元麻布春男の週刊PCホットライン

LPレコードの音をUSB出力できるDDプレーヤー




テストに用いたアナログLPはロック版「ピーターと狼」。有名なプロコフィエフの曲をBrian Eno、Phil Collins、Manfred Mann、Chris Spedding、Alvin Lee等のオールスターが余興でやってみました、みたいな作品。ロック史に残る名盤ではないし、その割にメンバーが豪華で、故人(Cozy Powell)もいたりするので、版権処理が大変そう
 新譜としてリリースされる音楽フォーマットの主流が、それまでのアナログLPからCDに変わったのは、'80年代後半のことだったと思う。筆者はその頃、700枚くらいのLPを持っていたが、すべて中古レコード店に売り払い、CDに一本化することを決めた。もう時代はCDだろうと思ったこともあるが、大きく重いアナログLPがこれ以上増えるのに耐えられなくなった、ということもある。

 そしてアナログLPを処分した時点で、その再生機器も処分してしまった。真空ポンプによる吸着機能を持ったマイクロのベルトドライブ方式のターンテーブル、オーディオクラフトの1点支持オイルダンブ方式トーンアーム(黒のMC3000)、MCカートリッジ(ゴールドバグ・メデューサ)と純正のステップアップトランスといったシステムだったと思うが、レコードがなければ何の役にも立たない。

 正直に言うと数枚だけ、CDにならないだろうと思ったLPを手元に残しておいたのだが、幸いなことにこれらはすべてCDとして再発された(今でもその数枚のLPが、押し入れの中に眠っているハズだが)。その一方で、売却してしまったLPの中で、CDとして再発されなかったものも存在する。レコード会社との契約の問題があったり、版権処理が極めて厄介と思われるタイトルなどだ。あるいは再発されたものの、2枚組のLPを1枚のCDにする関係で、完全な形にならなかったものもある。

 筆者の場合、こうしたものを執念深く追いかける、ということはあまりしてこなかった。CDで再発されたかどうかさえ、いちいち追いかけてなかったりもする。が、何かの拍子に気になり、CDで買い直そうと思い、実際に探してみて初めてCD化されていないことに気づくのである。


●アナログLPをUSBで取り込むという選択
ソニー「PS-LX300USB」

 実は、今手元に完全なCD化がなされなかったアルバムがLPとして何枚かある。一度売り払ったものの、CD化されなかったことに気づいて、アナログLPとして買い直したものだ。とりあえず音源の方は押さえて一安心というところだが、レコードプレーヤーがなければ聞くことはできない。これを何とかして再生したい、できればデジタル化してiPodの中に入れておきたい、とは思うものの、なかなか億劫で手をつけられないできた。

 ところが、最近はUSBでそのままPCに音楽を取り込めるプレーヤーがあるという。つい先日も、ソニーが4月からこのような製品を発売すると発表した。結構この種の製品にも需要はあるのだろう。PC直結のUSB接続であれば何より気軽だ。調べてみると2万円前後からUSB接続のレコードプレーヤーが存在する。もし試して気に入らなくても、それほど痛くはない金額だ。

 さらに調べると2万円級のプレーヤーはベルトドライブ方式(小さなモーターとベルトでターンテーブルを駆動する)だが、4万円ほど出すとダイレクトドライブ方式(ターンテーブルの回転軸に直結した大きめのモーターで直接駆動する)のプレーヤーが買えることも分かった。方式の違いによる音質差は、ハイエンドの世界ならベルトの圧勝かもしれないが、このクラスでは微妙なところ。むしろ調整が楽でスタート/ストップが速いダイレクトドライブに魅力を感じ、4万円コースに挑戦することにした。Numarkの「TTX with USB」と呼ばれる製品だ。

 2万円コースの「TTUSB」はベルトドライブの製品で、出力は内蔵フォノイコライザー(レコードに記録する際のイコライジングを元のフラットな状態に戻す一種のアンプ)を通したライン出力のみとなる。TTX with USBは、フォノイコライザーを通さないフォノ出力を備える(外部のフォノイコライザーが必要になる)ほか、33回転、45回転に加え78回転をサポートすること、S字タイプに加えストレートタイプのトーンアームが付属すること、TTUSBに付属するカートリッジ(トーンアームの先につけられるモジュール)が付属しないこと、といった違いがある。


TTX with USBの外観。DJプレイ用という印象が強い フェーダーでピッチを変更すると正確にデジタル表示されるのはダイレクトドライブ方式のメリット

●MM方式かMC方式かで悩んでみる

 というわけで、TTX with USBを選ぶと、自動的に何かカートリッジを購入する必要に迫られる。オーディオ信号をUSBで取り出すということは、カートリッジが拾った信号を内蔵フォノイコライザーアンプとDA変換器に通すということを意味する。つまり、カートリッジは内蔵アンプの仕様に合わせなければならない。

 フォノカートリッジはMM(Moving Magnet)方式とMC(Moving Coil)方式の2種類があり、前者が数mVから10mV程度の出力を持つのに対し、後者は1桁小さい出力しか持たないため、ステップアップ(昇圧)トランスやヘッドアンプが必要になる。また、一般に摩耗した針の交換が可能なMM方式に対し、MC方式の針交換はメーカー送りとなる。TTX with USBは手荒な扱いを受けることもあるDJ用のターンテーブルを元にしているだけに、内蔵アンプの入力レベルはMM方式向けで間違いないようだ。

 筆者がレコードを聞いていた頃は、MM式カートリッジのトップブランドはシュアーで、スタントンやピッカリング、あるいは日本のオーディオテクニカといったあたりがメジャーどころだった。今は、シュアーと言えば、カナル型のイヤフォンというイメージなのかもしれない。一方、MCタイプではオルトフォンや日本のデノン(当時はみんなデンオンと呼んでいた)あたりが大手だったが、小さな手作りのメーカーもあったりして、かなり趣味性の強い世界だった。

 今回カートリッジを選ぶにあたって、プレーヤーの価格が価格だから、あまり高価なものは対象外だが、できれば上にあげた馴染みのメーカー製品にしたいと考えた。そして選んだのがオルトフォンの「Concorde Arkiv」だ。オルトフォンの製品ラインナップではHiFiカートリッジ(音楽観賞用)ではなく、DJカートリッジ(DJプレイ用)に位置づけられる製品だが、手頃なMM式である上、わざわざカタログに「アナログ音源を圧縮デジタル音源に変換する事を前提に開発された」と書かれているのが目にとまり、選んでみた。価格は交換針がセットになって、約15,000円というところで、本体との価格バランスからいくと少し高めのカートリッジということになる。

パッケージには、交換針とスタイラスブラシがセットになっている オルトフォンのConcorde Arkiv。形状からコンコルド・シリーズと呼ばれる

 到着したプレーヤーだが、重量が10kgを越える(12.6kg)だけに、置き場を選ぶ。この価格帯としてはかなり重量級のプレーヤーではないかと思うのだが、オーディオ機器には重い方が音が良いという原則がある(特にアナログ機器)。必ずしも悪いことではない。予想外だったのは、ターンテーブル上部をおおうダストカバーが付属していないことで、クラブではそんなものは必要とされないのだなぁと気づく。が、猫のいる筆者宅でダストカバーがないのは結構深刻な問題だ(すでに1回、ターンテーブルに乗られてしまった)。

 とりあえずプレーヤーとアームを組み立てたが、トーンアームの調整を行なうのも20年ぶりだ。そういえば昔は針圧調整用の秤も持っていたな、などと思い出す。どうもアーム自体は下位のTTUSBと共通らしい。一通りの調整を終えて、最初はUSB出力ではなく、フォノ出力をアンプのフォノイコライザに入れて試聴してみた(フォノ出力とライン出力は底面のスイッチで切り替える)。

トーンアームパイプは、S字とストレートの2種類が付属 シンプルなトーンアームは交換不可。台座を回転させて高さ調節することはできる 底面のコネクタ部。RCAピンジャックによるアナログ出力は、イコライザーを通したLINEと、通さないPHONOをスイッチで切り替える

●デジタル化してみたものの、若干の手間が辛い

 約20年ぶりに聞くアナログの音だが、思っていた以上にいい。なんというか、丸みのある音で、不安定なところがない。20年という歳月を感じさせない、実体感とか存在感とかいう言葉が出てきそうな音だ。確かにCDは便利だけれど、音質の向上という点で果たしてどうだったのだろうと思ってしまう。ただ、よく聞くと、ストレートタイプのアームと今回のカートリッジの組合せでは、レコードの内周で若干歪みっぽい音になるよう感じられたので、アームパイプをS字タイプに交換し、ほんの少しだけアンチスケート(インサイド・フォース・キャンセラーとも呼ばれる)を設定した。

 テストと試聴を兼ねたフォノ出力のテストのあと、いよいよUSB接続でアナログレコードのデジタル化を行なう。USBへの出力とアナログ出力(フォノ出力 or ライン出力)は常時 両方が利用できるため、アンプへの接続はそのままにした状態で、USBケーブルをPCに接続した。USBケーブルを挿すと、TTX with USBは、「USB Audio CODEC」というデバイスとしてシステムに認識される。

 本製品には、フリーの録音/編集ソフトウェアである「Audacity」を収録したCD-ROMが添付されている。これをインストールして、入力に上のUSB Audio CODEC(画面では「マイク(USB Audio CODEC)」)を指定する。今回はPC側でモニタすることにしたので、ソフトウェアによるスルー再生にもチェックしておいた。

 これらの設定を行ない、録音ボタンを押すと、自動的にトラックが生成され、録音がスタートする。あとはゆっくりとターンテーブルに針を落とせば、アナログLPのデジタル化が行われる。最後のトラックまで再生したら、同じことを裏面でも繰り返す。

 こうしてキャプチャした音楽は、Audacityのプロジェクトとして独自フォーマットによる保存に加え、WaveやOgg Vorbisファイルとして書き出すことができる。LameのCODECをインストールしておけばMP3へ直接出力することも可能だ。

 ただし、CDのように1曲ずつデータとして区切ってあるわけでもないし、CDDBのデータでトラックにタグが入力されているわけでもない。ファイルを曲毎に切り出して、タグを打つのはすべてユーザーの手作業だ。この点はCDが圧倒的に便利で、アナログLPではこうした部分に割く時間と労力が辛い。これらの作業はAudacityで行なうこともできるが、このシンプルな作業に多機能なAudacityはちょっと大げさかもしれない。

 WAVかAIFFにでも出力しておいて、シンプルで適当な編集ソフトでちゃちゃっと切ったらiTunesに持って行ってAACエンコード、みたいな使い方が良いのではないかと思う。今のところ筆者は、Audacityが吐いたAIFFファイルを、「Fission」というMac上のアプリケーションで無音部を利用した自動カットでCUEシート付きのAIFFにして、さらに別のツールで最終的にMP3に変換するという手順を採用した。が、これではあまりに手間がかかるので、MP3化をAudacityでやってしまうなど、もう少し手抜きができるようワークフローを検討中だ。

今回使ったAudacity。画面左上の赤い丸いボタンを押すと録音がスタートする TTX with USBは「マイク(USB Audio CODEC)」として認識された。録音と同時にPC側でモニタ(録音中の音を聞くこと)するには、ソフトウェアによるスルー再生をチェックしておく キャプチャしたデータは、独自フォーマットに加え、WAV、Ogg Vorbis、MP3等へ書き出すことができる

 最終的にMP3に変換された音だが、アンプのイコライザーを利用した場合に比べて、こじんまりとしてしまう。たいしたアンプではないにせよ、一応は単品コンポということか。USB出力は音が割れるのがイヤで、音圧レベルを控えめにしているのも、音質がもう一息な理由だと思うが、まずは不愉快じゃないレベルで聞けるのが大事。そのレベルはクリアしている。

 それはともかく、今回の体験でアナログLPの音質を再発見した気がする。本機は4万円台の製品だが、ちゃんとしたフォノイコライザーとカートリッジを使えば音質的にも悪くない。ただ、これを常時おいておけるスペースを確保できるのかと言われると、困ってしまう。その点だけでもCDに太刀打ちできないし、MP3は言わずもがなだ。手のひらに載るiPodに1万曲以上入るということこそが市場を変えてしまったのであり、音質にこだわったSA CDやDVD Audioではなかった、というのが歴史的事実なのである。

□Numarkのホームページ
http://www.numark.jp/
□関連記事
【3月12日】ソニー、USB出力を装備したレコードプレーヤー(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20080312/sony1.htm

バックナンバー

(2008年3月18日)

[Reported by 元麻布春男]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.