AMDの新しいバリュー向けCPU「Sempron(センプロン)」が、7月28日に正式にリリースされた。Socket 754とSocket Aの2つのプラットフォームで登場することとなったSempronの実力を検証していきたい。 ●モデルナンバーはAthlon XP/64とは違う基準 Sempronのラインナップは既報のとおりで、大きく分けて「(デスクトップ向け)Sempron」と「モバイルSempron」の2つである。このうち本稿ではデスクトップ向けのSempronについて取り上げる。 一口にデスクトップ向けのSempronという表現を使ってはいるが、これはさらに2つに分けられる。1つはSocket 754を採用したSempron 3100+、もう1つがSocket Aを採用したSempron 2800+~2200+だ。 Sempronについては詳しい仕様が明らかにされていないが、まずは評価機材を使い、分かる範囲でスペックなどを紹介することにしたい。今回のテストにあたりAMDより借用した評価機材は、Sempron 3100+とSempron 2800+の評価キットである。 まずはSempron 3100+について見ていきたい。Sempron 3100+は以前より「Paris」のコードネームで呼ばれたCPUで、Athlon 64などと同じ0.13μnm SOIで製造されている。外観もAthlon 64そのままといった感じで、ヒートスプレッダも装着されている(写真1)。 CrystalCPUIDを使ってSempron 3100+の情報を取得してみると画面1のようになる。実クロック1.8GHz、L1データキャッシュ64KB、L2キャッシュ256KBはリリースのとおりだ。また、機能面では64bit機能「AMD64」には非対応だが、セキュリティ機能「NX」に対応する。 「Cool'n'Quiet」にも対応するのだが、今回の環境ではAthlon 64用のCool'n'Quiet対応ドライバをインストールしても機能が働かなかった。AMDに確認したところ、Athlon 64用のCool'n'Quiet対応ドライバでSempron 3100+にも対応できるという。これは、CrystalCPUIDでCPU名がUnknownとなっているように、マザーボードのBIOSがSempron 3100+を正しく認識できていないために起きた問題だと思われる。マザーボードはGIGABYTEの「GA-K8NNXP」でBIOSバージョンは「F12」でテストしている。
続いてSempron 2800+を見ていきたい。Sempron 2800+の評価キットはマザーボード、メモリがセットになったもので、CPUクーラーの取り外しは禁止されていたため、このCPUの外観を見ることはできなかったが(写真2)、秋葉原などの店頭にはすでに出回っておりAthlon XPとほぼ同一の外観であることが確認されている。 そのSempron 2800+の環境でCrystalCPUIDを実行すると、画面2のとおり、「Throughbred」として認識をする。表示されているCPUID「6-8-1」は、Throughbredコアを採用したAthlon XPのB0レビジョンと同じ内容であり、Sempron 2800+のベースはThroughbredコアと見て良さそうである。 そのためかOriginal Clockなどの項目が間違って表示されてしまっているが、Currentの項を見ると333MHz FSBの2GHz動作、64KBのL1データキャッシュ、256KBのL2キャッシュと、仕様どおり動作していることが確認できる。こちらは、AMD64はもちろん、NXやCool'n'Quietも非対応となる。
SempronもAthlon XP/64と同様にモデルナンバーが採用されている。3100+とそれ以外は異なるアーキテクチャのCPUであり、その性能の優劣を分かりやすく表す、という意味でモデルナンバーの採用は納得できる。 ただし、その算出方法はSempronのFAQによれば、Athlon XP/64は「先進デジタル/コンテンツ制作から使用条件の厳しい3Dゲーム/アプリケーションに至るまで、広範なベンチマークスイートが採用されている」とされ、Sempronは「一般的な生産性向上アプリケーションに的を絞ったベンチマークスイートが使用される」とあり、別の基準を持った数字なのである。 実際SempronとAthlon XP/64のモデルナンバーを比較してみると、Athlon 64 “2800+”が1.8GHz動作で512KBのL2キャッシュを搭載するのに対し、Sempron “3100+”は同じ1.8GHz動作でL2キャッシュはその半分の256KBに留まる。また、Sempron “2800+”は2GHz動作でL2キャッシュ256KBだが、同じコアと想像されるThroughbredのAthlon XP “2600+”は2.08GHz動作でL2キャッシュ512KBと、いずれも同クロックの上位モデルの製品より高いモデルナンバーが与えられている。 AMDから公式なアナウンスはないものの、Athlon XP/64のモデルナンバーがPentium 4の実クロックと比較した数字であろうことは本連載でも何度も紹介してきた話だ。Sempronのモデルナンバーも公式には発表されていないが、同じバリュー向けCPUであるCeleron/Celeron Dの実クロックを意識した数字と想像するに難くない。 ●Athlon 64、Celeron Dとの比較でSempronの性能を見る それではベンチマークテストを実施していきたい。環境は表に示したとおり。今回は基本的にバリュー向けCPUなので、ビデオカードもそれほど高価でないレベルのものに留めている。 Celeron D 335(実クロック2.80GHz)のマザーボードがハイエンド向けのIntel 875P搭載製品を利用しているが、533MHz FSBとDDR333の組み合わせではPATが働かないので、事実上Intel 865シリーズとチップセットのパフォーマンス差はない環境である。
●CPU性能 では、最初にCPU性能をチェックするために「Sandra 2004 SP2」の「CPU Arithmetic Benchmark」(グラフ1)と、「CPU Multi-Media Benchmark」(グラフ2)の結果を見ていこう。グラフ1のWhetstone iSSE2でSempron 2800+の結果がないのは、SSE2を持たないためにテストがスキップされたからである。グラフ2の両テストでは、SSE2を持たないCPUの場合はSSEやMMXで代用されるのでテストできている。 結果は、モデルナンバーで劣るSempron 2800+がSempron 3100+を上回るテストが多いのが印象的だ。モデルナンバーこそ低く設定されてはいるが、実クロックはSempron 2800+のほうが高い。アーキテクチャに違いはあるものの、この差が影響したのではないかと想像できる。 Celeron D 335は実クロックからすると奮わない結果になっている。この結果は、以前に行なったPentium 4 3.40E GHzとAthlon 64 3400+の関係と傾向は近い。
続いては、「PCMark04」のCPU Testを見ておきたい(グラフ3、4)。こちらはSempron 3100+と2800+がいい勝負をしているが、やや3100+が優勢といった雰囲気にはなっている。Celeron Dとの比較では、Celeron Dが優勢だったり、Sempronが優勢だったりと、アーキテクチャの得手不得手がハッキリ出ている点が興味深い。
●メモリ性能 次にメモリ性能を見る。まずSandra2004 SP2の「Cache & Memory Benchmark」の全結果をグラフ5、L1/L2/実メモリの各性能を抜き出したものをグラフ6に示している。ここで面白いのはSempron 2800+と3100+のL1キャッシュの動きだ。データサイズが8KBまではSempron 2800+が速く、それを超えると3100+が速い。実クロックでは2800+のほうが勝るので自力は持っているのは確かなようである。 ただ、Hammerコアはアソシエイティブ数の向上やレイテンシの削減など、ヒット率が上がるようアーキテクチャの改良がなされている。L2キャッシュで完全に3100+が勝ることを含めて、そのHammerの流れを汲むSempron 3100+の方が2800+より基本的にキャッシュ性能は高いと言える。 実メモリのアクセス速度は、DDR400のシングルチャネル動作となるSempron 3100+とAthlon 64 3000+で誤差を超える差が出ているのが気になる。これは、先にも述べたとおり、Sempron 3100+を正しく認識できていないことから考えると、Sempronにあわせたチューンナップがなされていないためと思われる。 なお、Sempron 2800+はnForce2-GT、Celeron D 335はIntel 875Pと、いずれもデュアルチャネルメモリインターフェイスを持つチップセットで、メモリクロックも同じなのだが、こちらはチップセットの差により帯域幅に大きな差がついている。
●アプリケーション性能 実際のアプリケーションを利用したベンチマークをいくつか実施したい。実施したテストは「SYSMark2004」(グラフ7~9)、「Winstone2004」(グラフ10)、「TMPGEnc 3.0 XPress」(グラフ11)である。 SYSmark2004とWinstone2004はやや傾向が異なるが、バリュー向けCPUとしてSempron 3100+が優秀なのは間違いないことが伺える結果である。Pentium 4とAthlon 64を比較した場合、SYSmark2004ではPentium 4が強さを見せるケースが目立ったが、これはHyperThreadingを持っている影響もあったわけで、これを持たないCeleron Dが苦戦するのは頷ける。 一部テストでCeleron Dが勝る結果を見せるのは、デュアルチャネルのメモリアクセスによる影響だろう。Sempron 2800+で大幅にスコアが落ち込むテストが見られるのは、SSE2を持たないことが響いていると思われる。Winstone2004は拡張命令やマルチスレッドの影響がSYSmark2004よりも小さいため、こちらはSempron 2800+がCeleron D 335を上回る性能を見せる。こうした結果からも、先述したSempronのモデルナンバーがCeleronを意識したものであるという推論は、間違いないと言っていいだろう。
TMPGEnc 3.0 Xpressの結果は、Celeron D 335がかなりの強さを見せており、MPEG-2に至ってはAthlon 64 3000+以上の性能を出している。これはメモリの帯域幅の差以上に、SSE3への対応などが大きく影響したのだろう。
●3D性能 最後に3D性能のチェックを行なっておく。テストは「Unreal Tournament 2003」(グラフ12)、「Unreal Tournament 2004」(グラフ13)、「3DMark03」(グラフ14)、「AquaMark3」(グラフ15)、「3DMark2001 Second Edition」(グラフ16)、「FINAL FANTASY Official Benchmark」(グラフ17)である。これらの結果を見ると、3DMark03を除いて、おおむねSempron勢が強さを見せているといっていい。 とくにCPU性能の性能がスコアに大きく影響するUnreal Tournamentや、実際のゲームを使ったベンチマークであるFINAL FANTASY Official Benchmarkで、SempronがCeleron D 335に大きな差をつけている点に注目しておきたい。
●ブランドの門出にふさわしい高性能 以上のとおり、Sempron 3100+/2800+の性能をチェックしてきた。ここから分かるのはSempron 3100+が、現行のバリュー向けCPUとしては頭一つ抜け出した性能を見せているということだ。 Sempron 3100+の価格は、1,000個ロット単位のOEM向け価格で14,931円とアナウンスされている。秋葉原で単品売りされた場合、開始時こそ多少のプレミアはつくだろうが、じきに15,000円前後に落ち着くと想像される。Athlon 64 3000+の実売価格が2万円弱であることと比較すると、価格相応といった雰囲気だが、14,000円前後Celeron D 335と比較すると、お買い得感は高い。このように、性能、価格の両面で、今後のバリュー向けセグメントに与える影響は大きい存在になりそうだ。 Sempron 2800+はというと、パフォーマンスはまずまずで、Celeron D 335との比較で良い勝負を見せている。333MHz FSBに対応するSocket Aマザーボードは製品数も多く、「安いPCが欲しいんだけど……」というニーズに対して高い満足度を示せるCPUではあると思う。ただ、今からSocket Aプラットフォームのマザーを購入して自作、というのは旬が過ぎている感はある。どちらかというと、古いPCでのアップグレード用途に適していると言えるだろう。 □関連記事 (2004年8月19日) [Text by 多和田新也]
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