アップルコンピュータは、先頃、発売したCore 2 Duo搭載「MacBook Pro」において、新たなメッセージを発信しようとしている。 それは、「MacBook Proをはじめとするノート型Macは、軽くて、薄くて、長くて、安い」というものである。 「軽い」、「薄い」はそのものズバリ、重量が軽く、液晶を閉じたときの高さが薄いことを指す。「長い」はバッテリ連続駆動時間が長いこと。そして、「安い」は当然、価格が安いという意味だ。 しかも、それがアップルの従来製品と比較してのメッセージではなく、Windows PCと比較した上でのメッセージというから驚きだ。 PowerBookやiBookの時代から、ノート型Macは「重く」、「厚い」というのが定説だった。そして、バッテリ連続駆動時間も「短く」、価格も「高い」というのが一般的な常識だった。それは、いまでも、多くの人に定着しているイメージだろう。 アップルは、それを、MacBook Proで覆そうというわけだ。
アップルコンピュータ プロダクトマーケティング 服部浩ディレクターは、次のように断言する。 「新たなMacBook Proは、Core 2 Duoを搭載したWindows PCと比較しても、軽さ、薄さ、長さ、安さで劣る部分がない」。 実際、いくつかのWindows PCと比較してみた。
今回のMacBook Proでは、15型モデルと、17型モデルの2つを用意しているが、ノートPCの売れ筋となっている15型モデルの場合、Core 2 Duo 2.16GHzを搭載したMacBook Proでは重量が2.54kg、厚さは1インチサイズとなる2.59cm。そして、5時間の連続駆動を可能としている。これに対して、一般的なCore 2 Duoを搭載したWindows PCの場合、重量は3~4.3kg、厚さは1インチ以上が標準。そして、連続駆動時間は1.7~3時間程度となっている。 価格は、MacBook Proが249,800円であるのに対し、Windows PCの場合は249,800円~259,800円程度。価格の比較ではほぼ横ばいといえるが、「3GBのメモリを搭載し、1クラス上の周波数のCPUを搭載するなど、最強のモバイルスタジオとして、デスクトップの環境をそのまま実現する性能を考えれば、価格面でも優位性がある」(服部ディレクター)と語る。 同様に17型モデルで比較しても、Core 2 Duo 2.33GHzを搭載したMacBook Proでは3.08kg、5.5時間の連続駆動を可能とし、価格は349,800円。これに対して、Windows PCの17型液晶モデルの場合は、重量が4.7~4.9kg、連続駆動時間は2~2.6時間。価格は、299,800円~399,800円。 ここでも、MacBook Proが、「軽い」、「薄い」、「長い」、「安い」という点で、優位であることを訴える。 「これまで、我々のメッセージが届いていなかった反省はある。今後は、軽い、薄い、長い、安いという点で、MacBook Proが優位であることをアピールしていく」という。 加えて、アップルコンピュータでは、「速い」というメッセージも伝えようとしている。 もちろん、Windows PCとの比較という点での速さもあるが、ここでは、むしろ、既存のMacとの比較を打ち出している。 ちょうど、2005年の今頃に最上位ノートPCとして販売されていたのはPowerBook G4。これと比較すると、整数演算能力を測る「SPECint rate base 2000」では、実に7.3倍もの性能向上が図られている。実際のアプリケーションの利用でも、何倍もの性能向上が実現していることを体感できる。1年前の最上位機種と比べて、これだけの性能向上が図られているのは、まさに異例と言えるだろう。Intel Macだからこそ実現されたものと言える。 そして、もう1つ、同社が打ち出そうとしているメッセージが「きれい」である。 アップルの最大の特徴である優れたデザイン性は、残念ながらWindows PCには追いつけない部分でもある。
「デザインや細部の作りにこだわる日本人こそ、アップルのデザイン性を感じてくれるはず」と服部ディレクターは語る。 だが、アップルが打ち出そうとしているメッセージが、市場にそのまま伝わるとはいえない部分もある。 「軽い」、「薄い」、「長い」というメッセージは、モバイルPCの領域において、最も伝わるメッセージだ。 だが、MacBook Proの15型、17型液晶の仕様では、日本人が考えるモバイルPCの領域には入らない。アップルでは、MacBook Proを「モバイルスタジオ」と表現し、モバイルの観点でも訴求を図ろうとするが、米国ならまだしも、やはり、日本のユーザーには、直接的に受け入れられるとは言い難い。 もちろん、古くからのMacユーザーならば、アップルが言わんとしている「モバイルスタジオ」の意味は伝わってくるだろうが、12型液晶などを搭載したモバイルPCに慣れ親しんでいるWindowsユーザーには、ピンとこない。 極論すれば、いまや満員電車の中でも持ち運びができるものがモバイルPCと定義されつつある中では、MacBook Proをモバイルと位置付けることはできないだろう。 これに対して、服部ディレクターは、「販売店で最も売れているノートPCが15型液晶搭載モデル。その中で、最も軽く、最もバッテリ駆動時間が長いのがMacBook Pro。15型モデルの中でも、少しでもモバイル性を求めたいというユーザーには、Windows PCよりも、MacBook Proが最適という提案になる」と語る。 単にモバイルを追求したのがMacBook Proというように、短絡的に、「薄い」、「軽い」のメッセージを捉えてはいけないのは明らかだ。 では、MacBookの領域ではどうか。 この分野では、日本のメーカーを中心にさまざまな仕様のWindows PCが投入されており、現時点では、MacBookが「軽い」、「薄い」、「長い」、「安い」で優位性を発揮できるとは言い切れない部分もある。 これも、アップルのメッセージが伝わりにくい要因の1つとなっている。むしろ、モバイルでの利用比率が高いと想定されるMacBookにおいて、軽い、薄い、長い、安いが実現されなければ、Macの印象は変わらないだろう。
順当に考えれば、近い将来には、MacBookにもCore 2 Duoが搭載されることになるはずだ。 その段階で、軽い、薄い、長い、安いがどこまで実現されるかによって、このメッセージの伝わり方が違ってくるだろう。 米Appleは、先頃発表した7~9月の最新四半期決算で、過去最高となる台数のMacを出荷した。 同四半期の出荷台数は160万台で、前年同期に比べて約30%も増加。かつて、初代iMacが一大ブームを起こした時の出荷台数が、四半期では130万台強だったことに比べても、それを大きく上回る実績であることがわかる。 この数字からも、静かではあるが、着実に出荷台数を伸ばしていることがわかる。 しかも、160万台のうち、ノート型が占める割合は約6割に達しており、業界平均に比べても、アップルは、ノート製品の比重が高いメーカーであることがわかる。いわば、四半期で160万台という実績は、ノート型Macが牽引したと言ってもいいだろう。 だが、国内におけるMacのシェアは、BCNの調べによると9月の実績で4.1%。2006年に入ってからは3%から4%台を推移しており、それほど大きく伸張しているわけではない。 しかし、この統計の中には、同社直営のアップルストアや、ネットによる直販が含まれておらず、これらでの購入が増加しているとの見方が出ていることを踏まえれば、市場全体では、4%以上のシェアを獲得している可能性は十分ある。 また、ノートPCに限定した市場シェアは、9月期で3.2%と、デスクトップの6.0%のシェアと比較するとシェアが低く、全世界でノートが売れているという状況とは相反する傾向も見られる。これも裏を返せば、日本ではノート型Macの市場拡大余地があるとも言えよう。 アップルは新たなメッセージで、どんな成長を遂げることになるのだろうか。 今までのアップルには似つかわしくない、“軽い、薄い、長い、安い”というメッセージが、Windowsユーザーに対して、どう定着するかにかかっていると言えそうだ。 □アップルのホームページ (2006年10月30日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
|
|