|
リーディング・エッジ・デザイン、プロトタイプ展“MOVE”を開催会期:12月9日~11日 場所:スパイラルガーデン(スパイラル1F)
12月9日、工業デザイナー山中俊治氏が代表を務めるリーディング・エッジ・デザイン(L.E.D.)の個展「MOVE」が開幕した。副題は「美しいテクノロジーを予見する10のプロトタイプ達」。 山中俊治氏は、JR東日本「Suica」の改札機や、NTT DoCoMoの試作携帯電話「OnQ」等のデザインを手がけていることで知られている工業デザイナー。「W-ZERO3」等に内蔵されているウィルコムのPHS通信モジュール「W-SIM」にもコンセプトから関わっている。また、ヒューマノイドロボットの「morph 3」や「ハルキゲニア」などのデザインでも知られている。 山中氏は「先端技術がもたらす夢の断片を実体化し前もって体験できるものがプロトタイプ」だと語る。自らも「こうあって欲しい」と考えるテクノロジーを体験するために、実験試作機を作り続けているという。 今回の展覧会では、山中氏らが製作してきたプロトタイプの中から10点を選び、実際に動く状態で展示している。展示物をレポートする。 まず最初に迎えてくれるのが「Suica自動改札実験機」である。JR東日本のSuica改札機の「タッチ アンド ゴー」の読み取り精度を、デザインで向上させるための実験試作機だ。ICカード乗車券は今でこそ当たり前になったが、当初は初めて世に送り出されたものだったため、使い方が今ひとつ分からない人が多く、そのために読み取りエラーが頻発した。 そこでJR東日本では'96年に山中氏に、デザインによる解決を依頼した。山中氏はデザイン画の代わりに、実際に動作する機体を作って実験を行なうことを提案。アンテナ部分をへこませたもの、シンプルな形のもの、傾けたものなどを作って、実際に大勢の人にカードを渡して通過してもらった。ユーザーが、形から機能を自然に読み取れるデザインを探したのである。 その結果、もっとも最適と考えられた「かたち」が、約13度の傾きと、光るリングだったという。このかたちが、その後デファクトスタンダードとなっていった。会場では、当時の実験風景を収録したビデオも上映されている。
続く「OnQ & UI」はNTT DoCoMoの依頼で製作された試作ケータイ電話である。「OnQ」は放送と通信が完全に融合した時代を先取りし、次世代のサービスを模索するためのプロトタイプである。詳細は本誌での以前のレポートをご覧頂きたい。 「UIプロジェクト」は今回が初公開だ。同じくNTT DoCoMoのプロジェクトで、おさいふケータイをはじめとした、将来のケータイ機器のインターフェイスを改善・開発するための汎用操作性シミュレータである。携帯電話、リーダライタなどがPCに接続されており、これまで紙の上で考えられていたインターフェイスを、実証的に動作をシミュレートしながら改善していくことができる。実際にNTTドコモで携帯電話開発のためのプラットフォームとして使われている。
「WIND(Wireless Intelligent Networked Device)」はウェアラブルのロボットコントローラー。無線、センサー、バッテリを共通の形にモジュール化して、相互接続して用いる。アプリケーションに応じてシステムを組み替えることも可能だ。この展示は、人間が装着できるように組み上げたもの。装着者の動作を解析して、コマンドを送る。愛知万博のプロトタイプロボット展では「morph3」をコントロールするデモが行なわれた。 「Floating Compass」は紙の可能性を探った作品の1つで、「TAKEO PAPER SHOW 2004」向けに製作された。磁化させた針を支える紙のアメンボだ。紙は便せん紙(ギルテック)に撥水性のフッ素系樹脂を塗布して、水に浮かんでいる。展示では、下に回転する磁石を仕込むことで、常にアメンボのように動くようにしている。
「Tagtype Garage Kit(タグタイプ ガレージキット)」は、'99年、当時は東大の学生だった田川欣哉氏(現在はL.E.D.)が開発した両手用入力機器の「ガレージキット」版。ただし、発売などは未定。 10個のキーがあり、親指だけを使って入力するデバイスだ。もともとはバリアフリーのツールとして開発された。先日まではtagtype式の入力方式を実現したVAIO type U専用のソフトウェアも配布されていた。 今後の商品化などは未定だが、ソフトウェアとしてtagtypeを使用できるソフトウェアをフリーで配布し、自作してみたいと考える人をつのる。
「Afterglow」はレーザーポインタで絵が描けるツールである。ソフトウェアをインストールし、USBカメラ1つあれば、プロジェクタなどで映し出された画面の上に絵が描ける。また、絵だけではなく、普通にウインドウ操作を実行することも可能だ。たとえ正面にカメラがなくても認識し、動作させることができる。 実際に描いてみると、まるで空気ペンのような不思議な感覚である。もともとはプレゼンツールなのだが、レーザーポインタの光が認識できれば何でもいい。たとえば街角の大画面の上にレーザーポインタで落書きする、といったこともできる。イベントやゲームなど、幅広い用途が考えられそうだ。2006年1月頃には商品化される見通しだという。
会場の奥の螺旋階段下のホールでは、愛・地球博(愛知万博)でも「中部千年共生村」パビリオンで展示された「サイクロプス - 睥睨する巨人」が2体ならんで迎えてくれる。 球体関節を重ねた背骨と1つのCCDカメラを持ち、空気圧で駆動する。目と脊椎だけを取り出して見せても独特な存在感を感じさせるロボットアート。
また、ヒューマノイドロボットの「morph3」と「ハルキゲニア」は、共同開発者である千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)が出張してきたような趣向でのオープンな展示となっている。 「morph 3」は身長約38cm、重量約2.4kgの小型ヒューマノイドロボット。現在はfuRoの所長を勤める古田貴之氏らが科学技術振興機構ERATO北野共生システムプロジェクトに所属していたときにリーディング・エッジ・デザインと共同開発した。 メインCPUはNECエレクトロニクスのVR5500(400MHz)。30個のモーターと138個のセンサーを内蔵している。主要構造材はジュラルミン、超々ジュラルミン。2003年には「科学技術とアニメーション」記念切手に採用された。 「Hallucigenia 01(ハルキゲニア・ゼロワン)」は、ロボティクスと自動車技術の融合を目指して開発された8輪の実験試作車である。実際の車と比較すると1/5のスケール。8輪の1つ1つが小さなロボットであり、協調動作することで、その場回転や、横方向移動、歩行などの動きを実現している。
「“MOVE”美しいテクノロジーを予見する10のプロトタイプ達」の会期は3日間で、12月9日は17:00~20:00、12月10日と11日は11:00~20:00まで。入場は無料。 なお2006年春には写真を中心とした展覧会“STILL”を開催する予定だという。 □リーディング・エッジ・デザインのホームページ (2005年12月10日)
[Reported by 森山和道]
【PC Watchホームページ】
|
|