【IDF 2007基調講演レポート】
パトリック・ゲルシンガー氏基調講演
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上席副社長 兼 デジタル・エンタープライズ事業本部長のパトリック・ゲルシンガー氏 |
会期:4月17日~18日(中国時間)
会場:Beijing International Convention Center
IDF初日となる17日(現地時間)は複数の基調講演が行なわれ、この中でIDFでは顔的存在のパトリック・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏がデジタルエンタープライズに関する講演を行なった。より高いものを望みつつ、低く抑えなければならないところへも着目した同社の新技術を紹介した。駆け足で話が進められた印象も受けるが、非常に多くの要素が語られた講演となった。
同氏は冒頭で、北京で開催されたIDFの参加者が過去最高を記録したと発表。そして、IT技術を拡大して65億の人に広げていくため、コア技術を作り、明日を作っていきたいと訴えた。
そうした多くのユーザーニーズを満たすために必要なものとして同氏が講演のテーマとしたのが、よりリッチなコンテンツや多くのサービスを提供するなどの高性能/多機能……つまり多くのことをやるため取り組みが必要である点と、逆にIT管理コストや消費電力の抑制……つまりもっと低く、少なくしなければならない点への取り組みだ。
●多くしたいもの:性能と機能
最初に紹介されたのが、多くのことをやろうとすれば、多くの機能と高い性能が必要がある点。同氏はムーアの法則が前進していることを強調したうえで、法則を提唱したゴードン・ムーア氏が“半導体技術では40年ぶりのブレイクスルー”と述べた45nmプロセスで製造される新プロセッサ「Penryn」を紹介した。
このPenrynは、すでに3月末に詳細が公開されているが、トランジスタ数が2倍以上になり、トランジスタスイッチ速度が20%以上向上するのに対し、トランジスタのスイッチパワーは30%以上抑制され、新レベルのエネルギー効率が実現できるとした。そして、単なるプロセステクノロジーの革新だけでなくアーキテクチャ自体の拡張でもある点や、異なるセグメントへ投入していけるスケーラビリティの高さも強調している。
このPenrynを使ったデモも行なわれた。1,600MHz FSB/3.2GHz動作のクアッドコアXeonを2基搭載したワークステーションにNVIDIA製のPCI Express Gen2接続ビデオカードを搭載した環境で、MRIの画像診断を行なうもの。3Dレンダリング速度の向上で、3つの異なる画像を同時にチェックすることができるシステムなので、医療技術者の現場でも役立てるはずとした。
そのほか、Penrynのベンチマーク結果をグラフで紹介。SSE4の効果が高いビデオエンコードでは40%以上を性能向上を示すなど、初期段階にも関わらず優秀なパフォーマンスを示せていることをアピールしている。
Penrynコアの各セグメントにおける概要 | Penrynコアは単なるプロセスシュリンクだけでなく、Coreマイクロアーキテクチャの最適化も行なわれる |
PenrynコアのクアッドXeon×2基構成による、MRIの映像を処理するデモが行なわれた | Penrynコアのパフォーマンスを現行製品と比較 |
●少なくしたいもの:エネルギー&リソース
冒頭でも述べたとおり、今回のゲルシンガー氏の講演は単にパフォーマンスを向上させる技術の話ではない。より少ないもので、より多くのことをするための技術だ。Intelでは、地球資源を考えエコテクノロジーのリーダーシップを取っていくことを表明。
Energy Star 2007のインプリメントに参加しているGreen Gridのコアメンバーである点や、グリーンパワーや地球にやさしい資源を利用を進めたイスラエルのビル、5年間で性能は維持しつつ100kW以上も電力を抑制したデータセンターのようにムーアの法則以上の加速度で推進した省エネへの取り組みなどを紹介した。
そして、こうした省エネ製品として、Xeon 7300とCanelandプラットフォームを紹介。これは前回のIDFですでに話題は出ていたXeon MPの新プラットフォームで、2007年第3四半期の投入が正式に表明された。そして、この製品のデモに登場したのがSun Microsystems Vice PresidentのSin-Yaw Wang氏だ。
2007年1月に提携を表明したIntelとSun Microsystemsだが、この84日間で協力して行なってきた技術開発のお披露目の場ともなった。それがSolaris上でも動作する動的省電力機能で、CPUだけでなくI/Oやメモリなどほかのコンポーネントも含めて省電力管理を行なうもの。デモでは、機能を有効にしただけで、性能を落とさずに15~20%程度の消費電力削減を実現していた。
また、ローカルカンパニーの代表として、中国・百度のCFOであるShawn Wang氏も登壇。同社は現在検索サービスの拡張に力を注いでいるが、伸びの大きい中国では1~2年後には1日当たり何十億もの検索が発生すると予測している。そのトラフィックに耐えられるデータセンターを作るためにIntelと協力して進めているそうだ。
また、ローカルカンパニーの話に絡んでゲルシンガー氏はItanium 2がアジア地域で順調な伸びを示していることを紹介。次世代のItanium 2プラットフォームとしてMontvaleを2007年後半に出荷したのち、TukwilaやPoulsonといった次のプラットフォームも開発中であることをアピールしている。
省エネに優れるプラットフォームとして、2007年第3四半期に投入されるCanelandプラットフォームとXeon 7300を紹介 | Canelandプラットフォームのブレード製品を紹介するSun MicrosystemsのSin-Yaw Wang氏 |
Intel Dynamic Power Technologyを紹介するデモ。これはパフォーマンスグラフで変化は起きていないが…… | 消費電力のグラフ。右の方に一時的に消費電力が下がっている箇所があるが、それが同機能を有効にした部分 |
●少なくしたいもの:IT管理コスト
電力のほかに少なくしたいもの。それがIT管理コストだ。既存のITコストは、多くが管理コストに割かれており、これを改善するために同社が提供したのがvProである。このvProは先日大きな発展を見せた。それがノートPCへvPro相当の機能を実装する「Centrino Pro」の発表だ。
ここで、Lenovo China PresidentのChen Shanopeng氏が、2007年の夏に登場予定とするCentrino Proに対応した「Thinkpad X」シリーズを紹介。あえてクラッシュした状態でGenslinger氏に手渡し、リモートマネージャによって復旧するデモを見せた。リモートマネージャのデモ自体は目新しいものではなくなったわけだが、今回はIEEE 802.11n無線LANを利用したワイヤレスマネージメントを行なった点が新しい。クラッシュしたPCの状況を調べサーバー側からリブートを行なったり、パッチをプッシュしたりできるという。
このほか、Chen氏は、こうしたジャンルにおけるユーザーニーズを紹介。企業ユーザーにおいては現在、パフォーマンスやエネルギー効率以上にセキュリティやマネージビリティへの要求が大きいという。そして、それをノートPCに持ち込みたいと思うユーザーが多く、Centrino Proへの期待を寄せた。
もう1つ、管理コストを下げる手段として大きく取り上げられたのが仮想化技術だ。Intelでは2007年、Intel Q35チップセットなどを利用した新しいvProプラットフォーム「Waybridge」を立ち上げるが、ここには拡張された仮想化技術が盛り込まれる。仮想化技術を利用してPCをアプライアンスするような手法を取ればITコストを下げることにつながるわけだ。
さらに、ここではVMwareが開発したRecord&Replay機能を紹介。作業中のメモリ内容をすべて記録しておき、再立ち上げ時に元通りに復旧することができるもの。このデモも実施されている。
また、仮想化環境の性能測定についても言及。現在、この環境のベンチマークを行なう手法が標準化されていない状況だが、この統一に向けて動いていくとした。
●市場を延ばすためにやるべきこと
イマージング市場向けソリューションの「Little Valley」。ATX準拠ながら、CPUソケットを排除するなどしてローコスト化したもの |
続いては、こうした“より多くのことを少ないことでやる”というアプローチは、すでにITを導入している人だけでなく、次の10億人のユーザーにも伸ばしていく必要性について触れられた。
つまり、エマージング市場に向けたアプローチということだが、ここでは先進国とは違う製品が求められるとしている。その代表的な例で、すでに提供を開始し始めているのが、2006年秋のIDFで紹介された教育機関向けの格安ラップトップPCであるクラスメイトPCだ。この製品をパキスタンに向けて、2009年前に70万台を投入することを表明した。
また、今回新しいエントリーソリューションとして「Little Vally」を紹介。これはPCというよりは、基板のコンセプトということになるかと思うが、CPUソケットを持たない点や、不必要な機能を排除することで、ATX準拠ではあるが大幅にサイズを小さくしたマザーボードを利用し、コストを大幅に抑制したものである。
●明日のための新技術を一挙に披露
さて、ここまではいわば“今”を見据えてやるべきを探ってきた内容であったが、ゲルシンガー氏は次の重要や機能の波を捉えて、継続して考え方を変え、イノベーションを生み続けることが必要があるとしている。そこで、基調講演の後半は、新技術/機能の紹介が一気に行なわれた。
最初に言及されたのは、Microsoftとの協力関係である。両社が長期間に渡って継続的に協力してきたことはいうまでもないが、現在Intelが開発中のクアッドコアXeonは、MicrosoftにとってはLonghornの土台になる重要な存在と見ているという。そして、Longhornを利用した仮想化のデモを実施。Longhorn Serverに実装される仮想化技術では、利用可能メモリを自由に変更できるなどの機能紹介を行なった。
続いて紹介されたのが、PCI Expressを利用したアクセラレーション「Genesio」に代表されるような、サーバー上でのアクセラレーション機能の総称となる「Quick Assist」についてである。
つまりは目的に特化して機能性を高めるものだが、この動きの一環としてゲルシンガー氏が紹介したのが「Tolopai」である。これは、IAアーキテクチャの命令セットを持つSoCで、MCH/ICHの機能に加え、セキュアネットワークの処理チップを統合したもの。2点間のVPN over IPsecの環境を例にとり優位性を示したが、これをデータセンターなどに利用してイノベーションを起こしたいとしている。なお、このTolopaiは2007年中にも生産に入る予定とのこと。
このほか、将来のワークロードに欠かせない技術として挙げられのがパラレルアーキテクチャで、同社が現在開発中の「Larrabee」を紹介。プログラム可能なIAに基づいたパラレルアーキテクチャとなるこの技術は、将来的にはテラフロップスへの拡張も可能という。IAベースということもあって業界からの期待も大きそうで、2008年にはデモを見せる段階になるそうだ。
最後は45nmプロセスの次のステップとなる「Nehalem」について紹介があったが、この内容は3月に発表された内容と大きな違いはない。ただ、次回のIDFでさらなる詳細を説明することが表明されている。
SOHO間でのセキュア通信の例。Tolopaiに統合されている4つの機能を4つのチップとして実装した場合の性能などはこうなる | これらをTolopaiによってワンチップに収めることで、スループット、CPU負荷、消費電力、実装面積のいずれでもメリットがあるとする | プログラム可能なIAベースの並列アーキテクチャ「Larrabee」。2008年にも行なわれるというデモが期待される |
□IDF 2007のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/
□関連記事
【4月11日】インテル、次世代プロセッサとWiMAXへの取り組みを説明
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0411/intel.htm
【2006年9月29日】【IDF】未来を目指すIntelの研究
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0929/idf08.htm
【2006年9月29日】【元麻布】次世代企業向けプラットフォーム「Weybridge」のデモ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0929/hot448.htm
(2007年4月18日)
[Reported by 多和田新也]