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水冷コンポーネントベンダー訪問記(2)
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Micro ATXへの実装例。キューブ型のユニットと基本的には同じ。カバーに覆われていて見えないが、ウォータージャケットは冷媒の入る部分が円形になっており、効率的に不凍液が流れる構造になっている |
水冷コンポーネントベンダー訪問の2社目は台湾日立である。
“台湾日立”という名前を見ると、いかにも日立グループの台湾ブランチオフィスという印象を抱くが、日立製作所は台湾のブランチオフィスを別に持っている。台湾日立は資本関係こそあるものの、組織としては完全に独立した企業だという。
純粋な台湾企業として協立電機の名称で'63年に生まれ、その2年後に日立製作所との技術・資本提携で社名を台湾日立に変更し、39年間もの歴史がある。主要業務は業務用および家庭用エアコンの開発・製造・販売で、台湾市場では35%を超えるシェアを持つ。
技術面での独立性も高く、R&Dの基礎データこそ日立製作所の研究施設と情報を共有するが、エアコンの性能を決定付けるロータリーコンプレッサなどのキーデバイスを自社で設計・製造し、コンプレッサの海外輸出も積極的に行っているという。
主に話を伺ったPresidentの高木恒治氏は日立で冷蔵庫部門の責任者を務めていたそうだ。また同様にさまざまな質問に応えていただいたDevelopment Division Senior Chief Manager富永保則氏は、日立製エアコンや冷蔵庫に搭載されている「PAM(パルス振幅変調)」インバータを発明した人物。いずれも“熱交換”の効率が決め手の商品である。
この、PC業界とは無縁とも思える台湾日立が、水冷という技術を巡ってPC業界に関わるようになったという点は面白い。“エアコンの台湾日立”が作る水冷モジュール、COMPUTEX Taipeiで展示するという試作機3種類を見せて頂きながら話を伺った。
●“冷却、熱伝導をコントロールするノウハウがある”
キューブ型PCへの実装例。ラジエータをコンパクト化できたため、筐体内に内蔵させることができた。ラジエータ上部にある銅製の箱はリザーバタンク |
「我々はエアコン屋です。冷却、熱伝導に関するあらゆるノウハウ、コアテクノロジが、すでにこの会社にはあります。冷房、冷却に関する分析や信頼性を確保するためのシミュレーションコードなどなど。我々は大規模ビルの冷房システムも提供していますから、冷媒をシステム全体で管理する技術も持っています。さらに家庭用エアコンは静かでなければ売れない。静音化技術もまた台湾日立の中にあるんですよ」と富永氏。
これらの技術は、より良いエアコンのために蓄積されてきたものだが、エレクトロニクスデバイス向け水冷技術の話を聞いたとき、そのノウハウを活かして“台湾日立ならではのユニークな水冷モジュールを作れるのでは?”と直感したという。特に信頼性、効率の面で独自性を出せると富永氏は話す。
「冷媒を通すパイプをどのように接合するか、その信頼性確保はエアコンにとって命綱の部分です。また、放熱器のフィンやラジエータ内パイプの形状・構造、冷媒となる流体の流し方の解析など、僅かでも効率を上げるためにさまざまな努力を行なってきました。水冷モジュールには、そのほとんどのノウハウを活かすことができます」
「またベースの技術が日立製作所で開発されているため、人材交流もある我々としてはコラボレーションしやすい。その上、台湾という国はIT産業を基盤として成り立っており、“目の前に顧客がいる”ことは大きな優位点になると考えました」
その台湾日立がCOMPUTEX Taipei 2004で展示するのが、ラジエータをPC内部に内蔵させたコンパクトな水冷モジュール、およびラジエータ部をエアコンの室外機のように分離したセパレートタイプの水冷モジュールだ。
「特にセパレート型を強くアピールしていきたい。セパレート型は熱設計の放出に関して、モジュールに完全に“任せっきり”にできます。100Wオーバーのプロセッサを、どのようにしてコンパクトにするか、全く気にしなくても良いのがメリット」(高木氏)
試作機はキューブ型PCの下に座布団のように追加された“室外機”が取り付けられ、サイドから空気を吸い、放熱フィンを通過したあと背面に排出する構造だった。外気を取り入れるファンには、通常のプロペラファンではなくシロッコファンが用いられていた。
「サンプルはあくまでも技術デモです。実際にはOEM先と筐体デザインから協業を行ない、筐体内にデザインの一部として取り込むことになるでしょう。筐体内の温度に影響されず、安定した冷却性能を引き出せ、本体との接合部を標準化すれば製品ラインナップも作りやすい。我々としてはこのセパレート型を主力にしていきたい」(高木氏)
●高効率ラジエータとウォータージャケットで独自性を
確かに冷却と放熱を分離するセパレート型は、エアコンの世界では主流になっている。セパレート型が“台湾日立らしい提案”と言えなくもないが、技術的な変化というよりは、“アイディア勝負”といった印象を受ける。“エアコン屋”のノウハウは、どのように活かされるのか?
確かに福華電子の水冷モジュールと比較すると、ラジエータの放熱部がコンパクト化されミニタワー型、キューブ型それぞれの筐体内部にラジエータ部が収められているが、どの部分が優れているのだろう。
「今回、COMPUTEX Taipeiのために作った展示機は、あくまでも“こんな事ができる”というサンプルです。ノウハウ面では、たとえば熱源に取り付けるウォータージャケットや、放熱フィンの部分にエアコンのノウハウを使っています。ラジエータ部の配管内部は、単にパイプを通しているだけでなく、パイプ内に多くのヒダが付いており熱交換の効率を向上させています。ウォータージャケットも、流体解析の技術を用いて効率的な冷媒の流れと接触面積の最大化の面で最適化を図っています。もちろん、エアコン用冷媒ガスを扱う鋼管の接合で実績のある我々ですから、信頼性にも自信がある」
その結果、性能はどこまで向上したのか。今の時期に参入するということは、Prescottの115Wには対応できなければならない。
「試作機のうちラジエータ部を内蔵したタイプが120Wまでの熱源に対応します。セパレート型のラジエータは、さらに多くの消費電力にも対応できますが、現時点ではポンプの流量に制限がありますが、ラジエータの能力としてはさらに多くの熱を放出可能です。たとえば2ポンプで2つの熱源が発する熱をひとつのセパレート型ラジエータに移送し、同時に、静かに冷やすといったことも、OEM先には提案しています」(富永氏)
低騒音の面ではどうか?
「キューブ型用に試作した小型の水冷モジュールは、120Wのプロセッサが全負荷で稼働する場合で35dB、アイドル時は30dBです。この水冷モジュールはラジエータの厚み、面積を小さくするため8cmファンを用いています。数値的には12cmファンの他社製よりも音量が上がっていますが、この試作機ではコンパクトさと静音性の両立を目指しました。シロッコファンを用いたセパレート型や、より大きなファンとラジエータを用いた場合の数値は出ていませんが、前述の数字よりもずっと低く抑えることができるでしょう」
「ただし、我々は現状の水冷モジュールを進化させるのではなく、全く新しいラジエータの開発や、新しいアイディアで水冷モジュールの付加価値を高めようと考えています。勝負はこの1年になるでしょう」(富永氏)
●コストを吸収するだけの高付加価値を
台湾日立が新しいラジエータとアイディアで、水冷モジュールの付加価値をジャンプアップさせようとする理由は、第一にコストが理由だという。現時点では空冷システムの4倍以上のコストという台湾日立の水冷モジュールだが、これを3倍、2倍へとコストダウンしながら、水冷でしか実現し得ない新しい製品の提案を行なっていくという。
「今回はお見せできないのですが、ラジエータに関しては、現在使っているものより低コスト、高効率で小型のものを開発しているところです。従来型とは全く異なるタイプで、特にコストに関しては大きく下げることができるでしょう」と富永氏。
さらに高木氏もモジュールコストのうち大きな割合を占めていると言われるポンプに関して「我々はロータリーコンプレッサや冷却ファンに関するノウハウを持っており、水冷モジュールにおけるキーコンポーネントとなるポンプは自社開発したいと思う。コストダウンと性能向上の目標を早期に達成するためです」と話した。
最終的なコスト目標は現在の空冷用パーツの2倍程度、つまり40ドルから45ドル程度がターゲットというが、単にコストダウンするだけでは競争力を付けられないとも考えているようだ。
「水冷技術の最大の特徴は、熱を比較的自由に移動できることです。その応用方法によって、高性能化や低騒音化、あるいは小型化や実装密度向上を図るなど、自由度の高い製品設計が可能になるわけです。つまり水冷技術は空冷技術の高性能な置き換えではなく、より高い付加価値を持つ製品を作るための要素技術として利用すべき技術です。もちろん、そうは言っても4倍以上というコスト差は容認できないかもしれません。ですが、我々が目標とするコストを達成できれば、空冷技術の延長では実現できない斬新なエレクトロニクス製品が生まれるでしょう」
さらに台湾日立は、業務向けエアコンと組み合わせたサーバ向けソリューションも提案している。ラックマウントに水冷循環システムを搭載し、ウォータージョイントでシステム全体をつなぐ。ラック上部に取り付けた熱交換機でエアコン冷媒に熱を移し、ビル全体の空調システムで屋外へと放出するというアイディアだ。つまりオフィスの部屋とサーバラックを同じシステムで冷やそうというわけだ。
「1年でコストダウンと技術革新を行ない、市場を立ち上げるという目標は、水冷技術がパソコンDIY向けだけのニッチ技術に終わらせないために必要なことだと考えています。1年後には、OEM事業として立ち上がった水冷モジュール事業についてお話できるでしょう」(高木氏)
□関連記事
【5月28日】標準化に向けて水冷フォーラムが始動
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0528/lcf.htm
【5月31日】水冷コンポーネントベンダー訪問記(1)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0531/forward.htm
(2004年6月1日)
[Reported by 本田雅一]
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