会場:San Francisco「Moscone Cneter」
Apple ComputerによるWWDC 2004(Worldwide Developers Conference = 世界開発者会議)は、サンフランシスコのMoscone Center West Hallを会場にして、現地時間28日に幕を開けた。 午前10時からのオープニングセッションは、例年どおり同社のスティーブ・ジョブズCEOによる基調講演。事前にアナウンスされていたとおり、Mac OS Xの次期メジャーリリースとなる開発コードネーム“Tiger”のプレビューを中心にした、およそ1時間30分あまりの講演となった。本稿ではこの“Tiger”に関する情報を中心にして、基調講演の全容をお届けする。 ■“Tiger”の出荷時期は2005年の上半期とアナウンス ジョブズCEOは、現行のMac OS Xである10.3“Panther”に関して「OSのリリースでは、Appleのなかでももっとも成功した例」と現状を紹介した。現在1,200万に達するMac OS Xインストールベースのなかで50%をPantherが占めるという。昨年のWWDCにおけるアナウンスでは、700万インストールベースという報告があったことを考えると、確かに普及に加速がついているのは間違いないと思われる。 いっぽうで気になるのは、今回も含めてWWDCが開催されるたびに、表現は微妙に異なるとはいえ「OSの移行は完了した」というフレーズが毎回でてくることだ。弊誌のバックナンバーなどで過去のWWDC関連記事をあらためて参照してもらえるとよくわかるが、Mac OS 9の葬儀が行なわれたことをはじめとして、ことあるごとに何回も“移行が完了”しているのである。実際のところ、葬儀後もMac OS 9でブート可能な製品が出荷されるなど、なかなか額面通りにはいかないところもあるわけなのだが。 Mac OS X 10.4 "Tiger"に関しては、Tigerに関するプレゼンテーションの冒頭で、『2005年の上半期に出荷』というスケジュールが発表されている。講演のなかで特に触れられることはなかったが、ニュースリリースによれば価格は129ドル。国内販売価格は未発表だが、現行のPantherが米国で同じ129ドルであることを考えると、国内価格もPantherの価格が参考になると思われる。 ちなみに昨年も6月下旬にWWDCが開催され、そこでPantherを初お披露目。参加したデベロッパーにプレビュー版を配布して、約4カ月後の10月25日に同製品の出荷を迎えている。Tigerに関しては出荷予定が2005年上半期ということで、出荷予想日には半年ものスパンが発生するわけだが、Pantherよりは開発期間にもう少し余裕のあるスケジュールが組まれているようだ。 実際のところ、ここ数年は約1年単位でOSのメジャーリリースが行なわれていることになるため、ユーザーとしても開発者側としてもバージョンアップのスパンがある意味で適正化されるのは歓迎すべきことなのかも知れない。 その一方で、今回のTigerに関してはMicrosoftの次期OS“Longhorn”を意識した発言が随所に見られる。例えばTigerの出荷は2005年上半期となるわけだが、「その出荷は“Longhorn”よりはやいが、それを超えるスペックを備えている」とコメントしたり、会場内に用意されているTigerのパネル(バナー)のコピーも「Introducing Longhorn(Longhornを発表します)」や、「Redmond, start your photocopiers(さぁ、コピーを開始せよ)」、「This should keep Redmond busy(これで忙しくなるだろう?)」、「Redmond, we have a problem(我々は問題を抱えているんだ)」という、“Longhorn”がMac OS Xの模倣になると言わんばかりのものが目立つ。 言うまでもないが、ワシントン州にあるRedmondは、Microsoftの本拠地。バナーにしても、多数のうちのひとつぐらいなら洒落でいいかも知れないが、すべてがこればっかりというのは食傷気味というか、一参加者としては残念ながら好きになれない方向性だ。
■配布されたMac OS X 10.4 "Tiger"に含まれる注目すべき新機能 さて、そのTigerの概要だが、昨年のPantherに比べるとまだ開発の段階が前に位置するのか、昨年ほど凝った内容ではなく、どちらかと言えばさらりとプレゼンテーションを行なったというのが、全体的な印象だ。冒頭ではPowerPC G5対応の本格化を示す64bit化の状況や、Pantherにも増して取り組まれるWindowsとの混在環境における相互運用性などが説明された。 またジョブズCEOによれば、Tigerには150を超える新しい機能が投入されると言うことだが、そのうちのいくつががデモをまじえて紹介された。 ・ビルトインされる新たな検索機能『Spotlight』 ジョブズCEOによれば肥大化したMacのハードディスクのなかで目的のファイルを探すことは次第に困難になっているという。'84年当時のシンプルなMacintoshとは違い、現状ではローカルでファイルを探すことよりも、WebサイトをGoogleで探す方がより快適だと表現した。この問題を解決するのが新たな検索機能「Spotlight」ということになる。 検索対象となるのは、ファイルやフォルダはもちろん、電子メールの内容やiCalに含まれるカレンダー情報、アドレスブックのコンタクト情報などが含まれる。個々のアプリケーション単位はもちろん、Mac全体をグローバルに検索し、カテゴリーごとに一覧にすることができる。 ・QuickTimeに統合される『H.264コーデック』 次世代の高精細DVDに採用されると言われるH.264/AVCが“Tiger”からQuickTimeに統合される。高精細なビデオから3G携帯に対応するスケーラブルなコーデックだ。
・RSSを搭載するSafariの新バージョン『Safari RSS』 “Tiger”に搭載されるSafariの新バージョンはRSSフィードに対応する。特定のサイトにおける記事の見出しと要約を“ニュースフィード”にまとめて表示するものだ。Safari RSSでは、RSSフィードを提供しているサイトにアクセスするとアイコンを表示して対応サイトであることを示す。また現在ビルトインされているGoogleのWebサイト検索と同じように、RSSフィードに対応するサイトの検索結果を一覧表示してくれる機能を持っている。
・CPUの負荷を減らし高機能グラフィックを実現する『Core Image/Core Video』 現行のMac OS Xに搭載されているCore Audioと同様に、“Tiger”からはCore ImageとCore Videoが搭載される。これらを介してGPUに直接描画処理をさせることでCPUにかかる負荷を減らすものだ。デベロッパはSDKにより、Core ImageとCore Videoを利用するアプリケーションを容易に作成できるようになる。デモンストレーションはサンプルアプリケーションを使って行なわれた。
・Exposeのデスクアクセサリ版『DashBoard』 Pantherで搭載されたExposeのデスクアクセサリ版ともいえるのが「DashBoard」だ。ホットキーを押したり、ホットコーナーを利用することでWidget(小道具)と呼ばれるアクセサリを呼び出して利用することができる。“Tiger”には計算機、世界時計、スティッキーズなど、現状はアプリケーションとして提供されているアクセサリをはじめ、iTunesコントローラーや、Webカムの映像を表示するVideo、アドレスブック、株価のチェッカーなどがWidgetとして提供される。 ・最大4人でビデオチャットが可能となる『iChat』 昨年のWWDCではiSightは発表され、iChatにビデオ機能が追加されたがTigerではこのiChatがさらに進化する。最大10人でのグループ音声チャットや、自分を含めて最大4人で同時に利用できるビデオチャット機能が搭載される。特にビデオチャット機能は、前述したH.264コーデックを利用することで、ひとつのウィンドウに参加者全員の映像が表示されるというものだ。
また、シンクロナイズ機能をさらに強化する『.mac Sync』や、ビジュアル化されたスクリプティング環境の『Automator』などもあわせてデモンストレーションされた。こうした新機能が含まれている“Tiger”のプレビュー版は、基調講演の終了とともに参加者に直接手渡されている。
■昨年公約したPowerMac G5の3.0GHz化には遅れ 基調講演ではTigerのほかに、すでに写真付きのレポートで紹介している新しいCinema Displayラインナップの発表をはじめ、銀座店を含めて世界で80店舗となったApple直営店の現状紹介なども行なわれている。 直営店については、ここサンフランシスコに2月にオープンしたニューヨーク、シカゴ、東京に続く第4の旗艦店舗をはじめ、ショッピングモールや小都市のダウンタウンに位置する中規模店舗など、立地条件に応じた店舗展開が続けられていると報告され、そのうえで着実な売り上げの伸びを強調した。ちなみに、今年秋に予定されている大阪への直営店出店については特に触れられなかった。
音楽関係では、ここ1カ月ほどの間に次々と発表された「iTunes Music Storeの欧州地域における展開」、「AirPort(AirMac) Express & AirTunes」、「BMWグループとの共同開発によるiPodとカーオーディオシステムの統合」といった事例が簡単にサマリーされた。北米地域でも品薄が続くなか、ワールドワイドでの出荷を7月に控えるiPod miniに関しては、好調な売り上げが伝えられ最新CMなども上演されたものの、特に品不足に関するコメントはなかった。 昨年PowerMac G5を発表したWWDC 2003でジョブズCEOは、当時最高2.0GHzだったPowerPC G5のクロック速度が12カ月以内に3GHzに達すると公約している。当然、プロセッサを供給して共同で開発を行なっているIBMあっての話ではあるものの、残念ながら最高クロック速度の製品は先日発表した2.5GHzにとどまっている。 この件に関してジョブズCEOはやや声のトーンを落としながら、130nmから90nmへの技術革新や、より集積率が高く複雑なチップ構造の影響など、いくつかのスライドを見せながら釈明をしている。そのうえでIntel製のPentium 4が、この一年間で最高3.2GHzから最高3.6GHzへのクロックアップにとどまったことを挙げて「クロック速度の上昇率ではPowerPC G5のほうが良く、さらにDual搭載を行なっている」と韜晦しつつかなり苦しい釈明となった。残念ながら3.0GHz到達に関して、次なる目標時期などは特にコメントされることはなかった。 □Appleのホームページ(英文) (2004年6月29日)
[Reported by 矢作晃]
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