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日本写真学会、サマーセミナー開催
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パネルディスカッションの様子 |
8月26~27日
社団法人日本写真学会は26~27日の2日間、山梨県富士吉田市において、「サマーセミナー2004」を開催した。
サマーセミナーは同学会が毎年、写真関連の研究開発者や事業に従事する人、写真やデジタルイメージングに興味のある人向けに開催しているイベント。今回は主にデジタルカメラとデジタルイメージングに関する講演や討論が行なわれた。
講演は、「デジタルカメラの最新動向」、「画像入力」、「デジタル画像と色」、「デジタル画像のディスプレイ」の4つのセッションに分けて、市場調査、カメラやデバイス、レンズ開発、基礎研究の成果など多岐にわたる内容で行なわれた。
現場で作業に従事する人々の生の声ならではの迫力に満ちた、興味深い講演ばかりだったが、残念ながら紙幅の関係ですべての内容を紹介することはできない。ここではパネルディスカッションの様子を中心にレポートする。
なお、いくつかの講演については、日本写真学会誌に収録される予定。また同学会では、サマーセミナーで配布された、すべての講演の概要を収めた予稿集を希望者に販売するとしている。
●銀塩一眼は死んでしまう?
「一眼レフカメラは今後どうなるか?」と題されたパネルディスカッションは、銀塩一眼レフとデジタル一眼レフの売上が今年か来年にも逆転すると見込まれる中、一眼レフカメラがどのような形になっていくのかが討論された。
司会進行を同セミナー運営委員長で武蔵野美術大学の豊田堅二氏が務め、パネラーとしては日本大学の甲田謙一氏、株式会社ニコン映像カンパニー開発統括部 統括部長の後藤哲朗氏、そして弊誌デジタルカメラレビューでもおなじみのカメラマン 河田一規氏が参加した。
討論ではこれからのデジタル一眼のあるべき姿や銀塩一眼の行く末について、意見が交わされた。特にデジタル一眼では、ファインダーや撮像素子/レンズの規格など、デジタル化による技術革新が見込まれる部分について詳細な検討が加えられた。
豊田堅二氏 | 甲田謙一氏 | 後藤哲朗氏 |
河田一規氏 | 銀塩一眼レフの出荷は右肩下がり | 今年か来年にはデジタル一眼の出荷台数が銀塩一眼を上回る? |
まず「銀塩一眼は死んでしまうのか」という問いかけについては「9割5分の撮影はデジタルでやっている。デジタルでは銀塩と違ってカラープリント時にコントラストをいじれる。デジタルに賭けている」(甲田氏)、「メインストリームがデジタルになるのが確実、この状態でもこれだけ銀塩が売れているのは逆に驚異」(河田氏)、「ニコンの銀塩一眼は売上の一割になっている、これ以上仕事を続けていいのかという議論は毎月のようにやっている」(後藤氏)といったように、銀塩がニッチになっていくという論調が支配的。
一方で「カラー写真の時代になってもモノクロ写真を楽しむ人もある一定の数いるように、銀塩も残る。雑誌のアンケートでは、銀塩と心中するという人も結構いる」(河田氏)、「“銀塩の一眼レフは癒される”という意見もある。会社に余力があれば趣向を凝らした銀塩一眼を出したい」(後藤氏)とし、銀塩一眼が死に絶えてしまうことはないようだ。
ただし「銀塩がいつまで残るかは、フィルムメーカーにかかっている。カラーの高性能フィルムをメーカーがどの程度維持してくれるのか。いいフィルムがどんどんディスコンになっている。銀塩では色をカメラが決めているのでなく、フィルムが決めている。性能のいいフィルムがなければ、いい写真を撮りたくても撮りようがない」(甲田氏)と、銀塩一眼が生き残るための課題も提出された。
これについては会場の日本写真学会会長で富士写真フイルム株式会社 材料研究本部イメージング材料研究所 参事の谷忠昭氏から「銀塩フィルムを作るのはやめない。研究者の数は減ったが、それでも大勢で研究している。CCDにくらべフィルムは感度とダイナミックレンジが優れている。こうした方向での追求をさらに進めていく」との発言があった。
●銀塩/デジタル兼用機の可能性
銀塩一眼が絶滅してしまうことはないとしても、デジタル一眼が主流になっていくことは疑う余地がなさそうだ、という結論になったところで、デジタル一眼の未来を探る方向へと話が進んだ。
まず提案されたのが、ライカR9とデジタルモジュールRのような、銀塩とデジタルの兼用機。「銀塩の資産を上手に使っていくには、過渡期としてはとても楽しい」(甲田氏)と期待はされているものの、河田氏は実際のデジタルモジュールRが高価で、機構的にも無駄な部分があることを指摘し「現在のデジタル一眼の完成度や値段、大きさを見ると、それを捨ててまで兼用機に走る人は少ないだろう」との見方を示した。後藤氏も「デジタルバックについては時々考えるが、非常に大きく使いにくいものになる」と、作り手としてデジタルバックの困難さを裏付けた。
また甲田氏は「中判のデジタルカメラはみなデジタルバック方式だが、高価だ。最近のアマチュアカメラマンの中判への意識を考えると、普及型デジタル一眼程度の値段のバックが出てくれば、ビジネスになるだろう。デジタルバック形式が生き残る唯一の道はこれだろう」との見解を示した。
●フルサイズ撮像素子 vs 独自フォーマット
次に司会の豊田氏が「デジタル一眼にはファインダーなど、銀塩一眼からの借り物が多いが、これはいつまで続くのだろう。フォーサーズのような、独自システムを立ち上げてもいいのではないか」と提案。これには後藤氏が「借り物で何が悪いのか」と反論。「ファインダーが見難いなどの問題はいずれ解決される。過去の資産をちゃんと使えるという視点では、借り物だと思っていない」と、銀塩の資産継承のための方策として位置づけた。
フルサイズ撮像素子搭載機を愛用する甲田氏は「APSサイズで35mm判と同じボケを得るには、一絞り半明るくする必要がある。撮像素子が大きくなるほうが、写真的によくなることが多いのではないか」と、35mm判の完全なデジタル化ともいえるフルサイズ撮像素子の効用を説く。
後藤氏も「写真の総合力ではフルサイズのほうが一段上。ダイナミックレンジで有利だし、レンズや被写界深度もそのまま、ファインダーが大きいという点でいい」と理想はフルサイズ撮像素子であるとしたが「健全な商売をしていこうと思ったら、大きいセンサーはかなり厳しい」と、現実には困難とした。またフルサイズ撮像素子が安くなる可能性については「300mmウェハがもうひと回り大きくなって、ニコンのステッパーがもっと売れれば安くなるかもしれない」とした。
河田氏は「APS-Cサイズやフォーサーズの撮像素子は被写界深度が深すぎるのではないかと懸念していたが、実際に使ってみると違和感を感じない。一度ニコンのDXレンズ(APS-Cサイズに特化したレンズ)を使ってしまうと、35mm判との共用レンズを使う気にはなれない。DXレンズは無駄なものを持たされている感じがしない」と独自フォーマットを支持した。
●光学ファインダーはなくなる?
最後に提案されたのは「レンズ交換カメラは一眼レフでなくてもいいのではないか、EVF+レンズ交換方式でもいいのではないか」というもの。EVFなら視野率100%かつ大きなファインダーも作りやすいし、表示できる情報の量も増える。その一方で現在のEVFは、見えや追従性が光学ファインダーから大幅に劣るという欠点もある。
甲田氏は、こうした欠点を克服した製品さえ出ればきっと使うと述べたが、後藤氏は「ニコンも研究はしているし、いつかはEVFを入れてやろうとしている。が、光学ファインダーはやはりすばらしい。EVFで光学ファインダーどおりの色、解像度、ピントの見え、コントラストなどを実現するのは、至難の業」と、やはりEVFの性能向上は難しいとした。
一方で後藤氏は「(光学ファインダーなみの性能でなくても)ピントなどはインジケータなどで代用できるかもしれない。EVFならではのメリットを付け加えたうえで、光学ファインダーをただEVFに置き換えただけ、という売り方をしなければ、違うフィーチャーになるだろう」とも述べ、現状でもEVFを実用的なものにする方法があるとの見方を示した。
河田氏は「デジタル一眼レフのEVF化の一手段として、液晶モニターでスルー画を見ることはできないだろうか」と質問。これについて後藤氏は「可能だが、現在はまだデジタル一眼レフの大きなセンサーで30fpsを出せるようなデバイスがない。センサーを16分の1や8分の1に分割して、30fpsのデータをとるということはできる」と可能性は否定しなかった。しかし、「ミラーを上げた状態で、絞り込み、AFを合わせるようなシステムが成り立つかどうかは別問題だ。ちなみにニコンではそれは難しい」とした。
ここでパネルディスカッションに用意された時間が尽きた。デジタル一眼レフが主流となるであろうこと、また、デジタル一眼レフには検討、改善すべき点が多々あり、その実現に向けてメーカーも努力している、ということが確認できた点で、有意義だったといえるだろう。
●R-D1の反響は?
このほかのセッションで、とくに注目された部分をかいつまんで紹介し、この記事を終わりとしたい。
セイコーエプソン株式会社 IJP事業部 IJP規格推進部 部長の枝常伊佐央氏は「デジタルカメラの最新動向」セッションで「レンジファインダー形式のデジタルカメラの市場価値」と題して講演。R-D1発売1カ月で寄せられた「大きな一眼から開放された」、「今まで写らなかったものが写っている」、「散歩に持っていけるカメラが欲しかった」という反響を紹介。一方で「撮影画像を、ボタンを押さずに自動的に液晶モニターに表示できるようにしてほしい」といった要望もあったとした。
また、「写真の最終アウトプットはプリント」としてR-D1のコンセプトを「プリント高画質カメラ」と紹介。高画質化には同社がスキャナで養ったCCDのノウハウ、ノイズ評価技術などを活用し、ノイズは発生するものとしてアナログ系デバイスで徹底的なノイズ対策を行なったとした。さらに3Dルックアップテーブルなどの技術により、色再現性を向上。ただし、この技術はRAW現像ソフトに組み込まれているもので、JPEG画像には適用されていないとした。
なお解像力向上のために、「偽色が出るのを覚悟で、ローパスフィルターを弱めにした」ことを明かし、RAW現像ソフトに色ノイズ除去機能を搭載することで対策したと述べた。ローパスフィルターを弱めるのは、裏を返せば解像力の低いレンズ対策ということであり、R-D1はどちらかといえば高性能な現代のレンズよりも、古いレンズを得意とするカメラと言えそうだ。
枝常伊佐央氏 | R-D1発売後1カ月の反響 | 他社製デジタル一眼レフと解像力を比較 |
三洋電機株式会社 DIソリューションズカンパニー テクニカルエンジニアリング第二ビジネスユニットの小林昭男氏は、スチルとムービーのハイブリッドデジタルカメラとして話題を呼んだ「Xacti DMX-C1」の開発について紹介。まずは静止画を重視して、原色ベイヤー配列を採用したこと、新たに開発した動画と静止画の同時記録の仕組みなどを解説した。なお先日発表された後継機「DMX-C4」では、撮像素子の高画素化に伴い静止画データ量が増えたため、同時記録時の処理を改善したという。
マイクロンジャパン株式会社 ジャパンイメージングデザインセンターの中村淳一氏は、CMOS撮像素子の仕組みや特徴を解説。周辺回路をオンチップ集積化して「Camera on a chip」を実現できるため、トイカメラやPCカメラでの使用が先行しているが、CCDよりも読み出しの自由度が高く、高速処理が可能で、かつ消費電力も低いため、デジタル一眼レフやコンパクト機でも有望とした。
特にデジタルカメラ市場の主戦場であるコンパクト機では、現在のところ画素サイズと画質でCCDに劣ると判断されているために採用されていないが、動画モードやAE/AFのための高速読み出しにはCMOSの方が適しているとし、CMOSを採用するコンパクト機の出現もそう遠くないとした。一方で画素の微細化も進んでいるが、画素サイズが2μm程度になってくると回折やS/N、ダイナミックレンジの低下といった悪影響が出るとし、「このクラスでの盲目的な画素数競争はそろそろ考えるべき」とも述べている。
このほか、オリンパスの自由曲面レンズの解説や、色彩工学の観点からのインクジェットや原色フィルタの多色化の解説、Adobe RGBをはじめとする拡張色空間と広色域ディスプレイの解説などが行なわれた。
□日本写真学会のホームページ
http://www.spstj.org/
□サマーセミナー2004の情報(PDF)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/spstj2/gyoji/04summer-seminar.pdf
(2004年8月30日)
[Reported by tanak-sh@impress.co.jp]
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