第329回
Intelが示したモバイルPCの新コンセプト



 Intelは開発者向け会議のIntel Deveopers Forum Spring 2006で、来年のSanta Rosaプラットフォームを基礎に練り上げた新しいモバイル機のコンセプトモデル「Montevallo」を紹介した。Montevalloはアラバマ州にある5,000人ほどの小さな町の名前に由来している。

 コンセプトPCは、かつてPCの小型化やデザイン、ユーザーインターフェイスなどの改善を目指してデスクトップPCで始めたもの。その後、初代Pentium MのBaniasが登場した際に、将来のモバイルコンピューティングへの提案という形で、Intelモバイルコンセプトプログラムというプロジェクトが始まった。

●Intelが示すモバイル機のビジョン

2003年から公開されてきたコンセプトモデル
 Intelモバイルプラットフォームのマイク・トレーナー氏は、Intelモバイルコンセプトプログラムの意義は3つあると話した。

 1つはIntelのビジョン、すなわち、新しい使い方や市場への提案を具体的な形として実装し、世に問い掛けるという意義。また新しいフォームファクタを生み出し、革新的な製品を生み出すきっかけとなる意義。最後にビジョンを実現するための技術開発を行なうという意義だ。

 2003年に発表されたNewportでは、Tablet PCとノートPCのデュアルパーパスモデルに加え、サブディスプレイを追加して情報表示用に利用するというアイデアが示された。2004年のFlorenceはデスクトップとノートPCの結合、2005年のZephyrosではマルチメディアPCの新しい姿を追うといった具合だ。

 そして今年、2006年のモバイルコンセプトはさまざまな形に変形し、適応的に機能できる筐体デザインや、人間工学に基づく利用モデルを考えたものだという。そして、新しい考え方の製品の中に、最新のコンピュータプラットフォームとWiMAXやRAID、DVB(デジタル放送チューナ)などを内蔵させる。

 Montevalloには2つのコンセプトモデルがあり、1つは12型、もう1つは14型で、それぞれのサイズごとにモバイルPCの使われ方を研究して仕様を決めているという。

 もっとも、それほど難しく考える必要はなく、Intelが「こんなノートPCなら面白くない?」と話しかけているようなもの、と考えればいいだろう。過去を振り返ると、実はさほど新しいアイデアに溢れているわけではなく、実はアイデアとしては別の日本製PCに実装されているといったものも少なくない。逆に全くどこもアイデアを拝借することなく消えていったコンセプトも数多い。

 しかし、Intelとしては「こんなのどう?」と問い掛けて、どこかで「こっちの方が良くないかな?」と反応し、少しずつでも新しい要素を持つ製品が増え、互いに刺激し合いながらプラットフォームを進化させていきたいという狙いがあるようだ。

Montevalloには12型と14型の2機種がある 12型モデルの概要 14型モデルの概要

●利用環境への適応がテーマ

 さて、筆者が感じたMontevalloのテーマは「利用環境への適応」だ。これは12型と14型、双方のモデルに共通する概念である。正直に言えば、コンセプトモデルそのものは、今一つピンと来ないところもあったのだが、そのテーマに関してはなかなか興味深い面がある。

 たとえば12型のMontevallo。これは飛行機での移動が多いアメリカらしいコンセプトモデルで、エコノミークラスでもPCを使いたいユーザー向けに開発されたものだ。

12型モデル。狭い空間で使えるようにディスプレイの自由度が高い 12型モデル。膝の上に載せた状態

 エコノミーのシートでは、前の人がシートを起こしていれば、12型のノートPCをなんとか使えるが、大柄な人はディスプレイをのぞき込むのが難しい。そこでディスプレイの高さを調整して見やすくできる。

 さらに、前の人がシートを倒すと液晶画面が下向きになり使えなくなる。そこで今度はディスプレイを前の方に移動させ、キーボードとディスプレイの間に手を差し込み、キータイプするスタイルに変形する。自分のシートも倒せば狭いエコノミーでも、比較的楽にキータイプが可能となる。最後にもっと手前にディスプレイを引いてしまえば、HDD内にダウンロードしておいた動画をすぐ目の前にまで近付けたディスプレイで楽しめるといった具合だ。

 米国ではビジネスでの移動に飛行機が使われることが多いため、効率良く仕事を終わらせるには飛行機の中で、少しでも仕事を済ませておきたいという人が少なくない。日本ならば新幹線の中でのPCの利用といったテーマになるだろうが、いずれにしろモバイル機をビジネスツールとして使う人が増えれば、狭い移動体のシートでノートPCを使わざるを得ない事も多く、ならばそうした利用環境に適合した製品にしようというわけだ。

 一方、14型モデルはさすがにエコノミーシートでは利用できない(極端に使いにくい)が、ドッキングステーションに取り付けてデスクトップPCとして利用しつつ、取り外してTablet PC、ディスプレイをスライドさせてノートPCと、やはり使う場所次第で変形しながら動作するよう設計された。

14型モデル。ドッキングステーションに合体してデスクトップPCとして使う 14型モデル。キーボードを備えたTablet PCとして使える

●実現性はともかくとして

 これらのコンセプトモデル。実際の製品計画があるとすれば、突っ込みどころはたくさんある。12型モデルは強度や耐久性などの問題が心配され、RAIDシステムを組むとHDDの電力消費が問題になりそうだ(トレーナー氏によると、2.5インチHDDが2基入っているという)。

 さらに強度問題をクリアしながら変形可能な筐体を設計すると、おそらく重量の増加はかなりのものになるだろう。日本での使われ方を考えると、エコノミークラス向けモバイルPCという発想も、少々、縁遠いと思う人が多いと思う。

 その実現性はともかくとして、テーマとしての“利用環境への適応性”は、今後、モバイルPCがより良いツールとなっていく上でのヒントにはなるだろう。新幹線の席でもいいし、通勤電車内で隣の人に迷惑をかけにくいPCでもいい。あるいは家庭内でのみ移動させながら使う人向けの小型ノートPCというコンセプトがあってもいい(すでにNECが商品化しているが)。Montevalloは新規性は感じさせないものの、今後、思わぬところで新しいPCを生むきっかけになるかもしれない。

 最後に、コンセプトモデルを紹介しおわり、部屋を出ていったトレーナー氏を捕まえて、モバイルPCにおけるVirtuaization Technologyの使われ方について訊いてみた。企業向けには多くのシナリオのあるVTだが、果たしてモバイルPCにおけるVTとは、という質問だ。

 同氏は「コンセプト開発を行なう立場として、さまざまな用途を思いついている。1つはAV機能を持つパーティションを用意しておき、Windowsとは独立したAV機能を使うための環境を動作させるといったアイデア。自宅と職場で別のOS環境を切り替えるといったアイデアなどさまざまだ。もうしばらくすれば、さまざまな提案ができるだろう」と話した。

 VTに関してはすでにWMwareなどが試験的にサポートを開始しているが、まだ大々的にその長所をエンドユーザー向けにアピールする段階には至っていない。しかし、高速で動作する仮想マシン技術が当たり前になってくれば、思わぬアプリケーションを生み出すことになるかもしれない。VTに関しては追ってその後を追いかけていくことにしよう。

 なお余談だが、VMwareによれば「Intelプロセッサ対応VMwareも準備中。もうすぐ登場といったところだが、まだ発表の時期には至っていない」との事だ。

□IDF Spring 2006のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spring2006/
□IDF Spring 2006レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/link/idfs.htm
□関連記事
【3月11日】【IDF】【展示会場レポート】
次世代モバイルプラットフォームのコンセプトモデルを展示
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0311/idf08.htm

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(2006年3月11日)

[Text by 本田雅一]


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