ZigBeeオープンハウス東京レポート
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開場直後のZigBeeオープンハウス東京展示会会場。展示会の会場は午前11時の開場とともに、大混雑となった。午前中は各企業のブースは詰めかけた来場者で溢れかえっていたため、質問はもちろんのこと、写真撮影すらできない状態だった。ZigBeeに関する日本企業の関心の高さがうかがえた |
短距離無線ネットワークの共通技術仕様「ZigBee」の策定団体であるZigBee Allianceは、顧客向けイベント「ZigBeeオープンハウス東京(ZigBee Alliance Open House in Japan, Tokyo)」を2月28日に開催した。ZigBeeオープンハウスは展示会と講演会で構成されており、展示会には26社が出展した。
ZigBeeの技術仕様は、数多くのセンサーやアクチュエータなどを無線でネットワーク接続した自動制御システムを低いコストで開発することを狙って策定された。ZigBeeの想定用途は非常に幅広い。少し数え上げただけでも電力計測、ビルディング(オフィスやホテルなど)管理、家電制御、災害対応、家屋警備などがあり、正直に言って一言でまとめることは難しい。「ZigBeeオープンハウス東京」では、その幅広い応用事例の一部が披露された。本レポートでは、PCユーザーにとって興味深そうな展示を紹介しよう。
会場入り口付近で注目を集めていたのは、ZigBeeのネットワークを移動体の位置検出に使った展示である。出展企業は半導体ベンダーの日本テキサス・インスツルメンツ。展示会場内に7個の無線通信端末を配置した。7個の端末の中で6個は宴会場「松月」の壁面にテープで固定しておき、残り1個を移動体とした。移動体の位置を無線通信の信号強度などから計算する仕組みである。展示ブースでは位置検出の動作を実演し、大型液晶ディスプレイに検出結果を表示してみせていた。
無線ネットワークはケーブルが不要なので、有線ネットワークに比べると設置が簡単だ。そしてZigBeeの無線端末は端末自身が自動的にネットワークに加入するので、ネットワークの構成も比較的容易である。ホテルの宴会場で即席の無線ネットワークを構築した日本TIの実演は、ZigBeeの特徴を良く表していた。日本TIブースの説明員によれば「ZigBee端末を固定した個所付近の企業ブースからは設置の承認を得ています。またホテルからは、無線端末を固定したテープを剥がしたときに後が残らないようなテープを選択することで、設置の許可をいただきました」という。
ZigBee搭載携帯電話機の展示も興味深かった。出展企業はKDDI研究所である。ZigBee端末密集時の混雑回避技術の開発に使用した携帯電話機を展示ブースにならべた。携帯電話機のZigBee機能を動かした状態を液晶ディスプレイに表示していた。
KDDI研究所が開発したZigBee端末密集時の混雑回避技術のイメージ。KDDI研究所の広報写真 | 沖電気工業のZigBee評価キット(携帯電話機の下と手前にある黒い箱)を携帯電話機のmicroSDカードインターフェイスを介して接続し、ZigBee搭載の携帯電話機をエミュレーションした。KDDI研究所の展示ブースで撮影 |
携帯電話機用のUSIMカードにZigBeeを組み込んだカードの展示も目を引いた。出展企業は韓国の通信機器/通信モジュールベンダーTSC Systemsである。ZigBee搭載USIMカードを挿入した携帯電話機を操作し、ZigBeeのアクセスポイントを介して宅配ピザを注文する過程を実演していた。
左がZigBee搭載のUSIMカード、右がZigBeeの無線端末(アクセスポイント)。韓国TSC Systemsの展示ブースで撮影 | ZigBee搭載USIMカードを内蔵した携帯電話機を操作してアクセスポイントと通信しているところ |
開発したZigBee搭載USIMカードには、韓国の無線通信半導体ベンダーRadioPulseのZigBeeチップを組み込んでいた。RadioPulseもZigBeeオープンハウス東京の展示会には出展しており、同社のZigBeeチップの応用例を数多く展示していた。プラズマディスプレイTV用音声認識機能付きリモコン、モーターサイクルのヘルメットにマウントする音声通信ユニット、携帯電話機のUSIMカード、USBドングルなどである。
プラズマディスプレイ(PDP)TV用音声認識機能付きリモコン。実物は出展せず、写真だけの展示だった。韓国RadioPulseの展示ブースで撮影 | 左はオーディオステレオの音声を送受信するモジュール。音声コーデック内蔵のZigBeeチップ「MG2455」を搭載した。右はモーターサイクルのヘルメットにマウントする音声通信ユニット。100メートルくらいの到達距離があると説明していた |
ZigBee内蔵USIMカードを携帯電話機に取り付けたところ。韓国RadioPulseの展示ブースで撮影 | ZigBee内蔵USBドングル |
ZigBee内蔵PDA(携帯型情報通信機器)や双方向無線リモコンなどの展示も来場者の興味を引いていた。出展企業は韓国のCESTである。ZigBee内蔵PDAは携帯型POS端末の代替を狙う。双方向無線リモコンは、家庭内ネットワーク機器やアミューズメント施設、機器組み立てラインなどで機器を制御したり、機器の情報を収集したりする用途に向けた。
ZigBee内蔵PDAの説明パネル。韓国CESTの展示ブース | ZigBee搭載双方向無線リモコンの説明パネル | 左の4点はZigBee搭載USBドングル、手前はZigBee搭載PDA、右端はZigBee搭載双方向リモコン |
無線リモコンは、システム開発企業のOSTLも展示していた。同社が開発した小型ZigBeeボード「ZigBuil card(ジグビル・カード)」を使い、液晶TVを実際に制御してみせていた。TV用リモコンでは通信に赤外線を使うのが一般的である。ZigBeeのような無線リモコンは電波の回り込みがあるので、TVの前方に遮へい物があっても赤外線リモコンに比べて操作信号が届きやすい。なおソニーは、ZigBeeの無線通信技術であるIEEE 802.15.4を採用した無線リモコン「おき楽リモコン」を、2007年8月に発表した液晶TVに採用している。
ホームセキュリティ用途も興味深かった。ZigBeeチップの開発企業である米Emberは、同社のZigBeeチップが採用された事例としてホームセキュリティのキット「AlertMe」を展示した。このキット「AlertMe」は英AlertMe.comが開発したもので、キットを購入した個人が家屋に取り付ける。キットの内容物はランプ(セキュリティの状況表示用)、ドア/窓センサー(3セット)、動きセンサー(2個)、押しボタン、キーノブ(3個)、アラーム検知器(2個)、コントローラなどである。
このほか、釣り船への応用が来場者の注目を集めていた。魚群探知器の情報を釣り人に無線で配信するシステムである。出展企業は半導体ベンダーのルネサス テクノロジ。無線通信にはIEEE 802.15.4のMAC層を使う。釣具や自転車などのベンダーであるシマノが、2008年4月に発売する個人用魚群探知器の新製品「探見丸(たんけんまる)CV」に採用した。シマノの従来製品は電源をバッテリーからケーブル経由で供給していたが、「探見丸CV」は電源に乾電池を採用してケーブルを不要にした。このため、釣り人が船内を移動しやすくなった。
□ZigBee Allianceのホームページ(英文)
http://www.zigbee.org/en/
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【2月26日】KDDI研、近距離無線「ZigBee」密集時の混雑回避技術
http://k-tai.impress.co.jp/cda/news/2008/02/26/38693.html
【2007年8月29日】ソニー、フラッグシップ液晶TV新「BRAVIA X」
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070829/sony2.htm
【2006年11月1日】【ケータイ用語の基礎知識】第296回:ZigBee とは
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/keyword/31765.html
(2008年3月3日)
[Reported by 福田昭]