モバイル端末とPCは、決して競合するものではない。共存し補完し、それぞれの適材適所で使ったときに、単体で使うよりも、さらに楽しく便利な存在になる。今のところ、一般の携帯電話はさほどPCとの連携を重視していないようだが、モバイルブロードバンド常時接続が当たり前になれば、状況は大きく変わっていくだろう。 ●1,300万人にリーチしようとするWindowsケータイ 今週、Windows Mobileのパワーユーザーを集めた 「Windows Mobile Bloggers Night - Winter 2007」というイベントが開催された。日本でWindowsケータイが誕生して2周年を記念したもので、マイクロソフト、htc Fan Site、WindowsケータイFANが共催、応募で集まった100名程度のブロガーを前に、2007年のWindowsケータイの動向を振り返ろうという趣向だ。 PCとの連携を前提とした通信デバイスとして、すぐに思いつくのは Windows Mobile端末だ。ここのところ、MicrosoftはWindows ケータイ端末の日本国内での展開に熱心で、その路線も少しずつ変化してきている。かつては、PCスキルの高い150万人程度のユーザーがターゲットだったが、今では、そうではないコンシューマーを含有し、1,300万人がその潜在ターゲットだと豪語する。 このイベントにゲストとして登場したシンガーソングライターの永山マキさんは、大学生時代にウィルコムの「W-ZERO3」のユーザーとなり、以来、音楽活動のさまざまな場面で、この端末を活用してきたという。 たとえば、彼女のW-ZERO3には、自分の楽曲データが入っているのはもちろん、その歌詞、さらには楽譜までも保存されている。ライブハウスなどで、初めてのミュージシャンとセッションするような場合は、W-ZERO3のディスプレイでデータを見せて打ち合わせをするのだそうだ。楽譜は手書きしたものをあらかじめスキャンして保存してあり、視認性という点ではつらいが、その場で紙に書き写すなどして、セッションミュージシャンと、その日に歌う楽曲情報をシェアする。こうした用途なら、端末から直接FAX送信したり、プリンタを借用してワイヤレスで印刷できたりすればさらに便利そうだが、以前は、紙のまま、重い荷物として持ち歩いていたことを考えれば、その場で書き写すくらいは何でもないという。 イベントのあと、そんな彼女に少し話を聞くことができた。永山さんは、W-ZERO3ですべてをまかなっているわけではない。ノートPCに向かって歌詞を書いている時間がもっとも長いという。しかも、多くの場合、ノートPCを持ち歩いているともいう。ただ、移動中に思いついた詩のフレーズなどをメモするために使うのはW-ZERO3なのだそうだ。 大きな画面と大きなキーボードを持つノートPCがいいのは当たり前だが、ノートPCを必ず持ち歩いているとは限らないから、やっぱり、肌身離さず持ち歩いているW-ZERO3との併用が便利だということだった。 ●次世代モバイルブロードバンドの行方 通信、それもブロードバンドによるインターネット常時接続ができることが、当たり前の環境になるまでには、まだ少し時間がかかりそうだ。個人的には、やはり、WiMAXへの期待が高まる。 気になるのは、こうした時代になってもまだSIMカードのような、いわばブロードバンドの通行手形があいかわらず必要になる可能性が高いということだ。通信事業者は、端末と回線を結びつける発想を捨てられそうにない。携帯電話は通信端末を特定の場所から解放したし、SIMカードのような仕組みで、端末の入れ替えも可能にした。でも、端末がSIMに変わっただけで、SIMを装着した端末がなければ正当な契約者とは認められないのだ。 先日も、イー・モバイルの発表会で、同社代表取締役会長兼CEOの千本倖生氏と話をすることができたのだが、それは、クレジットカードがなければ買い物ができないのと同じで仕方がないというコメントだった。 ぼくは、無線LANサービスとしてNTTコミュニケーションズの「ホットスポット」と、NTTドコモの「Mzone」を契約しているが、これらのサービスが便利なのは、IDとパスワードのみで認証できるため、SIMカードのような物理的な認証手段が必要ない点だ。だから、今日はあの端末、明日はあの端末と、その日によって持ち歩く端末が変わっても、まったく不自由しない。SIMを入れ替え忘れて接続できないといったことがありえない。場合によっては、Windowsモバイル端末を使って接続後、同じ場所で立て続けにノートPCを取り出して接続するようなこともある。こんなことが、いちいちSIMカードを差し替えなければできないのなら、便利度は著しく低くなるだろう。 複数の端末が同時に使えるようにしろとは言わない。ある端末で接続しているときには、別の端末で使えなくてかまわない。認証の仕組みをSIMのような物理的なメディアにしばられないようにはできないのだろうか。 もちろん、通信事業者にも言い分はあるだろう。そのために、ファミリー割引などのプランが用意され、複数回線を割安で使えるようにしてあるのだと。でも、使うのは一人であり、同時に使わないことを前提にすれば、もう少しリーズナブルなプランができてもよさそうだ。たとえば、どうしてもSIMと契約を不可分にするにしても、1つの契約に対して複数枚のSIMを発行できるようにして、手持ちのすべてのデバイスに装着しておけるようなサービスだ。着信する端末は、端末操作でそのことをネットワークに伝えるようにしておけばいいし、それが無理なら、2枚目以降のSIMは発信専用でもかまわない。 WiMAXが順調に普及しはじめ、現在のWiFiのように、ほとんどすべてのノートPC製品にその機能が搭載されるようになっても、複数のデバイス間でSIMを入れ替えなければならないようでは不便で仕方がない。 ●近未来パラダイムのバラ色さ加減 永山さんがそうであるように、これからは、複数の端末を併用していくシチュエーションがますます増えていくだろう。ぼく自身でいうなら、携帯電話のフルブラウザには、あまり魅力を感じない。イー・モバイルの「EM・ONE」のように、比較的大きな画面を持つ端末でも、そのブラウザを使ってWebを見るのは気が進まない。Webを見るならやっぱりノートPCを開く。一覧性が段違いだからだ。でも、メールはEM・ONEで十分かもしれない。携帯電話で着信を知り、Windows Mobile端末でそれを読み書きし、必要に応じて、ノートPCを使う。 そして、そのための接続は、本当なら1つの通信事業者にまとめてしまいたい。HSDPA、WiFi、WiMAXと、そのとき自分がいる場所に応じて使えるサービスが変わっても、それを意識することなくシームレスに接続できればどんなに便利だろう。 ブロードバンドインターネット常時接続が、手持ちのすべてのデバイスで保証される世の中がやってこようとしている。そのことは、人々の暮らしに大きなインパクトを与えるだろう。自宅のPC、カバンの中のモバイルPC、ポケットの中の携帯電話が、すべてブロードバンドインターネットに常時接続することで、その連携性がグッと高まり、新たなパラダイムが生まれる。そのパラダイムのバラ色さ加減は、通信事業者の戦略に強く依存する。そのことを熟慮して、これからの方向性を決めてほしいものだ。
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(2007年12月21日)
[Reported by 山田祥平]
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