デルが、2005年の重点課題のひとつとして、コンシューマ事業の強化を掲げてから、半年が経過した。 1月から再開した首都圏をはじめとする主要都市でのTV CM展開をはじめ、個人を意識したPC本体および周辺機器などの製品投入、コンシューマをターゲットとした各種セット販売の提案など、積極的な施策が目白押しだ。 そして、このほど、クライアントPCとしては、約3年ぶりともいえる筐体デザインの変更を含む新製品3機種を投入。デジタルホームの提案とともに、コンシューマ向けに戦略的ともいえる製品提案をして見せた。 デルのコンシューマ事業への取り組みを改めて追ってみた。 ●今年の重点課題にコンシューマを掲げる
昨年来、デルから発信されるメッセージは、エンタープライズに関するものが増えている。それに対して、同社売り上げの約2割に留まるコンシューマ事業に関するメッセージはかなり少なかったといっていいだろう。 だが、デルの浜田宏社長は、今年初め、2005年の事業方針として国内コンシューマ市場に積極的に取り組んでいくことを盛り込んだ。 デルの製品群のなかに、デジタルホームを実現するPC本体や周辺機器が登場してきたこともあっただろう。昨年投入したノートPCのInspiron 700mが女性層などにも人気を博し、デルにとって新たな市場を開拓しはじめてきたという自信も背景にはあった。そして、ビジネス分野に比べてシェアが低いコンシューマ市場の開拓が、今後の成長のためには不可欠だったという要素も見逃せない。 いずれにしろ、デルにとっては、コンシューマ市場の強化が重要な施策となっていたのは間違いないのだ。 ●解決すべき課題は超えたのか?
だが、デルにとって、コンシューマ事業を積極化する上で、解決しなくてはならない大きな問題があった。 それは、サポートにおける顧客満足度の改善だ。 昨年、大手PC誌の調査で、デルは、長年続けてきたサポートランキング首位の座から転げ落ちた。しかも一気に4位にまで転落したのだ。 昨年暮れ、浜田社長に取材した際、その話題になった。浜田社長は、その要因を「デルの購入者層が広がったことが影響している」とした。 これまでデルの主要顧客層は、PCに詳しい層であった。サイトにアクセスして、自分が欲しい仕様にするために、各パーツを選択して、注文できるだけの知識を持ったユーザーが中心だったからだ。 しかし、昨年8月に投入した700mでは、日本の要求を反映したデザインやカラーを採用。発売直後から女性層や初心者層にも高い人気を得た。これまでのデルのユーザー層とは異なるユーザー層が飛びついたのだ。 だが、700mの予想を上回る人気ぶりに、サポート体制が追いつなくなるという問題が発生した。 数だけの問題ではない。質の転換も必要だった。中級者、上級者を対象にしていたサポート体制のままでは、初心者層に対する手厚いサポートを実現するには問題があったともいえる。 この点を解決しない限り、コンシューマ事業を強化しても、デルの成功はおぼつかないのは目に見えていた。
「サポート体制の強化については、昨年の段階ですでに手を打っていた」というのは、デルのクライアント製品マーケティング本部 郡 信一郎本部長。続けて、「だからこそ、コンシューマ事業に対して、年初から積極的な展開を進めることができた」と話す。 デルでは、社内指標として顧客満足度を独自に測定している。それによると、700mを発売して以降、顧客満足度が落ちているという傾向が確かに出ていたという。 「いかに初心者の方々にもわかりやすい説明をするか。昨年後半から、その点でのトレーニングを徹底した」と郡本部長は話す。 こうしたトレーニングの結果、すでに昨年末の段階では、その指標が改善してきていた。だからこそ、コンシューマ事業に対して、年初から積極的な取り組みを進めたのである。 「上期(1~6月)を振り返ると、コンシューマ事業は当初の計画を上回る実績で推移している。TV CMの効果もあって、シニア層、女性層などの新たな顧客層を獲得し、その結果、この分野におけるシェアも拡大していると見ている」と、郡本部長は、その成果を強調する。 「700mに続き、Inspiron 9300や2200といった個人向けの後続製品も高い人気を得たことも大きな要素。そして、顧客満足度についても一定の評価を得ている」と続ける。 そうしたなかでの今回のデスクトップ新製品の投入は、コンシューマ事業を加速するという点でも大きな意味があるといえよう。 ●事業加速する新製品3機種の投入
今回、投入した新製品は、新たにスリムな筐体を採用したDimension 5100C、タワー型の同9100C、ゲーマー向けのハイエンドPCと位置づけられる同XPS Gen5のデスクトップ3機種。 XPS Gen5は、従来モデルの進化と位置づけられるが、5100Cと9100Cには、新デザインを採用するとともに、本体カラーにアルパインホワイトとアークティックシルバーを採用。これまでのデルのデスクトップとは一線を画してみせた。それだけに、デルが用意しているブラック基調のモニター製品群と並べたときには違和感が出るのは残念なところ。同社でも、このあたりの今後の改善は視野に入れているという。 デルクライアント製品マーケティング本部Dimensionブランドマネージャー 島内一磨氏は、「日本からの要求を反映した製品」と今回の新製品を位置づける。スリム筐体モデルとして高い人気を博した既存モデルのDimension 4500Cでは日本からの提案を反映。その成功を受けて、今回も筐体サイズはこれを踏襲している。 「日本の家庭に設置した時の状況を想定した場合、吸気口の形状やそのカラーはどうすべきか。そうした点において、日本からの要求が反映されている」と語る。 日本では、省スペース筐体は一般化しているが、米国ではプレミアムとして位置づけられる。その点でも、日本からの要求は、製品化の上で重視されたのは当然だった。
「700mが女性層に受け入れられたように、5100もぜひ女性に使ってもらいたい」と島内ブランドマネージャーは語る。女性の購入比率は他社に比べても低い。裏を返せば、ここにコンシューマ事業拡大の余地があるともいえる。 郡本部長も、「まだ当社がリーチできているユーザー層は狭い範囲に留まっている」と語り、「女性層、シニア層など、これまでデルを使っていただいていない層にアプローチしたい」と、今回の製品群によるターゲット拡大策に意欲を見せる。 700mの発売や、銀座へのデルリアルサイトの出店などによって、すでに変化は出始めている。 首都圏のリアルサイトでは、「60代の夫婦が訪れ、デルの新聞広告を片手に『これをください』と指名購入していく」、「20代の女性が『会社で使っているので』と言いながら、自分用のPCとして、Inspironを注文していく」、「カップルの来店者の場合、PCに詳しい男性が、女性に教えながらPCをカスタマイズしていたが、最近では、女性でも気軽に自分のPCを選んでいくようになった」などといった声があがっている。 これまでデルが獲得できていなかった層を確実に捉え始めており、今回の新筐体のデスクトップPCで、これをさらに加速させる考えだ。この製品で、新規顧客層獲得の足がかりをどこまで掴むことができるのかが注目される。 ●PCを中心にデジタルホームを提案
そして、今回の製品投入にあわせて同社はデジタルホームという言葉を前面に打ち出した。 製品発表会見でも、会見場となったホテルのスイートルームを借り切り、そこにデジタルホームの姿を再現してみせた。 5100Cや9100Cをセンターマシンとして置き、そこにデルが投入している薄型TVやプロジェクター、プリンタなどと接続して、リビングや書斎などにおけるデジタルホームをみせたのだ。 「デルが実現するデジタルホームは、あくまでもPCが中心。家庭のなかでやりたいことを、デルの各種製品群によって、ここまで実現できるんだということを訴えたかった」と郡本部長は語る。 こうした展示は、一部のデルリアルサイトでも実現される予定だ。すでに、今年5月にオープンしたばかりの川崎の店舗では、デルが提案するデジタルホームが再現されている。
下期に向けても、デルはコンシューマ事業をさらに加速させる姿勢を見せている。 今後、デジタルホームを意識した周辺機器群をデルブランドで品揃えして、強化するだけでなく、他社ブランドを含めて取り扱っていく方針を示している。むしろ、下期は周辺機器のラインアップ強化が鍵になりそうだ。 また、コンシューマ向けのTV、新聞、雑誌広告も引き続き継続させ、家庭におけるより具体的な用途提案も行なう考えだ。 デルは、現在、2割に留まっているコンシューマ向け売上高比率を引き上げる計画。業界全体が約4割の構成比となっていることと比較すると、まだまだ拡大の余地があるともいえる。 「世界で最も先進的といわれる日本のコンシューマユーザーに受け入れられる製品を投入し続けたい。また、これまでデルに触れてこなかったユーザーにも、ぜひ、デルを使っていただきたい」と郡本部長は語っている。 下期は、さらに本気でコンシューマ分野に取り組む姿勢を強調していたのが印象的だった。
□関連記事 (2005年6月20日) [Text by 大河原克行]
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