●ブログ上でWinFSの開発中止を表明
6月23日(現地時間)、MicrosoftはWinFSの開発中止を表明した。 形式こそWinFSチームのブログによるWinFS情報のアップデートであるものの、その内容はWinFSを単体のコンポーネントとして提供する計画はなくなった、というものだ。WinFSの開発工程において得られた技術は、将来提供されるSQL ServerやADO.NETに応用されるものの、「WinFS」という1つのソフトウェアパッケージとしてリリースされることはもはやない。 もともとWinFSは、次世代Windows(今のWindows Vista)に採用される将来のファイルシステムとして考えられたものだ。当初のWinFSの構想ではWindows自身を含むすべてのデータが、SQLベースのデータベースに置かれるという野心的なプロジェクトだった。その後、WinFSはNTFS上にインプリメントされることになり、同時にWindows XPにもバックポートされることになる。 またWinFSがNTFS上に構築されるようになったということは、OSとWinFSが分離可能になったということでもある。これを受けて、Windows Vistaの最初のリリースにはWinFSが搭載されず、後のアップデート(Service Packなど)で追加される構想へと後退した。そして今回の表明である。発表当時は、次世代Windowsに採用される新技術3本柱の1つと言われたWinFSは、消え去ることになってしまった。 ●WinFSがもたらすはずだったもの WinFSというと、SQL Serverベースの検索機能を持ったファイルシステムだと誤解されがちだ。そして、検索機能ならGoogleやMSNのデスクトップサーチがすでにあるではないかとも言われる。だが、実際にはWinFSは検索機能そのもの、GoogleやMSNのサーチ機能が意味するようなものではない。WinFSはこうしたサーチ機能の基盤にもなれる、Windowsに統合された検索機能を持つストレージプラットフォームになるハズのものだった。 たとえば、現在のGoogleデスクトップサーチでも、HDD内のさまざまなデータの検索が可能だ。しかし、その検索エンジンが利用するインデックスは、Googleデスクトップサーチでしか利用できない。言い換えれば、OutlookはOutlookで、GoogleデスクトップはGoogleデスクトップで、といった具合に、現在はそれぞれのアプリケーションが個別にデータベースを構築し、利用している。電子メールを検索可能にするのに、同じ電子メールをOutlookとGoogleデスクトップサーチの両方が、それぞれデータベース化するという無駄がある。 またOutlookで特定のメールアドレスの修正を行なったり、イベントの関連付けを変更しても、それは他のアプリケーションには伝わらない。WinFSが登場し、アプリケーションがWinFSを利用することで、すべてのアプリケーションが統一的にアクセスできるデータベースがシステム上に構築されると期待されていた。WinFSにより、単にファイルやフォルダにメタデータを付与して検索可能にするだけでなく(メタデータの持ち方、アクセスの仕方が統一される、というだけでも意義は大きいのだが)、ファイルという形をとらないさまざまなデータ(上のメールアドレスも1件が1つの「ファイル」ではない)の管理も可能にし、それぞれのデータ間の関係(リレーション)を定義し、さらにデータ間の同期やトランザクションを定義することが可能になるハズだった。WinFSで培われた技術は、SQL Server等に応用されるというが、システム全体のインフラになるかならないか、という点において、WinFSとして実用化されるか、SQL Serverに応用されるかでは大きな違いがあるのではないかと思う。 Windows Vistaの初期のプレビュー版では、「仮想フォルダ」と呼ばれる機能が大きくフィーチャーされていた。この時点における仮想フォルダは、メタデータにより分類されたオブジェクトをひとくくりに扱うための仮想的なフォルダ、といったものであり、分かりにくい一方で、使いこなせば何かとても便利なことができそうなものだった。
しかし、最近広域βが始まったβ2に、もはや仮想フォルダと呼ばれるものはない。代わりに用意されたのが検索フォルダと呼ばれるもので、検索結果をひとまとめにしたものである。確かにこれはこれで便利だし、仮想フォルダより分かりやすいのかもしれないが、仮想フォルダのサブセット、という感は否めない。WinFSの後退と仮想フォルダの変遷はリンクしているように思えてならない。 今回の発表でもう1つ気になるのが、表明のタイミングだ。実は発表の前の週、6月11日から16日までMicrosoftはBostonでTechEdを開催した。ここでWinFSを用いたアプリケーションの作成法といったセッションをMicrosoftは実施している。その理由について冒頭で述べたBlogでは、TechEdの時点ではWinFSのキャンセルが決定していなかったからだと述べている。しかし、これだけ大きな決定であれば、イベントの前に決断を下すようにすべきだろう。ソフトウェア開発戦略の基本的な部分にかかわる技術を、情報を開示した翌週にキャンセルされるのでは、セッション参加者はたまったものではない。 このようなタイミングでキャンセルの決断を下さざるを得なかったことについて、Microsoftに悪意はなかったのだと思いたい。が、結果としてこうなってしまったのは、やはり組織が大きくなりすぎてしまったことの弊害ではないのか。いずれにしてもWinFSがキャンセルされてしまったのは、残念なことである。
□WinFSチームの6月23日のブログ(英文) (2006年6月28日) [Reported by 元麻布春男]
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