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ついにm4a対応で本気か、あゆのSDオーディオ




 デジタルオーディオプレーヤーは、購入した楽曲を再生するための機器だ。だが、楽曲を再生するためには転送という作業が必要になる。もちろん、カセットテープやMDが主たるメディアであった時代もダビングという作業が必要だったのだが、カセット化、MD化したお気に入りのライブラリが、他社製の機器で再生できないということは、まず、ありえなかった。なのに今は、いろんな不便を強いられている。

●コンテナ違いのAAC

 松下からポータブルオーディオプレーヤー「D-snap」シリーズの新製品が登場した。今回の最上位機「SD800N」は、ノイズキャンセリング機能付きのヘッドフォンが付属し、電車の中など、騒音の多い場所で聴く際にも、無駄にボリュームを上げることなく音楽を楽しめる。インナーイヤー型だが、左右のユニットに小さなマイクがついていて、そこで拾った騒音を分析、逆位相の波形にして送りこむことで、波形の打ち消しが起こり、騒音が消えるという仕組みだ。

 ケーブルの途中には、切り替えスイッチがついていて、ノイズキャンセル、オフ、モニターという3つのモードを切り替えられる。モニターは、集音した音を、そのまま再生するもので、車内アナウンスなどがあったときに使うと、イヤフォンをいちいち外すことなく、周辺音を明瞭に聞くことができる。

 ノイズキャンセルには、電源が必要だが、これは、本体から供給される。そのため、このヘッドフォンのプラグは独自仕様だ。本体下部に装備されたコネクタ部分は、同社の据え置き型SDステレオシステムD-dockと本体をドッキングさせるためのコネクタでもある。こうしてシステムにしてしまったということは、iPodのドックのように、将来にわたって仕様形状などが維持されることになるのだろうか。ちなみに、通常のヘッドフォン端子も用意されているので、好みに応じた市販のヘッドフォンを使うこともできる。

 今回の新製品の最も重要な変革は、D-snapが、ついに、MPEG-4 AACに対応したことだ。言うまでもなく、これは、iPodが既定で使っているフォーマットで、拡張子は.m4aだ。特に何も指定せずに、iTunesでCDをリッピングすると、この形式になる。D-snapも、AACが既定だが、MPEG-2 AACなので、コンテナが異なる。そのため、従来は、相互の互換性をとることはできなかった。

 この対応のために新しくなった添付のライブラリ管理ソフト「SD-Jukubox Ver. 6.0 Light Edition」は、.m4aファイルのインポートが可能になった。さらに、SDメモリーカードへの書き込み時に、MPEG-4 AACをMPEG-2 AACに変換するための機能も用意されている。ただ、手元にあった古いD-snapや、SDオーディオ機能つきの携帯電話、ドコモのP902iなどでは、明示的に変換させなくても、変換せずに転送したSDメモリーカード内の楽曲を問題なく再生することができた。つまり、ハードウェア的には、以前からちゃんと対応していたということになる。ソフトウェアが対応できていなかった、というよりも、ソフトウェアをあえて対応させないことで囲い込みをしようとしていたということだ。ソニーのウォークマンがAAC対応したのは記憶に新しいが、あちらは、ソフト、ハードともに対応させたことを思うと、D-snapの場合は、技術的な問題ではなく、きわめて戦略的な制限だったということがわかる。

●大量の曲を管理するのが難しいSD-Jukebox

 いずれにしても、手元にあるiPodのためにリッピングした大量の楽曲が、SDオーディオでも楽しめるようになるのはうれしい。その逆はできないが、シェアを考えたら、松下にとっては、今回のm4a対応は、既存iPodユーザーを取り込むための強力な武器になるはずだ。本気でやるなら、もっと大きくアピールしたっていいはずだ。

 そこで、96Kbpsのビットレートでリッピングした約2万曲/約60GBの楽曲を、SD-Jukeboxにインポートしてみた。

 インポートは、ファイルをコピーすることなく登録だけの作業になるが、2時間以上かかり、登録が完了しても、並び替えなどをしようものなら、かなりの時間待たされる。どうも、このソフトでは、これだけの量は無理のようだ。D-dockでは、160GB HDD搭載モデルなどがラインアップされているが、本当に、それだけの曲をきちんと管理できるのだろうか、ちょっと心配になる。

 気を取り直し、SD-Junkboxに登録した楽曲をいったん削除、SDオーディオとして転送したい楽曲だけをiTunesからインポートすることにした。

 特定の曲だけのインポートは簡単だ。iTunesが楽曲ファイルを保存しているフォルダから、フォルダごと、または、ファイルごとSD-Jukeboxにドロップすればいい。ただし、この方法では、サブフォルダ内の曲はインポートされないが、専用のファイルインポート機能を実行すればサブフォルダ内を検索させることもできる

 iTunesであらかじめ曲を見つけておき、そこから直接ドラッグ&ドロップすることもできる。プレイリストやブラウズペインからのドラッグはできないが、リスト中で選択した曲はそのままドラッグすればインポートされる。スマートプレイリストの機能などをうまく使って曲を選べるので、通常は、こちらの方法がよさそうだ。

 SDメモリーカードへの曲転送時には、アーティストプレイリストとアルバムプレイリストを自動作成できるのだが、このときに、何らかの制限にひっかかるようで、全部のプレイリストが作成できなかった旨のエラーメッセージが表示される。これは、一度に転送できる曲数を50曲未満に抑えるか、プレイリストを作らないようにすることで回避できるようだ。

 転送時に行なわれるのは、コンテナへの積み替えだけなので、再エンコードの必要もなく、けっこう高速だ。かくして、iTunesで管理しているライブラリから、任意の曲を、SDメモリーカードに転送し、気軽に持ち出せるようになった。miniSDカードに転送しておけば、携帯電話でもD-snapでも、カードを差し替えるだけで音楽を楽しめる。これで、電車での移動など、カバンを持っているようなときには大柄なiPod、ウォーキングのときには携帯電話や小さなD-snapと、気分やシチュエーションに応じて、デバイスを使い分けられる。

 もちろん、iPodとiPod nanoとshuffleを購入すれば、こんな面倒なことをしなくてもよいのだが、全部iPodというのもどうだろう。機器の選択肢はやっぱり多い方がいいと思う。そのときどきで、いろいろな機器で自分の購入した音楽を楽しみたいというのは、自然な欲求だと思う。

 ソフトとハードは一体化したものであるという理屈はわからないでもないが、使う側からすれば、好きな音楽を管理するときのソフトくらいは、好きなものを選びたいし、デバイスだって使い分けたい。

 SD-Jukeboxのm4a対応によって、ファイル形式というくだらない理由による制限はなくなった。これは嬉しいが、オンラインで購入した著作権保護された楽曲については、まだ制限がある。ここのところが自由化されるのは、いつの日になるのだろうか。同じ楽曲なのに、買った店によって、聴けるデバイスが制限されるなんてことが、いつまでも続いていいはずがない。いったい、何のためのデジタルなのだか。

●新しくなったiPodとiTunes

 といったことをやっているうちに、新しいiPodが発表され、iTunesのバージョンも上がった。iTunes 7の魅力は、なんといってもCoverFlowだ。すごい。まるで、棚でジャケットをパラパラとめくるような感覚で聴きたいアルバムを選ぶことができる。怒られそうだが、いってしまうと、まるで、VistaのFlip3Dのようだ。

 この操作は、マウスで隣接するジャケットをクリックしてもいいが、マウスホイールを回転させる操作でもパラパラとジャケットがめくれていく。この操作をロジクールの新マウス「VX Revolution」でやってみると楽しい。このマウスには、ホイールを回したときにゆっくり回せばクリック感があり、グンと高速に回せば、クリック感のないモードに自動的に切り替わり、高速スクロールに移行して惰性でホイールが回り続ける機能があるが、まるで、CoverFlowを操作するために用意されたのかと思うくらいに動きがマッチして心地よい。

 ぼくは、アルバムジャケットをアートワークとして表示できるというだけで、過去にiPod Photoに飛びついたミーハーだが、せっせとアートワークを登録しておいてよかったと思う。しかも、アップルは、この機能の搭載とともに、iTunes Storeで入手可能なアルバムに関しては、過去にCDからリッピングしたものであっても、アートワークを自動的に入手できるようにしてくれたようだ。この配慮は嬉しい。Windows Media Player 11は、CDからのリッピング時に可能な限り、アルバム情報としてジャケットやトラック情報をダウンロードするが、その対抗という意味もあるのだろう。

 こうした互いの緊張感がソフトウェアを育てる。実に健全ではないか。SD-Jukeboxも、SDオーディオユーザーの必需品なのだから、UIや管理機能の点で、もう少しがんばってもいいのではないかと思う。優れたお手本がちゃんとあるのだ。実際に、毎日、使ってみれば、どこが不便で何が足りないのかは、すぐに理解できるはずだ。これで十分だと思っているのなら、ソフトウェアを作る側、企画する側が使っていないといわれても仕方がないと思う。

□関連記事
【8月23日】松下、D-snap AudioとD-dockの新モデル発表(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060823/pana1.htm
【8月23日】松下、ノイズキャンセル標準搭載の「D-snap Audio」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060823/pana2.htm

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(2006年9月15日)

[Reported by 山田祥平]


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