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IDF基調講演レポート

ジャスティン・ラトナー基調講演レポート
~近未来の技術などを紹介

Robyと並んでご機嫌のジャスティン・ラトナー氏。あとで聞いたところSFは大好きだという

会期:8月23日~25日(現地時間)

会場:Mosconeコンベンションセンター
   (米国カルフォルニア州サンフランシスコ)



 IDF最終日の基調講演は、IntelのR&Dに関するものというのが、恒例である。2004年までは、ゲルシンガー副社長がこれを担当していたが、2005年春のIDFからは、シニアフェローのジャスティン・ラトナー氏が担当している。

 前回のスピーチは、少し堅さがあって、内容はともかく、演出があまりないものだったが、今回は、舞台に映画「禁断の惑星」のロボット、ロビー(Roby the Robot)を登場させるなど、演出が少し派手になっていた。

●Radio Free Intelはどうなった?

 最初に流されたビデオは、これまでのR&D基調講演で紹介された技術が、実用化されているかどうかを検証する「Behind the Technology」というもの。センサーネットワークなどが実用段階にあることを見せ、最後にRadio Free Intelはどうなった? というところでラトナー氏が登場、ラボで研究中のCMOS無線トランシーバーを紹介した。

 これは、ベースバンド以後の変調やアンプ部分を90nmプロセスでCMOS化したもの。フリップチップにより、高周波部分などを分離することでCMOSデバイス化を行なった。100MHzのベースバンド信号を処理でき、2.4GHz、5GHzの高周波信号を作り出す。電源電圧は1.4Vと低く、ムーアの法則はこのような無線回路を集積化するときにも有利に働くという。

今回CMOSで実現したのは、図中の真ん中の緑の部分をLSIとして実現するCMOSトランシーバーチップ シリコンダイ(Silicon Die)内部は、多層基盤になっており、ここにミキサーやフィルタが組み込まれている 統合したCMOSラジオ。ダイの外側のシリコン基板上に受信用のLNA(Low Noise Amplifier)や送信用のPA(Power Amplifier)が集積されている

●「User Aware Platform」とは?

User Awareなプラットフォームとは、ここに示した6つのようなことが実現できるものであるという

 その後、引き続いて基調講演のテーマの解説に入った。今回のテーマは「User Aware Platform」。これは、ユーザーのことを理解し、その行動を予測し、自らの保護を行なうようなプラットフォームである。もちろんこれは将来のものだが、その要素技術は出来上がりつつあるという話だ。

 SF映画に登場した自己認識するプラットフォームとして「2001年宇宙の旅」のHAL9000、「ターミネーター」のSKYNETを紹介。これらは、自己認識はしたが、人間に危害を与えるものだったとし、最後に「禁断の惑星」のRobyを紹介した。

 映画では、Robyは、主人であるモービアス博士から、人を撃てと言われて動作を停止する場面や、Roby自身がオイルを交換する場面を取り上げ、User Awareなシステムは、このようでなければならないとした。

 具体的には、User Awareなシステムとは、以下のようなことが可能なものだという。

  • Take Care of itself. 自分の面倒を見ることができる。
  • Know what I'm doing. ユーザーが何をしようかを理解している。
  • Know where I am. ユーザーがどこにいるのかを理解している。
  • Know what it's doing. 自分が何をしているかを理解している。
  • Know what I want ユーザーが何を望んでいるのかがわかる。
  • Do no harm. 人間やシステムに危害を与えない。

●「Diamond Project」と「Autonomic Computing」

 最初に行なわれたデモは、多数の写真の中から特定の写真を見つけるための「Diamond Project」。コンピュータパワーをこうした検索に利用しようというわけだ。

 開発中のプログラムは、顔(のように見えるもの)やシャツの色などを認識、条件を満たすものだけをリストアップすることができる。8万枚以上の写真の中から数秒で検索が完了するが、このシステムは、Xeonのラックマウントサーバーを6台も利用する大規模なもの。実用化にはもう少しかかりそうだ。もっとも、今回のデモはほとんどが将来、2015年あたりを見据えたものである。

 次は、IBMの提唱する「Autonomic Computing」の解説とデモ。たとえば、データセンターのような重要な処理を行なっている場所で、空調装置が故障したとき、周囲の温度などを知り、温度が高いところでは負荷を下げ、温度の低いところの負荷を上げるといった処理が可能になる。

 デモでは、サーバーをアクリルケースに入れ、中に電気ポットを入れて、温度や湿度を上昇させ、ケースの外にあるサーバーに負荷を移行させるデモを行なう予定だったが、うまくいかなかった。

画像のリアルタイムフィルタリングの例。顔とシャツの青い色から画像を絞り込む。右側のサムネイル表示で、赤い四角が顔を認識したところで、緑の四角が指定した青い色の部分。予めインデックスを作るのではなく、ユーザーが指定した条件を満たす画像を直接検索する 8万枚以上の画像から瞬時にして画像の絞り込みが行なえるが、実行には、このようにラックマウントサーバーが6台必要。CPU性能やI/O性能が数倍向上しないと、同じようなシステムをデスクトップマシンで行なうのは難しそうだ アクリルケースにサーバーを入れ、電気ポットで周囲温度を上げるデモ。なかなか加熱されず、うまくケースの外にあるサーバーへ負荷を切り替えることができなかった

● 高速CMOS電圧レギュレータ

 次に見せたのは、CMOSで作った電圧レギュレータである。現在のCPUは、低消費電力化のために電源電圧を変動させるが、それは、CPU外部の電圧レギュレータが行なっている。しかし、現在のレギュレータの動作は遅く、電圧を切り替えるのに秒単位の時間が必要になるため、細かいCPU負荷の変動では、電圧を変えることができない。このため、CPUが短時間、低消費電力状態になっても、電圧は変化せず、無駄な電力が発生しているという。

 CMOSで開発した電圧レギュレータは、100MHzで動作できるため、細かなCPU負荷の変動に追従することが可能となる。このため、現在のものよりも15~30%程度、低消費電力を実現できるという。また、効率も85%と、このように小さな回路に集積している割には低くない。高速で動作するため、供給先のCPUとMCHとともに1つのパッケージに載せている。

 ただし、インダクタンス(コイル)をフィルム状の伝導材料で作るため製造は難しく、実用化までには2~3年が必要であるとした。このような新規材料の採用は、Intelの製造部門でも拒否反応があり、導入には時間がかかるだろうと述べた。

 これができるようになれば、CPUのコアごとにレギュレータを配置し、個別の電圧で動作させることも可能になるという。次世代モバイルコアであるYonahでは、2つのコアに同じ外部電圧レギュレータから電源を供給されているため、2つのコアがともに同じステートに入らないと電圧を下げられない。ラトナー氏は、こうした問題は、CPUに複数のレギュレータを統合することで解決されるだろうという見通しを示した。

現在の電圧レギュレータは、動作速度が遅く、電圧を切り替えるのに秒単位の時間がかかってしまう。このため、細かな負荷の変動に対しては、電圧を切り替えることができず、無駄なエネルギーが出てしまう 電圧切り替えを高速に行なえるようにすれば、CPUの細かな負荷変動にも対応できるため、無駄になるエネルギーが減ることになる。試作したシステムでは、15~30%の省電力が可能だったという
レギュレータから電源を供給しているCPU(Pentium M)やMCH(メモリコントローラーハブ)への配線を短くする必要があるため同じパッケージにこれらを搭載したという。将来的には、マルチコアのそれぞれに対してレギュレータを用意することが可能になる CMOS電圧レギュレータを搭載したPCシステム。指の先にあるのが、CPU、MCHとCMOSレギュレータを統合したパッケージ。その左隣の黒いデバイスはICHだと思われる。外付けのコンデンサも減らすとこができるため、Handtopのような小さなマシンにも有効な技術のようだ

●ユーザーの場所を認識する

 次は、ユーザーの位置を認識して動作を行なうデモである。これは、WiFiのアクセスポイントからの距離を測定して、クライアントが自身の位置を測定するもの。信号の強さによる測定では、誤差が大きすぎるので、パケットが伝達されるまでの時間を測定して行なう方式を研究中である。この方法を使えば、70mの距離で誤差を1m程度に抑えられるという。

 家庭内では、アクセスポイントからの距離がわかれば、大体の場所を推定できるし、屋外であれば、ホットスポットなどの複数のアクセスポイントからの距離を測定すれば、それぞれのアクセスポイントの絶対座標などから位置を確定することができる。ただし、この方式では、パケットにタイムスタンプをつけるなど、アクセスポイント側に特別な機能が必要となる。しかし、数年以内には、こうした機能を持つアクセスポイントが普及するだろうとラトナー氏は予測した。

 デモは、動画の再生を一番近くにあるディスプレイで行なうもので、ラトナー氏がタブレットPCを持ち歩くと、最初、リビングのTVに映し出されていた動画が別のTVで再生、さらに離れるとタブレットPC自体に表示された。また、玄関より先では動画が再生されない。

クライアント側は、パケットにタイムスタンプをつけて送信し、アクセスポイントは、到達時間を記録して応答する。このようにすることでレーダーのようにアクセスポイントまでに必要な時間を測定することができる アクセスポイントからの電波強度では、誤差が大きく、クライアントまでの距離を正確に測定できないが、パケットが到達するまでの時間を測定することで高い精度で距離の測定ができる。複数のアクセスポイントからの距離を測定すれば、位置を測定することもできるようになるという ユーザーの位置により、動画を表示するデバイスを自動的に切り替えるデモ。TVのない場所(設定では玄関)に移動すると持っているタブレットPCに動画の表示が切り替わる

●他のシステムを傷つけない

 最後のデモは、ワーム(worm。ネットワークを介して感染するコンピュータウィルスの1種)の蔓延を防ぐ技術である。これは、ネットワークの通信パターンを監視することで、感染したマシンがネットワークを遮断、他のマシンへの感染を防ぐもの。

 ウィルス対策プログラムのようにプログラムのパターンを記憶するのではなく、異常なネットワークパケットの動作を監視するため、新種であっても対応可能で、既知のワームや新規に作ったワームで8,000時間のテストを行なったが、100%感染を防ぎ、通常の通信を誤解して止めることもなかったという。

 最後に、「こうしたUser Awareなシステムを皆さんとともに開発していきましょう」と述べてスピーチを終えた。

新種のワームを用意したといってラトナー氏が取り出したのは本物のミミズ。デモがうまくいかなかったら、1つ食べてもらおうと、デモンストレーターに迫る パケットの送信パターンを監視し、しきい値以上になると、ワームに感染されたと判断、ネットワークを遮断し、他のマシンへの感染を防ぐ。ワームは、とにかく多くのマシンと高速で接続しようとするため、そのようなパターンの通信を見つけるだけで、ワームプログラムそのものを検出する必要がないという。このため、新種であっても対応が可能

□IDF Fall 2005のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2005/

(2005年8月29日)

[Reported by 塩田紳二]

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