元麻布春男の週刊PCホットライン

手探りの「Windows Media Player 10」




●WPC EXPO講演で異例の発表

異色の発表会に合わせたのか、カジュアルスタイルで登壇した古川享 最高技術責任者
 台風23号の接近による悪天候の中、10月20日からWPC EXPO 2004がスタートした。初日の午後に行なわれたマイクロソフトの古川享 執行役 最高技術責任者によるキーノートスピーチで、「Windows Media Player 10」ならびに「Windows Media Center Edition 2005」が正式発表された。

 同時にWindows Media Player 10に対応した音楽配信サービスであるMSNミュージックと、「Microsoft Windows Mobile software for Portable Media Centers」(Portable Media Center)の発表も行なわれた。

 キーノートで最初に紹介されたのはWindows Media Playerの最新版であるWindows Media Player10だ。これまで新しいWindows Media Playerが発表された時には、必ずといっていいほど音質や画質について語られたのに、不思議なことに今回はそうした品質やCODECに関する話は一切なし。改良点として語られたのは、操作性の向上や、外部ポータブルプレーヤーとの連携向上、音楽や映像コンテンツを販売するオンラインストアにMedia Playerの中からアクセスできるようになった、といった点だ。

 特に力が入れられていたのはオンラインストアの充実ぶりで、マイクロソフト自身による「MSNミュージック」以外に10社(計11社)がWindows Media Player10のオンラインストアへの参加を表明、そのうちの1社であるレーベルゲートの高堂学社長が壇上に招かれた。同社はこれまで著作権保護技術のOpenMGと音声圧縮CODECのATRAC3を組み合わせた音楽配信サービスであるMoraを展開してきたが、Windows Media Player 10に合わせて、著作権保護技術にWindows Media DRM9、音声圧縮CODECにWMAを採用したサービスとしてMusicDropを展開すると発表している。

Windows Media Player 10の発表。通常のPowerPointを使ったプレゼンテーションではなく、2台のプロジェクターを複雑に駆使した横長画面でのプレゼンテーションだった Windows Media Player 10に対応したポータブルプレーヤーの多彩さを強調する古川氏 Windows Media Player 10のオンラインストアに参加する11社。現時点で、まだサービスを開始していないところもある

レーベルゲートの高堂社長と音楽配信の未来について語り合う古川氏 Windows Media Player 10の特徴。前バージョンまでと異なり画質や音質へは言及されていない

●ぬぐいきれない不統一感

 一方、Windows XP Media Center Editionの発表においても強調されたのは、搭載するEPGの使いやすさ(2台のTVチューナが内蔵可能になることで、裏番組の録画も簡単にできることなど)や、写真のトリミングが簡単にできる、といった点。このOSを搭載したPCの紹介等は一切行なわれなかった。マイクロソフトが新しいOSを発表する際に、それを搭載した最終製品の紹介をしないというのは、かなり異例のことだ。

 そもそも製品発表を基調講演の形で行なうというのも変わったスタイルで、通常の製品発表会とは形式が異なるため、個々の製品の詳細については、今でも不明な点が多い。キーノートの後に行われたQ&Aセッションでも、まずそれぞれのプロダクトの担当者を紹介すると同時に、古川氏が自ら先にいくつかのクリティカルな質問をする形で、取材者の機先を制されてしまった。

 不明な点の代表格は、なぜ今回のWindows Media Player 10がWindows XPにしか(少なくとも今のところ)提供されないのか、ということだろう。今回Windows Media Player 10におけるオンラインサービスを表明しているサードパーティのほとんどは、Windows Media Player 10のみのサポートとなっている(MSNミュージックはWindows Media Player 9のサポートを行なう)。Windows Media Player 9がそうであったように、Windows 2000などほかのOS向けになぜ提供されないのかの説明はない。オンラインサービスとは関係ないが、Windows Media Player 10では、MP3のエンコードが復活しており、利用したいというユーザーもいるのではないかと思われるのだが。なお、Windows Media Player 9にはデバイスにコンテンツを転送する際に問題があり、Windows XPユーザーにはWindows Media Player 10へのアップグレードを、その他のOSのユーザーにはパッチを当てることが推奨されている。

 このサポートするWindows Media Playerのバージョン1つとっても差異があるように、Windows Media Player 10のオンラインストアが提供するサービスやサポートは、必ずしも一致していない。たとえばユーザーなら気になるライセンスの再発行、OSの再インストールやハードウェアの変更時の対応、携帯プレーヤーに対するコピーの回数制限などは、配信ベンダ(オンラインストア)それぞれの判断にゆだねられている。これでは入り口は1つでも、売り場ごとにレジが異なる市場のようで、集合レジが用意されたスーパーに比べると利用しにくいのではないだろうか。マイクロソフトは、オンラインストアだけでなくポータブルプレーヤーも複数のベンダの製品を選べることをメリットとして挙げるが、それぞれの製品で使い勝手も異なるわけで、必ずしもメリットばかりではない。1つの統一されたフォーマット、1つの操作性に統一することには是非があるが、極めてPC的というか、非家電的なアプローチで分かりにくいと思う。

●結局、ユーザーは便利なものを選ぶ

Windows Media Player 10で復活したMP3によるエンコード機能。DRM情報を持てないMP3フォーマットを選択すると、「取り込んだ音楽を保護する」のチェックボックスがグレーアウトするが、WMAでもデフォルトは保護しないに変更されている
 実はWindows Media Player 10とWindows XP Media Center Editionの発表の間に、Digital Image Pro 10を用いて、複数のデジタル写真をBGM付のフォトストーリーにまとめる、というデモがあった。これをメールにアタッチすることの可能性にも言及されたのだが、現在のWindows Media Player 10のオンラインストアで購入した音楽ではこれはできないし、著作権者が許諾しない限りやるべきでもないだろう。このことについて、現在のDRM技術は、たとえば最初の45秒だけは誰かにあげても良いとか、期限を限定して再配布を認めるとか、柔軟な処理が可能になっており、著作権者がそうしたことを承諾すれば可能である、という説明があった。

 しかし、ユーザーにとって重要なのは、今お金を払ってできることとできないことであって、将来のDRM技術が可能にすることではない。CCCDが廃止されても、すでに手元にあるCCCDが普通のCDになるわけでも、普通のCDと交換してもらえるわけでもないように、将来高度なDRMのサポートが行われたとしても、すでに購入したコンテンツの制限が変わるとは思えないからだ。たとえ高度なDRMが可能になったとしても、DRMによる制限の異なるデータを管理していく面倒くささを考えると、はっきりいって筆者は敬遠したいと思う。結局、CCCDが廃止せざるを得なくなったように、DRMの扱いももっと柔軟で単純なものに統一しないと、いつまでもDRMのないMP3が標準として残っていくのではないだろうか。

□関連記事
【10月20日】【WPC EXPO 2004会場レポート1】WMP10/MCE 2005発表(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20041020/wpc02.htm
【10月20日】マイクロソフト、「Windows Media Player 10」日本語版を公開(BB)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/7136.html
【10月20日】クリエイティブ、20GB HDD搭載ポータブルAVプレーヤー(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20041020/creative.htm

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(2004年10月20日)

[Reported by 元麻布春男]


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