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NVIDIAが作るPS3メディアプロセッサのアーキテクチャ




●比較的推測が簡単なXbox2のGPU

 ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCEI)は、次世代PlayStation(PlayStation 3?)のグラフィックス処理を担当するチップの開発を、NVIDIAが担当していることを明らかにした。NVIDIAは、現在、このチップの完成に向けて急いでいると見られる。しかし、今のところ、このNVIDIAのPS3メディアプロセッサの正体は全く知れていない。

 「(PlayStation 3向けの)次のGPUは、カスタムGPUになる。PC向けのものとは異なる。GeForce 6(NV4x)を超えるアーキテクチャをベースにしたものになる」

 NVIDIAの社長兼CEOのJen-Hsun Huang(ジェンセン・フアン)氏は、「PS3向けメディアプロセッサがNV50ベースか」という質問に対して、このように答えた。

 実際、NVIDIAはNV50のスケジュールをずらして、PS3チップにつぎ込んでいる。PS3に膨大な開発リソースを割り当ていることは確かで、アーキテクチャ的にも大きく変革される可能性はある。世代的には、ちょうどNV4x系とNV5x系の間に挟まる形となる。

 不明瞭な部分が多いPS3メディアプロセッサに対して、Xbox2向けGPUの方は比較的類推がしやすい。Microsoftが求めているのはDirectXハードウェアだからだ。ATIは、R500をXbox2用に開発し、R520をPC向けに2005年第2四半期に投入しようとしている。この両チップは、コードネームからもグラフィックスコアの基本アーキテクチャに共通性があると見られる。

 Xbox2チップではアーキテクチャも、ある程度推定できる。まず、DirectXが、次世代OS「Longhorn(ロングホーン)」まで足踏み状態にあるため、Xbox2のアーキテクチャ拡張も、現在のDirectX 9世代チップからそれほど大きくは飛躍しないだろう。DirectX 9 Shader Model 3への対応は当然で、それ以外の拡張要素もあると言われているが、ラディカルな拡張は行なわれないと見られる。

●ジオメトリ処理はどちら側に?

 NVIDIAのPS3メディアプロセッサのGPU部分についての、根本的な疑問は、このチップがレンダリングチップなのか、それともフルの3Dパイプラインを備えたチップなのかという点だ。

 振り返って見るとPS2ではSCEIは、ピクセル側の処理はGPUであるGraphics Synthesizerで行ない、ジオメトリ処理は、CPUであるEmotion Engineに内蔵するフルプログラマブルなベクタ演算ユニット(VU)で行なう方式を取った。VUは汎用に使うこともできるが、多くのケースではジオメトリ処理に使われている。

 では、PS3はどうなるのか。3Dグラフィックスパイプの下半分、つまり、ピクセル処理は特化したハードウェアの重要性が高いために、GPUであるNVIDIAのメディアプロセッサで処理することは確実だ。問題は、ジオメトリ処理をどちらに振り分けるのか。ジオメトリ処理はストリームプロセッサを備えたCPUであるCellプロセッサでもそれなりの効率で可能であるため、2つのパターンが考えられる。(1)NVIDIAのメディアプロセッサ側にジオメトリパイプも備える、(2)NVIDIAチップはピクセル側の処理だけに止めて、Cell側でジオメトリ処理を行なう。

 この件については、まだ情報はない。しかし、メディアプロセッサがNVIDIA設計だと判明した時点で、ジオメトリパイプもメディアチップ側にある可能性がぐんと高くなった。

 そもそも、SCEIがNVIDIAの設計能力を最大に活用しようとするなら、ジオメトリパイプについても豊富な技術蓄積を持つNVIDIAに任せた方が得策だ。DirectX 9世代以降は、GPUも高いプログラム性を備えるようになっているため、その点でもCell側にジオメトリ処理を持ってくる必然性は薄れる。

 NVIDIAやATIといったGPUベンダーのGPUは、パフォーマンス/ダイエリア(半導体チップの面積)が非常に高い。これは、3Dグラフィックスに特化したハードウェアを備え、ストリーム処理に特化したパイプラインを持つからだ。そのため、CellベースでGPUを作るよりも、よりパフォーマンス/ダイエリアが高くなる。

 また、NVIDIAは、ちょうどSCEIとの関係が始まった頃から、Programable Shader(GPUのプログラマブル演算ユニット)での汎用コンピューティングや、Vertex Shader(頂点処理を担当するShader)とPixel Shader(ピクセル/テクスチャ処理を担当するShader)の間でのロードバランシング的な利用といった展望を語り始めた。そのために、パイプラインを通しての32bitの内部演算精度などの重要性を強調していた。このことは、PS3メディアプロセッサでも、現在のNVIDIAアーキテクチャの方向性が受け継がれ、Vertex ShaderとPixel Shaderの両方が載る可能性が高いことを示唆している。

 一般的な半導体の制約を考えても、3Dパイプはワンチップにまとめた方が合理的だ。それは、相対的に、チップ内のプロセッシング能力の方が、バス帯域より伸ばしやすいからだ。もっとも、PS3の場合はチップ間インターフェイスにRambusの狭幅パラレル伝送技術「Redwood」技術を使うと見られる。16bit幅のRedwoodなら12.8GB/sec、32bit幅なら25.6GB/secの帯域を達成できる(PCI Express x16の1.6〜3.2倍)ため、他のアーキテクチャよりは、この問題は小さい。

●SCEIは汎用コンピューティング性能の強化に向かう

2002年のGDCで公開された岡本氏のプレゼンテーション
 SCEIが向いている方向性を考えても、メディアプロセッサ側にフルのGPU機能があると考えた方が論理的だ。それは、PS3世代では、SCEIがCPU側のパフォーマンスを重視しているからだ。

 SCEIは、2002年3月の「GDC(Game Developers Conference)」で、PS3世代のパフォーマンスニーズについて説明した。当時SCEIの常務兼CTOだった岡本伸一氏が、キーノートスピーチで説明したものだ。それによると、PS2ではゲーム開発者はリアルタイムCGを求めたが、PS2を発表後に行なったゲーム開発者とのミーティングでは方向性が変わったという。開発者たちは、第3世代機にはグラフィックスよりも、むしろシミュレーションのためのパフォーマンスを要求したと岡本氏は説明していた。

 このことは、PS3では、非常に高いCPUパフォーマンスの実現が目標になっていることを意味している。それだけ汎用プロセッシングに多くのシリコンエリアを割くだろうということだ。つまり、SCEIのフォーカスは、今回はグラフィックスよりも、汎用プロセッシングのためのCPUに向かっていると考えていい。

 PS2では200平方mm以上のダイサイズ(半導体本体の面積)の2つのチップのうち、Graphics Synthesizerの全てとEmotion Engineの半分を、グラフィックス処理に費やし、汎用プロセッシングに使えるリソースは限られていた。つまり、PS2ではシリコンの多くがグラフィックス処理につぎ込まれていたわけだ。

 だが、PS3では、おそらくこの比率は汎用コンピューティング側へと大きく偏る。SCEIがPS3では半分のリソースを汎用コンピューティングに費やそうとしているなら、メディアプロセッサがグラフィックス処理、Cellがそれ以外の処理と切り分けるのが理にかなっているように見える。どころか、メディアプロセッサ側でもShader上で、汎用のコンピューティングができるようにするとすれば、汎用に使えるリソースはますます大きくなる。

●NVIDIAにとっての利点

 まだ謎に包まれたNVIDIAのPS3メディアプロセッサ。NVIDIAは、このチップの開発に、膨大なリソースをつぎ込んでいる。しかし、それだけの見返りは期待できそうだ。このSCEIとの提携が、NVIDIAにとって経済的な要素以上の利点があるからだ。それは、よりチャレンジャブルな技術の経験を積むことができる点だ。

 ゲーム機ベンダー3社のなかで、もっともアグレッシブなアーキテクチャを取って来たのがSCEIだ。MicrosoftがPCの技術手法をゲーム機に持ち込み、任天堂が玩具としてのコストパフォーマンスを追求するのに対して。SCEIは、ゲーム機を新しいコンピューティングプラットフォームと成立させようと、斬新なアプローチをとり続けて来た。

 だから、GPUベンダーが組む相手としては、SCEIが一番ハードルが高い。だが、その反面、最も技術的な蓄積ができる相手でもある。特に、PCグラフィックスだけを開発しているとできない冒険ができる点が大きい。

 例えば、Cellがチップ間インターフェイスに使うRedwoodは、パラレル系インターフェイスでありながら最高6.4Gbps/pinの転送レートを実現するアグレッシブな技術だ。NVIDIAはその実装の経験を積むことができる。またRedwoodは、Rambusの次世代DRAM技術「XDR DRAM(Yellowstone:イエローストーン)」のインターフェイスとも親和性が高い。両インターフェイスは実際にはほとんど同じであるため、NVIDIAのPS3メディアプロセッサが、XDR DRAMのインターフェイスを持っていてもいなくても、NVIDIAはXDR DRAMのインターフェイスの実際を学ぶことができる。

 NVIDIAチップがXDR DRAMインターフェイスを搭載していた場合には、NVIDIAはもっと直接的にこの新メモリとそのインターフェイスについて研究することができる。PC向けグラフィックスだけをやっていると、全く互換性のないDRAMインターフェイスの実装はリスクが大きすぎて、なかなかできない。NVIDIAは、自社のリスクを避けながら、エクササイズすることができる。もちろん、GPU内部のマイクロアーキテクチャについても同じことだ。

 NVIDIAは、PS3メディアプロセッサ向けに開発した技術を、(契約上問題がなければ)自社の他の製品に還元することができるだろう。「XboxはNVIDIAにnForceをもたらした。nForceは、実質的にXboxでの技術が反映されている。今回のソニーとの開発も、我々に新しい機会をもたらしてくれると考えている」とあるNVIDIA関係者は言う。NVIDIAにとっては、今は蓄積の時なのかもしれない。

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【12月20日】【海外】65nmプロセスで製造されるPS3メディアプロセッサ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1220/kaigai142.htm
【12月15日】【海外】なぜPS3のメディアプロセッサはCellではなくNVIDIAなのか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1215/kaigai141.htm

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(2004年12月27日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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