元麻布春男の週刊PCホットライン

サーキットにPCを持って行く理由



 4月15日から17日までの3日間、栃木県のツインリンクもてぎで、INDY JAPAN 300マイルレースが開催された。天候にも恵まれ、3日間で延べ10万人を超える観客がサーキットに詰め掛けた。レースはツインリンクもてぎで開催されるアメリカンレーシング(CART/IRL)としては、初めてホンダエンジン車(Andretti Green RacingのDan Wheldon)が優勝、7年目にして地元での勝利というホンダの悲願が達成された。このINDY JAPAN 300マイルレースでは、Pit Live TV Powered by Intelとして、無線LANを用いたストリーミングサービスが提供された。ここでは、その様子を紹介することにする。

●レース映像と順位表を無線LAN配信

 Pit Live TVの基本は、IEEE 802.11b/gに対応した無線LANアクセスポイント(Cisco Aironet 1200)を用いたマルチキャストシステム(Internetには接続されていない、クローズドネットワークでのサービス)。受信者はすべて同時に同一のデータを受信するため、基本的に何人のユーザーが接続しても無線LANの帯域が問題になることはない。通常、マルチキャスト時は1Mbpsに制限されている帯域を、アクセスポイントを改造することで、最大2Mbpsに拡張している。

 このうち実際に利用している帯域は約1.4Mbpsで、その内訳は表の通り。用いるクライアントソフトウェア別に、計5つ番組を流している。基本的にデータは、MPEGエンコードされたNTSCビデオ(アナログビデオ)で、主催者であるIRL(Indy Racing League)がサーキット内での視聴用に制作しているものだ。

 配信クライアント(ソフトウェア)ビットレート対応クライアント
レース映像OKIプレイヤー400KbpsPC
Windows Media Player400KbpsPC、PPC2003
Zaurus専用(試作ソフト)400KbpsZaurus
順位表OKIプレイヤー100KbpsPC
Windows Media Player100KbpsPC、PPC2003
  計約1.4Mbps 

 それをXeonを中心としたサーバでエンコードし配信する(この夏あたりをめどにItanium 2サーバを設置する予定)。配信される映像のデータレートはレースの実況映像が400Kbps、順位情報が100Kbpsとなっており、すべてを合計すると1.4Mbpsということになる。ハードウェア的にはIEEE 802.11g対応だが、実際に使われているのはIEEE 802.11b互換モードである。将来的にはIEEE 802.11gの普及を前提に広帯域化を図りたいという。

サーキットに設置されたIEEE 802.11b/g対応のアクセスポイント アナウンスブース内に設置されたサーバ
INDY JAPAN 300マイルレース開催時のPit Live TVサービスエリア マルチキャスト配信システムの概要

 PCで利用可能なのは「OKIプレイヤー」と「Windows Media Player」の2つで、OKIプレイヤーの方が低遅延(約1〜2秒)である代わりに絵が止まりやすい(ネットワーク上の問題でIフレームを受信し損なうと次にIフレームを受信するまで画像の更新が停止する)のに対し、Windows Media Playerの方が動画が止まり難い代わりに10秒程度の遅延を伴う。いずれのクライアントにしても、同時に2つのインスタンスを立ち上げることはできないから、レース画像と順位情報の両方が欲しいユーザーは、たとえばOKIプレイヤーでレース画像、Windows Media Playerで順位情報を流す、といった使い方になる。

 このサービスが提供されたのは、ホームストレート沿いのグランドスタンドエリアと、オーバルコース(スーパースピードウェイ)の第2ターン沿いのエリア。INDY JAPAN 300マイルレース時は、この第2ターンには「インテルターン」という愛称がつけられ、Centrinoのロゴが貼られた(ちょっと小さくて、TV等では分かりにくかったかもしれない)。

 グランドスタンドと第2ターン間は、26GHz帯の準ミリ波を利用したWIPAS(Wireless IP Access System)で接続、離れた第2ターンエリアのユーザーにグランドスタンドと同じ映像を配信した。無線LAN、WIPASの両無線機材とも、基本的にはサーキットの固定施設として整備されており、スポット的に設置されたものではない。今後も様々なイベントで活用される予定だ。

●屋外でのノートPC利用には問題が

 筆者もツインリンクもてぎに出かけ、実際にPit Live TVのサービスを受信してみた。利用はWebブラウザにURLを入力すればPit Live TVのポータルが表示される。そこで受信したいサービス(OKIプレイヤーかWindows Media Playerか、レース映像か順位表か)をクリックするだけで、自動的に目的のプレイヤーが立ち上がり、映像の表示が始まる。OKIプレイヤーはInternet側のWebサイトにあるため、事前に自宅等でインストールしておく必要があるものの、利用に際して特に難しいことはない(ただしファイヤウォール等は切っておく必要がある)。

 接続状況は、無線のせいもあって常にバッチリ、というわけにはいかないが、案外悪くない印象だ。ただ、順位情報という最もテキストで表示するのに向いた情報が、テキストではなくアナログビデオでストリーミングされるのはやはり見づらい。リアルタイム更新するJAVAアプレットのような形を望みたいところだ。それなら、どこかで事故によるフルコースコーション(いわゆる黄旗状態、セーフティカーがコースインし、追い抜き等が禁止される)が生じた場合等にいち早く情報を提供することができるし、ラップタイムモニターのような細かな情報をより有効に活用することも容易になるだろう。

 なお、当日の順位情報が1位から10位に限られていたのは、IRL側の都合らしい(彼らはあまり細かいことは気にしないようだ)。やはりスクロールして全部の順位が知りたいと思うのだが、サーキット側の施設は十分対応できるとのことであった。

実際にPit Live TVで配信されたレース映像 実際に配信された順位情報。アナログビデオなので細かい文字が読みにくい 開幕戦ウィナーのであるサム・ホーニッシュJr.の1回目ピットイン。ピットアウト後、松浦孝亮選手と接触、リタイアに終わった

 こうしたシステム的な部分よりもっと辛かったのは、環境の問題だ。ノートPCの液晶ディスプレイは、基本的に屋外で太陽光線の元で利用するようにできていない。見えないことはないのだが、鮮明さには欠ける。今回はなかったが、フードのようなものを提供してはどうか、というアイデアも検討されているようだ。ぜひ実現を望みたい。

 もう1つ環境面で困ったのは砂埃だ。レース当日は結構風が強い日で、スタンドでノートPCを広げていると、砂埃が飛んできた。筆者はキーボードカバーのようなものをつけるのは嫌いなのだが、サーキットに出かける時はキーボードカバーをつけた方が良いかもしれない(急な雨の対策も考えておいた方が良い)。

 このような問題は、屋根のある施設(たとえばサーキット内のレストラン)に入れば簡単にクリアできる。が、そういう施設内にはたいていTVが設置してあり、PCで見ることができるのと同じ映像が流れている(しかも大画面で)。

 PCの利点を生かすには、ユーザーの希望によりカメラを切り替える、といったインタラクティブな要素が欲しいところだが、それはサーキット側でも認識しており、今後改善したい部分の1つに上げられているようだ。

●ラスト1マイルが届かないサーキット

 そして、これもサーキット側が強く認識していることに、Internetの接続問題が挙げられる。出かけたサーキットでもInternetに接続し、レースの興奮をメールやチャットで伝えたい、撮影したばかりの写真をメールで送りたいという需要は少なくないハズだ。それができるなら有償でもかまわないという人も大勢いることだろう。

 観客にInternet接続サービスを提供するには、マルチキャストではなくユニキャストのシステムにしなければならないから、さらにコストもかさむだろうが、有償サービスでコストを吸収できるかもしれない。

 サーキット側も、観客にIntenet接続サービスを提供するだけでなく、イベント情報の発信という点でも効果が高いことは認識している(さすがに放映権がからむため、レース画像のリアルタイム配信はできないだろうが)。しかし実際には、観客にInternet接続サービスを提供するどころか、プレスルームやメディアセンターにもその環境はない。INDY JAPAN 300マイルレースのような国際レースイベントには、海外からも取材者がやってくるが、通信手段が電話とFAXに限定される現状に、不満を漏らす人も少なくないらしい。

 ただしこれは、サーキット側が規制しているのではない。サーキットは茂木町の中心から遠く離れた場所にある。茂木町のNTT局舎からは約7kmも離れているため、ADSLのサービスが受けられない。サーキットへのラスト1マイルをどうにかしなければならないわけだが、これはサーキット側の努力だけでは解決しない問題だ。

 現時点で、Pit Live TVのサービスのためだけに、わざわざノートPCをサーキットまで持っていく価値があるのかといわれると、正直言って苦しい。だが、サーキットに出かける人の多くは、自家用車で出かけるのだろうから、それならノートPCを乗せていってもバチは当たらない。予選から泊りがけで出かけるのであれば、すでに多くの人がノートPCを持参していることだろう。そうやって持っていったノートPCがあるのなら、サーキットで使ってみるのもアリだと思う(何せ、このサービスは無料なのである)。

 Pit Live TVのようなサービスを実施することでノートPCをサーキットに持ち込むユーザーが増えれば、それだけサーキットでのInternet接続の需要も高まる。いつかサーキットで普通にノートPCでInternet接続できる日がきて欲しいものだと思う。

□ツインリンクもてぎのホームページ
http://www.twinring.jp/
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【4月19日】無線LANでモータースポーツを楽しむ
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【2003年7月14日】インテル、日本HP、マイクロソフト3社が鈴鹿8耐をサポート
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(2004年4月22日)

[Text by 元麻布春男]


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