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Williams F1をサポートするIT技術
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F1ボディに輝くHPの巨大なロゴ |
10月8~10日 開催
今週末、三重県の鈴鹿サーキットで開催中のF1日本グランプリ。台風の影響で土曜日の予定はすべてキャンセルされる異例の事態となっているが、やはり雨模様だった金曜日フリー走行のセッションでは、少ない周回数、ヘビーウェットの状況下から少しでも良いデータを得ようと各チームは懸命に作業を進めている。
今回の鈴鹿は土曜日の予定がキャンセルされたことで、ヘビーウェットの木曜日に集めたわずかなデータと過去のデータ蓄積から分析を行い、日曜日の予選と決勝で使うセッティングやタイヤ選択、レース戦略の立案を行わなければならない。今年のルールでは予選と決勝の間にセッティング変更は行なえず、ドライ路面でのデータもないため、チームは難しい判断を迫られている。
そうした状況の背景で使われているのが、コンピュータである。HP-BMW Williams F1チーム(以下ウィリアムズ)の例を取り上げながら、IT技術とF1の関係をお伝えしたい。
●日に3.5GBのデータを収集/分析
よく知られているように、F1カーには多数のセンサーが埋め込まれ、高速無線技術でピットへとリアルタイムにクルマの情報を送信するテレメトリシステムが使われている。ウィリアムズチームのピットで、整備中のF1カーを注視すると、目に見えるところだけでも、非常に多くのセンサーが取り付けられていることがわかる。たとえば排気管の温度センサーはシリンダーから排気直後の部分にシリンダー数分だけ取り付けられ、さらに集合部に別のセンサーが付けられているといった具合だ。もちろん、エンジン内部の状況やステアリングの角速度、ブレーキ踏力やアクセル開度など、見えないセンサーもたくさんある。
総センサー数は明らかではないが、ウィリアムズチームによると、通常、ドライ路面でのフリー走行日は3.5GB分ものデータが収集されるという。収集されたデータは、ほぼリアルタイムで分析しながらパドック内のディスプレイにリアルタイム表示されるが、同時に衛星回線を通じてイギリスのウィリアムズファクトリーに送信。ファクトリー内にあるHP製スーパーコンピュータでも分析が行われる。
収集した結果は即サーバやファクトリーのスーパーコンピュータで分析され、ドライ バーとの戦略ミーティングで活用され |
コンピュータはさまざまなモータースポーツにおいて、パフォーマンス向上に欠かせないツールとなっているが、F1で使われているITシステムの規模は桁外れだ。他カテゴリでは予算の関係、あるいはコスト削減のためルールによって、ITシステムの規模は制限されているが、F1に限ってはそのタガが完全に外れているという印象である。同じトップフォーミュラでも、米国のインディカーとはその点において全く違う別物だ。
グランプリを転戦するごとに持ち運んでいるデータ分析用のサーバは、可動式の19インチラック9本に収められている。ラック内には2UサイズのデュアルXeon搭載HP ProLiantサーバ「DL360」が3台装着され、ラック内で3ノードのクラスタリングでシステムを構成している。OSはLinuxベースで独自の分析アプリケーションを動かす。全27台の構成だ。
これらサーバのパフォーマンスは、テレメトリデータの分析ではより複雑な分析を行え、戦略シミュレーションではより多くのプランを比較しながら検討できる。もちろん、絶対に落ちない、高い信頼性が求められることは言うまでもない。
ちなみにイギリスにあるウィリアムズのファクトリーにある車体設計、空力設計部門で使われているコンピュータもHP製。HPがスポンサーを行う前と現在では、そのパフォーマンスは10倍にも向上し、テスト結果を反映させた素早い再設計、空力シミュレーションなどを行えるようになった。
たとえばウィリアムズチームは今年前半、フロントノーズのデザインがはずれ、成績低迷の理由にもなっていた。しかしシーズン中に新しいノーズデザインに変更され、実戦でも良い結果が出ている。流体シミュレーションに時間がかかっていた数年前なら、こうした再設計も間に合わなかっただろうとウィリアムズチーム関係者は話す。「流体コードの実行に少し前まで1晩から1日かかっていたのが、今では1時間ほどで完了するため開発スピードが著しく向上した」と話す。
【お詫びと訂正】初出時にサーバーのCPUをItaniumと記載しておりましたが、Xeonの誤りでした。お詫びして修正させていただきます。
●多用される高速無線技術
アンドリュー・コリス氏 |
HPでF1チームのスポンサーシップを担当しているディレクターのアンドリュー・コリス氏によると、いかに多くの情報を短時間に取り込めるかが勝負だという。リアルタイムに受信できる情報量が多いほど、その分析精度も上がり、高いコンピューティングパフォーマンスを活かして即時性の高いフィードバックができる。
またピット内には多くのスタッフが行き交っており、余分なワイヤリングはトラブルの元にもなりかねない。F1カーとピット、スタッフが使うコンピュータはもちろん、“アイランド”と呼ばれるホームストレートとピットロードの間のエリアに設置された機材とサーバの間など、様々な場所で高速ワイヤレス技術が使われている。
例を挙げれば、エンジンチェックのためにワイヤレスでつながったノートPCから無線でマシン搭載のエンジンをコントロール。規定のシーケンスで動かし、その間のデータはワイヤレスでラップトップにダウンロードされ、その場でエンジン状態の分析結果が表示されるといった具合だ。
もちろん、そこには高いセキュリティ技術が必要となる。コリス氏は「細かな技術的な話はできないが、一般に企業では用いられないレベルの高いワイヤレスセキュリティ技術が用いられている。ワイヤレスは多くのメリットをもたらすが、セキュリティの確保は必須事項だ。そこにも我々の技術を活かすことができる」と話す。
パドッククラブでVIP接待用に設置されているHPの小型ダイレクトプリンタ |
また、興味深いことにHP、ウィリアムズチーム、両関係者はともにプリンタ技術の重要性も訴えていた。日に3.5GBものデータを分析した結果は、もちろんディスプレイ上に表示される様々なチャート、グラフでも確認できるが、ドライバー/スタッフのミーティングで戦略を練る際には、大判サイズの用紙に印刷された見通しの良いプリントアウトが不可欠だという。
HPが販売している小型のフォト専用プリンタも、VIPを招待するパドッククラブで活躍する。F1チームが活動する上でスポンサー、そしてスポンサーが招待するVIPとの関係は非常に重要だ。そうしたスポンサーのVIPを招待するパドッククラブで撮影された記念撮影やドライバーとのスナップを、その場で写真用紙にダイレクトプリントして渡すなどの接待にも使われている。
●HPがF1スポンサーをつとめる理由
かつてF1のスポンサーと言えば、タバコブランドというのが相場であった。現在でも、その基本路線は変わっていないが、2006年からはタバコ広告規制が欧州全体で施行される。世界的なタバコ広告禁止の流れから、F1チームは脱タバコブランドを目指さなければならないが、その中でもウィリアムズは、早くから脱タバコブランドを果たした。今年のメインスポンサーはHPとAllianz(アリアンツ・保険会社)である。
HPとウィリアムズチームのスポンサーシップは、今年で5年目を迎えているが、コリス氏によるとこの契約はすでに延長することで合意し(契約年数は未公表)、今後も当面の間は両者のパートナーシップが続くことが確認されている。
佐藤琢磨が駆るB・A・R。この日本GP以降、来年いっぱいまでEPSONがサポートすることになった | マクラーレンはSun Microsystemsがサポート | フェラーリにコンピューティングパワーを提供しているAMD。この日、豪雨の中でシューマッハはトップタイムをマーク |
F1全体を見渡してみても、HPのF1への投資規模はテクノロジ業界でもっとも大きなものだ。F1が世界200カ国で放映される高い人気を誇っているという事実があるにせよ、果たして投資に見合うだけの価値を得られているのだろうか? もちろん、得られていなければ、契約を更新することはなかっただろう。
HPは'98年のフランスワールドカップでスポンサーをつとめ、やはり非常に多額の投資を行なったことがある。しかし、ワールドカップのスポンサーシップはたった1回で終わり、その後はワールドカップをスポンサーすることに興味がないと話していた。
「サッカーはもちろん、世界でもっとも人気のあるスポーツです。しかし、我々はパートナーシップによってHPの技術力をアピールすることを求めています。F1で、我々は自分たちの製品力や技術力をアピールできる。さらに新興市場(中国や中東)での開催が加わり、HPのプレゼンスを示す格好の場になっている」とコリス氏。
実際、テクノロジ企業のF1スポンサーは拡大傾向だ。フェラーリのAMD、マクラーレンのSum Microsystemsなどの例がある。またトヨタの車体設計、空力設計用のコンピュータをIntelがサポートしている事も広く知られている。スポンサー内容の詳細は不明だが、日本グランプリ前にはセイコーエプソンもB・A・Rのスポンサーに名を連ねた。
テクノロジ分野での戦いが激しい上、新興市場での認知向上が著しいF1の現場が、IT企業の求める方向とピタリと一致しているということだろう。今年はMicrosoftも、F1チームのスポンサーになることを模索しているとのニュースも流れた。コスト高騰と将来的なタバコスポンサー離脱に悩むF1界。あるいはスポンサー問題を救うのは、IT業界になるのかもしれない。
□ウィリアムズのホームページ(英文)
http://bmw.williamsf1.com/
□日本HPのホームページ
http://welcome.hp.com/country/jp/ja/welcome.html
□鈴鹿日本GPのホームページ
http://www.suzukacircuit.co.jp/f1/
(2004年10月9日)
[Reported by 本田雅一]