2月にサンノゼで開催されたPalmSourceの開発者向けイベント「PalmSource Developer Conference」でのニュースは、昨年末にライセンシーに対してPalm OS 6を出荷したこと、Palm OS 6は、「Cobalt」(コバルト)という名前になり、Palm OS 5に「Garnet」(ガーネット)という名前を付けて両方をサポートしていくことになったというものの2つ。 Palm OS 6は、ARMネイティブアプリケーションが動作し、念願のマルチタスク機能を装備したOSだが、その分、ハードウェアリソースに対する要求が高いようだ。このため、コストに敏感なスマートフォン市場などには、このままでは導入は無理と判断したのか、Palm OS 5も引き続きサポートすることになった。しかし、5と6というバージョン番号では「新しい方と古い方」という見方をされてしまう。そこで、名前を付けることで、新旧というイメージを払拭することにしたわけだ。 で、そのPalm OS Cobaltなのだが、PalmがARM系プロセッサを採用していることもあって、翌週に開催されたIntel Developer Forum(IDF) Spring 2004でもセッションがあった。概要は昨年の春にレポートしたものとほとんど変わらないが、PC上のエミュレータによるデモンストレーションなどが行なわれていた。PC用のPalm OSシミュレータは、PalmSourceが提供しており、同社のサイトからも入手可能だ(ただし、デベロッパ登録が必要)。 これを見ると、PalmOneの最新機種「Tungsten T3」を基本にしたような画面になっている。なお、このシミュレータに付属している標準アプリケーションは、Palm OS 5以前のものとほとんど同じである。Cobaltで搭載された新しいGUIコンポーネント(タブ切替など)を使ってはいるが、あまり大きく改良されているようには見えない。 ●T3と似ているPalm OSシミュレータの画面 Palm OSシミュレータは、x86用にコンパイルされたPalm OSである。このシミュレータは、コードエミュレーションで動作しているわけではないので、より本来のOSに近い挙動を示す。本来は、アプリケーションの開発用である。 Cobalt用のPalm OSシミュレータの画面を見ると、そのデザインは、かなりTungsten T3に近い。T3同様にDynamic Input Area方式を採用していて、画面下部にStatus Barが置かれている。 また、左下のホームアイコンをタップし続けると現在動作中のアプリケーションのリストが表示され、これにより他のアプリケーションへの切替ができるようになる。T3でもこの動作は同じだが、T3が搭載してるPalm OS 5では複数アプリケーションを同時起動できないため、表示されるのは過去に起動したアプリケーションのリストとなっている。 Cobaltのドキュメントを見ると、ユーザーインターフェースとして、Status Barなどが定義されおり、これがCobaltの標準的なGUIになる。 また、T3と違ってCobaltでは、Status Barのアイコンをタップすると、SlipWindowと呼ばれる小さなウィンドウが表示される。これは、一種のダイアログボックスで、アプリケーションウィンドウの上にオーバーラップ表示され、すぐに閉じてしまうような用途に用いるもの。 Palm OSシミュレータには、音声、動画などの再生が可能なプレーヤーソフト「MediaCenter」や、メールソフト「Mobule Mail」などが含まれている。 ●タイムゾーンの扱いが大きく変化 付属のスケジューラソフトは「Date book」という名称で、Tungsten T3以前のものとほとんど同じだが、予定に対してタイムゾーンの設定ができるようになっている。これは、タイムゾーンの考え方がCobaltで変わったからである。 従来のPalmでは、内蔵の時計だけをタイムゾーンに応じて変更しており、予定の開始時刻などには手をつけていなかった。これはこれで便利で、世界中どこへいっても、午後3時に開始として入力した予定は、午後3時のまま。日本に居るときに米国での予定を立てる場合でも、そのまま米国時間で予定を入れていけばよかった。ただし、この方法には欠点もあって、日本からアメリカへ行く飛行機の予定は、出発時刻よりも到着時刻が前になってしまい、入れることができなかった。 このようなタイムゾーン管理をしているPalm機とOutlookと同期させようとすると、問題が発生する。OutlookはUTCを基準に予定の時刻を管理しているため、OS側でタイムゾーンを変更すると、予定の時刻も変化するのである。だから、日本で一度OutlookとPalm機を同期させておいて、アメリカでPCのタイムゾーンを変えて再度同期させると別の予定として認識され、同じ予定が2重登録されてしまう。このあたりをすっきりさせるために、予定の時刻にタイムゾーンを設定するようになったのだと思われる。 CobaltのDate Bookは、システムのタイムゾーンに合わせて開始時刻などを換算して表示する。このとき、予定に設定されたタイムゾーンが、システム側タイムゾーンと一致していないときには、Date Bookの1日表示の画面右端に地球マークが表示され、他のタイムゾーンで設定された予定であることを示す。 画面表示などを見ると、いままでのPIMアプリケーションと大きな違いはないのだが、これはあくまでもOSとともに提供されるアプリケーションで、最低限の機能を満たしたものである。PalmSouceのライセンス形態がわからないのでなんともいえないが、ソニーとPalmOneのPalm OS 5マシンでは環境設定画面などが違っており、標準アプリケーションに関しては、ある程度、ライセンシーが自由にできるのではないかと思われる。 ●データ構造も変わる 今回Cobaltでは、内部データベースがスキーマ構造を持つようになった。スキーマ構造を持つデータベースとは、普通のデータベースのようにフィールドを定義してレコードを構成するもの。Palm OS 5までは、OSはレコードの管理までは行なうが、その内部はアプリケーションにまかされており、レコード内部の構造にはOS側は関与しなかった。 しかし、今回、スキーマ構造が実装されるにあたって、標準アプリケーションのデータ構造も標準化される。つまり、OS付属のPIMアプリケーションは、そのリファレンスとしての役割を持っているわけだ。 ソニーのクリエオーガナイザーのようなソフトを提供するかどうかはライセンシーの自由だが、Palm OS機ではPCとの同期対象が標準PIMソフトのデータであり、これが標準フォーマットとして使われてきた経緯がある。サードパーティのスケジュールソフトであっても、標準のデータ構造を使っている限り、PCと同期が可能になるからだ。このため、PalmSourceとしては、標準アプリケーションを提供しつづける必要がある。 PalmOneが製品化するCobaltマシンは、Cobalt標準アプリケーションをベースに、Tungsten T3のような味付けをもったPIMソフトが搭載されると思われる。 ●Cobalt搭載機は5月? さて、Palm OS Cobaltが搭載されたマシンは、いつ頃の出荷になるのだろうか? Palm OS 5のときには、PalmSourceがライセンシーにPalm OS 5を出荷したという発表を2002年6月10日に行なっている。そして最初のPalm OS 5マシンは、ソニーのクリエPEG-NX60で、これは2002年10月19日に出荷されている。Palm(現PalmOne)は、やはり同年10月28日に最初のPalm OS 5マシンであるTungsten Tを発表している。 つまり、PalmSourceから最終版がリリースされて、4カ月ぐらいで製品が登場しているわけだ。Palm OS Cobaltがライセンシーに出荷されたのは、2003年の12月29日で、これから計算すると、早ければ5月ぐらいには何か製品が出るのではないかと思われる。もっとも、実際の製品計画は、ライセンシーの都合次第。必ずしもPalm OS Cobaltを製品化するとは限らないし、4カ月以内に出荷するという約束があるわけではない。 ●Xscaleはどうなる? Palm OSはARMプロセッサを前提としており、その点ではIntelのXScaleの動向も気になるところ。Palm OS Cobaltを初めて搭載するような機種ならば、高性能のプロセッサを使う可能性が高いからだ。しかし、今年2月のIDFでは、XScale関連の情報はほとんど出てこなかった。通信関連を担当するSean Maloney副社長のIDFキーノートスピーチでは、XScleと関連の話題がいくつかあったものの、将来的な方向がはっきりわかるものではなかった。要点をまとめると、
ということになる。以前レポートしたBulverdeについては、今年出荷であることは変わりないが、まだ具体的な出荷予定は出ていない。 ちょっと気になったのは、ハンドヘルド用の無線LANモジュールである。これは、昨年Intelが買収したMobilianという会社の製品をベースにしたもので、モジュールサイズが小さく、低消費電力という特徴がある。ただし、こちらも出荷時期はまだ公表されていない。 Intelの場合、プロセッサの発表は製品出荷の時期に合わせて行なわれることが少なくないので、どちらも採用マシンの出荷時期に合わせて発表される可能性が高い。 Bulverdeは、カメラインターフェースを内蔵しているため、Bulverdeとハンドヘルド用無線モジュールを使ったPDAは、素直に考えればカメラ内蔵で、IEEE 802.11g/Bluetooth内蔵、高速CPUのハイエンドPDAになると思われる。スペック的にはいかにもPalm OS Cobalt向きだ。 昨年12月、Intelは、携帯電話ビジネスやXScaleなどのPCAアーキテクチャを担当するワイヤレス・コミュニケーションズ&コンピューティング事業本部(WCCG)と、その他の通信全般を担当するインテル・コミュニケーションズ事業本部(ICG)を統合、WCCGのロン・スミス副社長が退社、ICGのショーン・マローニ副社長がXScale関連のビジネスを全部を見るようになった。XScale関係の動きが乏しいのは、こうした組織変更の影響があるのかもしれない。
□関連記事 (2004年3月10日)
[Text by 塩田紳二]
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