大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

自社生産にシフトするソーテック、Vista時代の事業戦略を聞く




 ソーテックが、PCメーカーとしての土台を、いよいよ築き上げようとしている。

 それは、ひとことでいえば、国内の自社設備によるPC生産体制の構築だ。

 同社・山田健介社長は、2005年6月の社長就任以来、製造工程を持たないファブレスメーカーからの脱皮を声高に訴えてきた。

 「かつてのソーテックのやり方を批判するわけではない。ただ、私自身、ファブレスメーカーというやり方に疑問を感じていた」

 今回のインタビューでも、山田社長は、そこから切り出した。

 「ファブレスメーカーは、自分では製造をしない。それで製品の品質に最終責任を持てるのか。品質が悪いという問題が起こった時に、それは製造した企業が悪い、という逃げ道を持っていてはメーカーとはいえない」

 昨年(2006年)11月、ソーテックは国内の自社生産ラインで組み立てる「J-MADE」方式を本格的に導入した。

ソーテック 山田健介社長 品質検査について

 現在、同社のデスクトップPCは、100%同社の国内生産ラインで製造されている。ノートPCに関しては、最も人気の「WinBook WHシリーズ」は台湾のODMからの調達だが、それ以外は、国内生産となっている。つまり、ノートPCの1機種以外はすべて国内生産によるものなのだ。

 昨年1月に、法人向けビジネスへの参入を発表した段階では、国内生産の比率は、わずか2割程度だった。しかも、2008年度までに、この比率を全体の3分の1程度にまで引き上げるという、緩やかなシフトを計画していたに過ぎなかった。

 だが、その計画が一変していた。

 「月産5,000台程度の国内生産体制を、昨年11月には15,000台規模に拡充した。だが、それに見合うだけの人員を確保できず、結果として、3月期業績を下方修正することになった」と山田社長は語る。

 それだけ、急ピッチで国内生産へのシフトを図ったのだ。

 J-MADEは、ソーテックのPCに貼られた「悪かろう」のレッテルを剥がす、戦略的なマーケティング戦略であり、これを遂行するための生産体制がいよいよ整いつつあるともいえる。

 国内生産は、検査工程の強化にもつながっている。

 「生産過程において、万が一何らかの問題が発生した際に、当社の社員が、自身の目ですぐに確認を行ない、対策を施せる。問題に対してスピーディーな対処が可能になる。また、海外でベアボーンを全数検査しているのに加えて、国内での組立後にも、出荷前に全数を対象に最終検査を実施するといったように、初期不良を見逃さない体制が整っている」と語る。

 この成果もあり、初期不良数は大幅に削減でき、製品品質は格段に向上したと胸を張る。

 それを裏付けるように、昨年11月からは、J-MADEのステッカーが貼付された同社製PCには、初期不良に対して、製品到着後90日以内であれば、同一あるいは同等製品と交換するサービスを提供している。

ソーテック製PCに貼付されたJ-MADEロゴ

 現時点では、Web販売のソーテックダイレクト専用PCのみが同サービスの対象だが、5月後半からは、店頭販売専用モデルや法人向けブランド「e-three」を含めた国内生産の全製品へと対象を拡大する。つまり、ノートPCの1機種を除いて、すべての製品にJ-MADEのステッカーが貼付され、90日以内の交換プログラムが適用されることになるのだ。

 また、問題となっていたコールセンターの対応にも、改めてメスを入れている。

 これまで社員で対応していたものを、今年(2007年)4月から外部のコールセンター業務の専門企業に委託。これによって、品質を高めることを目指す。

 「これまでの着信率は50%程度。これでは顧客満足度はとてもあがらない。外部企業との契約では、75%の着信率を目指し、同時に対応品質も引き上げる」

 ソーテックが、コールセンター業務を外部企業に委託したのは、社内での改善には限界があると判断したことがあげられる。

 「着信率などの数値目標は出てくる。だが、それを達成できないままの繰り返し。外部への委託によって、責任を明確化し、目標達成を確実なものにする。ここにもメーカーとしての責任を果たす仕組みを導入する」というわけだ。

 ソーテックは、この2年間に渡って、メーカーとしての基本体制の構築に力を注いできたともいえ、タイミング的には、Windows Vista搭載PCになって以降、生産体制およびサポート体制は、これまでとはまったく異なるものになっているともいえよう。

 XP時代のソーテックと、Vista時代のソーテックは異なるというのが、同社のスタンスでもある。

 先頃、ソーテックは、ヤマダ電機およびヤマダ電機の子会社であるKOUZIROとの提携を発表した。

 リリースには、「資本提携も含む」と記されたものの、その内容が明確にされていなかったことから、業界内では、ヤマダ電機の傘下入りかとの憶測も流れた。

 これについて、ソーテックの山田社長は次のように説明する。「ここでいう資本提携とは、この提携を確実なものにするために、ヤマダ電機が所有するKOUZIROの株式の一部をソーテックが所有するというもの。当社がヤマダ電機の傘下に入ることは、現時点ではありえない。その判断は、メーカーとしての立場からも慎重にならざるを得ない」

 今回の提携内容は、ソーテックのベアボーンをKOUZIROへ供給。KOUZIROは、これにCPUやOSなどの部品を組み込んで製品化し、KOUZIROの「FRONTIER」ブランドで、ヤマダ電機を通じて販売するというものだ。

 ソーテックブランドの製品をKOUZIROが生産/販売したり、KOUZIROの製品をソーテックを通じて流通するといったことは含まれていない。

 「ベアボーンにおける調達、生産効果を追求することが狙い。お互いに苦労しているところを一緒になって解決していくことになる」と語る。

 2006年度3月期の業績は、25日に正式発表されるが、先日発表された業績修正で示されたように、売上高は約160億円の規模だ。

 「メーカーという立場を考えれば、最低でも200億円の規模がないと成り立たない」と山田社長が語ることからも明らかなように、この事業規模では、PCメーカーの体力としては、脆弱と言わざるを得ない。

 「2007年度は、200億円が1つの目標になる。その時点でようやくメーカーとしての成長戦略が描ける」と語る。

 すでに、新たな社内情報システムが稼働。これによって、原価管理などを含めて、メーカーとして必要とされる管理環境が整いつつある。「人員削減をはじめ、無駄が多いと思われるところは、ギリギリまで削減してきた。ようやくその効果が現れつつあるが、細かく見てみると、まだまだ無駄な部分は多い。だが、もう攻め込まなくては生き残れないところまできている。新たな社内システムを活用し、攻めに打って出る」と山田社長は語る。

 もちろん、その成長を支えるのは、やはり製品そのものということになるだろう。

 「安いという特徴は維持する。ただし、品質が悪いというイメージはなんとしてでも払拭したい。そして、その上で、いち早く最新技術を搭載することにも積極的に取り組んでいきたい」と語る。

 実は、SSDに関しても、これをいち早く搭載したPCを投入すること目論んでいた。しかし、市場ではNECが先行した。

 「他社に先を越されたらお終い。もう出さなくていい、と製品化を取りやめた」

 山田社長は、こうした技術的な観点からも、市場で先行することにこだわる考えだ。これが、メーカーとしてのこだわりにつながるからだ。また、この姿勢を社内に定着させたいとの想いもある。

 そして、その想いは、2007年9月にも投入を計画している「PCC(パーソナル・コミュニケーション・コンピュータ)」というコンセプトの新たなPCへと集約されそうだ。

 山田社長が、PCCのコンセプトを明らかにしたのは、今回のインタビューが初めてのことである。

 PCCとは無線LAN、WiMAX、ワンセグといった通信機能を内蔵し、これにより、コミュニケーションを前提としたPCの利用環境を提示するものだ。

 まだ、具体的な仕様や価格、そして、PCCが実現する具体的な利用環境などについては明らかにはしないが、ソーテックが、本当の意味で、メーカーとしてのポジションを確立できるかどうかを推し量る製品になるのは間違いないだろう。

 また、PCCとともに、秋に発表する新製品では、デスクトップPCのすべてのモデルに地デジ機能を用意し、BTOで選択できるようにするほか、ノートPCでも地デジ対応製品を増やすというように、いまから攻めの準備に余念がない。

 さらに、周辺機器事業に関しても、「今年4月から手を打ち直している」として、改めて事業構築に力を注ぐ姿勢を示した。「これまではあり合わせのものを、安易に製品化していたという反省がある。これでは事業は成長しない。だが、一度撤退すると二度と事業が開始できなくなる。諦めるのではなく、一から手を打ち直すことが必要。PCCでは、どんな周辺機器が必要なのか、あるいはソーテックの事業の成長にとって、どんな周辺製品が必要なのかをしっかりと吟味していく」と語る。

 昨年1月にスタートした法人向けPC事業も、同社の成長の行方を握る1つの鍵といえる。

 当初の計画に比べると、法人事業の立ち上がりはやや鈍いといえるが、学習塾向けに千台単位で受注を獲得したり、通信会社などから数百台単位での受注も獲得しはじめている。

 「シンクライアントPCに対する受注案件も出ている。企業の導入は、検証のために半年以上を要することから、現段階ではそれほど焦りはない。徐々に事業を拡大していければいい」と、これに関しては、慎重に事業を拡大していくつもりのようだ。

 ソーテックは、2年後に創立25周年を迎える。これまでの山田社長体制の2年間は、メーカーとしての体制強化の期間だったといえる。「20代後半から30代の若手を、重要なポジションに積極的に登用した。2年後には、30代の社長が誕生しているかもしれない」と山田社長は笑いながら語る。

 土台づくりを完了させつつある山田社長は、いよいよソーテックの25周年に向けた強固な地盤づくりに挑む。それは、まさに成長戦略に本気で打って出ることだといえそうだ。

□ソーテックのホームページ
http://www.sotec.co.jp/
□関連記事
【5月10日】ソーテックとヤマダ電機/KOUZIRO、PCに関する業務提携に基本合意
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0510/sotecyamada.htm
【2月19日】ソーテック、64,800円からの法人向けPC「e-three」Vistaモデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0219/sotec.htm
【2006年1月26日】【大河原】ソーテックは、今度こそ変われるのか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0126/gyokai149.htm

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(2007年5月22日)

[Text by 大河原克行]


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