ソニーから発表された“TV side PC”こと「VGX-TP1」は、円柱型のボディとHDMI端子を備えた非常に特徴的なPCで、最近急速な勢いで普及しているHDMI端子付きのHDTVに接続して利用することができる。 ソニーはすでにHDMI端子を備えた製品として「VAIO Type X Living」をリリースしていたが価格としては20万円台後半とかなりハイエンドな製品になっていた。それに対して、このVGX-TP1は価格は10万円台前半から後半とかなりリーズナブルに設定されており、HDDレコーダ感覚で導入して利用することが可能になっている。 ●4本のケーブルだけで接続可能
VGX-TP1(以下本製品)の性格を決定付けているのは、なんといってもディスプレイ端子にHDMI端子を採用したことだろう。一般的なPCでは、DVIやD-Sub15ピンなど、もともとPC用として開発された端子が搭載されている。これらの端子は本来PC用ディスプレイを接続するために用意されているもので、HDTVなどのいわゆる大画面TVに接続するための端子ではない(一部のTVにはこうしたPC用の端子を備えているものもある)。 これに対して、HDMI端子は、そもそもがHDTVと周辺機器(HDDレコーダなど)を接続するための端子として開発されたものだ。その内部は、一言で言ってしまえばPC用のDVI出力とオーディオ出力を1つにしたもので、映像とオーディオが1本のケーブルで送信できるという特徴を備えている。かつ、HDCPと呼ばれる映像信号をセキュアにディスプレイに送信する仕様にも対応しており、デジタル放送やBD/HD DVDなどのセキュア出力を必要とするコンテンツにも対応できる。 本製品は、HDTVに接続して利用することを想定された製品となっている。また、デザインもリビングのHDTVに並べて置いても違和感がないものになっている。 また、HDMIを採用したことで、デジタル家電並みの簡単設置に対応したことも見逃せない。本製品をHDMIに対応したHDTVに接続する場合、HDMIケーブルで接続するだけで映像と音を送信できるので、それ以外にEthernet(あるいは無線LANアンテナ)、TVアンテナ、ACアダプタと4つのケーブルを接続するだけで簡単に接続が終了する。さらに、マグネットで簡単に脱着できるケーブル隠しの蓋も用意されており、リビングに置くということに配慮されていることがわかる。
●PC向けの出力も可能 気になるHDMIの使い勝手だが、こうしたPC搭載としては悪くない。初代のType X Livingでは、映像フォーマットは1080i、720pといったいわゆるAV機器向けのものだけが利用可能で、PC向けのフォーマットはほとんど利用できなかったのだが、本製品では、AV機器向けの1080i、720p、480pに加えて、PC向けの映像フォーマット(たとえば1,920×1,080ドット、1,280×1,024ドット(SXGA)、WXGAなど)も利用できる。もちろん、利用するディスプレイがPCの解像度に対応している必要があるが、HDTVであればネイティブの解像度で利用できる。 AV機器向けのフォーマットである1080iなどを利用した場合には、TVの枠にWindowsのデスクトップがややはみ出してしまう、いわゆるオーバースキャン表示になってしまうことがある。これはTV放送ではオーバースキャンにしておかないと、四隅に黒い部分ができてしまい、あまり美しくないので、多くのTVでは1080iや720pのフォーマットで送られてきた映像をオーバースキャンして表示するのだ。そうしたTVのために、本製品では本来の1080iの解像度よりやや小さい解像度で表示するモードを用意している。
ただし、それでは、1080iの本来の解像度(1,920×1,080ドット)より若干小さい解像度になってしまうので、パネルのドットとPCが表示する画面のドットが一致せず、やや違和感がある表示になってしまう場合がある。そうした場合には、PCの解像度を1,920×1,080ドットにしておけば、“Dot by Dot”と呼ばれるドット同士が一致する綺麗な表示を行なうことが可能になる。この点は、美しさにこだわるユーザーにはうれしいところだ。 なお、本製品にはHDMIケーブルが付属しているが、HDMIからDVI-Dへ変換するコネクタも用意されている。これを利用することで、DVI端子しか持たないPC用のディスプレイに接続することも可能だ。この際、ディスプレイはHDCPに対応している必要がある。もちろん、DVIケーブルでは音は送れないので、別途スピーカーなどに接続する必要がある。本製品のオーディオ出力は、ヘッドフォン端子と光デジタル出力しか用意されておらず、アナログのラインアウトは用意されていない。従って、別途光デジタル入力を備えたスピーカーやアンプなどが必要になるので、DVIに変換して利用しようというユーザーには注意が必要だ。 ●薄型TVと一緒に置いて違和感のないデザイン 最近は、家庭でHDTVが設置されるのも普通の光景となりつつあるが、家庭内に複数のHDTVがあるというところはほとんどないだろう。そうした1台のHDTVがどこにあるのかと言えば、それはほとんど場合はリビングだろう。従って本製品もHDTVの近く、つまりリビングにおいて利用する製品という位置付けになるだろう。そうした製品で重要なことは、リビングにおいて違和感がないか、これにつきるのではないだろうか。その点で、本製品は十分合格点が与えられると言える。 本製品のデザインがなんといっても特徴的なのは、円柱型の筐体だ。一見するとお櫃(今の若い人はお櫃なんか知らないか……)とか、おぼんとかそうした形のユニークなデザインは、これまでのどんなPCにも似ていない独自性を持っている。また、AV機器として見ても、こんなデザインの製品は見たことがない、という奇抜なデザインだ。 これまで、リビング向けのPCと言えば、HDDレコーダライクなケースにPCのコンポーネントを詰め込んでというものが主流だったわけだが、逆に言えばHDDレコーダとあまり変わらないので、斬新さが感じられないという問題を抱えていた。あえて、PCなのかHDDレコーダなのかわからなくする、つまり違和感をなくすためのデザインだったわけだが、逆にそれならHDDレコーダとの違いがわからないという印象をユーザーに持たせてしまうという逆効果もあったと言える。 だが、本製品ではHDDレコーダでもない、PCでもないというユニークな円柱型というケースを採用することで、そのどちらでもない新しい製品という印象を与えることに成功していると言える。しかも、直径が270mmというコンパクトさを実現したので、横幅が430mm、奥行きが400mmという一般的なAV機器よりもコンパクトなスペースに設置することができる。最近の薄型TV用のTV台の場合、奥行きが400mmないものもあるので、HDDレコーダなどを横置きにできない場合もあるのだが、本製品ではそうしたTV台などにも十分設置できるのだ。 このように、コンパクトで、これまでのデジタル機器にない斬新なデザインで、薄型TVと一緒においても違和感がないという点は、リビングに置く機器としては重要な要素だと言えるだろう。
●ノートPC向けのコンポーネントを採用し、Viiv Technologyにも対応 直径270mm、高さが90mmとコンパクトな円柱型をしている本製品だが、かといってハードウェア的に妥協されているわけではない。CPUはCore 2 Duo、メモリ1GB、チップセット内蔵GPUのIntel GMA 950と立派にWindows Premium Logoの要件を満たす仕様となっている。ただし、デスクトップPC向けではなく、ノートPC向けのコンポーネントが採用されている。CPUはCore 2 Duo T5500(1.66GHz)、チップセットはIntel 945GM Express、サウスブリッジはICH7M-DHだ。このため、IntelのViiv Technologyの仕様も満たしており、IntelのパートナーがViiv向けに提供しているコンテンツを楽しむこともできる。 メインメモリは標準で1GB搭載しているが、ソニースタイルで購入した場合には2GBを選択することができる。なお、メモリはユーザーがアクセスできる範囲に装着されていないので、基本的には増設はすることができないと考えた方がよい。ただし、メモリ自体は一般的なSO-DIMMであるので、保証が無くなることを覚悟すれば交換することは一応可能だ。 HDDは上位モデルは500GB、下位モデルは160GBという構成になっている。テレパソとして利用することを前提とするのであれば、160GBという容量はやや小さく感じる。かつ、HDDやメモリなどには分解しないとアクセスできないという本製品の特性上、将来交換するというのも難しい。そうした意味では、下位モデルを購入する場合でも、ソニースタイルなどでHDDの容量を増やして購入した方がいいだろう。
●アナログ放送だから、こんなに遊べる、楽しめる、切り出せる 本製品では、アナログTVチューナが1基内蔵されている。このチューナは、ソニー製のチューナモジュールで、3次元Y/C分離、ゴーストリデューサなどの高画質化機能を備えている。 TVの録画には、本製品のOSとして採用されているWindows Vista Home Premiumに標準搭載されているWindows Media Centerの機能を利用する。Windows Media Centerは標準で、iEPGの機能やTV録画の仕組みを搭載しており、付属のチューナはこの機能を利用して録画、再生などを行なう。なお、Windows Media Center上からチューナの設定(3次元Y/C分離やゴーストリデューサ)を行なうツールも標準で用意されている。 仕組みとしてはWindows Media Centerの標準機能を利用するが、ソニー独自の拡張も行なわれている。具体的には再生時の機能として、Windows Media Centerの標準の方法以外に、ソニーオリジナルの再生ソフト、録画ファイルの検索ツールなどが用意されている。 「VAIO Video Explorer」は、マウスによる操作を前提にした2ft(フィート)用のアプリケーションで、かつてソニーが採用していてユーザーに強い支持を得ていた「GigaPocket」を彷彿とさせるようなアプリケーションだ。録画したWindows Media Centerのコンテンツを、このツールを利用してマウスやキーボードで選択したり、DVDへ書き出すなどの処理を行なうことができるのだ。 ユニークなのは検索機能で、好きなタレントの名前など、好きな言葉で検索することができる。さらに、メタデータは、Windows Media Centerが取得するものだけでなく、アプリケーション側でも独自に取得し、それらも利用して検索が行なわれる。ユニークなのは、番組に含まれるCMのデータなども検索され、さらにはそのCMの企業のURLなどもメタデータに格納される。このため、たとえば、CMの企業名で検索したりという使い方も可能になっているのだ。
選択したコンテンツは、Windows Media Centerに戻らなくとも「VAIO Emotional Player」という2フィートUIのアプリケーションを利用して再生することができる。VAIO Emotional Playerには、通常の再生方法以外に、ダイジェスト再生、CMのみ再生、テロップのみの再生といった独自の再生方法が用意されている。 ダイジェスト再生は、最近のHDDレコーダなどにはよく搭載されている機能で、音声などから番組のうち盛り上がった部分などを時間内だけに編集して再生する機能だ。主に、サッカーや野球などスポーツなどでゴールシーンなど主要な部分だけを見たい人など向けに用意されている機能だ。これまでPCでは日立のPriusぐらいしか用意されていなかった機能で、HDDレコーダを製品として持っているソニーならではのユニークな機能だ。 CM再生は、その名の通りCMだけを再生する機能で、番組よりも秀逸なCMを見たいという人向けの機能だ。さらに、CMだけを抜き出したり、CMの企業URLへリンクを貼ったりということも可能なので、CMを楽しみたいという人には便利だ。 ユニークなのはテロップ再生だ。画面からテロップをキャプチャし、それを抜き出す機能が用意されており、気になるテロップから再生したりということが可能だ。たとえばワイドショーなどで、気になるテロップのニュースから見始めたりという使い方が可能だ。ソニーの関係者によれば、この機能はCPUの処理能力がそれなりに必要であるとのことなので、まだ家電では実装できていない機能であるという。 なお、VAIO Emotional Playerには10ft版も用意されており、付属のリモコンを利用してダイジェスト再生、CM再生、テロップ再生も可能であるという。利用シーンに応じて、2ftと10ft、どちらのUI環境下でも利用できることは大きなメリットといえ素直に評価したい。
●リモコンで操作できるWebブラウザで、あの配信サービスも快適に? 本製品の操作は、付属のワイヤレスキーボードないしはリモコンで行なう。ワイヤレスキーボードは、2.4GHzの無線で接続されたロングレンジタイプで、ちょうどノートPCの下半分だけ切り出したように、タッチパッドがパームレスト中央にあるタイプとなっている。さらに、パームレスト左側にはFeliCaリーダも用意されており、付属のアプリケーションでFeliCaの残高などを確認することができる。 リモコンはもちろんWindows Media Center対応のものとなっているが、ソニー専用のアプリケーションの終了ボタン(キーボードでいえばAlt+F4)、アプリ切り替え(Alt+Tabボタン)など標準のWindows Media Center用リモコンでもつけてほしい便利なボタンや、VAIO独自のメニューを出すためのVAIOボタンなどが用意されている。また、後述するオプションのデジタルチューナを利用するための4色ボタンも標準で用意されており、デジタル放送の操作も簡単にできる。 また、この付属のリモコンを利用してWebサイトにアクセスすることができる。こうした機能は初代Type X Livingでも実装されていたが、バージョンアップされてより洗練され使いやすくなっている。特に、Windows Vistaの新しいユーザーインターフェイスであるWindows Aeroに対応しており、メニューなどが透過的に表示されるようになるなど、Windows Vistaの新機能にも対応している。Internet Explorerに登録したブックマークなどにリモコンを利用して接続できるほか、表示の拡大縮小なども可能になっている。さらに、リモコンの方向キーをマウス代わりに利用可能で、リモコンだけでうまく操作できない時には、リモコンをマウス代わりにするという使い方もできる。 この機能を利用することで、ネット上にあるコンテンツをすべてリモコンで楽しむことが可能だ。Windows Media Centerにもメディアオンラインというリモコンで接続できるメディアサービスが用意されているが、すべてのコンテンツがメディアオンライン向けに提供されているわけではない。たとえば、メディアオンラインではGyaoもサービスとして提供されているが提供されているコンテンツはごく一部で、一般的なWebブラウザ向けに提供されているGyaoのすべてのコンテンツを楽しむことはできない。しかし、こうしたリモコンで操作できるWebブラウザを利用することで、Gyaoのすべてのコンテンツを、リビングに座ってリモコンで楽しむことができるのだ。慣れてしまえば、これは実に快適で、時間を忘れて楽しんでしまうほどだ。
●Ethernet経由のデジタルチューナをオプションで用意 本製品は本体内部にはデジタル放送チューナを内蔵していない。だが、別売で「VGF-DT1」と呼ばれるデジタル放送チューナボックスが用意されており、デザインも本製品と共通の白い円柱型を採用しており、本製品と重ねて設置が可能になっている。 デジタル放送のチューナとしては、地上デジタル、BSデジタル、110度CSデジタルのいわゆるデジタル3波に対応している。このとき、本体との接続は、Ethernet経由で行なわれる。Ethernet上を流れるデータはDTCP-IPを利用して暗号化されており、きちんと日本のデジタル放送受信機器に求められている要件を満たしている。 なお、実際には本体を登録する作業が必要になり、受信アプリケーションのインストール時に、VGF-DT1上にあるボタンを利用しての認証やアクティベーションキーと呼ばれる個体を特定できるキーを入力してインターネット上のサーバーで認証を受ける必要がある。 なお、本体にはD端子が用意されており、直接HDTVに接続してデジタル放送を楽しむことが可能だ。たとえば、デジタル放送のチューナが内蔵されていないHDTVを持っているユーザーの場合、本製品を買えばPCから楽しむことはもちろんのこと、TVで直接使うということも可能だ。この場合、付属のリモコンを利用して操作することになる。 本製品で再生ソフトウェアを利用することで、デジタル放送のライブ視聴、録画、録画番組の再生が行なわれる。ただし、この場合、映像出力としてはHDMIを利用し、HDMI端子かHDCPに対応したDVI端子を持つTVやディスプレイに接続する必要がある。また、録画した番組は光学ディスクにムーブすることができる。本製品では内蔵ドライブがDVDスーパーマルチドライブのため、DVDへのムーブは、SD解像度へ変換されての出力となる。 なお、本製品とはあまり関係ない話だが、VGF-DT1はソニーのPCでなくても利用できる。つまり、自作PCやデジタルチューナを内蔵していない他社製PCでも利用できるということだ(ただし、Windows Vistaでの対応は後日となっているし、ビデオカードがHDCPに対応している必要などがある)。これまでそうしたPCで汎用で利用できるデジタルチューナは存在していなかったので、本製品が初の製品ということになる。
●お仕着せのHDDレコーダには満足できない欲張りなユーザーに 以上、本製品の特徴をやや駆け足で見てきたが、HDMIの採用による容易な取り付け、薄型TVにもしっくりくるPCとしてもデジタル家電としてもユニークな円柱型のデザイン、ソニーオリジナルのWindows Media Centerを拡張するTVソフト、リモコンで操作できるWebブラウザによるネット上コンテンツのリモコン視聴、オプションで用意されるデジタルチューナなど、これまでのPCにはなかったような新しい特徴が満載だといえる。 もう1つ指摘しておきたいことは、こうしたHDMIによるリビングPCという形は、PCがリビングに入っていくための今のところの最適解ではないかということだ。これまでのPC業界のリビングに対するアプローチは、大型の液晶一体型PCという形だった。しかし、それだとTVとPCのライフサイクルが違っていたり、すでにリビングにはHDTVがあったりという問題を抱えていたことも事実だ。しかし、本製品のようなHDMIで接続する形であれば、すでにリビングに存在しているHDTVに接続するという形ですっと入っていけるし、本製品のように高度な録画機能を備えているPCであれば、十分HDDレコーダの代わりとして利用できるだけの能力を備えているといえる。 そして、HDDレコーダにはない+αの魅力として、リモコンによるWebブラウザの機能や、Windowsベースであるが故にソフトウェアを追加することで機能を増やしていけるというプログラマビリティの機能を持っていることだ。この点は、HDDレコーダが逆立ちしても追いつけない点であり、大いなるアドバンテージだといっていいのではないだろうか。 これまで決められたことしかできない、拡張性がない、などの点でHDDレコーダなどに不満を感じていたユーザーであれば、そのほとんどを本製品が解消してくれる、そういってもいいと思う。しかも、価格も決して高くなく、ソニースタイルの直販では、もっとも安価なモデルで11万円弱に設定されているなど、価格もいきなりバーゲン価格だ。そうした意味でも、お仕着せのHDDレコーダには不満を感じている、そういうユーザーであれば買いだと言っていいのではないだろうか。 □ソニーのホームページ (2007年2月6日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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