レノボ・ジャパンのThinkPad Zシリーズは、久しぶりに登場したThinkPadの新モデルであり、ThinkPadで初めてワイド液晶やシルバー天板を採用するなど、これまでのThinkPadのイメージを覆す意欲的な製品だ。 ThinkPad Zシリーズは、15.4型ワイド液晶を搭載したThinkPad Z60mと、14型ワイド液晶を搭載したThinkPad Z60tに大別できる。ここでは、モビリティ(携帯性)を重視した、ThinkPad Z60tを紹介したい。 ●最上位モデルでは天板にチタン・スパッタリング素材を採用 ThinkPadシリーズといえば、堅牢で信頼性の高いノートPCとして、古くから定評のある製品だ。IBMがPC事業をレノボに売却したことで、日本IBMではなく、レノボ・ジャパンが開発を行なうことになったが、スタッフはそのまま移管しているため、ThinkPadシリーズの伝統が失われるわけではない。 今回登場したThinkPad Zシリーズは、レノボ・ジャパン体制になってから、初めての新シリーズであり(ThinkPad X41 Tabletも新製品だが、こちらはX41をベースにしている)、ストレスから内部のパーツを守る“ThinkPad Roll Cage”やチタン・スパッタリング素材の天板など、さまざまな新技術を採用した、意欲的な製品に仕上がっている。 ここでは、ThinkPad Zシリーズの中でも、14型ワイド液晶を搭載したThinkPad Z60tを取り上げるが、15.4型ワイド液晶を搭載したThinkPad Z60mも、基本的な特徴は同じである。 ThinkPad Z60tシリーズは、搭載CPUの違いやOfficeの有無、OSの違いなどによって、全部で8つのモデルが用意されているが、今回は、Pentium M 760(2GHz)を搭載した最上位モデル(2512-47J)を試用した。なお、今回試用したモデルは量産品ではなく試作品なので、量産品とは一部の仕様が異なる可能性もある。 ThinkPad Zシリーズの特徴としてまず挙げられるのが、ボディカラーとデザインである。ThinkPadシリーズは、伝統的にThinkPadブラックと呼ばれる黒いボディカラーを採用してきたが(一部の製品ではグレーなどのカラーが採用されていた)、ThinkPad Zシリーズの最上位モデル(Pentium M 760搭載機)の天板は、チタニウム・シルバーと呼ばれるシルバーカラーになっている(最上位モデル以外は従来の黒)。 この天板は、CFRPの上にアルミ圧延シートを貼り、さらにその上にチタンをスパッタリングによってコートしたものである。スパッタリングとは、物質に薄膜を付ける手法の1つで、膜を付けたい物質と膜の原料(ターゲット)を近くにおき、真空中でアルゴンなどの不活性ガスイオンを加速してターゲットに高速で衝突させ、その衝撃で叩き出された原子を物質に付着させることで、膜を生成するというものだ。 チタンは、非常に固い金属であり傷が付きにくいが、アルミに比べて重いため、天板を全てチタンで作ると重くなりすぎる。しかし、軽さを重視してアルミで天板を作ると、今度は表面硬度が低くなり、ちょっとしたことでも傷が付いてしまう。チタン・スパッタリングは、表面が硬くて軽い天板を実現する、非常に優れた方法なのだ。 チタンのモース硬度は9で、ダイヤモンドに次ぐ硬さを誇る(ルビーやサファイヤと同じ硬度)。例えば、10円玉でトップカバーをこすっても、トップカバーには傷が付かず、逆に10円玉が削れてぴかぴかになるほどだ。ちなみに、PCでチタン・スパッタリングを採用したのは、ThinkPad Zシリーズが世界初となる。 なお、金属素材には、表面に指紋が付きやすいという欠点があるが、ThinkPad Zシリーズでは耐指紋コーティングを施すことで、そうした欠点も克服している。また、チタンには独特の質感があり、高級感の演出に一役買っている。 ThinkPad Zシリーズは、筐体デザインも一新されている。筐体を横から見ると、側面が平行四辺形になっていることが特徴だ。ThinkPad Zシリーズのデザイナーによれば、筐体をよりワイドに、より薄く見せるために、側面を平行四辺形にしたという。
●ThinkPadシリーズ初のワイド液晶採用 ThinkPad Zシリーズは、PCとしての基本性能も高い。今回試用したZ60tの最上位モデルでは、CPUとしてPentium M 760(2GHz)を搭載し、チップセットとしてグラフィックス統合型のIntel 915GMを採用する。 メモリとしては、512MBのPC2-4200 DDR2 SDRAMが標準実装されているが、SO-DIMMは2基用意されており、最大2GBまで増設が可能だ(2GBに増設する場合は、標準実装されている512MB SO-DIMMを外して、代わりに1GB SO-DIMMを2枚装着することになる)。HDD容量は80GBで、インターフェイスにはSerial ATAが採用されている。 ThinkPad Z60tでは、液晶ディスプレイとして14型ワイド液晶を採用している。解像度は1,280×768ドット(WXGA)で、一般的なXGA液晶よりも横に256ドット分広い。最近は、DVD-Videoの映画タイトルなどの再生に適したワイド液晶を採用するノートPCが増えているが、ThinkPadシリーズでは、これまでずっとアスペクト比が4:3の液晶を採用してきた。ThinkPadシリーズでワイド液晶を採用したのは、このThinkPad Zシリーズが初となる。 光学ドライブは、DVD-RAMへの記録にも対応したDVDスーパマルチドライブが採用されている。ただし、DVD+R DLなどの2層メディアには非対応で、DVD+RW/Rへの記録速度も最大2.4倍速と、スペック的には最新ドライブに比べるとやや見劣りする。 光学ドライブは、ウルトラベイ・スリムと呼ばれる拡張ベイに装着されており、着脱が可能だ。光学ドライブの代わりに、付属のウェイトセーバーベゼルを装着することで、重量を軽減することが可能だ。 なお、チタニウム・シルバー天板採用のThinkPad Z60tの重量は、光学ドライブ搭載時が2.18kg、ウェイトセーバーベゼル装着時が2kgとなる。ブラック天板モデル(最上位以外)では、天板に軽量なハイブリッドCFRPが採用されており、光学ドライブ搭載時が2.07kg、ウェイトセーバーベゼル装着時が1.89kgとなる。
●マグネシウム合金製の内骨格「ThinkPad Roll Cage」を採用 ThinkPadシリーズは、ワールドワイドで出荷されており、アメリカの学生など、かなりラフに扱うユーザーも多い。そこで、ThinkPad Zシリーズでは、堅牢性をさらに高めることに重点が置かれている。そのための工夫が、“ThinkPad Roll Cage”と呼ばれるマグネシウム合金製の内骨格の採用だ。ThinkPad Roll Cageによって、基板やHDDなどのパーツがしっかりガードされているため、外部のストレスが内部に伝わることがない。筐体の剛性は従来比20~40%も向上したという。 落下などでノートPCに衝撃が加わった場合、まず守らなくてはならないパーツがHDDである。液晶などはもし壊れても、パーツを交換することで元通りになるが(コストはかかるにしても)、HDDが壊れて中のデータが読めなくなってしまうと、取り返しがつかない(大事なデータは普段からこまめにバックアップをとっておけば、被害は最小限ですむが)。 ThinkPad Zシリーズでは、HDDパックの両側にゴム製のクッションパーツを装着することで、衝撃を吸収する仕組みが採用されているほか、HDDコネクタのショックアブソーバーも進化し、従来の一次元方向だけでなく、二次元方向にコネクタが移動して、衝撃を吸収するようになっている。さらに従来と同じく、加速度センサーによって落下や衝撃を感知すると、自動的にヘッドを退避させる「ハードディスク・アクティブプロテクション・システム」も搭載している。また、底面にある大きなゴム足も、衝撃をやわらげる役割を果たしている。
●伝統の7列配列キーボード ThinkPadシリーズは、従来からキーボードの打ちやすさにこだわっていることで定評がある。ThinkPad Zシリーズでは、キーボードのデザインも一新され、Windowsキーやアプリケーションキーが追加された。もちろん、しっかりしたキータッチや、伝統の7列配列はそのまま受け継がれている。 【お詫びと訂正】ThinkPadシリーズでWindowsキーの採用例は初ではなく、ThinkPad i 1200などに続くものです。お詫びして訂正させていただきます。 また、キー自体も改良され、キートップが外れにくくなったほか、万一キートップが外れてもその下のパンタグラフ構造が壊れにくくなっている。また、2つの液体排出穴が設けられたことで、キーボードへの液体滴下に対する耐久性も、従来の2倍程度に向上している。 キーボード左上部には、音量調整ボタンやミュートボタン、ThinkVantegeボタンがある。ThinkVantegeボタンは、従来Access IBMボタンと呼ばれていたボタンで、押すことでデータバックアップやセキュリティ設定などのランチャー「ThinkVantageプロダクティビティー・センター」が起動する。 ポインティングデバイスとしては、トラックポイントとパッド型デバイスから構成される「ウルトラナビ」を採用。ポインティングデバイスの切替は、Fn+F8キーで可能だ。また、指紋センサーも搭載しており、高いセキュリティを実現する。 USB 2.0×3やIEEE 1394(4ピン)をはじめ、PCカードスロットやSDカードスロットも搭載しているなど、インターフェイス類も一通り揃っている。底面には、ドッキングステーション接続用のコネクタも用意されている。 無線LAN機能はIEEE 802.11a/b/g対応で、有線LANは、1Gbpsの1000BASE-T(Gigabit Ethernet)に対応する。新たに無線LAN機能をON/OFFするためのスイッチを装備したことも評価できる。従来のThinkPadでも、Fn+F5キーで無線LAN機能のON/OFFが可能であったが、専用スイッチのほうが素早く操作ができ、電波を出していないことが一目で分かるので、より便利だ。
●新世代ThinkPadの第1弾となる製品で、完成度は高い ThinkPad Z60tの最上位モデルでは、標準で付属する4セルバッテリで、公称2.5時間の連続駆動が可能だ。標準バッテリでの駆動時間は長いとはいえないが、オプションの7セルバッテリを利用すれば、約5時間の連続駆動が行なえる。 また、ウルトラベイ・スリムに装着できるウルトラベイ・バッテリと7セルバッテリを併用すれば、約8時間の連続駆動が可能になる。最近のThinkPadシリーズでは、16V/72W仕様のACアダプタが使われていたが、ThinkPad Zシリーズでは、ACアダプタの仕様が変更され、20V/90W仕様となった。ACアダプタの容量が増えたため、CPUの消費電力がさらに増加しても、余裕を持って対応できる。
参考のために、いくつかベンチマークテストを行なってみた。ベンチマークプログラムとしては、BAPCoのMoblieMark 2002、SYSmark 2002、Futuremarkの3DMark03、id softwareのQuake III Arenaを利用した。 MobileMark 2002は、バッテリ駆動時のパフォーマンスとバッテリ駆動時間を計測するベンチマークであり、SYSmark 2002は、PCのトータルパフォーマンスを計測するベンチマークである。また、3DMark2001 SEや3DMark03、Quake III Arenaは、3D描画性能を計測するベンチマークだ。MobileMark 2002については、電源プロパティの設定を「ポータブル/ラップトップ」にし、それ以外のベンチマークについては、電源プロパティの設定を「常にオン」で計測した。 結果は下の表にまとめたとおりである。比較対照用にLaVIe A LA790/DDやVAIO type T VGN-TX90S、LaVie RX LR700/CD、VAIO type S VGN-S70B、Qosmio E10/1KLDEWの結果も掲載してある。 MobileMark 2002のPerformance ratingやSYSmark 2002のスコアは、他の製品に比べて頭一つ以上抜け出しており、パフォーマンスは非常に優秀だといえる。今回試用したThinkPad Z60tの最上位モデルは、2GHz動作のPentium M 760を搭載しており、他の製品よりも動作クロックが高いので、CPUの性能が高いのは当然だろう。 【ThinkPad Z60tのベンチマーク結果】
ThinkPad Zシリーズは、堅牢で信頼性が高いというこれまでのThinkPadの長所を受け継ぎつつ、さまざまな改良が施されており、ノートPCとしての完成度はさらに高まっている。まさに、新世代ThinkPadと呼ぶのにふさわしい製品であり、ThinkPadシリーズのファンならずともお勧めしたい。 □関連記事 (2005年11月1日) [Reported by 石井英男]
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