山田祥平のRe:config.sys

四角いディスプレイを丸く使う




 多くのノートPCでワイドディスプレイが使われるようになってきている。デスクトップPC用の液晶ディスプレイも同様だ。画面が横方向に伸び、作業領域が広がったように感じるが実際にはどうだろう。

●ウィンドウを最大化する理由

 ぼくは、Windowsのアプリケーションソフトを最大化して使うことが多い。今、この原稿を書いている秀丸のようなテキストエディタやメールを読み書きするウィンドウは最大化しても、横幅が広くなりすぎて、かえって使いにくくなるのでウィンドウ表示をしているが、ブラウザやOffice系のアプリケーション、Adobe Readerなどは、ほぼ例外なく最大化して使う。

 例えば、Wordの場合は、最大化し、さらに、編集中の文書をページ幅を基準に表示させる。同じことを4:3ディスプレイとワイドディスプレイでやってみると、ワイドディスプレイでは、一度に表示できる行数がかえって少なくなることがわかる。文字そのものは拡大率が高くなって読みやすくはなるのだが、そのシワ寄せが縦方向に及ぶ。表示行数を増やすには、ウィンドウの横幅を狭める必要があるわけだが、そのためには、ウィンドウ幅を調整するという作業が発生する。

 最大化を愛用するのは、ウィンドウ幅の調整の手間をかけず、ボタンのクリック1つで、ウィンドウが同じサイズになるからだ。アプリケーションごとに最適なウィンドウサイズ、ウィンドウ位置があるとは思うが、それぞれのアプリケーションごとに記憶させておかなければならないし、アプリケーションによってはそれを覚えてくれないものもある。でも、最大化すればウィンドウの位置とサイズが保証されるのだ。

 ウィンドウを最大化して不便なのは、ウィンドウ間でのドラッグ&ドロップ時だろうか。こればかりは、双方のウィンドウが見えていた方が作業しやすい。Vistaのフリップ3Dは、ドラッグ先のウィンドウのイメージがわかりやすいので、マウスでオブジェクトをつかんだまま、Windows+Tabでドロップ先のウィンドウを切り替えるのだが、切り替えた先のウィンドウで、ドロップ先がスクロールしなければならないところにあった場合は、方向キーを併用するなど、ちょっとばかり作業が繁雑になってしまう。

 もし、最大化時に、デスクトップの右端にある程度の余白を残すことができれば、4:3ディスプレイと同様にワイドディスプレイが使える。たとえば、Vistaではサイドバーを常に他のウィンドウより上にするように設定しておけば、ウィンドウの最大化時に、サイドバーの幅の分だけウィンドウ幅が狭くなり、以前の4:3環境に近くなる。でも、それではワイドスクリーンを使っている意味がない。

●ワイドスクリーンは本当に使いやすいのか

 横方向の解像度が広がってうれしいのは、どんなアプリケーションを使っているときだろうか。手持ちのデジタル一眼レフで撮影した写真のアスペクト比は3:2なので、どちらかといえばワイドスクリーンの方が大きく表示できる。また、DVDを見るときも同様だ。一般的なアプリケーションではExcelなども使いやすいかもしれない。同じズーム率の場合に、より多くの列を表示できるため、大きなワークシートでは有効だ。

 こうして考えてみると、過去においてPCが目指した紙のメタファが、ワイドスクリーンにはあまり向いていないのではないかという仮定が成り立つ。つまり、日常生活において紙を横方向で使うことが、それほど多くはないということだ。いわゆる文書と呼ばれるものの多くは縦方向で作成されているんじゃないだろうか。

 だとすれば、紙をメタファにする限り、PCのディスプレイは、ワイドになるよりも縦長になってくれた方がありがたい。とはいえ、PCで扱うデータの種類は多様化する一方で、もはや紙だけがメタファであるとは言い切れない。横位置がふさわしいコンテンツもたくさんある。また、WordやAdobe Readerを使っている場合も、ウィンドウの左側にページサムネールや目次などのナビゲーションペインを表示させれば、ワイドスクリーンを有効に活かせる。でも、今のMicrosoftが考えているアプリケーションのデザインは、リボンのGUIなどを見てもわかるように、ディスプレイの縦方向を圧迫する傾向にある。もし、今後のディスプレイがワイド主流になっていくのであれば、OSのGUIやアプリケーションそのもののデザインも、それに応じたものを考えるべきではないだろうか。たとえば、デフォルトでタスクバーを左右どちらかに縦方向に置くことだってできたはずだ。

●ノートPCのイノベーション

 たとえば、ドコモの携帯電話、F904iでは、ディスプレイをタテからヨコに回転させ、楽しむコンテンツに応じて画面を切り替えることができる。携帯電話なのだから、本体を横にすればいいという発想ではなく、あくまでもヨコモーションにこだわっているところがミソだ。

 縦型のディスプレイを持つノートPCを想像したときに、ネックになるのはキーボードの横幅だ。ディスプレイをキーボードの上に閉じるクラムシェルタイプのノートPCを縦型にした場合、12型程度のディスプレイを想定すると、キーボードの横幅が足りなくなってしまう。でも、F904iのヨコモーションのように、ディスプレイそのものが回転する機構が備わっていれば、アプリケーションに応じて画面の方向を使い分けることができる。コンバーチブルタイプのタブレットPCではディスプレイを裏表ひっくり返すことができるのだから、縦横を回転させるくらいはすぐにできそうなものだ。

 以前、このコラムでも書いたように、PDFなどのドキュメントを読むときには、ノートPCをタテにして使った方が読みやすい。そのためにiRotateというユーティリティを重宝していたのだが、Vistaを使うようになって、手元の環境では全滅で使えなくなってしまって困っている。

 なによりも大事な問題は、今のノートPCのデザインが、ここ22年来、基本的に何も変わっていないことだ。世界初のノートPCは、'85年に東芝がヨーロッパで発売したT1100とされている。日本ではその翌年、J-3100としてデビューしているが、以来、軽薄短小化、処理性能の向上という点では著しいが、デザイン的には何も変わっていない。そこにイノベーションの軌跡は見出せない。世界初のポータブルPC、コンパック・ポータブル(1983年)を進化させ、クラムシェル方式の一体型を実現した功績は讃えたいが、そこで進化は止まっている。

 x86アーキテクチャにWindowsと、どのPCを選んでも大きな違いがないのなら、この先も人々は安いPCを選ぶだろう。でも、多少高かったとしても、自分が望む差異化を見出せるのなら、そのPCを選ぶかもしれない。今のPCのインダストリアルデザインは、それに値する魅力を持っているだろうか。

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【2006年7月7日】【山田】点のモバイル、線のモバイル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0707/config113.htm

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(2007年6月15日)

[Reported by 山田祥平]


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