔵したAirMac Extremeというところだろうか。1つ大きな違いがあるとすれば、TimeCapsuleはMac OS X Leopardが標準で備えるバックアップソフトウェアであるTimeMachineのバックアップデバイスとして利用できる、ということだ。 TimeMachineは、Macのシステムとアプリケーション、データを丸ごとバックアップしてくれる便利なツールだが、バックアップデバイスとしてMac OS Xのブートパーティション以外のボリュームを用意する必要がある。起動ドライブにブートパーティション以外のパーティションを用意し、そこをTimeMachine用のバックアップボリュームにすることは可能だが、データの安全性という点で推奨されていない。 だが当初、TimeMachineが初めて明らかにされた時点では、ネットワーク上の汎用ストレージも含め任意のボリュームにバックアップ可能という話だった。それが、いつの間にかバックアップに利用できるボリュームには大きな制約が加えられ、Macの内蔵HDD、Macに直接接続された外付けHDD(FireWireあるいはUSB 2.0)、ネットワーク上にあるLeopardあるいはLeopardサーバーが稼働する別のMac上のボリュームしか利用できないようになっている。現在市販されているMacのうち、複数台のHDDを内蔵できるのがMac Proのみであることなどを考慮すると、一般のMacユーザーにとってTimeMachineで利用可能なバックアップデバイスは、USB 2.0かFireWireの外付けドライブしかないというのが、Leopardが発売になった2007年10月末時点での実情だった。 というわけで個人でも利用可能なバックアップデバイスが1つでも増えるのは良いことに違いないのだが、TimeCapsuleはなかなか発売にならなかった。TimeCapsuleに合わせたLeopardの修正(TimeMachineでTimeCapsuleを利用するにはLeopard 10.5.2以降が必須)がなかなか完了しなかったようだ。それがようやく2月末に出荷が始まった、というわけだ。また、現時点ではAirMac ExtremeにUSB HDDを繋いだ状態でもTime Machineに対応できるようになった。 ここではまずTimeCapsuleのハードウェアについて少し見てみようと思う。 ●ハードウェア 現時点でTimeCapsuleは、機能的には同一で、容量が500GBと1TBの2種類が用意される。容量にかかわらず、その大きさは197×197×36.3mm(幅×奥行き×高さ)、重量1,587gと発表されている。筆者の手元にあるのは、国内の量販店で購入した500GBモデルだ。ちなみに幅と奥行きはAppleTVと同じで、TimeCapsuleの方がかなり厚く、重い。2.5インチHDDを使うAppleTVに対し、本機が3.5インチドライブを使っていることがスペックからも伺える。同じアップルの無線LANアクセスポイントであるAirMac Extreme(165×165×34mm(同)、753g)より一回り大きい。
TimeCapsuleの正面にあるのはLEDが1つだけ。ACケーブルを接続するとオレンジに点灯し、すべて問題がなければ緑色の点灯に変わる。かなり明るいLEDで、少し暗くするといったオプションはないが、アクセスすると緑色が点滅する設定、アップデートされたファームウェアがある場合にオレンジに点灯する、といったオプションは用意されている。背面に用意されているのはACケーブルのソケット、USB、Ethernet×4にケンジントンロック穴が1つ。電源スイッチはもちろん、シャットダウンスイッチ、アクセスランプもないから、電源を切る際には注意が必要だ(といっても誰もTimeCapsuleにアクセスしていないことを確認する程度しか思い浮かばないが)。
筐体を固定するネジも見えないが、これは底面を覆うゴム底の下にある。ゴムは両面テープでしっかりと留められているが、TimeCapsuleの中を見たければ、このゴムをはがすよりほかにない。ユーザーによるHDD交換などは全く考えていないのだろう。 ゴム底をめくり上げると、全部で10本のネジがある。いずれもかなり小さなネジで、すぐ紛失してしまいそうだ。ネジは必ずしも四隅についているわけではなく、内部のパーツを固定する都合でついているので、結構、中央よりにもある。 ネジをすべて外すと底が外れるが、底の方にファンがついているので要注意だ。このファンは吹き出し口がHDDの方に向いており、どこを冷やしたいのかよく分かる。HDDには温度センサーも取り付けられており、HDDの熱対策に気をつかっていることが分かる。 筆者の手元にあるTimeCapsuleが採用していたドライブは、SeagateのBarracuda ES 500GBモデル(ST3500630NS)。1月のMacWorld ExpoでJobs CEOが「サーバーグレードのHDDを採用した」と豪語していたので、これを確認するためにわざわざ開けてみたのだった。後は「ついで」だが、CPUはシールドの中で特に冷却はされていない様子。IEEE 802.11n対応の無線LANモジュールがMarvell製チップベースであること、部品点数の少なさからいっても、TimeCapsuleのハードウェアは、おそらく最近のNASによく使われているMarvell製チップセット(ARMコア)をベースにしているのだろう。差別化のポイントは外観とソフトウェアという点で、Intel Macと本質的には同じと言えるかもしれない。
●実際に利用してみる 使い勝手だが、設定はMac(Mac OS X v10.4以降)、Windows(Windows XP SP2以降)を問わず、添付のAirMacユーティリティで行なう。PC用に市販されている多くのNAS製品のように、Webベースのユーティリティを内蔵しているわけではないから、サポート対象外のOSでは、設定ができない可能性がある。が、ユーティリティ自体のデキは良く、分かりやすい。AirMacユーティリティの機能はMac版、Windows版で特に変わりはないようだ。 Windows PCにAirMacユーティリティをインストールすると、TimeCapsule上のボリュームにアクセスすることを助けるユーティリティ(AirMacベースステーション・エージェント)がインストールされる。ただしアクセスそのものは、Macに対してはAFP(Apple File Protocol)、Windowsに対してはSMBがデフォルトで用いられ、AirMacユーティリティやドライバ類のインストールは特に必要としない。
TimeCapsuleの背面に用意されたUSBポートには、プリンタかHDDを接続することができる。ホットプラグできないため、ちょっと面倒だが、この種のデバイスでは珍しくない仕様ではある。 今回、ここに接続するHDDを2種類用意してみた。1台は市販の外付けUSB HDD(バッファロー HD-H250U2)で、MBRパーティションでFAT32フォーマットした“Windows風味”。もう1台はプリンストンテクノロジーの外付けHDDケース(PEC-MMIUH)にHGSTのDeskstar T7K250を収めたもので、こちらはGUIDパーティションで拡張ジャーナリングフォーマットした“Mac風味”だ。
単なるストレージとしてアクセスする分には、Windows風味のドライブもMac風味のドライブも同じように利用できた。が、MacのTimeMachineで利用できるのはMac風味のドライブだけであった。TimeMachineはバックアップボリュームがMacのファイルシステムでなければならないようだ。ただ、Mac風味のドライブであっても、自動的にスリープする外付けドライブの場合、TimeMachineのアクセスによるウェイクアップが間に合わず、エラーになる可能性はある。 最後にNASとして利用した場合、TimeCapsuleにどれくらいの性能が期待できるのか、簡単なテストを行なってみた。アクセスするクライアントは、SP1をあてたWindows Vista Home Premium PCで、スペックは表1のようなもの。831MBのファイルコピーとFDBenchを行なっている。また、参考のために、バッファローのシングルドライブのNAS(HS-D300GL)とも比較してみた。その結果は表2と表3の通り。NASとしてはおおむね平均的な数値ではないかと思う。外付けのUSB HDDへのアクセスも、内蔵とそれほど大きく変わるものではなく、十分に利用価値はある。 表1:テストに用いたWindows Vista SP1システム
現在、市販されている個人向けのNASの価格は、1TBモデルが5万円前後、500GBモデルが2万円前後というところだ。それを踏まえて考えて、TimeCapsuleの500GBモデル(アップルストア価格35,800円)は、ルーター機能付きの無線LANアクセスポイント機能、TimeMachine対応のバックアップ機能、一般的な個人向けNASより1ランクグレードの高いドライブを採用という付加価値を考えれば決して高くはない、というところか。1TBモデル(同59,800円)は、ハッキリ安いと言って良いだろう。
正直に言うと、リリースされた直後は、時々不安定な動作も見られた。特にWindowsクライアントからアクセスした場合に、パフォーマンスがバラつくといった傾向があったように思う。しかしリリースから3週間、この間にTimeCapsuleのファームウェア、TimeMachine、AirMacユーティリティのアップデートは頻繁に行なわれ、かなり安定してきた。無線LANアクセスポイントとして、2.4GHzと5GHzが同時に利用できないのは残念だが、そろそろ無線LANアクセスポイントを802.11n対応にアップグレードしようかと考えているユーザーは、NASの導入と合わせ、検討する価値のある製品だと思う。 □アップルのホームページ (2008年3月26日) [Reported by 元麻布春男]
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