このレポートでは、今までいろいろなものを分解してきた。ところが先日、ある人から「分解のたびに機械壊しちゃって大変ですね」と言われた。だが、このレポートの記事で分解したものは、組み立て直し、全部ちゃんと動いている。これまで分解してきた機材は、すべて購入したもので、借り物は1つもない。自分で使おうと購入したものなので、組み立て直して動かないとかなり悲しい。なので、分解は注意深く行ない、必ず組み立て直せるようにしている。だいたい、分解というのは、そのあと組み立て直して動いてこそ、「分解」だと言えるのであって、組み立て直せないならそれは「破壊」である。 さて、前回レポートしたAmazonのブックリーダ「Kindle」だが、やはり中身が気になる。そういうわけで、分解してみることにした。まずはお約束の文言から。
●金属フレームにプラスチックがかぶさる構造 Kindleの筺体は、表裏の2つに分かれるが、これはネジ(電池カバーの下)とはめ込みで固定されている。Kindleの左右部分はページ送りボタンになっていて、ほとんどはめ込みができない構造になっている。このため、筺体を箱型にして強度を稼ぐことはできない。このため、Kindleは内側に金属製のフレームが入っており、その表側に電子ペーパーディスプレイがあり、裏側にメイン基板がついている。この金属フレームを表と裏からプラスチックの筐体がはさむような構造になっている。特に表側は、プラスチックの筐体と金属フレームが、電子ペーパーディスプレイを両側から面ではさむような感じになっていて、強度を出しているようだ。筐体の裏側は、これを覆うフタのような感じになり、電池カバーの下で金属フレームとネジ止めされている。 ページ送りボタン自体も金属フレームが入っていて、ヒンジのような構造で本体側の金属フレームにつながっている。金属フレームの材質はよくわからないが、アルミかマグネシウムあたりだろう。この金属フレームがあるため、Kndleを持ったときに、筺体が歪まず、しっかりとした印象を与える。 メイン基板は、バッテリ部分がくりぬいてあり、また、SDカードスロットは、子基板になっている。これは、高さを合わせるためか、メイン基板上にSDカードコネクタを実装する余裕がなかったかだろう。 バッテリカバーの裏側は、蜂の巣状にくりぬいてあり、さらに小さな穴まで空けてある。こういうのはよく、軽量化したいときに見かけるが、Kindleは10.3オンス(マニュアルの表記では295g)であり、それほど軽量化の必要を感じられない。数字的に10オンスを切っているようなら、軽量化したのかとも思えるが、中途半端な数字だし、特になんらかの重量的な制約があったとも思えない。手にずっと持つものなので軽いほうがいいだろうが、この中途半端な数字に意味があるようには思えない。また、人によって筋力などに違いがあるから、この程度の軽量化は無視できる程度だろう。おそらく、小さな穴は、貼り合わせてあるグレーのシートとの接合を強くするためで、蜂の巣構造はカバー自体の強度を上げるためではないかと思われる。 ●CPUにはXScale、通信はモジュールを利用 メイン基板から回路を想像するに、高級なMP3プレーヤー程度という感じである。構成としては、PXA255を使ったPDA(世代としてはWindows Mobile 2002あたり)とそう変わらない。表に主要な部品を示す。
【表】Kindleの主要部品構成
※:インクのため表記読めず メイン基板の中央にあるモジュールは、携帯電話(CDMA2000)の通信モジュールであり、通信関連の機能は、これがすべてまかなっている。米国では、こうしたモジュールを使った携帯電話が比較的多い。これは、価格的な圧力が強く、安い携帯電話を作るため、通信関係は複数機種で共有可能なモジュールを使ったほうが安くなるからだ。モジュールを使えば、あとはキースキャンや液晶表示を行なう簡単なコントローラがあれば、携帯電話ができあがる。 Kindleの価格は399ドルで、日本の携帯電話とそれほど変わらないが、これには販売奨励金などが含まれていない。もちろん、ゲームコンソールビジネスのように、ハードウェア価格を下げて、電子書籍で儲けるといったビジネスモデルもあるだろうが、書籍は1冊9.99ドルだ。 メインCPUは、Marvellの「PXA255」で、旧Intel XScaleの2世代目だ。型番などからクロック400MHzのものと思われる。通信は、モジュールが大半の処理をまかなうため、TCP/IP程度の実行で済み、あとは、その上のアプリケーションプロトコルや、電子書籍などの表示程度を受け持つ。Kindleを含めたAmazonの電子書籍サービスは、構想から実現までに3年かかっているとのことだが、3年前といえば、PXA270を搭載した製品が出荷されていた頃。最初からそれほど高い負荷は想定していなかったと思われる。 RAMとしてQimonda(旧Infineon)の「HYB25L256160」、Cypress Semicondunctorの「CYK256K16M」が搭載されているが、Qimondaのものがメインメモリで、Cypressのほうが表示コントローラ(Apollo ASIC)のメモリだと思われる。以前分解したSony Readerも、Appollo ASICとSRAMの組合せだった。 フラッシュメモリも2つあり、Spansionのもの(チップの上に顔料系のペンで数字が書かれて、シルク印刷が読めない)と、Samsungの256MB(4Gbit)NANDフラッシュ(KFG2G16Q2M-DEB8)が搭載されている。おそらく、Spansionのものがプログラム用で、Samsungのほうは書籍データの格納用だろう。カタログでは、256MBのフラッシュメモリを搭載していることになっている。 あとは、NXP Semiconductors(旧Philips Semiconductors)のUSB 2.0ホストコントローラ「SIP1761」がある。PXA255もUSBコントローラを持っているがUSB 1.1なので、高速なUSB 2.0ホストコントローラを別に搭載したのだろう。ただ、256MB程度ならUSB 1.1でも間に合ったような気はする。計画段階ではもう少し大きなフラッシュを搭載する予定だったか、あるいは今後メモリ容量を拡張したものも予定されている可能性もある。
●Linux上にシステムを構築 Amazonは、Kindleで使用しているシステムなどについて直接発表は行なっていないが、Amazonが公開しているソースコードをみると、どうもオペレーティングシステムとしてはLinuxが使われていて、その上でJavaやアクセスのWebブラウザ(NetFront Browser v3.3)が動いているようだ。 Webブラウザでは、Javaはサポートされていないようなので、KindleのメインプログラムがJavaで記述されているのではないかと思われる。KindleをUSB経由でPCに接続すると、マスストレージデバイスとして認識され、Kindle内のフォルダを見ることができる。そこには、起動時のブートログがあり、それを見ると、Javaプログラムが起動していることがわかる。そこには、「com.amazon.ebook.framework」といった表記がいくつもあり、Javaプログラムが起動していることをうかがわせる。 現状、Amazonは、サードパーティアプリケーション実行の可能性については何もアナウンスしていないが、プラットフォームとしての人気を高めるために、ある程度の範囲で、ユーザーやサードパーティにソフトウェア開発を許す可能性もありえる。 また、こうしたシステムでは、メンテナンスや今後の拡張用に、プログラム実行の仕組みを隠していることが少なくない。KindleにLinuxやJavaが搭載されていることについては、すでにインターネットでは、掲示板などで話題になっているため、解析に成功するユーザーが出てくる可能性もある。 長時間動作が可能で、インターネット接続できるKindleのようなマシンで、プログラムが実行可能になると、ブックリーダーとしてさまざまなフォーマットがサポートされる可能性もある。また、勝手に国際化対応なども行なえるかもしれない。そうなると、かなり面白くなってくるだろう。
□Amazon.comのホームページ(英文) (2007年12月26日) [Text by Shinji Shioda]
【PC Watchホームページ】
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