既にAKIBA PC Hotline!などでレポートがあるように、秋葉原で台湾COMMELLのPentium M対応Mini-ITXマザーボードが発売されており、これを搭載したキューブ系デスクトップまで登場している。これと組み合わせるべきCPUについても、すでにPentium Mのリテール品や、これをCeleron化したCeleron Mのバルク品が登場するなど、「選び放題」というほどではないにせよ、一応必要なパーツは全部入手できる状態になっている。特に静音系では、従来はVIA C3を使ったEdenシリーズのボードしか事実上の選択肢がなかっただけに、Pentium Mに注目しているユーザーは多い筈である。そんな訳で、早速試してみた。
●マザーボード さて、まずはマザーボードの方である。今回入手したのは、COMMELLのLV-671NSMP【写真01】である。パッケージはマザーボードとCPUクーラーのほか、ACアダプタ(80W)とIDEのフラットケーブル1本、FDD用のフィルムケーブル1本、それにマニュアルとドライバCD-ROMというシンプルな構成である【写真02】。バックパネルはというと、ACアダプタの接続口が左端にあるせいで、独自のレイアウト。とはいえ、S/PDIF端子まで揃っているあたりはかなりの充実振りでもある【写真03】。 CPUクーラーはマザーボードに付属してくるが、これがちょっと独特な構成。CPUソケットの四隅にはあらかじめピンが立っており【写真04】、このピンにCPUクーラーを差し込んだ上で板バネで抑えるという構造になっている【写真05】。CPUソケットはZIF(Zero Insertion Force)だが、通常よく見かけるレバー式ではなく、ネジを半回転させるというこれまた珍しい方式【写真06】である。回転させると、同時にCPUソケットが移動する【写真07、08】訳だが、傍目には殆ど区別がつかない。
ボード上は、CPU脇にMiniPCIソケットが用意され、その左に薄型のPCIスロットが1本装備されている。MiniPCIの方は、ICH4の上にバッテリバックアップ用電池が配されている関係で、厚みのあるカードだとちょっと引っかかりぎみになるので注意してほしい【写真09】。メモリスロットは1本、IDEコネクタは通常のサイズのものが1本(IDE1)と、2.5inch HDD用の44pinのものが1本(IDE2)用意されている。IDE2の右脇にあるのは、LDVS用のコネクタで、電源コネクタ下にある(バックパネル用)インバータ制御コネクタと組み合わせて液晶パネルへ直接出力できるようになっているが(別にインバータ回路が必要)、あまり自作には関係ないだろう【写真10】。
●CPU さてこれと組み合わせるCPUである。現在店頭ではPentium M 1.40GHz~1.60GHzのリテールパッケージが入手できるほか、バルクのCeleron M 1.30GHzも入手できる状態だ。今回はこのリテールのPentium M 1.60GHzとバルクのCeleron M 1.30GHzを入手し、また一応Baniasコアの最高クロックであるPentium M 1.70GHzをIntelから借用してテストを行なってみる事にした。パッケージ自体は(当然ながら)3つ共全く同じで【写真11~13】、唯一ラベルの文字だけでしか判別ができない。リテールパッケージはデスクトップ向けのCPUと同じ大きさの箱だが【写真14】、大きく“Pentiun M”の文字が躍っているのと、オレンジ色の目立つパッケージでもあるので間違える事はなさそうだ。ちなみにパッケージにはCPUクーラーが含まれないため、CPUの梱包はごらんの様にシンプルである【写真15】。一方、Celeron Mの方はというと、モバイルPentium 4/モバイルPentium 4-Mのパッケージを流用したのか、無意味に大きな梱包にCPUだけが収まっているという形で販売されていた【写真16】。
●Setup さて、それでは実際の組み立てである。このマザーボード、本来は裏側にPCMCIA/CardBusスロットが取り付けられる筈なのだが、LV-671NSMPではこれが省略されているために、通常のMini-ITXボードとして取り扱いが可能だ。バックパネルに関しては付属せず、また通常のものとは全く異なる配置なので現実問題として装着できない事になる。気になる人は自作(極端な話、ボール紙で作ってアルミホイルを貼るだけでも十分なシールドになるだろう)するしか無いが、今回はそこまで凝る必要もないので開けっ放しで使った。それよりも問題になるのは電源だろう。本来は80WのACアダプタが用意され、HDDなどはマザーボードのコネクタ(写真10のDIMMスロット右下)から分岐ケーブルを使って供給する形になる。が、試しにPentium M 1.70GHz+512MB PC2700 DIMM、G450/PCI 32MB、Barracuda 7200.7 80GB、16倍速DVD-ROMという構成にしてみたところ、Windows XPのインストール時にしばしば不安定な挙動を示した。HDDとDVD-ROMだけ外部のAT電源を使うようにすると、不安定な挙動はぱったり無くなるあたり、やはり80Wの電源ではちょっときわどいと言うべきなのだろう。対策としては ・80WのACアダプタで済む様な構成にする の2つしかない。前者は簡単な話で、HDDを5,400rpmにし、ビデオカードなんぞ装着するのを止めれば80Wでも何とか行ける。電源ユニットを外に出せるから小さなケースでも配線にゆとりが出るし、静音化にも貢献する。ただ、これは当然性能面での犠牲がある訳でもある。で、後者の方法である。まず、ATX電源をAT電源動作にする。今回はタイムリーの電源変換ケーブルを使ったが、同種のものは各社から出ているので、どれでも構わないと思う。もちろんAT電源をお持ちならば、それを使っても良い。 さて、このAT電源のドライブ用コネクタをマザーボード上の電源コネクタに繋ぎ、ついでにCPU右上のATX12V端子にもATX電源からATX12Vコネクタを装着する。この状態で(電源変換ケーブルの)電源スイッチをONにすると、あっさり起動してしまった。この状態で、OSのインストールや一連のベンチマークを実施しても動作には全く問題が見られず、十分実用に耐える状況だった。難を言えば、マザーボード側のパワーON/OFFピンでは正常に起動/終了が出来なくなる事で、OS側でシャットダウンを選択しても電源が完全に切れない状態になることだ。ただ、AT電源を装着していると思えばこれはこれで問題ないとも言える訳である。最近のMini-ITX対応キューブの中には150Wクラスの電源を搭載しているものもあるから、こういった電源をそのまま使いたいと思う場合には有効な選択肢であろう。
なお、BIOS Setupであるが、ちょっと不思議な項目【写真17】があったりするものの、概して普通のAWARD BIOSの画面である。CPUの設定に関しては、[Advanced BIOS Features]→[CPU Feature]にある“Thermal Management”の設定が独特である。これは要するに温度が高くなってきたらCPU性能を絞って温度を下げるためのものだが、この際に ・“Thermal Monitor 1”(周波数を変えずに実効性能を絞る方式) の2つがラインナップされている【写真18】。Thermal Monitor 1の場合、動作速度や電圧は変更できないが【写真19】、Thermal Monitor 2ではクロックの倍率とVIDをそれぞれ絞る事が出来る様になっている【写真20】。Enhanced SpeedStepのお陰で、倍率はかなり自由に選べるようになっており【写真21】、これとFSBの設定【写真22】を組み合わせる事で、CPUの定格クロック内に収めながらFSBのクロックアップなんていう遊び方も出来るのは、ちょっと面白いかもしれない。(今回は試して見なかった)
さてOSのインストールである。そもそもこのLV-671、コチラの記事によればEnhanced SpeedStepに対応しているという話であったが、その後の情報として『OEM版のWindows 2000/XPを使った場合、WindowsをインストールしてもSpeedStepが有効にならないという状況が発生している。Pentium Mの可変クロック、可変電圧が有効にならず、また有効にする方法が見つかっていない』という話が伝わってきている。まずはこれが本当かどうかを確認してみる必要性がありそうだ。幸いというか不幸にもというか、筆者の手元にはOEM版のWindows 2000/XPのパッケージは無い。あるのはリテールパッケージと、MSDN Professional Subscriptionで入手できるWindows 2000/XPである(ひょっとするとこれがOEM版と同じものかもしれないが、確認は取れなかった)。そこで、素直にリテールパッケージを利用してインストールを行なってみた。 ●Windows 2000 まずはWindows 2000 Professionalをインストールし、Service Pack 4を当ててみた【写真23】。インストール自体は全く無難に完了した。単にOSのインストール後、Inf Driver/VIDEO/Ethernet/Soundの各ドライバをインストールしただけである。問題はSpeedStepの動作だが、そもそもSpeedStepのアプレットはドライバCDに入っておらず、当然ながら電源プロパティにもそれらしきものは無い。試しにCrystalCPUIDを動作させてみたが【写真24】、Baniasコアと認識はされるものの、動作クロックは1.7GHzで一定となっており、負荷を変えようが何をしようが、一切変動は無かった。そこで、某Centrinoノート(笑)からWindows 2000のSpeedStep Applet 3.0を持ってきて無理やりインストールしてみたのだが、結果はというとご覧の通り【写真25】で、そもそもSpeedStepが動作しない状態になっている。ちなみにこの状態、先ほどのThermal Managementを“Thermal Management1”と“Thermal Management2”のどちらに設定しても変わらなかった。 ●Windows XP お次はWindows XP Professionalである。こちらもService Pack 1を当てた後で、同じくInf Driver/VIDEO/Ethernet/Soundの各ドライバをインストールした【写真26】。この状態でデバイスマネージャを見てみると、正しくPentium M 1.70GHzは認識されている【写真27】が、プロセッサドライバはWindows XP標準のもので【写真28】、これ以上新しいドライバは見つからなかった。
さて、Windows XPの場合、幸いにもSpeedswitchXPなるユーティリティがある(これがWindows 2000でも動作すれば、無理にSpeedStep Appletをインストールする事はなかったのだが)。これをインストールして動作速度を見てみると、やっぱりCPUの駆動速度は一定になっている【写真30】。SpeedswitchXPの場合、SpeedStep Appletばりにタスクトレイにアイコンが出現し、ここで動作モードを切り替えられる【写真30】のだが、MAX Battery【写真31】でも、Dynamic switching【写真32】でも、やはり速度は1.7GHzのまま全く動かなかった。
実はこれに関して一つ疑念がある。Enhanced SpeedStepを利用する場合、CPUとチップセットの両方がこれに対応していなければいけない訳だが、このためにはBaniasコアのPentium MとIntel 855PM/GM/GME、それにICH4-Mが必要である。ところが今回LV-671NSMPに搭載されているのは、ICH4である【写真33】。Intelの資料を見る限り、ICH4でEnhanced SpeedStepの利用が可能、という記述も不可能であるという記述も遂に発見できなかった(資料は何れもICH4-Mの利用を前提にしている)ので断言は出来ないのだが、ひょっとしてOEM版のWindowsとかそういう問題ではなく、こののLV-671NSMPでは(ICH4に省電力機構が入っていないため)SpeedStepがそもそも利用できないのではないか、という気がする。 このあたりについてCOMMELLのサイトには何も記述がなく、マニュアルにも一切関係した話はない。BIOSも標準で入っているV1.1が最新とあって、現時点ではちょっとお手上げ状態である。利用に際しては、とりあえずSpeedStepは無いものとして考えたほうが良さそうだ。 ●Centrino Mobile Platform ところで話をちょっと変えるが、Centrino Mobile Technologyに準拠した構成で、Windows XPがプリインストールされた状態のノートPCの場合、システムのプロパティにCentrino Mobile Technologyと表示される(出ないメーカーの製品もあるようだ)。ところがここで、例えば無線LANカードを外すと、表示がCentrinoからPentium Mに切り替わるといった芸の細かい機能が付いている。では逆に、Centrinoの条件を揃えればCentrinoのロゴが表示されるか? という事をちょっと試してみた。この場合問題になるのは、無線LANカードの入手であるが、幸い手元にはCentrinoの要件を満たしたThinkPadがある。ここから無線LANカードを抜いて、MiniPCIカードに装着してみたわけだ。で、結果はというと、無線LANを挿そうが挿すまいが、プロパティにはPentium M 1.70GHzと表示されるのみだった。ちゃんとドライバは認識されて動作はしたのだが、まったく表示は変わらないままだった。もっともこれが世間でよく言われている様に「メーカー製ノートPC以外でCentrinoの要件を満たしてもCentrinoと表示されない」(Centrinoと表示されるためには特殊なドライバが必要で、これは一般配布されていない)ためなのか、それとも今回の構成がCentrinoの要件を満たしていない(上で書いた通り、ICH4でCentrinoと認められるのか、非常に微妙な気がする)ためなのかは判らないが、とにかくCentrinoにならないことだけは確認できた。 ●Performance ここまでやったからには、ついでに性能も確認してみる事にした。CPUの方は最初に説明した通り、Pentium M 1.60GHz/1.70GHzと、Celeron M 1.30GHzが揃っている。この3つでどの程度性能が違ってくるかを確認する事にするとして、絶対的な基準が無いとどの程度のスピードか見当がつかない。そこでPentium 4 2.40C GHzを加える事にしたが、片やDDR333メモリ×1チャンネルで、しかも統合グラフィックス、片やDDR400×2チャンネルでディスクリートグラフィックスというのはあまりに条件が違いすぎる(丁度手元にIntel 865Gのマザーボードが無かったというのも理由の1つだ)。まぁメモリに関してはとりあえず目をつむるとして、グラフィックだけMatroxのG450/PCI 32MBを使う事にした。こうすればグラフィック周りの性能は同一になるからだ。勿論G450では3D性能はまるっきり期待できないので、ベンチマークは2D系を中心に行なう事にした。また、Pentium Mでメディアエンコードをやるのも何なので、もっぱらアプリケーションベンチマークに絞った。テスト環境は下表に示す通りである。
一応最速はPentium 4 2.40C GHzだが、これはMemoryの結果が大きく違うのが最大の要因に思われる。これはまぁハードウェア構成が異なる以上当然の事で、逆にCPU性能ではあまり大きな差がついていないのが面白いところだ。Celeron Mもかなり健闘しているが、流石に全般的にやや低い結果になっている。 こちらでCPU性能だけもう少し細かく見てみたい。各テストの結果の単位が異なるので、グラフはCeleron M 1.30GHzを100%とした相対性能である。浮動小数点演算系では流石に大差が付くが、これはPentium MとPentium 4の方向性の違いを考えれば納得ゆく結果である。むしろ、整数演算系が(SSE2を含めて)殆ど性能差が見られないあたりに、Pentium Mの効率のよさを感じる。動作クロック比でほぼ2:1となるCeleron M 1.30GHzですら、性能の落ち方が40~50%程度というあたり、Pentium Mのアーキテクチャの有効性が判るというものだ。
ついでにメモリテストの結果も示しておく。全般的にPentium 4のアクセス速度の速さが目立つが、動作クロックを考慮すると、L1/L2キャッシュの範囲ではほぼ同等といったところである(L2キャッシュの範囲では微妙にPentium 4が早いが、その分L2キャッシュの容量はPentium Mの方が多い)。つまるところ、メモリ構成が同じならば、Pentium Mと同等レベルの性能になると考えられそうだ。
では実際のアプリケーションベンチマークを、ということでまずはSYSMark2004である。結果から見るように、それなりに性能差はある。ただ面白いのが、大差が付いているのはOffice Productivityの方で、Internet Contents Creationでの差はわずかな事。詳細を見てみると、大差がついているのはData Analysis(Excelで大量のデータ処理を行なう)で、逆にDocument Creation(文章の作成)では殆ど差が無い(Pentium M 1.70GHz=134、Pentium 4 2.40C GHz=136)。データ処理でPentium 4が有利なのは当然で、文章作成といった日常の利用に関しては殆ど遜色ないと言っても差し支えなさそうだ。 もう1つWinstone 2004の結果も見てみたい。こちらでは逆に、Pentium 4 2.40C GHzがPentium M 1.70GHzにやや劣るといった、中々面白い結果が出ている。Multitasking Test(複数のアプリケーションを同時に実行させる)ではHyperThreadingの効果もあってかPentium 4が最高速だが、通常のアプリケーションではむしろPentium Mの方が有利な場合も(アプリケーション次第では)あることが判る。 ●総評 ということで、LV-671を使って簡単に遊んでみたが、思ったよりも実用的な性能と構成である事が確認できた。SpeedStepの件はちょっと残念だが、ことデスクトップで使う分には必ずしもSpeedStepは必要ないし、実際CPUファンの音は殆ど聞こえない程度。全体的な発熱も少ないので、ケースファンもかなり低回転のもので事足りるだろう。(HDDの冷却もあるから、ファンなしというのは個人的にはあまりお勧めしない) 問題はコストだろう。マザーボード単体で4万そこそこ、ベアボーンキットが(ライザーカードやバックパネル、セカンダリ用のIDEケーブルまでついているのでお徳ではあるのだが)5万円超で、加えてCPUまで買うと大体10万円コースである。Pentium 4とかAthlon XPベースなら、5万円で同じ構成が十分入手できる事を考えると、まだ高い買い物とは言えるだろう。現時点ではまだ、Pentium Mにそれだけのプレミアを支払えるごくわずかなユーザー向け、という域からは脱しないというのが率直な感想だ。 ただし、COMMELLに続いてEPoXもPentium M対応製品の用意をしているし、さるTier1ベンダーも水面下でベアボーンの準備をしているのだそうで、今後製品が多く登場すれば必然的にマザーボードの価格も下がる事になる。一方CPUについても、DothanコアのPentium Mが本格的に登場すれば、Baniasコアの製品も当然価格が下がる事が期待されるので、うまくすれば価格が下がり流通量が増えると言った事も期待できるかもしれない。今年のCOMPUTEXで、どれだけPentium M対応マザーボードが展示されるか、ちょっと楽しみである。 □関連記事 (2004年5月14日) [Reported by 槻ノ木隆]
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