Intel Developers Forum 2007 China(中国・北京)の前日、IntelはIDFでは恒例の記者向けプレビューを開催した。その中でIntel副社長でモバイルプラットフォーム事業部長のムーリー・エデン氏は、将来、一部のハイエンドゲーマー向けにクアッドコアを搭載したモバイルPCを提供すると話した。 これはノートPCに搭載可能なNVIDIA SLI技術など、ノートPCの高性能化とゲーム対応力の増加に対し、Intelも高クロック版のCore 2 Duoを提供し、その後、クアッドコア化を行なうとして将来の予定を話したもので、これがすなわち“モバイル向けクアッドコアプロセッサ”を意味しているわけではない。 しかしながら、Intelのあらゆる行動が、モバイル向けプロセッサのクアッドコア化を指し示している。
●“Nehalemまではデュアルコアで十分”とエデン氏 Intelが次のPenryn(ペンリン)でコンシューマPC向けプロセッサをクアッドコア化することは、すでに周知の事実となっており、エデン氏がハイエンドノートPCにクアッドコアプロセッサを搭載するとしたことは、特に驚くべきニュースではない。デスクトップPCクラスのプロセッサをサイズの大きいノートPCに組み込むことは、今や珍しいことではないからだ。 問題はその先にある。 ハイエンドゲーマー向け(正確にはIntelが言うところのExtremeセグメント)とはいえ、ノートPC設計のためにクアッドコアを投入することの意味が、単にニーズがあるからなのか、それとも将来的なクアッドコアへの布石なのかだ。 たとえばIntelは1ダイに4つのコアを“統合”したマイクロアーキテクチャを構築するのだろうか? 現在、Intelが開発を公言しているプロセッサは、いずれもデュアルコアのアーキテクチャを基本としており、2つのダイをパッケージ化することでクアッドコアとしている。 しかし、このままでは4つのコアを細やかに、異なる省電力ステートで制御することは難しい。チップセットの助けも借りれば、2つのダイに乗る4つのコアの省電力制御を行なえなくはないが、タイトに統合し、キャッシュメモリの管理までを細かく行なうには、現在のデュアルコアと同様に統合されたクアッドコアのダイが必要だ。 しかしエデン氏は記者との質疑応答の中で「モバイル向け(ここで話題にしているのは、超低電圧版や低電圧版を用いる小型/軽量機ではなく、通常電圧版を搭載する薄型/軽量機)には、クアッドコアはまだ必要ではない。現在、そして次のモバイル向けデュアルコアプロセッサはMerom世代のアーキテクチャだが、その次にはNehalem(ナハーレム)が控えている。NehalemはMeromよりも強力で高いパフォーマンスを発揮するので、デュアルコアのままで十分にパフォーマンスを向上させることが可能だ」と語った。
Intelの製品サイクルからすれば、Merom+αの機能と大きなキャッシュを45nmプロセスで設計するPenrynが2008年の主力として活躍し始めた後、すぐ後に同じ45nmで設計され、マイクロアーキテクチャが大きく変更されるNehalemまで、モバイル向けには新しい製品の投入が続く。パフォーマンスも順調に伸びていくだろう。Extremeセグメント向けなどの特殊な事情がない限り、クアッドコア化を無理に進める必要はない。 だが、Nehalemよりも先になると、今度は一気にクアッドコア化が現実味を帯びてくる。IntelはNehalemよりも先のプロセッサに関して、その計画について何も発表していないため、エデン氏もそこまでのロードマップを含めてクアッドコアを否定しているわけではない。 ●32nmプロセスでのリファインでクアッドコア化 おそらく2009年頃までには、Intelは次次世代プロセスの32nmプロセスが稼働し始める。Intelの最近の開発パターンからすると、Nehalemの後にはNehalemのマイクロアーキテクチャを改良したプロセッサが設計される。Intelはこの時点、あるいはさらにその次で、4つのコアを1つに統合したプロセッサを開発するだろう。 2009年と言えば、今から2年先の話だが、新しいソフトウェアの最適化技術が浸透するために必要な最低限のリードタイムは、過去の例ではおよそ2年ぐらいだ。つまり今からクアッドコアをコンシューマ向けPCにも搭載し始めれば、2年後にはある程度、効率的に4つのコアを活用するソフトウェアが普及し始めていることになる。 クアッドコアへのソフトウェアの最適化状況。これには単体アプリケーションだけでなく、OSのスレッドマネージャなどの効率も関連してくるだろうが、いかに効率的に4つのコアを使いこなせるようになっているかが、モバイル向けにクアッドコアプロセッサを商品化できる条件になる。 デュアルコアでの実績からもわかるとおり、十分に細かな電源管理さえを行なえば、コア数を増やしていった方が処理時間が短くなり、システムトータルの電力効率は良くなる。クアッドコアが十分に機能し、さらに細かな電源管理を行なえる設計ができるならば、デュアルコアよりもクアッドコアの方が電力あたりのパフォーマンスが向上する。 45nm世代以降ではリーク電流が大幅に減るため、4つのコアを抱えていても、システム全体での省電力化が図れる可能性は高い。そのターゲットとして有力なのが2009年ぐらいというのは妥当な線だろう。 MicrosoftはWindows XPからVistaへの開発期間が長くなった反省から、Windows Vistaのリリース以降、年に1回ぐらいのペースで実現できる機能を少しずつ提供していく計画へと転換していくと話していたが、このこともクアッドコア化に向けてIntelが動きやすい理由になろう。今からクアッドコアプロセッサを出しておけば、2年先にはOSのクアッドコアへの最適化が行なわれる可能性について期待を持てる。 実際にシングルダイのクアッドコアプロセッサがモバイルPC向けにも投入されるのは、あるいは2010年にズレ込むかもしれないが、いずれにしろ2009年の終わりから2010年にかけてが1つの山場になりそうだ。 では、どのようなプロセッサになるのだろうか? 1つのヒントはNehalemベースのアーキテクチャになるだろうということだが、その前のPenrynの時点でも、いくつかのヒントが隠れていそうだ。 エデン氏によると、PenrynにはIntel Virtualization Technologyの拡張、キャッシュへの分割ロード、熱設計電力枠を考慮したTurboモード(逆SpeedStepとも言える一種の自動クロックアップ技術)とIntel Dynamic Acceleration Technologyの拡張、さらに深く眠る省電力機能などの追加があるという。 つまり、かなり正攻法で効率を少しでも上げていく工夫が盛り込まれているが、いずれもデュアルコアに最適化した設計になっている。つまり、最初のモバイル向けクアッドコアプロセッサでは、まずデュアルコア向けに設計された各種省電力の工夫を、クアッドコアでもうまく機能するように作り直さなければならない。たとえばTurboモードの機能の仕方などは、クアッドコア化によって大幅に複雑度が増してしまう。 今はまだ詳細について明らかになる段階ではないが、どのように工夫して飛躍的に複雑になる省電力化、高効率化の工夫を回路として実装してくるのか、久々にワクワクと心躍るテーマだ。 ●小型機もクアッドコアに? では小型/軽量機も、将来的にクアッドコアになるのだろうか? 通常のモバイルPCでも「ノー」と(現時点では)答えているのだから、エデン氏の返答もおそらく「ノー」だろう。 上記のクアッドコア化が果たされたとしても、Intelはコア数に関してOEM先に対して選択肢を持たせるため、熱設計電力枠の小さいクラスは、デュアルコアに留まるはずだ。しかし、Intel Core Soloがごく一部の限られた製品向けのプロセッサになっているように、いずれはデュアルコアも有名無実化し、ほとんどのノートPCがクアッドコアになるかもしれない。 だが、IntelはIntel CoreをUMPCはもとより、小型携帯端末にまでアプリケーションの用途を広げようとしている。以前のコラムでも述べたように、コア間のネットワークを最適化することで、容易にコア数を変更できるよう意識した設計になると思われる。 従って小型/軽量機がクアッドコアになるかどうかは、市場のニーズとその時点のアプリケーションのトレンドによって決まってくる。クアッドコア化によるデメリットが、メリットに見合わないならば、当然、デュアルコアを維持するはずだ。4つのコアを異なる電圧で細かく電源管理しようとすると、5系統の電源を用意しなければならなくなるため、回路が複雑になりすぎるという問題も、小型機ならば顕在化してくるだろう。 将来、25nm世代になった時(2011年ぐらいだろうか)のアプリケーションや、PCのトレンドによって、それは決まるだろうが、当面、小型/軽量機へのクアッドコア採用はないと思われる。 もっとも、採用に関してのボトルネックはプロセッサやPCハードウェア設計の側ではなく、むしろアプリケーションや、アプリケーションの実装に使われるソフトウェア技術にある。それを利用するソフトウェアが無ければ、クアッドコアも意味を為さない。 □Intel Developers Forumのホームページ (2007年4月17日) [Text by 本田雅一]
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