Intelは4月10日、Core 2 Extremeシリーズの最上位モデルとなる「Core 2 Extreme QX6800」を発表した。3モデル目となるクアッドコアCPUで、Core 2シリーズ最高クロックに並ぶ2.93GHzで動作する製品だ。このパフォーマンスを見てみたい。 ●KentsfieldのB3ステップをそのまま利用した新モデル 今回発表されたCore 2 Extreme QX6800は表1に示す通り、2006年11月に発表されたCore 2 Extreme QX6700の上位モデルとなる。動作クロックは2.93GHzで、クアッドコア製品リリース後も、Core 2シリーズで最高クロックを保持していたCore 2 Extreme X6800に並ぶものとなる。 その製品は、Core 2 Extreme QX6700と見た目の違いはない(写真1、2)。両製品はコアのステッピングも同じB3ステッピングが利用されており、TDPも130Wで同じである。純粋なクロックアップ版として捉えて構わないだろう。 ただし、Core 2 Extreme QX6800ではTcaseが大幅に引き下げられた。Core 2 Extreme QX6700は最大で64.5度であるが、Core 2 Extreme QX6800はこれが54.8度となっているのだ。 これは、CPUの表面温度をかなり低く抑える必要があることを表しており、当然ながらCPUクーラーに対する要求は高まる。しかも同一ステッピングのままクロックが上がったことで発熱は増す。Core 2 Extreme QX6700で利用しているCPUクーラーであっても利用できない可能性もあり、注意を要するポイントといえる。
【表1】Core 2 Extreme/Quadの主な仕様と製品比較
●クロックアップの効果をベンチマークで検証 それでは、ベンチマークの結果を紹介したい。用意した環境は表2の通りで、今回はCore 2 Extreme3製品での比較を行なうことにする。
【表2】テスト環境
まずは、「Sandra XI SP1」の「Processor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」の結果である(グラフ1)。このテストでは同一アーキテクチャならば、ほぼクロックおよびコア数に比例してスコアが変わる。 まず、Core 2 Extreme QX6800と同QX6700ではちょうど10%のクロック向上となるわけだが、スコアもほぼ10%増し。そして、同一クロックでデュアルコアのCore 2 Extreme X6800と、クアッドコアのCore 2 Extreme QX6800はほぼ2倍のスコア差が出ている。CPUが持つ演算性能のポテンシャルは正しく引き出されていると判断できる結果だ。
続いては、「PCMark05」の「CPU Test」の結果である(グラフ2、3)。このテストでは、グラフ3に示している4タスク同時実行テストでクアッドコアが強さを見せるのが特徴となる。一方で、同一クロックのCore 2 Extreme QX6800と同X6800を比較してみると、2タスク同時実行テストまでは若干ながらデュアルコアのCore 2 Extreme X6800の方が良いスコアを出す傾向が見て取れる。
この結果の原因となっていそうなのが、メモリ周りのパフォーマンスだ。メモリ関連のテストは、Sandra XI SP1の「Cache & MemoryBenchmark」(グラフ4)と「EVEREST Ultimate Edition 2006 Version3.5」のCache & Memory Benchmark(レイテンシの項のみ、グラフ5)である。 この結果を見ると、わずかながらクアッドコア製品を利用した環境のメモリパフォーマンスが悪いことが分かる。以前も触れた通り、Core 2 Extreme QX6800/QX6700は、デュアルコアのダイを2つパッケージングした構造になっており、その間の調停機構は持っていない。各ダイからのアクセスがFSBを奪いあうことが影響しているのだろう。 先のPCMark05のCPUテストの結果も、現状のクアッドコアはメモリアクセス速度でわずかとはいえビハインドを背負っているために、シングルタスクや2タスク同時実行テストではCore 2 Extreme X6800が良いスコアを出す傾向にあったと推測できる。
こうしたメモリアクセス速度の影響は、アプリケーションテストでも出た。実施したテストは、「SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ6)、「Winstone 2004」(グラフ7)、「CineBench 9.5」(グラフ8)、「動画エンコードテスト」(グラフ9)である。 多くのテストでCore 2 Extreme QX6800がトップのスコアを出しており、Core 2 Extreme QX 6700ではクロックの低さが弱点となっていたテストでの盛り返しが目立つ結果といえる。ただ、一部テストでは、Core 2 Extreme X6800に劣る場面も見られる。 分かりやすいのは、シングルスレッド、マルチスレッドを1つのテストで実施でき、しかも誤差が小さいCineBench 9.5である。シングルCPUレンダリングでは、Core 2 Extreme X6800がもっとも良いスコアを出しており、メモリ帯域幅の差がアプリケーション実行性能にも影響を及ぼしていることを感じさせる。ただ、マルチCPUレンダリングでは、4コアを持つメリットが存分に発揮されている。
続いては3D性能のテストであるが、「3DMark06」の「CPU Test」(グラフ10)、「3DMark06」(グラフ11)、「3DMark05」(グラフ12)、「3DMark03」(グラフ13)、「F.E.A.R.(SoftShadowsは無効に設定)」(グラフ14)、「Splinter Cell Chaos Theory(HDRは有効に設定)」(グラフ15)である。 まず、複数のオブジェクトの処理をマルチスレッドで扱う3DMark06のCPUテストではクアッドコアの良さがよく出ており、その影響で3DMark06のOverallスコアもクアッドコア両製品が好結果を出している。 しかし、そのほかのテストでは、Core 2 Extreme X6800が安定した強さを見せた。これも、ここまでのテスト結果を反映したものといえるだろう。3DゲームではCPU処理が多数のスレッドに分かれることがないため、デュアルコアでも高クロックで、かつメモリパフォーマンスに勝るCore 2 Extreme X6800が良さを見せたわけである。
最後に消費電力のテストだ(グラフ16)。これも大局的に見れば、想像できる結果に収まっている。Core 2 Extreme QX6700と同一ステッピングでクロックが上がっているわけなので、当然、消費電力はそれを上回るものとなる。冒頭でも触れた冷却面の注意に加え、電源についても要注意のポイントといえる。
●買い時は短いが、ようやく出た最高クロックのクアッドコア 正直なところ、今年第2四半期~第3四半期にかけて投入される予定になっている1,333MHz FSBのCPUまで、Intel製品の上位モデルの更新はないと思っていたのだが、意外なタイミングで本製品が投入された印象を受けている。とはいえ、Pentium D以降のIntel製品で頻発している、コア(論理CPU)数は上位だがクロックが低い製品が最上位モデルに君臨するという状況はこれで打開されたわけで、本製品の目的もここにあったのではないかと思われる。 パフォーマンス面でも、2スレッドまでに集中して負荷がかかる状況ではシングルダイでデュアルコアを実現しているCore 2 Extreme X6800に分がある傾向にはあるものの、現在のPCにおいて、1つのアプリケーションだけに負荷をかける使い方しかしない、という人も少ないと思われる。少ないスレッド数のアプリケーションにおいても、最良に近いパフォーマンスを出せ、かつマルチタスク/マルチスレッドではさらにその効果が増幅されるわけで、Core 2 Extreme QX6800は現時点でもっとも性能の良いCPUといえるだろう。 ちなみに 価格は1,000個ロット時142,380円。当然ながら安価ではなく、1,333MHz FSB製品の登場が見えている時期に積極的に買おうと思わせる力はないかも知れない。ニッチな層へ向けた製品という印象は否めないものの、クアッドコア製品のクロックが低いことに不満を持って買い控えていた人への訴求はできるだろうし、Intel製品の中で“もっとも良いCPU”がはっきりした意味は小さくない。 □関連記事 (2007年4月10日) [Text by 多和田新也]
【PC Watchホームページ】
|