今までずっとEFレンズとそれが装着できるボディばかりを買ってきた。理由は他愛ない。初めて買ったカメラがEOSだったからだ。 デジタル時代に入っても同じ。EOS D30、D60、10D。おまけに同時購入しかできないEF-SレンズにつられてKiss Digitalまで買ってしまった。漬け物石のように重くなければ、EOS 1D系にも手を出していたかもしれない(取材でPCと一緒に持ち歩くとなると、重いカメラはあまりに辛い)。 そんなEOSだらけの筆者の部屋に、PC Watchからゴールドに輝くニコンの箱が送られてきた。先日レポートした自動車レース「ブリヂストン・インディジャパン300マイル2004」の様子を、低価格ながらも高性能と評判のニコンD70で撮影してみようという話になったからだ。 組み合わせるレンズは、ニコンDXフォーマット専用の「AF-S Nikkor DX ED18-70mm F3.5-4.5G」、「AF-S VR Nikkor ED 70-200mm F2.8G」、「AF-S Nikkor ED 300mm F4D」の3本。僕はニコン用周辺機器を一切持っていないため、これで機材は全部である。 ●中級機として充分の操作感と機能 まずは一枚、レリーズしてみる。 なぜだか僕の周囲には生粋のニコンユーザーが多く、3人ほど友人がD70を発売日に購入していた上、ちょっとだけ発売前のD70にも触れていたため、製品についてはある程度知っているつもりだったが、自宅でゆっくりとさわってみると、やっぱり良くできている。質感に関して言えば、細かな造形などではD100の方が……と思う部分もあるにはあるが、超高速の起動やボタンの押しやすさなど操作感に文句はない。 この価格帯で一眼レフデジタルカメラというと、入門向けの割り切った製品というイメージを持つかもしれないが、D70は明らかに中級機の性格が付けられている。D70はEOS Kiss Digitalと比較されることもあるようだが、少なくとも機能や操作感といった面で両者は全く競合していないように思う。 この記事は比較レビューが主題ではないが、簡単にコメントしておきたい。 D70はハイエンドの高機能レンズ固定式デジタルカメラユーザーがステップアップする受け皿として、使いこなしを意識した作りになっている。これに対してEOS Kiss Digitalは、EOS Kissの伝統に従って、ユーザーに対して撮影テクニックを求めない(求めないだけでなく、テクニックを駆使することを拒絶する部分があるのは問題なのだが)。 また、D70は操作性や機能面で、上位モデルのD100やD1x、D2Hなどとの連続性がある。D70を使いこなせれば、ニコン製の上位機種を買い足す、あるいは買い換えても、違和感なく使えるだろう。しかし、EOS Kiss Digitalは電子サブダイヤルが装備されなかったり、必要なAFモードの選択が行なえなかったりと、あらかじめ決められたレールの上で撮影をする感じだ。操作の互換度も低いため、上位機種を買い足して併用する場合には、シームレスに持ち替えて撮影、なんて使い方には馴染まない。 ニコン製デジタル一眼レフカメラの序列の中では、一番低価格で入門機という位置付けになるのかもしれないが、その実態はしっかりと作られた中級機と言える。JPEG出力時、ピンクの蛍光色や肌色、空などが、あまりに鮮やかに出ることに驚いたが、それも別売りのNikon Captureを用いればある程度は解決する問題だ。僕がEFレンズユーザーでなければ、きっと一番よく使う一眼レフデジタルカメラになっていただろう。 ●コンティニュアスAFの精度を確かめてみる 今回のD70レポートで、編集部から授かった最大のミッションは「コンティニュアスAFで、インディカーをどこまで追えるかを確認すること」。それに「高速CFカードとの組み合わせによる無限連写をモータースポーツの現場で試す」というテーマもあった。 しかし、賢明な読者ならお気づきだと思うが、いずれもかなり無茶な話ではある。オーバルサーキットで争われるインディジャパンでは、コーナー入り口でも250Km/hぐらいまでしか速度が落ちないため、コンティニュアスAFで追うのが難しいと予想される。また、連写中はファインダー像が断続的に切れるため、流し撮りする時には連写ではなく、ファインダーを見ながらシャッターを自分で押していかないと、きちんと撮れない。 とは言え、やってみなければ具合もわからない。 ということで、スタート前の出場ドライバによるパレードラップで、トニー・カナーン選手をまずは追ってみた。このパレードラップは見ての通り、オープンカーでゆっくりと一周するもの。速度はあまり速くない。
このぐらいの速度では全く問題ナシ。被写体をAFフレームから逃さないようにしておけば、動体予測プログラムが有効に効いてピントを自動で合わせてくれる。AFフレームから一度でも外してしまうと、ピンが後ろに抜けてしまうが、それはまぁ仕方がない。再フォーカスされてピンが合うまでには、ワンテンポ待たなければならない。もっとも、フレーミングを変えながらの撮影だと、AFフレームから外さないようにするのが難しかったりするのだが。 次に、無謀とも言えるメインストレートからターン1に入る様子を連写しながらコンティニュアスAFで追いかける実験。サスガに300Km/h前後の動体だけに、コンティニュアスAFが効くかどうかではなく、AFフレームに車を入れる方が困難だった。D70は低価格機ということを考えれば、ファインダー消失時間の長い方ではないと思うが、それでも連写しながらの流し撮りはキツイ。ということで、フレーミングがずれているコマがあるのはご愛敬。 そこそこピンが来ている。相手の速度(ターン1への進入はおよそ270Km/h。ブレーキング前は350Km/h近い)を考えれば、かなり高性能と言っていいのではないだろうか。ちなみに僕が普段使っているEOS 10DのAI Servo(動体予測AFモード)では、これほど速い動体は追えない。搭載されている演算プロセッサの速度が速いのだろうか? ただし、ここで掲載した4連写のあと、もう1枚はコックピットのアップが入るハズなのだが、そちらは完全にピンがはずれていた。これは仕方がないだろう。 ここではテストのためにシャッターボタン押しっぱなしの連写をしたが、実際にコンティニュアスAFを用いて動体を撮影する場合は、シャッターボタン半押しで被写体を追いながらコンティニュアスAFでフォーカスを合わせ、チャンスと思う場所で[前押し]→[半押しに戻す]を繰り返して撮影した方が、ずっと成功率は高くなる。 また、当たり前と言えば当たり前だが、マニュアルフォーカスでピンを1カ所に置いておき(置きピン)、レンズで被写体を追いながら特定の場所でシャッターを押した方が、さらに良い結果が得られる。 とはいえ、ここまで健闘するとは思わなかった。D70の動体予測は、結構使えるんじゃないだろうか。なお、無限連写機能だが、被写体が近付くまでの間にバッファがいっぱいになることがないため、その恩恵に預かることはなかった。 しかしJPEG記録時、バッファが空いていく時間が非常に短い点はありがたい。 ●幅広いユーザー層にオススメ さて、全然EOSユーザーの視点が入っていないような気もするので、レビューらしいことももう少し書いておこう。 ご存じの読者も多いと思うが、キヤノンとニコンは、あらゆる操作が逆になっている。バヨネットマウント、ピントリング、ズームリングはすべて回転方向が逆。キヤノンは右手人差し指のダイヤルをメイン操作に使うが、ニコンのダイヤルは親指位置がメイン操作。 【お詫びと訂正】記事初出時、キヤノンとニコンのメイン操作に使うダイヤルの記述が入れ替わっておりました。お詫びして訂正させていただきます。 特にマウント、ピント、ズームの回転方向は、なかなか慣れない。が、筆者の場合は半日ほどで、割と自然に使えるようになった。おそらく数日間使っていれば、間違えることもなくなるだろう。よって、操作の互換性については、あまり気にしなくていいように思う。困るのは本当に最初だけだ。 また実際に最新レンズとの組み合わせで使うまで誤解していたのだが、最近のニコンレンズはなかなかコンパクトにできている。特にAF-S VR Nikkor ED 70-200mm F2.8Gは、キヤノンの同等製品よりもコンパクトかつ軽量だ。以前は、EFとNikkorを比較すると、たいていEFの方が軽量/コンパクトだったり、ズームレンズの画角が便利だったりしたことが多かったのだが、特に絞り環がないGレンズに関しては軽量/コンパクトなものが多いようである。 機能的にも、流し撮り時の手ぶれ補正制御方式が自動というのがすばらしい。キヤノンEFレンズの手ぶれ補正機能は、流し撮りの時、一方向には補正を行わないようにするため、スイッチで動作モードを選ばなければならない。それがこのレンズでは、普通に流し撮りをしていれば、レンズ側が勝手に判断してくれる。 ひとつ問題があるとすれば、コンティニュアスAFとシングルAFの切り替えがスイッチでなく、メニュー内で行なわなければならないことだ。モータースポーツを撮るには、これがとても使いにくかった。 ここで掲載した写真は、AF-S VR Nikkor ED 70-200mm F2.8Gで流し撮りしたものだが、きちんと横方向にだけ流れているのが分かると思う。僕でも簡単にこうした写真が撮影できるのは、まさに道具が進化してくれたおかげだろう。 というわけで、個人的にもかなり気に入ったD70。幅広い層にオススメしたい。はじめて一眼レフデジタルカメラを購入するユーザーはもちろん、これまで中級クラスの銀塩一眼レフカメラを使っていたユーザーにも満足できる懐の深さがあるからだ。 10万円超のレンズ一体型デジタルカメラユーザーも、本機には満足できるはず。高級レンズ一体型のカメラは、一様に機能が豊富で、様々な撮影テクニックを駆使できるようになっていて、単に撮影機能だけならば、こちらの方がいいんじゃないかと思うほどだ。しかしそんな高機能デジタルカメラのユーザーも、D70程度の性能と機能があれば十分。一眼レフデジタルカメラが欲しいユーザーに対して、安心して勧められる良品だと思う。 □ニコンのホームページ (2004年5月18日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
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