元麻布春男の週刊PCホットライン

2004年のPC業界を予想する
【ソフトウェア編】



 前回約束したとおり、今回は2004年の予測ソフトウェア編なわけだが、その前に、先日発表されたIntelの決算について一言。今回の決算は非常に良かったのだが、株価にはあまり貢献しなかった。業績回復は織り込み済みということらしい。むしろ、利益を確定する売りで、若干下げたようだが、まさか英文のプレスリリースにあったDothanのスケジュール遅れが原因ではあるまい(これは日本語訳ではカットされているので、興味がある向きは原文を読んで欲しい)。

 Dothanの出荷が2004年第2四半期になると、Intelが公式に認めたのはこれが初めてだ。昨年秋からPrescottの発表はともかく出荷だけは年内に開始する、と繰り返し述べた際も、DothanのスケジュールについてはIntelは沈黙を守り続けてきた。DothanはBaniasとピン互換であろうから、OEM向けの出荷開始から搭載ノートPCの出荷まで、それほど長い時間を要するとは思わないが、店頭ルートを主力とする大手PCベンダの夏モデルに間に合わせるのは若干厳しいかもしれない。

●Windows XPの通常サポートが終了する今年のクリスマス

 さて、今年のソフトウェアだが、筆者が一番気にかけているのが今年のクリスマス商戦をどうするか、ということだ。気が早いようだが、そろそろWindows XP、特に店頭で売られるPCにプリインストールされるWindows XP Home Editionの通常サポートの終了(メインストリームフェーズの終了)が気になりだすタイミングだからだ。

 現在のMicrosoftの製品ライフサイクルは、メインストリームフェーズ(一般発売後5年)、延長サポートフェーズ(基本的にメインストリームフェーズ終了後2年)、12カ月のオンラインセルフヘルプサポート1年で構成される。

 このうち、無償で提供されるのはメインストリームフェーズのみで、延長サポートを受けるにはMicrosoftと有償の契約を結ぶ必要がある。つい先日、Windows 98/98 SE/Meのサポート延長が発表されたが、これはそれらの延長サポートフェーズを延ばすものに過ぎない。

 そもそもWindows XP Home Editionのようなコンシューマ向け製品には、最初から延長サポートフェーズが存在しないのだから、店頭販売されるPCのプリインストールOSには何の関係もない話。おそらくは、有償のサポート契約を結んでいる大口コーポレートユーザーの中に、まだWindows 98/98 SE/Meを使っているところが残っており、Windows XPへの移行が遅れている、ということなのだろう。

 Microsoftは、コンシューマ向けOSに延長サポートフェーズがない理由を、「コンシューマは延長ホットフィックスを要求しないため」としているが、これは誰が決めたのだろう。コンシューマは「有償の延長サポートを望まない」だけだと思うのだが。

 というわけで話を戻して、店頭販売されるPCにプリインストールされるWindows XP Home Editionについては、基本的に2006年12月31日で、ホットフィックス提供等のサポートが終了する。今年のクリスマスに店頭で売られるPCのサポート期間は2年ということになる。

 あなたは2年しか「賞味期限」のないPCを買いますか? 賞味期限が切れても、必ずしもその食品が食べられないとは限らない。が、保証がなくなるという点、起点が製品の製造時であるという点でサポート期限と似ているように筆者は思っている。

 ハッキリいって筆者なら、2年しか賞味期限のないPCなど買わない。というか、2年しか賞味期限の残っていないOSを買うのはイヤだ。次が出るまで待つだろう。もし、世間の人が筆者と同じ考えだとしたら、このクリスマス商戦は買い控えで悲惨なことになってしまう。

●Windows XP Second Editionが登場?

 このくらいはPCベンダも、Microsoftも分かっているハズなのだが、どうすれば良いのだろうか。メインストリームフェーズを延長する、というのが一番おさまりが良いようにも思うのだが、これを一度やったら、ユーザーは新しいOSへの移行をますます嫌がるようになるだろう。特に企業ユーザーが新しいOSへの移行を拒否したら、Microsoftには致命的だ。今回延長したのは、あくまでも有償の延長サポートフェーズ、というのがミソなのである。

 おそらくベストな方法は、年内に誰もが納得するような新しいバージョンのWindowsをリリースすることだ。それが無理ならば、せめて年内にその新しいWindowsへの無償アップグレードキャンペーンをスタートさせることだ。アップグレードは必ずしもすべてのユーザーにやさしく(易しくと同時に優しく)はないが、まぁ妥当なところではないかと思う。これなら買い控えを回避できるだろう。

 問題は妥当な新しいバージョンのWindowsをどうするか、ということだ。現行のWindows XPの後継としては、Longhornと呼ばれるものが知られている。その新しいフィーチャー(主にハードウェア関連)としては

1. WinFS
2. AHCIサポート
3. Universal Audio Architecture
4. PCI Express
5. NGSCB
6. EFI on IA-32
7. 新しいグラフィックスアーキテクチャ(DirectX 9ベースの3Dユーザーインターフェイス、VGAにかわるUGA等)

などが挙げられている。それぞれについては、昨年のコラムでも取り上げたから繰り返して説明しないが、これだけの新機能を搭載したOSが、あと1年少々で登場してくるとは思えない。何せ、この中にはまだ製品レベルのハードウェアがないものさえ含まれるのだ。

Longhorn β版

 Microsoftはハードウェアサポートの要件として、複数ベンダから製品レベルのハードウェアが提供されていることを挙げており、それを考えるとLonghornが2005年内にリリースされると考えるのは、あまりに楽観的だと言わざるを得ない。

 ちなみにIT関連の調査・コンサルティング会社であるガートナーが昨年12月にLas Vegasで開催したカンファレンスで、調査担当の副社長がLonghornは2007年あたりにズレ込むのではないか、と述べたらしい。その根拠は筆者のものとは全く異なる(おもに企業ユーザーの移行ロードマップの関係)のだが、提供時期に関してはそんなものではないかと筆者も思う。どんなに楽観的に考えても、今年の年末商戦に無償アップグレードキャンペーンを始められるようなタイミングでは無理だ。

 もちろん、Longhornというコード名で、今知られているLonghornとは全く別物のOSを出す、という手もなくはないが、それはまた別の話である。いずれにしても、Microsoftは今年、来年の前半までに新しいOS(Longhornが無理な以上はWindows XP Second Editionということになるだろう)のリリースを行なうか、Windows XPのメインストリームフェーズ(無償サポート期間)を延長するかの難しい決断を下さなければならない。

●64bit版Windows

 この決断とは別にMicrosoftは、出すと言っておきながら、まだ出せていない(それどころかいつ出すかさえ明らかにできていない)OSをリリースする必要がある。それはOpteronに対応したWindows Server 2003と、AMD64(OpteronおよびAthlon 64)に対応したWindows XP 64-bit Editionだ。

 64bit版のWindowsは、現時点ではIA-64用のみが存在するが、それもボリュームライセンスのみという特殊な形態にとどまっている。しかも、DVD再生やWindows Mediaテクノロジなどのマルチメディア関連の機能や、パワーマネージメントがそっくり欠けている。

 もちろんIntelはIA-64用の64bit版Windowsがもっと広く入手可能になって欲しいと望んでいるし、Windows XPがサポートしている全機能のサポートを望んでいるハズだ。Athlon 64をリーズナブルな価格で提供し始めたAMDだって、これらのOSを強く欲しているだろうし、ボリュームライセンスのみ、といったワケの分からない提供形態など認められないハズだ。

 しかし64bit版のWindowsは、IA-64用とAMD64用を合わせてもボリューム的にはかなり小さい。高価なIA-64は言うに及ばず、Athlon 64にしてもAMDのトータルシェア(約20%)が限られた上、そのすべてがAthlon 64に切り替わるわけではない(当面32bitプロセッサの生産は続く)。

 その上Athlon 64のかなりの割合が32bit環境で使われることを考えれば、今のところ64bit OSへの需要は限られた数でしかない。需要とOSの提供はニワトリと卵の関係でもあるのだが、サポートコストを考えるとMicrosoftは単体でのパッケージ提供に難色を示すだろう。

 これらの問題を解消する1つの考えは、Windows XP Second Editionの提供だ。可能性として、現在ベータテスト中のWindows XP SP2をキャンセルし、それをベースにできる限りの(間に合う限りの)新機能を加えてSecond Editionを作るということだ。

 見切り発車で機能の欠けたLonghornを出すくらいなら、実績のあるWindows XPベースで次のOSを出した方がマシではないか。Windows MeはWindows 98 SEの焼き直しということで批判されたが、Windows 95 OSR2が必要になったWindows 95(いくつかの主要な機能を搭載せず見切り発車した)もどうかと思う。

 Windows 95の当時より市場そのものが拡大し、一般コンシューマも増えた現在、Windows Meを出した手の方が手堅いのではないか。いずれにせよ、年内にMicrosoftは何らかの方針を示すだろう。筆者は、Longhornを出すことは難しく、無償サポート期間の延長もしたくないMicrosoftは、Second Editionのリリースに向かうのではないかと思っている。

□Intelの決算ニュースリリース(英文)
http://www.intel.com/pressroom/archive/releases/20040114corp_a.htm?iid=HPAGE+low_news_040114a&
□関連記事
【1月8日】【元麻布】2004年のPC業界を予想する【ハードウェア/ゲーム編】
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0108/hot296.htm
【2003年10月17日】【元麻布】Media Center Editionの船出から見たLonghorn
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1017/hot285.htm

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(2004年1月16日)

[Text by 元麻布春男]


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