DEMO 08レポート【インターネット技術編】 “インターネットを変える”ネットワークインフラ&サービス
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Asankya Chairman&CEOのScott Ryan氏 |
会期:1月28日~30日(現地時間)
会場:Desert Springs, A JW Marriott Resort & Spa, Palm Desert
●コンテンツ配信ネットワークの新技術を紹介した「Asankya」
Asankyaは、HDクオリティの動画コンテンツ配信に対応する、新しいネットワーク技術「HyperMesh」のデモを行なった。同社は、このHyperMeshの提供のために立ち上げられた企業で、TCPの速度に革命を起こすものであるとしている。
デモではまず、HyperMeshと従来の転送技術で動画のストリーミング配信を行なった場合の比較を紹介。従来技術では転送が追い付かず画面が乱れるのに対して、HyperMeshを利用した場合はきれいなままで表示されるというもの。加えてファイル転送のデモも行なわれ、HyperMeshではあっという間に転送が完了する様子を示した。
HD動画のストリーミング再生例。右側がHyperMeshによる転送で、左側が従来技術による転送。左は転送が間に合わず画面が大きく乱れている | ファイル転送のデモ。右側のHyperMeshによる転送は完了済みだが、左側はまだ半分にも達していない状況 |
この技術は現在のIPネットワークのトランスポートプロトコルレイヤーで透過的に動作するもので、技術的にはジョージア工科大学で開発された技術をベースにした、PLMP(Packet-Level Multi-Pathing)と呼ばれるものがベースになっている。PLMPは名称からも想像できるとおり、一種のパラレルネットワーク技術で、ネットワークノードは、ソフトウェアまたはハードウェアによって立ち上げられる。
そのポイントはインテリジェンスな経路判断が可能である点にあるという。例えば、複数経路転送時には、その時点で高速に転送できるノードを選択し、適切なルートを導くようになっている。また、複数経路転送だけに留まらず、P2Pアクセス時に仮想的にノードを複数立ち上げて、1つの経路で複数のパケットを送信したり、複数のノードを利用したキャッシュ読み込みなども可能となっている。
●双方向コミュニケーションのためのプラットフォームを示した「Kaazing」
Kaazing共同創業者のJonas Jacobi氏 |
Kaazingが行なったデモは、同社が提供する双方向コミュニケーションプラットフォームに関するものだ。
現在のWebシステムは20年以上も古いシステムで動いており、双方向コミュニケーションは“フェイク”に過ぎない。同社が提供するものが“真のセキュアな双方向コミュニケーション”を提供するプラットフォームであるとした。
提供されるものは、メッセージング配信バス「Kaazing Enterprise Comet Bus」と、そこに接続して動作する仮想マシン技術「Kaazing Virtual Machine」である。これらを合わせて、「Kaazing Enterprise Edition」として提供される。
技術のポイントは1対多のメッセージングを効率化するところにある。従来のメッセージ配信は1つのサーバーがそれぞれのユーザーに対して複数のメッセージのコピーを作成するような形で送信する。例えば、1,000人に配信するなら1,000個のコピーを作成するため、無駄が大きい。
これに対してKaazingの技術では、Kaazing Enterprise Comet Bus間で1コピーのみを転送。Kaazing Enterprise Comet BusはP2P技術も応用されているので、最短の経路を導きだしてメッセージを転送する。そして、マルチキャストメッセージ配信により、クライアント側のKaazing Virtual MachineがKaazing Enterprise Comet Busへ接続してメッセージを送受信する。
これらのメッセージ転送技術は、Javaをベースに作成された技術であり、すべてHTTP上で動作する。また、利用においてはKaazing Virtual MachineがJavaからJavaScriptへの変換を自動的に行なって表示するので、特別なプラグインなどを必要とせず、すべて現在の技術の上で成り立っているのが大きな特徴だ。
同社はローカルPCと仮想PCの2画面を表示し、リアルタイムにチャットが行なわれている様子や、Javaで作成されたオンラインゲームを2つのPCで対戦している様子などをデモし、広い分野に応用できることを示した。
デモではローカルと仮想による2台のPCを表示。2台のPC上にはFirefoxが起動しており、双方向チャットをリアルタイムに行なう様子が示されている | Javaをベースとした技術なので、このようなリアルタイムオンライン対戦ゲームにも応用できる |
●「Nirvanix」はコンテンツ配信を軽快にするストレージサービスを紹介
Nirvanix CEO兼創業者のPatrick Harr氏 |
Nirvanixは、同社が展開中のストレージサービス「Nirvanix Storage Deliverly Service」を紹介。デモの冒頭では、ストレージサーバーを破壊するというインパクトのあるパフォーマンスを行なったが、コンテンツ配信業者のストレージサーバーを同社のサービスに統合することができるとアピールしている。
Nirvanixはファイルアップローダ、SSLによる暗号化処理やユーザアカウント管理などのセキュリティ機能などストレージサービスとしては標準的な機能を備えるほか、動画や音声ファイルのトランスコードサービスAPIも提供。このトランスコードサービスは、サーバーサイドで実行されるので、自社のPC/ワークステーションへ負担はかからない。例えばHD動画から携帯端末向けの動画まで、あらゆるタイプの動画ファイルをサーバー側処理によって作成、提供できる。
また、同社のストレージサービスは、高いパフォーマンスを持っている点も強調されている。このパフォーマンスを支えるのは、同社がネットワークノードを張り巡らせている点にある。ユーザーがストレージサービス上のコンテンツへアクセスする際、遠くのノードにあるコンテンツであっても、ユーザーから見て近いノードへ複製。ユーザーは常に最短経路にあるノードからコンテンツを受け取ることができるというもの。また、複数ユーザーが同一コンテンツにアクセスする場合は、別のサーバーへコンテンツのレプリカを作ることにより、特定サーバーへの負荷集中も防ぐ。
●P2P技術を活用してHD動画を手軽に送信できる「SquidCast」
SquidCast ChairmanのDaniel Putterman氏(右)と、Senior Vice PresidentのJed Putterman氏(左) |
SquidCastがデモを行なったのは、HD動画を転送するサービスに関するもの。現在のYouTubeのようなサービスは満足できる品質ではないが、かといって高品位な動画を転送するサービスを提供しようと思うと、設備投資にコストがかかりすぎて無料でサービスを維持するのが難しいというジレンマが発生する。
SquidCastが実施するサービスは、ユーザーが持つネットワーク帯域とHDDを少しずつ提供してもらい、それを利用して高品位な動画(=大きなサイズのファイル)の転送を可能にしようというものだ。つまり、ユーザー間でファイルをP2P転送する。
転送するファイルは、複数に分割されて登録ユーザーのHDDに保管される。ダウンロードするユーザーは、複数のユーザーのクライアントからファイルをかき集めて結合するといった仕組みになっており、構造としてはWinnyやShareに近い。ファイルは暗号化されるほか、すべてのブロックを転送することなくファイルを再現できるパリティデータも付加しているという。
利用も非常に手軽に行なえ、“3ステップで動画を送信”とアピールする。ユーザーはSquidCastのWebサイトへアクセスし、送信先メールアドレスとコメント、ファイルを登録するだけ。ファイルは、デジタルビデオカメラで撮影したMTS(AVCHD)形式などのファイルを直接ドラッグ&ドロップしてアップロード。SquidCastのサーバー側でトランスコードを行なった上で、各ユーザーのクライアントPCへ分割配布される仕組みだ。送信先には、参照先URLを示したHTMLメールが送られるので、指定されたURLへアクセスし動画を閲覧する。
このSquidCastはDemoでの発表とともに、まずは日本と米国においてβサービスを開始している。
返信されたメール。指定されたURLにアクセスすることで動画再生が可能。1つのURLに複数ファイルの動画をアップしておくこともできる | ファイルは細かく分割されて利用者のクライアントPCに保管される、P2P技術を応用したサービスになっている |
●「Yoics」が行なったWebベースのリモートデスクトップ&ファイルアクセスサービス
Yoics President&CEOのRyo Koyama氏 |
Yoicsはリモートデスクトップやリモートファイルアクセスを“セキュアに簡単に”利用できるサービスのデモを行なった。PC側で登録したフォルダなどを、Webページから参照できるというもので、ファイアウォールなども超えて利用できる。
PC側には“インスタントメッセンジャーのようなUI”を持つシェアリングソフトウェアをインストール。このソフトウェアは、Windows、Mac OS、Linux向けが提供されている。ここにシェアするフォルダなどを登録していく。
登録も簡単さをアピールしており、Yoics用のセッティングが施されたRealVNCも統合されているので、リモートデスクトップ環境も簡単に構築することができるほか、Windowsのリモートデスクトップサービスなどを利用することも可能だ。フォルダを登録する場合は、Webページ側で表示する方法を選択しておく。
リモートアクセスを行なう際は、“WebメールのようなUI”を持つWebページから行なう。リモートデスクトップもWebサイトに表示されるメニューからアクセスが可能になっている。フォルダへのアクセスの場合は、PC側での登録時に指定した形式でファイルが表示され、メディアサーバーやフォトアルバム、PC側のWebカメラをリモート視聴する機能もあらかじめ用意されている。また、携帯端末用Webページも用意されているので、スマートフォンからのアクセスも容易に行なえる。
リモートアクセスを行なう対象フォルダやデスクトップを指定する画面。インスタントメッセンジャー風の画面レイアウト | リモートアクセスフォルダの設定画面。ローカルHDD上のフォルダのほか、クライアント側Webサイトで表示する形式も指定する |
クライアントとなるWebページは、左側のフレームに表示されているシェアリング項目一覧から目的のフォルダやデスクトップを指定。メディアプレーヤー機能やフォトアルバム機能も装備している | Webベースのクライアントであるメリットとして携帯端末からのアクセスも可能になっている。携帯向けWebページも用意されている |
□DEMO 08のホームページ(英文)
http://www.demo.com/conferences/demo2008.html
(2008年2月1日)
[Reported by 多和田新也]