元麻布春男の週刊PCホットライン

2.5インチ以下が優劣を決めるHDD業界




●小型HDDへの取り組みが分けた明暗

 2005年末から2006年にかけて、ストレージ業界で大きな動きがあった。1つは2005年12月21日に発表されたSeagate TechnologyによるMaxtorの買収、もう1つは富士通によるHDD事業の強化方針の表明である。

 一見するとこの2つのニュースには何の関連性もないように見えるのだが、筆者にはあることが関連しているように思えてならない。それは、成長分野に対する取り組みの問題だ。

 現在、世界のPC市場で最も顕著な伸びを示しているのはノートPCの分野である。わが国のみならず、米国でも市場全体に占めるノートPCの割合が50%を超えたようだが、今、最も急速にノートPCの売り上げが増大しているのは中国らしい。昨年から、Intel製チップセットが不足し、Intel自身が純正のマザーボードにATI製のチップセットを採用せざるを得なくなっているほどだが、その原因も中国向けのノートPC用チップセットの出荷が予想を上回るペースで進んだためだという。

 ノートPCの出荷が伸びれば、当然、2.5インチや1.8インチといった小型HDDの需要が高まる。実際、2.5インチや1.8インチのHDDは市場で不足しており、価格も下がっていない。また、現行製品の引き合いが強いこともあって、大容量化を急ぐ雰囲気があまり感じられない。

垂直磁気記録を採用したSeagateの2.5インチ160GB HDD

 もちろん大容量化が進まない理由としては、歩留まりの向上が進まないことや、記録技術の切り替え期(垂直磁気記録への切り替え)にあるといった技術的な側面が大きいハズだ。しかし、今、売れて売れてしょうがない現行製品があるのに、どうして次期製品の製品化を急いで、現行製品の値崩れを招く必要があるだろう。それくらい、2.5インチや1.8インチHDDの市場は逼迫しており、この市場で上手くいっているところと、そうでないところで、業績にも明暗がクッキリと出ている。実は、HDD業界にあってMaxtorは、ほとんど唯一、今も2.5インチや1.8インチといった、小型のHDDを手がけていないメーカーなのである。

 HDD事業の強化を宣言した富士通の場合、現時点のラインナップはサーバー向けの3.5インチと、ノートPC向けの2.5インチで構成されている(デスクトップPC向けの3.5インチは、かなり前に撤退した)。事業強化のポイントは、2.5インチHDDの強化と、1.8インチHDDへの新規参入の2点だ。

 2.5インチHDD事業の強化ポイントは、次の5点である。

 ・年内に200GB級の製品をリリースする
 ・ハイエンドPC向けにスピンドル回転数が7,200rpmの製品をリリースする
 ・垂直磁気記録方式を採用したドライブを年内にリリースする
 ・温度特性の高い車載向けなどPC用途以外の製品化を計画
 ・サーバー向けHDDの2.5インチ化を推進

 こうした強化方針の背景は、2005年1月31日に発表された富士通の「2005年度第3四半期及び9カ月類型連結決算概要」の補足資料を見れば明らかだ。それによると、PC/携帯電話とHDDを主な事業とするユビキタスプロダクトソリューション事業部の黒字化の原動力となっているのはHDDなのである。

 同様のことは、2.5インチHDDを主力とする東芝の決算にも見て取れる。東芝が1月31日に発表した2005年度第3四半期決算(連結)ではHDD事業単独の業績は明記されていないものの、業績概要および業績見通しでは、デジタルプロダクツ部門のトップで「HDD(磁気ディスク)装置を中心とするストレージ(記憶装置)が好調」と書かれているほどで、電子デバイス部門のNAND型フラッシュメモリと並んで好業績の要因であることは間違いない。東芝と富士通の共通点は、デスクトップPC向けの3.5インチHDDを手がけていないことだ。

 デスクトップPC向けの3.5インチHDDも手がける専業メーカーでは、Seagate Technologyが2006年1月18日に2006年第2四半期(2005年10月〜12月)決算を発表している。同社はこの四半期に23億ドルの売り上げと2億8,700万ドルの利益という記録を打ちたて、通年での業績予測を上方修正した。その最大の要因は、対前年比で136%、前期比でも20%という顕著な伸びを見せたモバイル部門にある。

 またWestern Digitalも、2006年1月26日に発表した2006年第2四半期(2005年10月〜12月)決算において、1,810万台のドライブ出荷により11億ドルの売り上げと、1億430万ドルの利益を得たことを明らかにしている。中でも最も高い成長を見せたのはモバイル向けの2.5インチHDD「Scorpio」で、前期の100万台に対し140万台を出荷しており、台数ベースで40%の成長を達成した。

【図1】日立製作所2005年9月中間期連結決算発表会資料より

 その一方で、同じくモバイルからエンタープライズ向けまで幅広く手がけるHDD専業メーカーの日立グローバルストレージテクノロジーズを抱える日立製作所は、2005年10月31日に発表した2005年9月中間期連結決算においてHDD事業が2005年度通期において360億円の赤字となる見通しになったことを明らかにした。これは、半年前の見通し(300億円の赤字)よりさらに悪化しており、その要因として競争激化による価格下落と、歩留まり改善が遅れていることを挙げている(図1)。

 しかし2006年2月3日に発表されたばかりの2005年度第3四半期連結業績では、2005年度通期でのHDD事業における赤字見通しが270億円に圧縮される見通しとなり、2005年度第4四半期(2006年1月〜3月)では黒字化する見込みとなっている。内訳では1.8/2.5インチの小型HDD、3.5インチHDDともに出荷台数が増えており、歩留まりが改善しつつあることがうかがえる。

 そしてSeagateに買収されることで合意したMaxtorになると、2006年1月31日に発表した2005年第4四半期(2005年10月〜12月)決算が、当期売上高が9億6,900万ドルで1,570万ドルの純損失であることを明らかにした。通年(2005会計年度)では売上高が38億9,000万ドルで、4,330万ドルの純損失となっており、ドライブ出荷台数も5,300万台で、前年度の5,360万台から減少している。冒頭でも述べたように、Maxtorの主力は3.5インチHDDで、2.5インチや1.8インチといった小型HDDは手がけていない。

 今回の決算で注目されたのは、損失に1インチHDDプログラムの中止に伴う290万ドルの費用が含まれていることで、Maxtorも小型HDDをやろうとはしたようだ。ただ、1インチHDD最大の顧客であったハズのAppleがiPod miniを止め、NAND型フラッシュメモリを採用したiPod nanoに切り替えたので、市場の見通しがつかない、ということだろう。上述した日立の決算においても、1インチHDDを含む「エマージング」分野は、前年の225万台が88万台へ激減しており、iPod nanoショックをもろにかぶった格好だ。

●デスクトップは2.5インチ、ノートPCは1.8インチが主流に

 以上のような動きからみて、今後IT分野(PCおよびサーバー)で使われるHDDの主流が2.5インチになることはまず間違いないだろう。富士通が掲げる7,200rpmの製品、サーバー向け2.5インチHDDの強化は、その証である。7,200rpmの2.5インチHDDが狙うのは、バッテリ駆動のノートPCより省スペース、低雑音のデスクトップPCに違いない。IntelもYonah(Intel Core Duo)について、デスクトップPC向けに販売する方針を明らかにしている(デスクトップPC向けの945GTチップセットをアナウンス済み)。

 もちろん現状の容量では、まだすべてのデスクトップPCを2.5インチに置き換えることは難しい。が、富士通のいう200GB HDDや250GBクラスの製品が出現すれば、容量的な問題はなくなる。また、それより大きな容量が必要な場合は、2.5インチHDDを複数搭載する方が、大容量の3.5インチHDDを搭載するよりも、体積、消費電力、信頼性(RAID)の点で優位になり、PCベンダとしても付加価値が付けやすくなるという点で好まれるのではないだろうか。プロセッサがマルチコアなら、HDDはマルチドライブ、というわけだ。

 サーバーにおいてもすでに、HP、IBM、Dell、Sun Microsystemsなど大手ベンダーは、2.5インチHDDを採用した製品をリリースしている。これまでは、インターフェイス(コネクタサイズ)の問題から2.5インチHDDの採用は限定的(ブレードサーバー等)だったが、SAS(Serial Attached SCSI)の本格的な普及により、コネクタの問題は解消された。

 元々、3.5インチの外形でも、内部には高速化に有利な3インチや2.5インチといった小径のプラッタを採用していたHDDが多かっただけに、SASの普及を期に2.5インチHDDが主流になる可能性は高い。ブレードサーバーでも明らかなように、サーバーの世界でも高密度化が時代の要請であり、HDDは小さい方が望ましい。5V単一電源を採用する多くのモバイル向け2.5インチHDDと異なり、エンタープライズ向けHDDでは5Vに加え12Vも必要になる製品が多いが、それでも3.5インチプラッタのHDDに比べれば、消費電力は低い。これもサーバーの高密度化に貢献するだろう。

 こうしてIT分野が2.5インチに移行した後も、おそらく家電製品向け(HDDレコーダ向け)に3.5インチHDDは使われ続けるだろう。PCもローエンドは3.5インチHDDでも良い気がするのだが、かつてローエンド向けに提供された5インチHDD(QuantumのBigfoot)があまり成功しなかったことを考えると、PC向けは基本的に2.5インチということになるのではないかと思う。

 これにあわせて、ノートPCでは1.8インチHDDの採用が拡大していくだろう。現状ではまだ容量が不足しているように感じるが、大容量化、高密度化はいずれ避けられない。今、売れているからといって、いつまでも大容量化を避けていては、NAND型フラッシュに立場を脅かされてしまう。1.8インチHDDは、3.3V単一電源で駆動できるため、2.5インチ以上に省電力化も期待できる。Intelは、メインストリームノートPCのバッテリ駆動時間を8時間まで延ばしたいとしているが、HDDの小型化はそれにも貢献することだろう。デスクトップPCの2.5インチ化、ノートPCの1.8インチ化は、2007年後半あたりから目立ってくるのではないだろうか。

□米SeagateによるMaxtor買収の告知ページ
http://www.seagatemaxtor.com/
□富士通、ハードディスクドライブ事業の強化についてのプレスリリース
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2006/01/13.html
□関連記事
【2005年12月21日】Seagate、Maxtorを買収
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1221/seagate.htm

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(2006年2月3日)

[Reported by 元麻布春男]


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