笠原一輝のユビキタス情報局

ライブドアショックは放送とITの融合を進める起爆剤となるか?




 ライブドアが進めていたニッポン放送買収劇は、ライブドア側の“勝利”に終わりそうだという報道が相次いでいる。

 確かに、東京高等裁判所でのライブドアによる差し止め請求の仮処分申請が認められたことにより、ライブドアがニッポン放送株争奪戦において勝利するのは確実な情勢になりつつある。だが、誰もが指摘するライブドアの本当の目的であるフジTV争奪戦に関しては、どうもまだまだ雲行きはわからない状況だ。

 IT企業による、既存メディア企業の買収という今回の騒ぎ、いったいどうしてここまでこじれてしまったのだろうか、IT業界の側に立つ筆者にとっても非常に興味深いニュースだ。


●コンテンツの“再配信”で利潤を上げる放送事業者

ライブドア 堀江貴文社長

 なぜ、ライブドアの堀江貴文社長とフジTVの日枝 久会長の話はかみ合わないのか、読者の皆さんもそう思わないだろうか?

 筆者は、この2人の話が合わないのは、根本的には“放送”というもののとらえ方の違いだと思っている。

 それを解き明かしていく前に、本連載でも度々ふれている“放送とコンテンツ”の関係について触れておく必要があるだろう。以前の記事でも指摘したように、日本の放送事業者は、純粋な放送事業者ではない。放送事業と同時にコンテンツ事業もやっている複合事業体だ。

 放送事業者は自前で魅力的なコンテンツを作成し、それを放送することで広告主から広告料を取り、収益を上げている(むろん例外もあり、外部の制作会社が作ることもあるが、ほとんどの場合、放送事業者との協業となっている)。放送事業者が放送した後のコンテンツは、別のメディアや媒体を利用して流通させ利潤を上げている。

 例えば、話題のフジTVを例にとると、キムタクが出演したドラマを作り、それを月曜の9時に放送する。月9の枠は、高い視聴率が望めるだけあって、広告主にとって魅力的な広告枠であり、高い値段で広告枠を販売できる。番組の放送が終了した後、そのコンテンツは、(今のところ)フジサンケイグループ企業であるポニーキャニオンから、DVDやビデオテープの形で、レンタルビデオ店やセルビデオ店という流通経路を経てユーザーの元に届けられる。

 ここで忘れてならないことは、必ず“放送”がトッププライオリティであり、それ以外の配信方法は“再配信”と呼ばれる点だ。

●放送事業者が事実上独占する質の高いコンテンツ

 筆者もこんな仕事をしている関係で、最近はコンテンツ配信の話を関係者の方とする機会が多いが、コンテンツ配信の話をするときに、放送事業の関係者は“コンテンツの再配信”という言葉を必ず使うことが印象に残っている。

 この言葉の裏にあるのは、“放送こそが最優先であり、ほかの手段は2番目、3番目、つまり再配信なのだ”という意識だ。(だから、IT業界の側から見れば魅力の低いネット配信であるのに、“ネット事業もやってますよ”という発言につながる)。

 彼らが意識的なのか、無意識なのか、どちらにせよそう考えるのは、それが彼らの強みだからだ。例えば、キムタクが出演する月曜9時のドラマを、TVより先に、インターネットで配信していたらどうだろう? 言うまでもなく、インターネットを見る視聴者は増え、TVを見る人は少なくなる。それは何を意味するか? これも言うまでもないが、広告主はこれまで月9の枠に払ってきた高い広告費を負担してはくれない。だからTV放送以外の配信方法は、必ず“再配信”なのだ。

 そうして得た収入は、よりクオリティの高い次のコンテンツの制作に当てられ、次々と放送事業者だけに質の高いコンテンツが集まる結果になる。ほかの企業は“放送免許”という“お札”を持っていないので、当然これに対抗できない。

 こうして、結果的にコンテンツの放送局による独占という状況が発生している。放送事業者以外に、魅力的な映像コンテンツが作れないという現状は、レンタルビデオ店などで自分の目で確認すれば一目瞭然だろう。

 これが今の日本のコンテンツビジネスにおける現状だ。

●“コンテンツビジネス”を経済活動ととらえる堀江氏、放送ととらえる放送事業者

 さて、我々が考えなければならないのは、TVで最初に配信し、それを何らかの形で再配信するということは、放送事業なのか、それとも経済活動なのか、ということだ。堀江氏が日枝氏に突きつけているのは、まさにこの点だと思う。

 堀江氏は、放送事業者のビジネスモデルを“経済活動”であるととらえていると筆者は思う。明らかにフジTVは、魅力的なコンテンツを作っている(それに対しては異論はあまり無いと思う)。だが、その魅力的なコンテンツを、TVの電波に乗せて流すという古いビジネスモデルにこだわり、生かし切れていないというのが彼の主張だろう(筆者は直接本人にお会いしたことはないので、あくまで、TVなどで報道される彼の発言を見て、という前提のお話だ)。

 筆者がこの連載で何度も取り上げているとおり、HDDレコーダやPCなどのIPネットワークによるデジタルホームという構想が立ち上がりつつある現在、プラットフォームにコンテンツを供給し、その上で物販や金融などの総合的なサービスを提供するということは、IT業界の関係者であれば皆が持っているビジョンだ。

 そこに足りないのは、コンテンツであり、それを現在は放送事業者が“独占”しているのであれば、その放送事業者を買収してしまえと考えるのは、ある意味自然な発想だろう。もっとも、普通は、第四の権力と言われる放送事業者に対して敵対的買収を行なうというのは、これまでの日本の経営者には無かった発想であるのも事実だ。

 これに対して、日枝氏が代表しているような放送事業者にしてみれば、魅力的なコンテンツを最初に放送で流しそれを再配信するという放送事業者のビジネスモデルは“放送”であり、一般の経済活動とは異なっていると考えている。彼らにしてみれば、放送以外のコンテンツ配信は“再配信”であって、放送に付随する事業にすぎないのだ。

 この状況の中、コンテンツという経済活動を欲しがる堀江氏が、放送事業者の買収をはじめたら、放送事業者側は“放送に対する挑戦”と考え、最大限の防衛を始めるだろう、それが現在起こっている構図であり、対立の根本部分だと筆者は思う。

●日本経済活性化のためにもコンテンツ事業と放送事業の分離を

 今後、こうした混乱を防ぐ意味でも、“月9のドラマ”を作ることが、経済活動なのか、放送事業なのか、明確なルールを作っていく必要があると思う。

 例えば、ニュース番組などに関しては、確かに公共性はあるし、それに関しては放送事業という枠でいいかもしれない。しかし、ドラマ、アニメ、バラエティなどの娯楽番組は、公共性があるといってしまうのは、無理があると思う。こちらは経済活動としてとらえるのが自然ではないだろうか(放送事業関係者はそうではないと言うだろうが……)。

 現在の放送法は、こうしたとらえ方をしていない。ニュース番組も、ドラマも、バラエティも、アニメもすべてが“放送”という枠組みのとらえかたをしていることになっている。言ってみれば、そもそも放送法自体が時代に即さなくなってきているといえる。

 ライブドアがニッポン放送株の買収を発表した当初、政界からは外国人による放送事業者の株取得をより厳しくすることなどが課題としてあがった。それはそれで大事なことかもしれないが、根本的に放送法で解決すべきものは、コンテンツと放送の分離だと筆者は思う。

 例えば、放送法を改正し、報道は例外として基本的にはコンテンツ製造、所有を、放送事業者が兼ねることをできないようにする。それで、放送事業者からドラマ、バラエティ、アニメといった娯楽番組を作る部門を独立企業としてスピンアウトさせ、放送事業者は娯楽番組の放映権を独立したコンテンツ所有会社から購入するという仕組みにすればよい。

 それにより、電波による放送は、インターネットとの競争をしなければならなくなるだろう。すでに述べたように、どのメディアが最初に放送するのかは広告収入に大きな影響は与えるはずで、どちらがメディアとして生き残るのか、あるいは共存共栄していくのかは、それぞれの事業者の努力やメディアとしての魅力次第であり、それこそ市場が決めることだ。

 政府はコンテンツビジネスを次世代の日本の柱にするという方針を打ち出しているが、このような“コンテンツの自由化”はその方針とも合致する。放送法という参入障壁がなくなったコンテンツビジネスは新規参入や、それこそ買収、合併などにより活性化し、日本経済の新しい活力となる可能性もあると思う。

 こうした問題を提起したという意味で、筆者はライブドアによる今回の行動は大いに賞賛してよいと考えている。もっとも、ライブドアも、今度は放送事業者の側に回るとも言えるわけで、“放送事業者の常識”にとらわれずやっていけるのかどうか、IT業界にはソニーという“悪しき前例”もあるだけに、その成り行きにも注目していきたいところだ。

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【3月23日】東京高裁、ニッポン放送の抗告を却下〜新株予約権の発行は中止(INTERNET)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/03/23/6955.html
【2月8日】ライブドア、ニッポン放送株の35%を取得(BB)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/8436.html

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(2005年3月24日)

[Reported by 笠原一輝]


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