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本田雅一のE3レポート
まだ不明確なXbox 360のアプローチ

5月17日~20日(現地時間)開催

会場:LA Center Studios



 2日に渡るプレスデーにおける各社のプレゼンテーション、3日間の展示会。この間、もちろんXbox 360に対する取材も行なってきたが、そのレポートはとうとう最後になってしまった。その理由はXbox 360の次世代機としての位置付けが、今1つ見えてこなかったためだ。

 もちろん、3コアのPowerPCプロセッサに、柔軟性とパワーの両方を持ったATI製のGPU、広帯域のバスや512MBのシェアードメモリなど、従来機に比べてその能力は確実に向上している。ハードウェアとしての性能が、従来機に比べて圧倒的に高いという点では疑う余地はない。

 だがユーザーがなぜ新しい世代のゲーム機に買い換えるモチベーションを持つのか。その部分で、明確なストーリーを感じることがむずかしかった。既存のXboxは、PCゲームの世界をゲーム専用機の世界に持ち込んだ。そしてXbox 360は、その性能をさらに高めている。しかし、Xbox 360が市場をどのように拡大するのか。その点に不明確な部分が残る。

●10億人のゲーム機

 MicrosoftはXbox 360のプレスイベントで「これまで1億人がゲームを楽しんできた。しかしゲームはXbox 360がもたらす映画、音楽、TVを超え、10億人が楽しむメディアに成長する」と話した。

 つまり子供や一部のゲーム好きだけではなく、もっと普通のユーザーがリビングルームのエンターテイメントの1つとして当たり前に遊ぶゲーム機になるというわけだ。

 MicrosoftはHalo 2が1,250万本を売り、通信サービスのXbox Liveは200万人が加入している事を強調。より高性能になり、デザイン面でもインテリアと馴染みやすい新しいデザインを採用することで、より多くの、これまでゲームに興味を持たなかったユーザーにも使ってもらえる製品になったと自信を見せた。

ロビー・バック氏

 Microsoft チーフXboxオフィサー(CXO)のロビー・バック氏はインタビューの中で初代機では失敗に終わった日本市場へのXbox普及に関して「Xbox 360は日本市場でも受け入れられるだろう。今回は日本の有名なクリエイターとも協力しながら作業を進めてきた。デザインも前回の反省もあって、日米のデザインチームがコラボレーションしながら作り上げている。また、XboxはPlaystation 2に2年近く遅れて登場したが、Xbox 360はPlaystation 3の半年先に発売される」と話した。

 とはいえ、過去には先に製品を投入しながら勝てなかった事例もある。セガのDreamCastはPS2に先んじて新型機として投入された。対応ゲームには話題作も集まり、ヒットタイトルもいくつに生み出したが、結局、セガはその後、ハードウェア事業からの撤退を余儀なくされる。

 あのとき、今回と同様に僕はE3の取材にやってきていたが、セガが既存ゲームの質を高める方向だけに進んでいたのに対して、SCEIはゲームのリアリティを高める方向でのプレゼンテーションを行なったと記憶している。今回の状況とそっくりなのだ。

 ではMicrosoftは当時のセガと同じなのだろうか?

 実際のところ、Xbox 360でデモンストレーションされていたゲームは、初代Xboxの画質を多少高めただけのように見える。高速なプロセッサと強力なGPUは、これまでよりも高い質のグラフィックやAIプログラミングを実現するだろう。しかし、決して初代Xboxがやろうとしていた、PCゲームを手軽にコンソール型ゲーム機で遊ぶようにするというコンセプトからは踏み出していない。

 しかし、Xbox 360の“キモ”の部分は、実は別のところにあり、しかもまだ詳細が発表されていない要素に隠れているようだ。それ故にMicrosoftからのメッセージが、E3のデモンストレーションにおいても不明確だったと考えられる。

●3コアPowerPCの使い道

 まだ詳細が発表されていない要素とは、3コアのマルチコアPowerPCであるXbox 360のプロセッサにある。現時点では「Xbox 360は3コアのマルチコアプロセッサを内蔵している」としか発表されていないが、実は3つのコアがすべて同じ目的で動くわけではない。

 PowerPCコアのうち2個はゲーム用として使われるが、残りの1個はゲームプレイ中も常に待機状態になっており、コントローラ上にある専用の「Xboxガイドボタン」をプッシュすることで、いつでも「HAD」を呼ばれる画面を呼び出せる。つまり、PowerPCコアのうちの1個は、常にHADが実現する機能専用に割り当てられ、ユーザーの呼び出しに対して常にレディの状態にあるわけだ。

 HADの呼び出し中はゲーム画面は状態を維持したまま一時停止状態になり、(従来よりもグレードアップした)新しいXbox Liveやダウンロード型のミニゲーム、各種ネットサービス、Windows XP Media Center Editionの端末機能などにアクセス可能となる。ゲーム中にもゲーム画面や速度に影響を与えることなく、チャットメッセージをゲーム中に受け取り、画面中にポップアップさせるといったことも可能だ。

 もっとも、そうしたコミュニケーション機能だけにプロセッサ資源の1/3を本当に割り当てるのだろうか? という疑問もないわけではない。関係者によると、現在はHADを通じてどのような機能を提供するのか。まだ検討段階のものもあり、今後、徐々に明らかになっていくだろうと話している。

 またMicrosoft関係者は、ゲームそのものの“世代”が初代機とあまり変わっていないことに関して「確かに初代Xboxからゲームが大して変わっていないと言えば、そうかもしれない。グラフィックスをHDTVにフィットさせることが1つの目標だった。しかし加えてゲームを楽しむための“道具”を全方位的に揃えようという意図もある。それがXboxガイドボタンとHADの目的」と話す。

 MicrosoftはXboxガイドボタンとHADを用い、従来のゲーム機には無かった自由や使いやすさが得られるという。ゲーム中でもフリーな状態で待機し、即座にレスポンスする部分を置いておくことで、それが可能になると考えているようだ。

 ゲーム機をマニアのための製品から、10億人レベルのユーザーを対象にする一般向け商品へと引き上げるため、ユーザーに対してより心地よく、リッチなサービスレイヤを提供する。Microsoftの意図は、そんなところにあるようだ。より具体的な内容は、Xbox 360の発売が近づくにつれてわかってくるだろう。

●LonghornとXbox 360

 さてそのXbox 360は、Longhornとの関連も深い製品になるようだ。

 Xbox 360に内蔵されるHDDは、(ネットダウンロードするミニゲームは別として)ゲームのインストールなどには使われないという。つまり初代Xboxで実装されたような端末内HDDにメディア蓄積のストレージを持つことはしない。その代わりに、Windowsとより密接に結びついた機能を提供するという。

 そのひとつが、ハイビジョン再生にも対応するWindows XP Media Center Editionのリモート端末機能だろう(米国のデジタルハイビジョン規格“ATSC”のみに対応)。ただし、それだけがWindowsとの連携になるわけではなく、Windowsとの連係機能が将来的には他にも提供される予定という。

 どのような機能が提供されるか、具体例は取材の中では得られなかったが、ヒントとなる要素はいくつかある。

 MicrosoftのXbox事業部プラットフォーム開発統括部長の間中信一氏によると、Xbox 360のプラットフォームには、LonghornのMIL(Media Integration Layer)とほぼ同じ仕様の機能が実装されている。現時点でLonghornのMILは仕様が確定していないため、Xbox 360上での実装もさほど進んでいないというが、最終的には基本部分での互換性は取れる見込みだ。

 LonghornではMILの上でDesktop Window ManageやAvalonが動く。つまりMILが実装されれば、Xbox 360の上にもAvalonも簡単に実装できることになる。Avalonはネットワーク透過なアーキテクチャとなっているため、Longhorn(あるいはWindows XP+Avalon)上で動作するアプリケーションのプレゼンテーション部分をネットワーク経由でXbox 360の画面上に展開できるわけだ。

 この仕組みを利用すれば、PCが持っているプロセッサパワーやストレージ、メモリなどのリソースを生かしたアプリケーションをXbox 360のユーザーインターフェイスを通じて利用可能になる。

 Xbox 360の発売時に、どこまで実装が進んでいるのか、そしてどこまで構想が明らかにされるかはわからないが、実にMicrosoft的な(Windows的な)アプローチでXbox 360はその機能や使い方を拡張し、Windows PCとの親密性を高めていくことになるだろう。

□E3Expoのホームページ(英文)
http://www.e3expo.com/
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(2005年5月23日)

[Text by 本田雅一]

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