2月に行なわれたPMA2004で米国先行発表されたソニー「サイバーショット DSC-W1」(以下、W1)だが、その後日本でも正式に発表され、5月21日に発売された。 日本では昨年11月に発売された同社の超薄型500万画素モデル「DSC-T1」(以下、T1)がコンパクトデジカメとしては比較的高価な約6万円(原稿執筆時点の実勢価格)というプライスにもかかわらずいまだに売れ続けており、ちょっとしたヒットになっている。 これに対して、同じ500万画素モデルながらT1より約1万円ほど安いW1のパフォーマンスはどうなのよ? と考えている人も多いだろう。果たしてW1はT1を太らせただけの廉価版なのか? 早速検証してみよう。 ●特にスリムではないものの十分小型軽量なボディ まずは外観デザインから見ていこう。 ごらんの通りごくオーソドックスなまとめ方で、アクの強いデザインが多いサイバーショットシリーズの中ではごく普通っぽい外観だ。ソニーのデザインに何を求めるかは人それぞれだが、W1はあまり好き嫌いが極端に分かれない、万人向きのテイストと言える。「シビれるほどクール!」なデザインを求める人には物足りないだろうが、奇抜さを嫌う人には好まれそう。 カラーリングはシルバーとブラックの2種類が用意される。T1の場合は当初シルバーしか発売されず、後からブラックが追加発売されたが、ユーザー的には最初から両方用意されている方が好ましいのは言うまでもない。 では、T1と比べて外観はどうなのか? というわけで並べてみた。 まずは正面から比べたところだが、デザイン的にはやっぱりT1の方がスッキリとしていてかっこいい。ちなみにボディのタテヨコ寸法は60×91mmで、両者とも同じである。一方、上から見るとその厚みの違いは歴然。さすがにT1は相当にスリムである。ボディ厚のカタログ値はT1が21mm、W1は36.3mm(共に最大突起部含まず)だけど、その数字以上にT1は薄く見え、逆にW1は倍くらい厚く見えてしまう。 ただ、ホールディングに関してはW1の方がいい。ボディが適度に厚いということもあるが、右手親指部に突起を設けるなどの工夫により、ツルンとしたT1より確実に保持しやすい。 ボディ素材はW1がアルミ、T1はステンレスと共に金属製だが、表面の塗装処理が異なり、T1の方がはるかに質感が高い。
●ソニースタンダードな操作系 操作系はソニーデジカメとしては標準的なもので、特に変わったところはない。ソニーお得意のジョグダイヤルは装備されていないが、それによる不満も感じなかった。 W1には絞りとシャッター速度の両方を任意に設定できるマニュアル露出モードが搭載されており、その設定時に「ジョグダイヤルがあれば……」と思わないでもないが、カメラの性格を考えるとマニュアル露出で撮影する頻度はごく低いはずで、ジョグダイヤルがなくても問題はないだろう。 液晶モニタが2.5型と大きいこともあり、ボディ背面にある十字キーを始めとする操作スイッチはかなり幅寄せされている感じだが、それにより使いにくいということもなく、全般的な操作性はなかなか良好だ。 ちなみにW1ではボディ上部のダイヤルで選択するシーンセレクションがT1ではメニューから呼び出すようになっているほか、動画/静止画/再生の切り換え方法が少々違うものの、基本的な各種操作系の配列はT1もほとんど同じだ。 ●モードダイヤルが液晶モニタに表示される機能は秀逸 メニューボタンを押すと画像の上にメニュー項目がOSDされるのは他のサイバーショットと同じだ。例えばホワイトバランスを設定するとき、各ホワイトバランスごとにバックグラウンドで画像の色味が変化するので設定しやすい。 メニューとは別にSETUPメニューもあり、メモリースティックのフォーマットやデジタルズームを使うか使わないかといった設定はそちらで行なう。 なかなか使いやすいと思ったのは、ボディ上部のモードダイヤルを回したときに、その回転に合わせ、液晶モニタにモードダイヤルで何を選択したのかがアイコンで表示される機能だ。例えばカメラを三脚で目の高さくらいにセットした場合、ボディ上部のモードダイヤルがどうなっているか確認するには背伸びするしかないが、W1なら液晶モニタにモードダイヤルの状態が表示されるので背伸びする必要はない。これは賢い機能である。
●液晶モニタの見え方はT1に完敗か T1と同じく2.5型のビッグサイズを誇るW1の液晶モニタだが、モニタの画素数はW1の123,200画素に対してT1は211,000画素と、精細度ではT1の方が勝っている。では実際の見え方はどうだろうか? 全く同一の画像をW1とT1の液晶モニタに表示させて見比べたところ、W1の方が彩度の高い派手めな色調になることが確認できた。しかし、実際の画像の色調に近いのは明らかにT1の方である。一見すると彩度が高くてキレイに見えるW1の液晶モニタだが、実際の画像より色調が誇張されて表示されるようである。 次に、明るい屋外での視認性を比べてみた。下の写真を見てもらえば分かるとおり、明るいところでの視認性はW1よりT1の方が格段によい。これはT1の液晶モニタが透過型と反射型を両立させたハイブリット型のためだろう。バックライトの効果が期待できない明るい屋外では、外光の反射を表示に活用するため視認性が確保されるのだ。 視野角についても比較してみたが、液晶正面から目の位置をどんどんずらしていくと、W1の方はすぐに像の明暗が反転してしまい視認性が落ちてしまう。これに対し、T1の方はかなりの急角度から液晶モニタを見てもちゃんと画像を確認することができた。 画像再現の精細度、撮影画像に対する色再現性、ピーカン時の視認性、そして視野角の広さなど、固体ごとの違いもあるのだろうが、試用機ではいずれの点でもT1の液晶モニタの方がW1より勝っているようだ。 ●電池の持ちはW1が有利 W1の電池は単3電池2本で、カメラにはニッケル水素充電池2本とチャージャーが付属する。もちろん単3アルカリ電池や単3ニッケルマンガン電池も使用可能だ。海外旅行などでは、どこでも入手できる単3電池の安心感は確かに大きい。一方、T1はインフォリチウムTタイプと呼ばれる薄型のリチウム充電池を使用する。 撮影可能枚数/持続時間はCIPA規格の測定方法で、W1が340枚/170分に対しT1はそのちょうど半分の170枚/85分となっている。さすがにT1の方は物理的な電池サイズが小さいだけに電池の持ちはW1に分があるようだ。 しかも、W1は光学ファインダーを備えているので、電池の残量が心配になったら液晶モニタを消灯し、光学ファインダーでフレーミングすることも可能だ。光学ファインダーを備えていないT1ではマネのできない芸当である。 ただ、W1のニッケル水素電池は継ぎ足し充電を行なうとメモリー現象などで容量が低下するなど、電池のマネージメントがやや面倒という側面もある。充電もT1はクレードルを使って携帯電話並のイージーさでチャージできるが、W1は本体から電池を抜き出してチャージャーにセットしなければならないということで、日常的な電池管理はT1の方が楽そうだ。 なお、記録メディアはW1がメモリースティック、T1はメモリースティック デュオで、両者ともノーマルタイプの他にPROタイプにも対応している。
●起動速度は意外にも……?
仕様表によると電源起動時間はW1、T1の両機種とも約1.3秒となっているが、電源を入れてから液晶モニタが点灯して撮影スタンバイ状態になるまでの時間を手動計測してみると、W1が約1.7秒、T1は約2秒となった。 共に十分速いが、意外なのは沈胴レンズ式のW1の方が、レンズ繰り出しのないT1より速かったことだ。条件を揃えるため両機とも付属の32MBメディアを入れて計測したが、何度試してもW1の方がT1より0.3~0.5秒程度起動が速いのだ。 ちなみにW1の最初のカットを撮り切るまでの最短時間は写真にもあるとおり約2.1秒ほど。これなら起動時間に対する不満は感じないだろう。 ●画質はややW1が上か さて、実際にW1とT1ではどのくらい画質が異なるのだろうか。 W1、T1共に有効画素数は510万画素だが、W1は1/1.8インチCCDなのに対してT1は1/2.4インチCCDとなっている。画素数が同じなので、画素ピッチはW1の方がT1より多少大きく、理論的な画質はW1やや有利ということになる。 また、レンズもT1は光路上にプリズムを配した屈曲光学系なのに対し、W1はオーソドックスな屈折オンリーの光学系となっている。一般的にプリズムで光路を曲げると、そこで光学的なロスが生じるため、レンズ性能的にもT1よりW1の方が有利と思われる。 そこで、色々なシチュエーションで両機を撮り比べてみた。 【歪曲収差】 まずは歪曲収差である。これで見るかぎり、両機ともワイド側の歪曲収差はほとんど同じくらいのようである。ただ、像の均一性はT1の方が若干良好に見える。
【屋外ポートレート】 半逆光でレフ板を使用したポートレート。明らかにT1の方がコントラストが低く、いわゆる「ユルい」描写だ。もちろん何枚か撮影しているが、この傾向は変わらなかった。 また、共にオートホワイトバランス(AWB)だが、色味も少しT1の方がY味が強い。好みもあろうが、一般的な見解としては色味、コントラスト共にW1の方が好ましいと思う。
【ミックス光】 外光と蛍光灯のミックス光源下での再現性を比べてみた。いつもはこの撮影条件で白い紙を使ったマニュアルホワイトバランスを検証するのだが、W1、T1共にマニュアルホワイトバランスを搭載していないので、今回はAWBと昼光を比べた。 W1はAWBと太陽光の差が少ないが、AWBはもう少しだけ赤みを抜いて欲しいところだ。これに対し、T1のAWBはやや過剰補正のように見える。
【解像感】 屋外ポートレートと同じく、T1はW1よりコントラストが低い。このため、見かけ上の解像感も何となく低く見えてしまうようだが、両機共に画素数相応の解像感は確実に確保している。
【ストロボ調光】 調光精度そのものは両機共に良好で問題はない。もともとコントラストが低いのと、ややY味が強くなる色調が幸いして、ストロボ撮影ではT1の描写の方が自然に見える。ただし、T1はストロボ位置がレンズに近いせいか、かなりの確率で赤目現象が発生した。
【夜景】 昼間の撮影と同じく、コントラストの高いW1の方がシャープネスも高く見える。しかし、何といっても困ったのはT1に三脚穴がなく、1/6秒~1秒というスローシャッターにもかかわらず三脚に固定できなかったことだ。雲台に押しつけて撮影したが、三脚にガッチリと固定できるW1とイーブンの条件とは言い難いため、シャープネスなどは参考程度に見て欲しい。 ちなみに、アクティブジャケットケースというオプションを買えば、T1にも三脚を取り付けられるようだが、これもそれほど強固に固定できる構造ではないため、夜景をよく撮影する人はT1以外の機種を検討した方がいい。 W1、T1共に通常のプログラム撮影よりは夜景モードで撮影した方がシャッター速度が若干速くなり、シャドー部の締まった描写になる。
【ISO感度】 ISO感度が高くなるほどノイズが増えるのは当然だが、やはり画素ピッチの小さいT1の方がW1よりノイズは少々多い。ただし、T1も1/2.4型の510万画素というCCDスペックから想像されるほどノイズは多くないと感じた。
画素数は同じながらCCDサイズや光学系などのスペックが微妙に異なる兄弟機というわけで興味深く試用させてもらったが、画質についてはCCDサイズが若干大きいW1の方がやはり総合的に有利なようだ。電池の持ちや起動レスポンスもW1がよく、三脚穴があるので夜景も問題ない。 実用性重視ならW1でキマリだが、モノ的な魅力や液晶モニタの性能についてはT1が圧倒的に勝るのも確かで、生活を演出する小道具としてはT1の魅力も捨てがたい。このクラスのカメラにナニを求めるのかでどちらを選ぶか変わってくるが、個人的にはやはりT1に魅力を感じた。 実は屈曲光学系と極小ピッチのCCDで、T1の画質はもっと悪いと思っていたのだが、W1との差がこれくらいなら十分許せる(あくまでも個人的には)範囲だ。
□ソニーのホームページ ■注意■
(2004年6月9日) [Reported by 河田一規 / モデル 汐瀬 ナツミ]
【PC Watchホームページ】
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