第382回
2007年夏のモバイルPC購入ガイド



 今年夏の新モデル発表も、東芝の発表を終えて一通りが出そろった。

 今年は年初早々にVistaモデルの発売があったが、OSの切り替え期というのはベンダーにとっても難しいタイミングで、この夏モデルに照準を絞ってモデルチェンジが図られた製品は少なくない。

 言い換えれば、この時期になって、やっときちんと作り込んだVistaモデルが揃ってきた。そしてベンダーごとに、製品の味付けがより明確になってきたとも強く感じている。一時は軽量化や堅牢性、セキュリティなどモバイル機に求められるテーマに対し、各ベンダーが同じような方向に進んでいる時期もあったが、現在はそれぞれに異なる方向へと製品改善のベクトルがばらけてきており、各々が特徴を持つ。

 この夏モデルに関する雑感を記しつつ、各社の製品の中から個人的に注目する製品をピックアップしてみた。

●「Napa Refreshじゃダメですか?」

 夏モデルの発表が続く中、何度か同じ質問を知人から投げかけられた。それは「新しいチップセットのモデルは何がいいの」あるいは「Core 2 Duoモデルは欲しいけど、古いチップセットの旧モデルじゃダメ」という質問だった。

 Core 2 Duoに新しいIntel GM965 Expressチップセット、IEEE 802.11n対応の新しい無線LANモジュールなどを組み合わせたCentrino Duo、すなわち“Santa Rosa”は、すでにいくつもの記事が掲載されているので、その違いについてはご存知の方が多いと思う。

Santa Rosaこと新Centrino Duoのコンセプト

 多くの改善があるが、もっとも大きな違いは内蔵グラフィックスコアの性能向上と、Intel Turbo Memoryへの対応だろう(IEEE 802.11n無線LANに関しては、他社モジュールをNapa Refreshと組み合わせることも可能)。ところが、後述するがIntel Turbo Memoryを採用しているモバイルPCは意外に少ない。東芝やNECはTurbo Memory搭載機を開発しているが、携帯を考慮したクラスの製品には採用していない。唯一の例外は、富士通の新型FMV BIBLO MGのみだ。レノボの「ThinkPad」シリーズはTurbo Memoryに対応しているが、企業向けのカスタマイズ仕様でのみサポートするとしており、個人ユーザーが購入できるモデルには用意されていない。

 新機種を敬遠する人たちの中には、Windows XPモデルが用意されていない場合が多いことを理由にしていることもある。ただし、Windows Vistaがいつまでも現状のままということはなかろう。製品のライフタイムサイクルの中で、いつかVistaを使うかもしれないというならば、FSB速度の違いやグラフィックスコアの違いなどが、将来的にパフォーマンスに無視できない違いを生み出すかも知れない(もちろん、高機能グラフィックチップを別途備えているなら話は別)。

 そんなわけで、古いチップセットではダメか、という問いには、基本的には気にする必要はないけれど、将来、Vistaをインストールする(あるいはプリインストールされたPCを買う)のであれば、できればSanta Rosaの方がいいんじゃないの、と応じている。両チップセットとも3Dゲームを動かすために十分なパフォーマンスがあるとは思わない。ならば、残る大きな違いは内蔵グラフィックチップのVistaへの適応性だ。

 さて、この話には例外もある。もっと小型/軽量なクラスの製品では、Santa Rosaを使いたくとも使えない例があるからだ。Intel 945シリーズにはIntel 945GMSという、メモリチャネルを減らした小型パッケージのバージョンがある。最大2GBまでのメモリしかサポートせず、メモリスロットはオンボード+1スロットのみ。

 小型/軽量機でこのチップセットを採用する(せざるを得ない)モデルは、その代替チップセットがIntel 965シリーズには存在しない。特にパナソニックの「Let'snote R6」、ソニー「VAIO type T」、東芝「dynabook SS RX1」などは、基板設計もギリギリであることから、Napa以外のプラットフォームを採用するのは無理がある。

 というわけで、小型PC向けにはNapaプラットフォームは、まだしばらくは残っていく。重要なことはチップセットの機能や性能ではなく、製品そのもののが気に入るかどうか、必要な要件を満たしているか否かだ。あえてIntel 945GMSを使うには理由がある。ならば、チップセットの違いを意識しても意味はない。

●2007年モバイルPCピックアップ

 というわけで、全くの独断で、各社のモバイルPCから、注目している機種をピックアップして紹介していきたい。必ずしも小型のPCを選ぶのではなく、ノートPCの新製品から気になる製品を紹介するという形としたい。

・パナソニック Let'snote R6

パナソニック「Let'snote R6」

 モバイル機としてはすっかり定番となっているため、取り立てて話題になることも少なくなっているが、Let'snoteシリーズは、いずれも携帯するための専用PCとして、徹底した設計が行なわれており、やはり選択肢から外すわけにはいかない。

 中でもRシリーズは、今やこの製品だけとなって久しい10.4型XGA(1,024×768ドット)液晶採用のコンパクトモデル。前モデルではこのサイズに6セルバッテリを抱え込ませつつ軽量化を果たしていたが、R6は以前と同じ4セルバッテリに回帰した。バッテリ駆動時間があまりに長すぎても、ユーザーはあまり良い反応をしなかったと以前に聞かされたから、綿密なユーザー調査の上での決定かも知れない。

 このシリーズの特徴はずっと変わらない。厚みが出てもいいから丈夫で軽い筐体とし、ファンレス設計でさらに軽量化。液晶サイズギリギリまで底面積をそぎ落とす。などなど。それは今でも変化していないが、Core 2 DuoマシンながらLEDバックライト採用などで4セル7.5時間のスペックを達成できているのは立派だ。

 1セルあたりの駆動時間という意味では、ライバルとほぼ同等レベルで、シリーズ登場当初のようなアドバンテージはなくなっているが、小さいながらもタイプしやすいキーボードや、唯一の10.4型モバイル機という点を考えると、いまだに仕事のためのモバイルツールとしては魅力的な面が多い。

 一方、ファンレス故に動作状況によっては底面が驚くほど熱くなってしまうことや、厚みのある無骨なデザインなどは好みの分かれるところ。救いはキーボードやパームレストが不快なほど熱くなることはないというところ。また、導光板による光拡散が十分ではないのか、視野角が狭く、見え味が今ひとつな点もやや気になるところだ。

・ソニー VAIO type T(TZ)

ソニー「VAIO type T」

 先日、ファーストインプレッション生産工場でのインタビューを掲載したため、ここでは詳しくは触れないが、ソニー製のモバイルPCならば、本機が一番の注目機であることは間違いない。

 11.1型の16:9/1,366×768ドットという液晶パネルサイズは、10.4型XGA液晶パネル採用機をそのまま横に広げたイメージ。もし12.1型XGAクラスが好きといのなら、この機種の表示はやや小さく感じるだろう。

 本機を検討する上での注意点は、Windows Vistaであることを考えると、1.8インチHDDでは少々パフォーマンスに不満が出るだろうという点。1.8インチHDDも80GB以上のドライブなら、Windows XPとの組み合わせでさほど不満は感じないのだが、本機にはVistaモデルしか用意されていない。またPCカードスロットはなく、ExpressCard/34スロットのみしか使えない点も忘れがちなので改めて書いておきたい。

 本機の良さは最軽量を目指しているのではなく、フラットでシンプルなデザインの中に2スピンドルを詰め込み、なおかつ剛性感を引き出した上で、FeliCaポート、指紋センサー、ワンセグチューナ、IEEE 802.11n無線LAN、Bluetooth、Webカメラ、マイクなど、考えられるものは何でも詰め込んでしまった密度の高さ。それにバッテリ持続時間の長さやバッテリパックの種類が3つも用意されて選べることなど。

 柔軟な構成が取れる本機だが、ヘビーモバイラーにはSSD+2.5インチHDDの構成をお勧めする。

・東芝 dynabook SS RX1

東芝「dynabook SS RX1」

 かつてヒットモデルとなった、「dynabook SS S」シリーズと、「Libretto L」シリーズの良いところを組み合わせたような製品。詳細なレポートが既に書かれているので、ハードウェア構成はそちらを参照して欲しい。

 本機の特徴はいくつかあるが、12.1型ワイドで16:10のアスペクト比を持つ半透過型液晶にまずは注目したい。12.1型XGAサイズに慣れたユーザーが、ほぼそのままの画素ピッチでワイド画面を得ようとすると13.3型程度になるが、この場合は筐体がかなり大きくなり、どうしても重量は嵩んでしまう。

 12.1型XGAのモバイル機ユーザーが、そのままの見やすさと携帯性でワイド画面に移行しようと思えば、12.1型ワイド1,280×800ドット(WXGA)という液晶パネルのスペックはちょうど良い選択肢と言える。

 ただし半透過型液晶パネルは透過型に比べ、色味や視野角などの点では劣る。もちろん、その分、陽の当たる場所での使い勝手は良いのだが、室内が主な利用場所という人は、実物の展示が行なわれるようになってから、じっくりと見え味を評価した方がいい。モバイル機の液晶パネルとしては、デメリットを超えてメリットが大きいパネルだと個人的には思うが、透過型の選択肢もBTOなどで用意されれば、なお幅広いユーザーに受け入れやすい製品になったはずだ。

 モバイルビジネスツールとしてのノートPCとしては、非常に弱点の少ない機種だが、液晶パネルの見え味だけはいかんともしがたい。言い換えれば、この部分さえ問題ないならば、単純にスペックが良いだけでなく、実によくできたモバイルノートPCである。

 浅めのキーストロークながら、適度な打鍵感を持つキーボードは、「dynabook SS S」シリーズ時代の良さを取り戻している(縦方向のピッチが増えた事が主因だろう)し、バッテリ駆動時間も容量あたりでトップクラスであり、これに64GB SSDモデルの存在や光学ドライブ込みで1kg前後の軽さなど、久々に“すごい東芝”が帰ってきた。

 個人向けモデルはすべてVistaプリインストールモデルのみだが、同じハードウェアを共有する企業向けモデルにはXPモデルもあり、そのドライバを用いればOSをダウングレードしてあえてXPで使うことも可能だろう。この点もヘビーモバイラーにとっては利点と言えるかもしれない。

 本機はまだ試作機が少数、評価用に出回っているだけであり、製品版の仕上がりはまだ確認していないが、レノボのThinkPadシリーズにも通じる実用的なユーティリティ類の充実や安定した動作が本機にも当てはまるなら、ビジネスツールとしてPCを持ち歩く必要のあるビジネスマンにとって、優先順位の高い選択肢になることは間違いない。

・富士通 FMV-BIBLO MG70W/V

富士通
「FMV-BIBLO MG70W/V」

 富士通製ノートPCでモバイル機と言えば、LOOXがその代名詞になっている。あちこちで紹介されているUMPCの「LIFEBOOK U」の発売も控えているが、今回はあえて「BIBLO MG」シリーズを紹介したい。

 誤解を恐れずに言えば、BIBLO MGシリーズは実になんの変哲もない。マジメそのものの、いわゆるモバイルPC好きが注目するタイプの製品ではないが、実は非常に良く練り込まれた製品だ。

 BIBLO MGシリーズは、その前身であるBIBLO MFシリーズ(12.1型液晶パネル採用の2スピンドル機)を13.3型化したものだが、現在は14.1型モデルも同じプラットフォームで存在し、さらにこの夏モデルからは13.3型ワイドのWXGA液晶パネル(LEDバックライト)が追加され、同一プラットフォームで3タイプの液晶パネルを選べるようになった。

 光学ドライブを取り外してベゼルにすることで軽量化できたり、光学ドライブの位置にセカンドバッテリを搭載できるなどの、一時流行した機能が継続的に採用されているほか、6セルバッテリを搭載しつつフラットな筐体形状、しっかりとしたフルサイズのキーボード、指紋センサーの搭載などの基本が押さえられている。

 全体的なサイズは12.1型クラスに比べると明らかに大きいが、軽量化ベゼルへ交換して1.6kg程度、光学ドライブ搭載時で約1.7kgと意外に(あくまでも意外にであって、絶対的にはもう少し軽い方がいいだろうが)軽い。

 バッテリ持続時間も、不要なインターフェイスの電源を落とす省電力モードへの切り替えユーティリティを備え、4時間半から5時間ぐらいは使える。14.1型では大きく重いが、12.1型では小さいというなら良い選択肢となろう。

 風量の多い大きめの冷却ファンに大型のヒートシンクを組み合わせ、積極的に廃熱を行なうため、やや冷却ファンの動作は意識させられるものの、底面やパームレスト、キーボードなどの温度は低く抑えられている。かなり高い負荷の処理を連続して行なった後でも、全く不快さを感じずに使えるところもいい。筐体がプラスチック製という点も、質感という面ではマイナスだろうが、金属ほど体感温度が高くないという点ではプラスになる。

 ただし付属ACアダプタは容量の大きさもあり、少々大きく、そして重い。デザインもシンプルだが洗練されたイメージはなく、実に地味で平凡。内蔵のワンセグチューナは感度が今ひとつ。選ぶならば、ワンセグチューナ非搭載モデルの方が良さそうだ。

 それでも長い間、熟成を重ねてきたシリーズだけにソツがない。13.3型ワイド型の液晶パネル搭載機は、ほかにソニーの「VAIO type S」やアップルの「MacBook」があるが、それらほどの派手さはないものの内容的には勝るとも劣らないデキである。ただ、不幸なことにあまりにも地味なため、あまり話題にならないのである。

・NEC LaVie J

NEC「LaVie J」
(1スピンドルモデル)

 ボンネット風デザインで薄さを諦めつつも強度や軽量さを重視した設計などは、パナソニックのLet'snoteシリーズと似た側面を持つLaVie Jだが、1つ前のモデルからはCore 2 Duoを搭載し、さらにFeliCaポート、Bluetooth、指紋センサーを搭載。メモリカード専用スロットも備えるようになり、マイナーチェンジとはいえ、最新機種に引けを取らない仕様面になってきている。

 傷が自己修復する特殊な塗装を用意するなど、ユニークな路線での改良も行なわれているが、今回、ここで紹介しようと考えた理由は、新たに添付されるようになった薄型ACアダプタに注目したからだ。

 本機に添付されるACアダプタは、NECと電源メーカーのデルタで共同開発したもので、15.9mmという非常に薄い仕上がりになっている。これはスイッチング電源の回路全体をトランスのコアとして用い、その周りに巻き線をした特殊な構造によるもの。この構造のACアダプタは、共同開発先のNECにしか当面、出荷されない予定だという。

 またウォールマウントプラグは標準装備され、カスタマイズモデルならばオプションで巻き取り型のケーブルを組み合わせて、スッキリと鞄に収めることができる。パナソニックやソニーなども、ACアダプタの小型化をかなり積極的に行なってはいるが、ここまで持ち歩きやすいACアダプタは他にない。

 ちなみにこのACアダプタ。従来のLaVie Jなどにも利用できるのだとか。既存のユーザーは補修部品などで取り寄せてみるのもいいだろう。

□関連記事
【6月5日】東芝、最薄部19.5mmのCore 2 Duo搭載ノート「dynabook SS RX1」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0605/toshiba.htm
【5月17日】ソニー、VAIO 10周年記念モデル「type T」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0517/sony1.htm
【4月17日】富士通、Santa Rosa採用ノート「FMV-BIBLO NF/MG」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0417/fujitsu1.htm
【4月16日】NEC、ノートPC「LaVie」の夏モデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0416/nec3.htm

□2007年 PC夏モデルリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/link/summerpc.htm

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(2007年6月12日)

[Text by 本田雅一]


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