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Vintage Computer Festivalレポート【番外編】

Phone PhreakingとCap'n Crunch

Blue boxを操作するCap'n CrunchことJohn Draper

会期:11月3日~4日(現地時間)

会場:カリフォルニア州マウンテンビュー
    Computer History Museum



 Vintage Computer Festivalの2日目には、「A Brief History of Phone Phreaking: 1960-1980」と題し、米国の電話システムのハッキング(Phone Phreaking。フォーン・フリーキング。Phoneとfreakなどからの造語と言われる)の歴史についての講演が行なわれた。ちなみに、現在ではシステムが違うため、ここで解説した方法は有効ではなく、また日本の電話システムでも利用できない。過去に米国ではこういうことが行なわれていたという歴史のお話である。

 講演開始早々、斜め前に座っていたおじさんが、いやに口を挟むと思ったら、なんとキャプテン・クランチ(Cap'n Crunch)ことJohn Draperその人だった。John Draperは、米国のPhone Phreakingでは有名な人物だ。Apple創業者のスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックがどうしても会いたいと探し出したという話もあり、ここComputer History Museumには、ウォズニアックが使っていた「Blue box」そのものが展示してある。Draperがなぜ“Cap'n Crunch”と呼ばれるのかというと、米国で売られていた「Cap'n Crunch」というシリアル(通信ポートではなく、朝食に食べるコーンフレークなどの方。商品名はキャプテン・クランチだが、名称の綴りは“Cap'n~”になっているため)のオマケの笛で電話のタダ掛けを行なっていたからだ。

スティーブ・ウォズニアックが使っていたBlue box John Draper、Cap'n Crunchのパッケージ、そしてスティーブ・ウォズニアック

 当時、電話局間をつなぐ長距離ラインでは、2,600Hzの音の有無で、接続の開始やその応答などの制御を行なっており、あるタイミングで2,600Hzの音を出すと、通話は続いているのに、料金計算を行なう装置が回線が切断されていると判断して課金が行なわれなくなるのである。キャプテン・クランチについていたオマケの笛は、この2,600Hzの音を出すことができたのだ。

 その後、電話システムの解析が進むと、通話以外の制御もトーン信号で行なわれていることが判明する。特定の周波数を回線に流すことで、回線を制御し、経路を指定したり、複数回線を同時に接続するなどが可能なことがわかった。このトーン信号は、日本でいうプッシュホンの音(DTMF:Dual-Tone Multi-Frequency)と原理は同じだが、電話機のダイヤル信号とは周波数を変えてある。こうした信号を出力し、さまざまなハッキングを可能にするのが「Blue box」である。これを使えば、誰でも簡単にPhone Phreakingができるようになった。

当時の長距離電話ラインでは、回線が空いていることを示すために2,600Hzの信号を流していた 700~1,700Hzの信号の組み合わせで長距離ラインの制御が行なわれていた。原理はDTMFと同じだが、周波数が電話機のものとは違っている

 AT&Tが最初に確認したBlue boxは'61年のものだが、'64年には米国の電子技術雑誌「Popular Electronics」に広告が掲載されるまでになり、以後、さまざまなBlue boxが作られることになる。なぜ“Blue box”と呼ばれるのかというと、AT&Tが回線保守用に作った装置がテスト用に同じような制御信号を流すことができ、これがブルーのプラスティックの筐体だったからだ。おそらくは、こうした機器を知る人がいて、後にそう呼ぶようになったのだと思われる。会場にはBlue boxの実物、つまり本物の測定器が持ち込まれてデモも行なわれた。

 '71年にEsquire誌にPhone PhreakingやBlue boxの記事が掲載されると、これを行なう人が増え、コミュニティが作られ、ニュースレターなども発行されるに至った。Appleの2人のスティーブも、この記事でCap'n Crunchの存在を知ったという。

初期のBlue boxや、Popular Electronics誌に掲載されたBlue boxの広告記事 本物のBlue box。回線などのテストに利用される機器で、回線状態を変更するためにトーン信号を発信できるようになっている

 AT&Tの調査によれば、Phone Phreakingは'76年にピークを迎える。しかし、'76年に制御信号を別のラインとした「共通線信号方式」が開発され、これが採用されると、Phone Phreakingは行なえなくなった。すべての回線が一気に代わったわけではないので旧来の回線も残っていたが、'80年までには、ほとんどが共通線信号方式となり、Blue boxを使うPhone Phreakingは、徐々に終息していく。

 こうしたPhone Phreakingと、'70年代に始まるマイクロプロセッサ、パーソナルコンピュータの動きは、かなり重なる部分が大きい。後にDraperは、Apple II用のワードプロセッサ「EasyWriter」を開発する。Draperは電話の不正使用で逮捕され、刑務所に入ったが、その間にプログラムを手で書き、出所後にコンピュータに入力して完成したという。その後Draperは、IBM PC版のEasyWriterも開発した。Appleが最初の製品と言われているApple Iを出したのが'76年。また、Draperは一時期Appleに勤務したという。

□Computer History Museumのホームページ(英文)
http://www.computerhistory.org/
□Vintage Computer Festivalのホームページ(英文)
http://www.vintage.org/
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(2007年11月9日)

[Reported by Shinji Shioda]

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