大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

小学生を持つ父親に送る
子供の「ネットデビュー」時の安全対策




 子供の「インターネットデビュー」の年齢が低年齢化しているようだ。

 マイクロソフトが今年(2007年)8月に調査した結果によると、子供がインターネットを始めた時期では、小学校入学前が6.6%、小学校1~3年ごろからが32.5%となった。小学校4年の20.4%を含めると、実に約6割の子供が、小学校4年生までの間にネットデビューを果たしている。

 小学校では、4年生からPCを使用した授業がはじまるが、その段階ではかなりの子供が、自宅のPCでネットデビューを果たしていることになる。

マイクロソフト 技術企画室セキュリティ戦略グループシニアマーケティングエグゼクティブ 瀬川正博氏

 マイクロソフトの技術企画室セキュリティ戦略グループシニアマーケティングエグゼクティブ 瀬川正博氏は、「小学校1年から子供にPCを使わせている親も多い。ネットデビューの低年齢化が進んでいるのは明らか」と指摘する。

 そして、瀬川氏はこうも語る。

 「子供がインターネットを安全に利用するために対策をとるのは、ネットデビューの時点が最も効果的。この時点で、しっかりとルールを決め、モラルを植え付けることが大切。そして、有害サイトブロック機能の設定などセーフティ対策もこの段階からやっておくべき」。

 実際のところ、子供がネット利用を始めてから安全対策、セキュリティ対策をとるのは、あまり得策ではない。

 例えば、子供が有害サイトなどにアクセスしていると親が感じた場合、子供が閲覧しているサイトの履歴をこっそりチェックするのは、親とはいえ、気が引けるものだ。また、有害サイトにアクセスしている事実がわかった場合、それを面と向かって指摘することは大切だが、事前に有害サイトにアクセスできないようにしておけば、そうした問題は起こらない。一度、有害サイトにはアクセスしたあとに、それをやめさせるのであれば、最初からアクセスさせない方法をとる方が賢明だ。最初からルールの取り決めを行なっていないからこそ、そうした問題が起こることになる。

 つまり、ネットデビューの時こそ、子供に安全なネット利用の取り決めを行なっておくことが、最善の安全対策になる。

●少ない有害サイトブロックの利用

 具体的な安全対策の手法に触れる前に、親と子供のネット利用に関する現状を、マイクロソフトのデータから見ておこう。

 調査結果によると、子供のインターネット利用にルールを設けている家庭は62.1%と、約3分の2の家庭で設定していることがわかった。だが、そのルールの内容を見ると、最も多いのが「閲覧時間」の64.5%(複数回答)。ゲーム専用機と同じ感覚で、視力低下の理由になるといった観点からのルールに留まっており、安全な利用といった観点からのルールではない。また、「閲覧するサイト」という回答も同じく64.5%を占めたが、これも「お気に入り」にブックマークしたサイトだけを閲覧するようにしているという形が多いようで、有害ソフトブロックなどを利用した物理的制御を行なっているユーザーは23.4%に留まっている。

 「有害サイトブロックは、多くの人が効果があると知っていながらも、なかなか利用されていないのが実態。設定時間は5分もかからない。面倒であるとか、難しいというようには考えず、簡単に使えることを知ってほしい」と、瀬川氏は語る。

 同調査でも、有害サイトブロックを利用したことがないとした回答は65.1%にも達しているのだ。

 一方、子供のインターネットの利用頻度を「毎日」と回答した例は55.3%と過半数に達し、2~3日に一回くらいの44.7%を足すと、実に100%に達する。これだけインターネットを頻繁に利用していることは、勉強の資料集めといった使い方だけでなく、オンラインゲームでの利用、あるいはネットサーフィンという使い方にも広がっていることを示すものだといえよう。ここでも、有害サイトにたどり着きやすい利用環境にあることが浮き彫りにされる。

 一方、子供が閲覧したサイトや、やりとりしたメールを定期的にチェックしていると回答した親は41.3%に達している。チェックの方法としては、ブラウザの閲覧履歴を見ているとした親が55.3%(複数回答)と最も多い。また、子供が受信/送信したメールを見ているという親も19.4%に達している。さらに、定期的に子供に直接聞くようにしているが42.9%、インターネットを一緒に使うようにしているが31.8%という回答も多かった。これに対して、保護者による制限機能を利用している親は7.1%に留まっている。

 こうした調査結果から浮き彫りになるのは、子供の安全なネット利用には不安感を持ちながらも、ちゃんとした対策が取られず、それであるがゆえに、気が引けながらも子供の閲覧履歴を確認するという状況だ。この流れは、決していいものではない。

●「うちのインターネットルール」を決めよう

 では、どんな手法があるのか。

 マイクロソフトの瀬川氏は、1つの手法として、1枚の用紙を提示した。これはマイクロソフトが公式に出しているものではなく、瀬川氏が1つの案として提示したものである。

「うちのインターネットルール」

 その用紙には、「うちのインターネットルール」というタイトルが書かれている。インターネットを使用する際のルールを、親子で決めるためのものだ。このルールの主な対象は小学校3年~6年生だという。

 そして、「うちのインターネットルール」では、以下のようなことが明文化されている。

 ○インターネットの使い方について、お父さん、お母さんと話し合って決めます。
 ○自分のお友達の名前、住所、電話番号、学校の名前や場所などを教えません。
 ○インターネットやメールでいやだな、こわいな、困ったなと思うことがあったら、必ずお父さん、お母さんにすぐ知らせます。
 ○自分や家族の写真をインターネットやメールで送りません。
 ○自分のインターネットパスワードは、お父さん、お母さん以外の人には(親友にも)教えません。

 「なぜ、サイトに自分の名前や住所を書き込んではいけないのか、なぜ友達にもパスワードを教えてはいないかといったことを、具体的な事例を含めて教えることが必要。子供には、セキュリティを強調するよりも、セーフティを前面に打ち出した話しあいをすることが必要だ」と語る。

 続けて、「セキュリティとなると、どうしても技術や製品、手法の話が中心になり、ウイルスはどうだとか、セキュリティソフトはなにがいいのか、などといった話になってしまう。だが、セーフティという観点では、いかに安全に利用するかといった観点から会話することができる。安全な環境でなければウイルスに感染し、PCが正常に動作しなくなることや、大切な情報が漏れるといった状況にさらされるなどの、ネットの危険性を教えることができる。また、安全に利用するためにセキュリティソフトなどがあることを理解しやすくなる。安全に利用することの大切さを、まず子供に教えてほしい」と語る。

●年内に10万部の小冊子を配布

「パソコンを安心して使うために」

 マイクロソフトでは、現在、「パソコンを安心して使うために」という小冊子を制作している。ここでは、オオカミ(=ネットの脅威)と、5匹のこぶたという、ある種どこかで聞いたようなキャスティングではあるものの、それぞれのこぶたが家を建てるといった例を出して(これもどこかで聞いたストーリーだが)、それをネット社会に当てはめて、わかりやすく説明している。

 壁の無い家を作ることは、誰もが家に入れてしまい、ネットに当てはめるとファイアーウォールを作らないのと一緒、あるいは、のぞき窓のない扉を作った家は、ノックをされたら扉をすぐに開けなくてはならず、部外者が入りやすい環境にあり、ネツトでは環境フィッシング詐欺に引っかかりやすいのと同じというように、ネット社会の脅威をわかりやすくしている。

 「この小冊子は、親や教師などが、子供にインターネットの正しい利用知識を教えるための教材に使ってもらう狙いから制作した。当社サイトからもダウンロードできるようにして広く利用してもらうほか、自治体やPTA、シニアネットなどを通じた啓蒙活動の際には、要望に応じて、まとまった数の冊子を無償で提供することも考えている」と語る。

 小冊子は8月22日から配布が可能で、年内には10万部以上を配布する考え。同社サイトからのダウンロードサービスは9月にも開始される予定だ。

 さらに、ITの利活用の啓蒙活動を目的に全国をキャラバンしているマイクロソフト号においても、各地のイベント会場で小冊子を配布できるようにする計画で、10月にはマイクロソフト号が訪れる千葉県我孫子市で、シニア向けのセミナーを開催。その場でも、この小冊子を利用したセミナーを行ない、シニア向けの教材としても活用していく予定だ。

 そのほか、同社では、個人ユーザー向けセキュリティサイトを開設し、「家族を守る」というタイトルで、子供に安全なネット利用を教える親のために、セキュリティ知識に関する情報を提供している。これも利用しない手はないだろう。

 また、Windows Vistaでは、子供が遊べるゲーム、使用できるプログラム、アクセスできるサイト、利用できる時間を管理できる機能を標準で搭載しており、これを子供の安全利用の一助として利用することもできる。Windows XPユーザーに対しては、MSNで提供される「Windows Live OneCare ファミリーセーフティ」を利用して、年齢に応じてアクセスできる情報を制御できることが可能になる。これも無償で利用できるので、子供の安全な利用環境の設定には効果があるだろう。

●セーフティを前面に、点から面に広げる

 マイクロソフトは、これまでにも子供の安全なネット利用に向けたさまざまな取り組みを行なってきたが、7月から始まった新年度においては、この活動をさらに広げていく考えだ。

 「これまではマイクロソフトが安全セミナーを開催したり、ツールを提供したりといった活動に留まっていたが、これをPCメーカーやセキュリティ関連企業などの業界を巻き込んだ形に発展させるとともに、シニアネットやNPO、自治体、学校などと連動した形への活動へと広げていく。これにより、点から面へと発展させる。セーフティに対するメッセージを、子供を持つ親に届けることに力を注ぎたい」と語る。

 8月22日には、東京・霞ヶ関で開く「子ども霞ヶ関見学デー」の一環として、総務省が主催する「ネット利用の 安全と未来推進会議」において、マイクロソフトが親子を対象にした「インターネット安全教室」を開催する。

 こうした政府を巻き込んだ取り組みにも今後は期待したいところだ。

 子供の夏休みもあと少し。その間にネットデビューを予定している子供がいる親は、ぜひ、安全にネットデビューができるように手助けしてあげてほしい。

□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□マイクロソフト 個人ユーザー向けセキュリティのページ
http://www.microsoft.com/japan/athome/security/
□Windows Live Onecare ファミリーセーフティのページ
http://promotion.live.jp/familysafety/
□関連記事
【2006年12月21日】マイクロソフト、セキュリティソフト各社を招いたVistaのセキュリティ説明会
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1221/ms4.htm
【2006年8月7日】「Windows Vistaは史上最強のセキュリティを実現」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0807/ms.htm

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(2007年8月20日)

[Text by 大河原克行]


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