デジタルカメラ 新製品レビュー

バックナンバー

タムロン SP AF200-500mm(モデルA08)



 株式会社タムロンから8月1日に発売された超望遠ズームレンズ200-500mmを試用する機会ができたので、レポートしよう。デジタル対応の超望遠レンズで、コストパフォーマンスが魅力だ。特にAPS-Cサイズの撮像素子を使ったデジタル一眼レフに装着すると、約320-800mmの画角にもなり、その魅力は一層大きくなる。

●概要

 SP AF200-500mmF/5.6-6.3 Di LD[IF](モデルA08)は、AF200-400mmF/5.6LD[IF](モデル175D)の後継機で、望遠側を500mmまで延長させ、デジタル一眼レフカメラ対応するためより高性能にしたのものだ。

 特徴は高い描写性能を得るために、解像力とコントラスト性能を向上させるとともに、LD(低屈折率、低分散)レンズを採用して諸収差を補正していること。その結果、広角側(といっても200mmだが)から望遠側まで、非常に抜けがいいものとなっている。また、使いやすさを考えて軽量化を図り、レンズ鏡筒に寸法安定性と充分な強度を持つエンジニアリング・プラスチックを採用して、本体の重さを1,225gに抑えている。

 その他にも、フィルター・エフェクト・コントロール(FEC)のアダプターを標準装備しており、使用頻度の高いPLフィルターの使用時にフードを装着しても、簡単に回転させることができるのも便利だ。またマグネシウム合金製の着脱式三脚座も標準装備しており、三脚使用時の操作性も、もちろんよい。

 望遠系レンズでは、特性から最短撮影距離が長くなるが、このA08の最短撮影距離はズーム全域で2.5mと短く、小さな花を大きく撮影できるので、撮影対象の幅が拡がっている。合わせて、希望小売価格が136,000円、実勢価格で110,000円前後(いずれも税込み)というのも大きな魅力だ。

●使用感

ズームリングは回転式

 使用感を準備から撮影までの手順でお話しよう。まず持ち運びだが、中クラスの大きさのカメラバッグ(長さ40cm、幅20cm、高さ20cm)にカメラともども収まり、小さなレンズならあと1~2本程度入る余裕があった。もちろん重さもそれほどでなく(今回は、三脚を除いたカメラバッグだけで4kg弱)、肩への負担は少なかった。

 現場に着いて、このクラスの望遠レンズは、装着するとレンズ側が重たくなってフロントヘビーになって取り扱いが大変なのだが、そのようなこともなかった。もちろん三脚へ取り付けたが、三脚座はマグネシウム合金製なので、きつく締めるのも安心であった。フレーミングをするときも、レンズ側の三脚座がちょうどいい重量バランスの位置にあるようで、自由雲台を使っている私には、スムースな動きであった(ただし、いくら軽いからといっても、3kg弱の重さが掛かるので、それなりの三脚は必要)。

 被写体に向けてのズーミングだが、回転式で回転角度も90度程度で、三脚に付けてからでも操作はしやすかった。このズームリングが軽かったり重かったりすることはよくあるが、適度に粘りけのあるものであった。

●機能面はどうか

 レンズにはフード、フィルター、三脚座など、カメラほど多くはないがレンズの性能をよりよく発揮するためのアクセサリーがある。

 フードは、太陽光など強い光がレンズの前玉に当たってフレアなどを起こすのを防止するのが目的で、もちろん長いほうが効果が大きい。A08のものは約15cmほどあり、カッコはともかくフードとしての役割は大きく果たしてくれる。

 このA08は、フィルター・エフェクト・コントロール(FEC)のアダプターを標準装備している。昨今、使われることの多いPLフィルターは、2枚1組になっていて前枠を回転させることによって効果をコントールできるが、フードを装着すると操作性が悪くなっていた。このFECはPLフィルターの前にフードを装着しても、フィルター装着部の周りを回すと、PLフィルターの前枠を回転できる機構で、ちょっとしたことなのだが、便利な機構だ。

 三脚座は、高剛性のマグネシウム合金製で脱着可能だが、望遠500mm側を手持ちで撮影しようとする人は少ないだろう。このクラスのレンズとしては比較的軽い1,225g弱ではあるが、三脚使用は必須と考えてよい。特に500mmでは画角が5度と狭く、ちょっとしたことでもブレるので、三脚そのものもしっかりしたものが要求されるし、三脚を使ってもケーブルレリーズを使わないで、カメラのシャッターボタンを押すとブレることも十分にある。

長めのフードが付属する 三脚座はマグネシウム合金製

●最短撮影距離は2.5m

 マクロレンズでは30cm前後、広角レンズでも被写体に近寄って撮影することが可能だ。逆に広角レンズは、性能から被写体を大きく撮影にはよほど近寄らないとできない。望遠レンズは遠くのものを大きく撮影することは可能だが、焦点距離が長くなるほど近接撮影は難しい。

 A08はズーム全域で最短撮影距離は2.5mであり、マクロレンズには及ばないものの、小さな花などを大きく撮影することが可能だ。公園などの花壇では立ち入り禁止が多く、奥にある花の撮影は難しいが、このレンズがあればそんな花も撮影可能だ。

 現在の標準レンズともいえる焦点距離28-300mmの高倍率ズームは、おおむね最短撮影距離は50cmと短い。我々にとって、すでに望遠レンズは一部の人だけが使うものではなく、誰もが使うレンズとなってきた。ユーザーにとって単なる望遠レンズは当たり前、もっと使える望遠レンズと何だろうと考えると、まず性能面では最短撮影距離の短縮であろう。そのような中で、500mm側で2.5mまで近寄れるのは、他の500mm級レンズの最短撮影距離が4~5mなのでポイントが高いと思う。単純計算では約2倍の大きさで撮影できるわけだ。

●大迫力の望遠側

以降に掲載する作例のリンク先は、特に記載がない限り、撮影した画像データそのものです(ファイル名のみ変更しました)。縦位置のものは、サムネールのみ回転していますが、拡大画像はあえて回転せずに掲載しています。クリックすると撮影したの画像が別ウィンドウで表示されます。
青梅線西立川駅のホームから撮影した列車。列車は10両編成で長さは200mあるが、架線柱と同様に圧縮効果で短くなっている。隣りの東中神駅までは約800m、その次の中神駅までは1.7kmあるが、このレンズで覗いていたらそこまで見えた。またほかコマだが、5分後に来る後続列車が写っており、このレンズの迫力を感じた
500mm、1/250、F8、-0.5段補正

 この魅力あるA08を、キヤノンEOS10Dに装着して撮影してみた。撮像素子がAPS-Cサイズなので、単純計算で320~800mm前後相当(1.6倍計算)のズームレンズと同等の画角になる。折角のチャンスなのでRAWモードで撮影したが、本ページへはEOS10D付属のソフトを使って現像、加工せずにJPEGで保存したものを掲載する。

 望遠レンズは、遠くにある小さなものを大きく写すことができ、同時に圧縮効果によってレンズに対して前後方向が縮んだようになる。そのため鉄道など前後に異常に長いものを撮影するのによく使われる。都市部の列車は概ね6~10両編成で運転されており、その長さは120~200mもあるが、前面部の幅は約3m、高さは約4mなので、まさに異常な形をした被写体で、圧縮効果を使うには最高だ。

 超望遠レンズは長くて口径の大きいものが多く、もちろん重さも3kgを遙かに越えてしまい、持ち運びも困難だ。三脚も大型の重量級が要求される。

【お詫びと訂正】記事初出時、「ズーム全域でF5.6」との記述がありましたが、F5.6~6.3の誤りでしたお詫びして訂正させていただきます。

 望遠側で撮影した作例写真を見ていただければ、おわかりいただけると思うが、非常に良好だと思う。最短撮影距離もズーム全域で2.5mというのも朗報だ。いくら焦点距離が長くても撮影距離が長いと、花などの小さなものを大きく撮影できなくなり、価値が半減してしまう。

 焦点距離、明るさ、最短撮影距離の三拍子揃ったのがこのレンズで、設計者の意欲を感じる。

夏の昭和記念公園。今年の暑さでは何も咲いていないのではないかと思っていたが、ありました。ロープが張ってある花壇の中、それもちょうど2.5mくらいのところに咲いている花を200mm(左上)、300mm(右上)、400mm(左下)、500mm(右下)でそれぞれ撮影。花の大きさは3~4cmなので、だいたいハガキ大の大きさが撮影できる
1/125、F8、-0.5段補正

●ボケはどうだろう

 A08は、ボケ量が多くなるような状況(望遠側、近距離、絞り開放側)で撮影しても、綺麗な状態だった。

 レンズのボケかたには、ボケた部分の形がおぼろげながらわかるものと、ボケた部分がモワァーとして形がわからないものがある。AF一眼レフカメラ用の中望遠クラスのレンズでは、構造上からボケがモワァーとしてしまうものが多くなってきたが、このA08はボケた部分の形がおぼろげながらわかるタイプのボケをしている。広角200mm側を他のレンズと比べてみるとわかるはずで、こらは善し悪しではなく、好みとしてあるいはバリエーションとして楽しめる。

500mm側で距離7~8mほど停留所にピントを合わせて、距離30mくらいにある背景のボケ具合。大きくボケているほうが、絞りを開放側(F6.3)で撮影したもので、形を残しながらボケいるのがわかる。小さくボケているほうが絞りF22で撮影したもので、もちろん葉の形が良くわかる
(左)1/250、F6.3、-0.5段補正 (右)1/15、F22、-0.5段補正
同じく500mm側での前ボケ具合。後ろの街路灯にピントを合わせて、開放側(F6.3)とF22で撮影したもの。手前の街路灯までは10m程度でもちろん大きくボケているのがF6.3で、小さなボケがF22だ。感覚的には超望遠レンズなのでもっと大きくボケるように思われがちだが、レンズ構成から形が全くわからないようなボケはなかなか出てこない
(左)1/45、F5.6、-0.5段補正 (右)1/4、F22、-0.5段補正

●デジタル対応はどうか

触ったら熱かったパイプイス。強い太陽の光をまともに反射しており、デジタル対応でないレンズだと、内面反射でフレアがでてしまうかもしれないが、よく押さえ込まれている
200mm、1/250、F8、-0.5段補正

 一眼レフタイプのデジタルカメラが発売されたあと、レンズにはいろいろと改良しなければならない点がでてきた。撮像素子はそれまでのフィルムと違って反射率が高く、レンズを通して入ってきた光の一部が、この撮像素子で反射して内部反射を引き起こしフレアが多い画像になってしまう。撮像素子周辺では、光の当たり方から周辺光量落ちのような現象が現れる。レンズの収差がフィルムと比べて大きく出る。などなどフィルムカメラではなかったような現象が出るようになった。このためメーカーではいろいろな対策を施し、タムロンではDi仕様と称している。このA08ももちろんDi仕様で、デジタルカメラにも安心して使え、またフィルムカメラにもよりよく使える。

 意地悪テストではないが、この暑い夏の強い太陽の反射を撮影してみた。デジタル対応ではないレンズを使うと、フレアが少し現れて画像全体がやや白っぽくなったりする。また葉の表面が太陽光を受けて、小さいが強い反射をしていると、その光っている部分の周りがフィルムでいうイラジュエーションのように白っぽくなることがある。比較の対象があるわけではないが、このA08ではフレアがかかったように白くなることもないし、イラジュエーションのようになることもなく、よく内面反射が抑えられていると思う。もちろん長めのフードが活きていることもその要因のひとつだと思う。

●まとめ

 とにかく200-500mmが136,000円というのも驚きだが、画質や最短撮影距離の短さなど不満はなかった。超望遠レンズというと、大きさや重さから構えて使うことが多かったが、このA08は気軽に使える。ここがポイントであろう。4日間程度の短い借用期間だったので、不満な点を見いだすまでは至らなかった。とはいっても200カット前後の撮影をしており、もし不満点があれば出ていたはずだ。

 このレンズは、特にデジタル一眼レフカメラを使っている人で、鉄道や航空機を主な撮影対象にしている人のみならず、花や風景を撮影対象にしている人にはお勧めのレンズといえる。

□製品情報
http://www.tamron.co.jp/lineup/a08/index.html
□関連記事
【2月12日】【PMA】キヤノンの新製品群や第3のFoveon搭載機など多数展示
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0212/pma02.htm

■注意■

  • 各記事のサンプル画像の著作権は、小山伸也に帰属します。無断転用・転載は禁じます。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。

  • 作例画像は、オリジナルのままです。縦位置のものは、サムネールのみ回転していますが、拡大画像はあえて回転せずに掲載しています。

バックナンバー

(2004年9月14日)

[Reported by 小山伸也]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp
個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.