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IDF Spring 2005レポート

プロセスロードマップとCMOSの先にあるもの

会期:2005年3月1日~3日(現地時間)

会場:Moscone Center West
(米国カルフォルニア州サンフランシスコ市)



 IDFは、米国サンフランシスコ市の1日から開催されるが、2月28日はプレス向けのブリーフィングが行なわれた。ここでは、その内容をレポートする。


 最初に行なわれたのは、Intelの技術戦略を担当するフェローであるPaolo Garginiによるナノテクノロジに関する説明である。Garginiフェローは、簡単にいえば、Intelのプロセスや半導体技術に関する方向性を決める親玉であって、この説明は、Intelが現在考えている将来的な方向性を示すものだ。

 Garginiは、直近に採用する技術としてのTri-Gateトランジスタに触れたあと、Intelが研究中の2つの方向性を明らかにした。それは、カーボンナノチューブ/シリコンナノワイヤを使ったトランジスタと、新しい物質を使う化合物半導体(Compound Semiconductor)である。

 カーボンナノチューブは、炭素原子からなるチューブ状の中空の物質で、その組成や構造などによりさまざまな性質を持つもの。シリコンナノワイヤは、シリコンでできた細い糸状の物質である。

シリコンナノワイヤを使って作られたトランジスタ。円筒の中にトランジスタが構成される。この構造では、より高速な動作が可能になるという カーボンナノチューブは、DrainとSourceの間を走る斜めの線の部分(黒い矢印が示すところ)。このようなかたちでトランジスタを構成することができたという

 これらの縦長の構造を持つ物質を使うことで、円筒状のトランジスタを作ることができる。この形状は、実はトライゲートトランジスタが目指している構造なのだが、平面上に作る関係で、円筒状にはできなかった。しかし、カーボンナノチューブやシリコンナノワイヤでは、円筒状の構造が可能になるため、さらに高速化が可能な構造を持つトランジスタを作ることができるようになる。

 化合物半導体は、シリコンよりも電子の移動度が高いIII-V族の物質を使ってトランジスタを構成するもの。利用する物質からIII-Vトランジスタとも呼ばれる。利用されるのはInSb(インジウム・アンチモン)などの物質。このトランジスタは、現在のシリコントランジスタよりも3倍以上高速で消費電力が1/10になる可能性があるもの。それは、InSbの電子の移動度(簡単にいうと電子の動きやすさ)が大きく、最小バンドギャップ(電子を移動させるために必要なエネルギー)が小さいからだ。

 ただし、問題は、既存のシリコンと統合してダイの上にIII-Vトランジスタを作ることができるかどうかにあるという(InSbだけを使った半導体はすでに製造が行なわれている)。この化合物半導体は、2015年ぐらいに利用される技術の1つとして研究が行なわれている。

電子が高速に移動できるInSbを使ってトランジスタを構成するIII-Vトランジスタ III-Vトランジスタは、シリコントランジスタの3倍の速度で消費電力が1/10になるという

現在Intelが考えている半導体のロードマップ。2011年までは、現在の延長でプロセスルールの短縮が行なわれるが、その後は、カーボンナノチューブなどの新技術が導入される

 これらを含めたIntelのトランジスタロードマップによれば、2011年ぐらいまではトライゲートトランジスタなどを取り入れつつ、既存のシリコン技術でプロセスルールを縮小していくが、2013年以降には、前述のカーボンナノチューブなどを使ったトランジスタが登場する予定だという。

 また、カーボンナノチューブは、現在金属を使って行なっているデバイス内のインターコネクトにも採用する可能性があるという。このため、カーボンナノチューブを正しい場所に配置する技術やカーボンナノチューブ自身が正しい場所に到達する(Self Align)ための研究を行なっているということだ。

 さらにその先、2020年以降は、電子を使う半導体は限界に到達してしまう。5nm程度がトランジスタを構成する限界のサイズであり、0.54nmがシリコンの結晶構造の最小サイズとなる。つまり、このあたりにくるともはやシリコンでトランジスタを作ることができなくなってしまう。

CMOSやシリコンによるトランジスタを構成することが不可能なサイズにまで半導体技術がすすむと、今度は、電子のスピンを使って信号を伝達するようになるという

 そこで最近注目されているのが“SPINTRONICS”と呼ばれる分野である。電子には、質量、電荷という性質に加えスピンという性質がある。イメージ的には「回転」なのだが、機械的な回転ではなく、磁界に対しての反応から仮想的な回転運動を考えたもの。コマには、右回りと左回りがあり、これは軸をどう動かしても同じ動きにならないように、電気の+(プラス)と-(マイナス)、磁石のNとSのように回転運動には、右回りと左回りの2つの種類がある。量子力学では、質量などと同じく粒子の性質の1つとしてスピンがあるとされている。

 電子に磁界をかけると電子が力を受けることが発見されたが、これは、電子自体が回転しているため。電子の回転が磁界を産み、そのために周囲の磁界から力を受けるというわけである(磁石同士を近づけたときの反発力などと同じ)。

 発生する磁界の向きは、電子の回転方向により違うため、スピンでは、これを上向き、下向きとよんで区別する。磁束はN極からS極へ向かうとされているため、回転方向と直交する回転軸上でこの磁束の方向を上向き、下向きと見るわけだ。

 さて、Intelが紹介したのは、このスピンを使ってトランジスタのような構造を実現することである。簡単にいえば、磁界を制御することで同じ方向を持つ粒子の動きを制御することができる。このようにスピンを使い、エレクトロニクスのような技術を実現することをSPINTRONICSと呼ぶ。現在のトランジスタは、電子の電荷を使って信号を伝達しているが、SPINTRONINCSでは、電子のスピンで情報を伝達する。

 Intelでは、CMOSが構造的に不可能になる2020年以降には、このSPINTRONICSを採用しようと考えているようだ。

□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spring2005/systems/

(2005年3月2日)

[Reported by 塩田紳二]

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