2004年9月7日~9日(現地時間)
IDFの初日は、最初にIntel社長兼COOのポール・オッテリーニ氏による基調講演が行なわれた。ここでは、デュアルコア製品やVanterpool、WiMAXなど、初公開となる技術のデモンストレーションや、進捗状況の紹介が行われた。 ●現在は成長期にあるコンピュータ/通信業界 オッテリーニ氏の基調講演のオープニングでは、マルチタスクを人間になぞらえたビデオが上映された。ここでは、「人間のプラットフォームは息を吸い、歩き、電話をかけるといった作業をマルチタスク処理できるように最適化されている。しかも人間は移動できる。このことをコンピュータになぞらえてみれば、複数のアプリケーションを同時に実行し、個々の機能が分離、仮想化され、しかもいつでもどこでも利用できる、ということになる。(我々は)これを実現する」という宣言がなされた。 このことを新しいコンピュータの方向性として考えた場合、 まずは、インターネットのバブルがはじけたあとの業界の方向性について述べられた。2000年にピークを迎えたあとにバブルがはじけ、その後2~3年間は業界が低迷を続けてきたが、現在では回復し、新たな、そして持続可能な成長期に入った。これにより新しい製品/技術を開発できる状況にあるとした。 ここで、今後の業界の成長を占うキーポイントとして、3つの大きな推進力が挙げられた。1つは、2003年には無線LANを搭載したノートPCが10%だったのが、2004年には65%、2005年には90%へ達する見込み、という例に代表されるように、無線機能を統合した環境が市場に浸透していることである。これにより、従来とは根本的に違うインターネットコミュニケーションができるようになってきているという。 ちなみに、2004年を境にデータ通信可能な回線が音声のみの電話回線の台数を上回りはじめている。またトラフィックについても、音声は横ばいだが、データ通信は年間56%の成長率で増えつづけている。データ通信はbit単位で課金されるので、ここに収益をもたらす力があるとオッテリーニ氏は主張する。 通信されるデータはデジタル化されるわけだが、これが2つめの推進力である。デジタル化されたデータは18カ月間で2倍のペースで爆発的に増加している。ここで、従来の規模とは違う、新しい閾値を設定する必要があるとした。 例えば、映画なども従来のコンテンツ配信方法では、かの「タイタニック」が7年間で700万人に視聴されたが、これからは1年間に10億人の観客を生んでいきたい。そのために、ブロードバンドをありとあらゆる人々に浸透させ、クオリティの高いコンテンツを提供していこうというのが、同社が考えるプランだ。 そして最後の3つ目の推進力が、30億人の新しいユーザーを育てていくという点だ。'98年に1億5,000万人だったユーザは、2010年には約15億人に増えると予想される。そのなかで、アジア地域で40%、中南米地域で17%と増加率が高い。今後、この地域に受け入れられる製品、サービス、ブロードバンド環境を準備していくとした。 ●プラットフォームの性能を向上させる「T's」 このような業界の成長の要となるのがムーアの法則だという。先週すでに65nmの70Mbit SRAMの製造を発表したように、Intelではムーアの法則どおり、2年ごとに倍の密度でトランジスタ数を増加させている。 しかしながら、20年間に渡りMHz、GHzによって表されてきた性能は、2年前のIDFで示されたとおり、クロックとは違う方法で性能を表す方向へと転換を始めた。その一例がすでに製品として登場しているプロセッサ・ナンバだ。 こうした転換により、Intel社内でも製品の性能をプラットフォーム全体で見るように物事の見方を変えたという。 例えば、以前はプロセッサの中にMMXやHyper-Threadingなどを盛り込んで機能拡張を行なってきたが、現在でははプロセッサ外のところでチップセットにPCI ExpressやHD Audioを盛り込むなどしてプラットフォームレベルでの拡張を図っている。 さらにコミュニケーションシリコン、プロセッサでの通信プロトコルの管理という形で、プラットフォーム全体の機能拡張を行なってきていることからも、そうしたIntelのプラットフォーム化の流れがよく分かる。その典型的な例が、昨年発表されたCentrinoプラットフォームというわけだ。 そして、次に進めるのがデジタルホーム・プラットフォームである。デジタルホーム・プラットフォームは、今年6月にデジタル・リビング・ネットワーク・アライアンスによって、設計ガイドラインの1.0がリリースされ、それに準拠したEntertainment PCは製品の出荷は目前に控えているという。 ここでは、保護したコンテンツを、いかにシームレスに家庭内で利用できるようにするかという問題があるが、それを実現するのがDTCP/IP(Digital Transmission Contents Protection over Internet Protocol)である。DTCP/IPの実現により、これまで1台のPC上でしか視聴できなかったコンテンツが、別のPCでも視聴できるようになる。DTCP/IPをサポートした製品は、最初はNETGEARから登場するほか、6社が協力して推進している。また、Microsoftも将来のWindowsでサポートすることを表明しており、Appleへの協力も要請しているという。
続いて、「人類のため」に使いやすいコンピューティングを実現するために必要とされる技術が紹介された。以前からIntelでは、これらの技術の総称を「T's」と名付けているが、この“T”とは、「Hyper-Threading Technology」、「EM64T」、「LaGrande Technology」、「Vanderpool Technology」、「Intel Active Management Technology」の5つの機能のことである。 Hyper-Threadingはすでにおなじみの機能だが、2004年にはクライアントPCで55%、32bit IAサーバーでは100%の製品にHyper-Threadingが組み込まれているという。EM64Tも周知の技術だ。現時点では主にサーバー向けプロセッサで実装されているが、2005年の64bit対応Windows登場に合わせて、クライアントPCへも導入していく。
LaGrande TechnologyとVanderpool Technologyは、2006年登場予定のLongHornでサポートされる技術だ。このうちVanderpool Technologyは、CPU内をパーティショニングして仮想PCを実現するものである。ここでは、ビジネスアプリケーション、コンシューマアプリケーション、Linux、ITの運用ツールが動作する4台のPCが用意され、これらを1台のPCで動作させるデモが実施された。 最後のIntel Active Management Technologyは、システムの運用性・管理性を向上させる技術だ。ITの運用コストの8割は管理に費やされてるが、シリコンの中に運用機能を搭載することで、コストをゼロにすることができるという。現在、業界全体が使いやすいものにするために、各企業と規格を策定中とのことで、詳細は来年春のIDFで発表される模様だ。 これらT'sのほかに、パフォーマンス改善に欠かせない重要なファクターとして挙げられたのはキャッシュメモリの存在である。i486以降に搭載されたキャッシュメモリで、モバイル向けのDothanコアには2MBのキャッシュメモリを搭載したが、デスクトップ向けCPUでも2MBに拡張していく。 ●ワイヤレスとパラレリズムが大きな転換点に 最初に触れられた3つの課題の最後が、転換点をキーワードとしたもので、ここでは2つの大きな転換点が示された。 1つはワイヤレス技術である。2004年の段階では、ブロードバンドユーザー50%、Wi-Fiの無線LANユーザーが8%とされているが、2008年にはブローバンド帯域が向上し、そのユーザーは70%に、Wi-Fiユーザーが40%にまで増えるという。そしてそれらに加え、新しいワイヤレス技術であるWiMAXが8%まで伸びてくると予測している。 その根拠として、これまでのWi-Fi搭載製品の増加とそれに伴う成長率が示された。今後はCentrinoプラットフォームにもWiMAXを搭載していくので、そのことによりWi-Fiのときと同じようなユーザー数の伸びが期待できるとしている。 ちなみに、1年前にはWiMAX Forumには10社しか参加していなかったうえ、規格化もされていなかった。しかし現在では140社が参加しており、さらにIEEE 802.16の2004年度規格として策定された。 また、すでにIEEE 802.16対応の開発用サンプルボードをすでにOEM向けに出荷しているという。これは「Intel Pro Wireless 5116 Broadband Interface」という名前で製品化される予定で、このほか2005年に登場予定の製品も展示された。このように「我々はすでにWiMAXの時代に差し掛かっている」と謳っているとおり、WiMAXは着実に進捗している印象だ。
もう1つの転換点がパラレリズムである。'81年にIBMから最初のPCが登場したが、これまでにWindowsや、マルチメディアの登場など利用モデルが大きく変化するたびに10倍のパフォーマンスを必要としてきた。 今現在もこの10倍のパフォーマンスアップが求められているときで、オッテリーニ氏は、個人ユーザーでもパラレルプロセッシングが行なえるPersonal Parallel Computingを実現する必要性を訴えた。 それを実現するために登場させるのがデュアルコア技術で、2005年には、デスクトップ、サーバー、モバイルの全セグメントで導入し、2006年にはそれぞれ40%、85%、70%の製品に採用するという。 そして今回のIDFの目玉となる、デュアルコアを採用したItanium2(コードネーム:Montecito)が披露され、4wayのItanium 2サーバーで、16個の論理プロセッサが動作しているデモが実施された。 ただし、これ以外のデモは特に行なわれず、またCPUの詳細についても明らかにされなかった。 また、NASAのスタッフがゲスト登場し、Itanium 2を使ったシステムの事例を紹介した。NASAでは1万個以上のItanium 2を使った、世界最大のスーパーコンピューティングシステムを駆使して世界新記録へ挑戦しているという。これは、ハリケーンの動きなどを分析し、天気を予測することで、災害や事故を軽減しようという試みだという。 最後にオッテリーニ氏は、「デジタル化による恩恵を考え、地球上のあらゆる人たちがデジタルデバイスを使えるようにしていかなければならず、皆さんにも協力をしてほしい」と語った。また、ワイヤレスの接続性向上やパラレッシングコンピューティングなどの技術を提供し、業界に活力をつけていきたいと抱負を語り、講演を締めくくった。
□IDF Fall 2004のホームページ(英文) (2004年9月9日) [Reported by 多和田新也]
【PC Watchホームページ】
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