アイワは、かつてモデム事業ではトップシェアを獲得した実績をもつほか、一時はパソコン本体まで製品化したことがあるが、その後の業績悪化でパソコン関連事業からは撤退。2002年11月にソニーが吸収合併したのちも、パソコン業界からは縁遠い存在だった。 しかし、2003年の1年間をかけて、アイワは次のステップの準備を進めてきた。そして、それはPCユーザーにとっても興味深いものだ。 ソニー株式会社アイワビジネスセンター マーケティング戦略部統括部長 奥田利文氏は、「2004年のアイワは、PCセントリック型のライフスタイルをもつユーザーに対して、オーディオを核とした様々な製品を投入していくことになる」と話す。 つまり、アイワが、再生を目指す中期的な計画のなかで、パソコンユーザーを主要ターゲットとした製品を相次いで投入する方針を明確に示したものともいえる。
●シリコンオーディオに活路を見い出す 奥田統括部長は、まず、アイワが苦戦をはじめた背景から語りだした。「アイワが苦戦した理由には、まず、ミニコンポなどのオーディオ業界自体が低迷、衰退していたことがあげられる。そのなかで単価下落という状況にも陥っていたため、売り上げが縮小していくのは当然。いくら、ここであがいても売り上げが拡大するわけがない。そして、2点目は、アイワらしい機能や付加価値の提供ができなかったこと。品質や価格という点でも、アイワの特徴を打ち出せる状況にはなっていなかった」 確かに、かつては、品質と価格を両立したメーカーとしてアイワは位置づけられていた。それは、奥田統括部長自身が、ソニーの社員として、'90年代前半にタイやインドネシア駐在中に、商談で何度もアイワに痛い目にあわされていることからも証明済みだ。「なかには、ソニーよりも音質がよくて安いという製品もあった」と奥田統括部長は当時を振り返る。 その後は、海外生産へのいち早いシフトで低価格路線に邁進したが、それはそれで圧倒的な低価格という付加価値があった。だが、アジアから安い生産力を背景にした低価格製品が日本に入り、競合他社もこれに追随するようになると、アイワの魅力は一気になくなった。それが、同社の業績を一気に悪化させたのは記憶に新しい。大規模なリストラを経て、2002年11月にはソニーに吸収合併されるという坂道を転げ落ちたのだ。 こうした反省を踏まえて、ソニーに吸収されたアイワビジネスセンターは、約1年をかけて、アイワの魅力をどこに見い出すかという点を真剣に考えてきた。そして、それは、ソニーブランド製品との差別化をどこに求めるのか、という課題解決にもつながるものだった。 「基本的な考え方は、アイワは、もともとの発端であるオーディオメーカーに徹するべきだ、という点。だが、縮小を続ける既存のオーディオ業界にこだわる必要はない。成長が見込める分野に、小回りを生かして参入するべきだ」 全世界を見回すと、オーディオ業界を取り巻く環境は変化のなかにあった。米国では、無料音楽配信で話題を集めたナプスターの躍進に代表されるように、パソコンで音楽をダウンロードしてシリコンオーディオで聞くという動きが顕在化。ブロードバンド先進国といわれる韓国でもMP3による音楽データの流通は広く浸透しはじめている。 日本では、MDとレンタルCD店の普及によって、まだシリコンオーティオプレーヤーの普及と音楽データの流通という点では、それほど大きな波を感じないが、アップルコンピュータのiPodの成功などを見ると、シリコンオーディオプレーヤーが、徐々に日本市場に浸透しはじめていることがわかる。 アイワが、オーディオメーカーとして、この分野に目をつけるのも当然といえば当然だ。 一方、この分野の参入メーカーを見ると、日本では台湾勢や韓国、米国のベンチャー企業がシェアを獲得していたこと、欧米や韓国、香港、中国でも地場のベンチャーメーカーが高いシェアを持っており、いわば、小回りの利くメーカーが人気を博していることがわかった。 「言葉は悪いが、年商7兆円を超えるソニーから見れば、中小ベンチャー企業が競争を繰り広げている市場。とても、そこには入っていけない。だが、年商規模がピーク時でも3千億円のアイワから見れば、まさに参入できる余地のある市場。ここにアイワらしさが発揮できると考えた」 そして、こんな風にも語る。 「ソニーは、自らが仕様を決めて、そこについてこい、という考え方。だが、アイワは、顧客の変化にあわせて柔軟に変化できるブランド。だからこそ、ソニーが決めた規格にとらわれず、USBフラッシュなども採用できる。アイワブランドとしての考え方の違いが、ソニーとは異なる製品企画の創出へとつなげることができる」 結果として、アイワがひとつの回答として導き出したのが、USBをインターフェイスとしたオーディオプレーヤーの投入だった。 「いまのシリコンオーティオプレーヤーの市場を見ると、ウォークマンによって、カセットテープによる新たな音楽の聴き方が提案された時に似た動きに見える」と奥田統括部長は語る。
●初球を投げるための準備に1年 実は、アイワは、2003年初頭の段階で、一度、USBフラッシュメモリを活用したシリコンオーディオプレーヤーの製品化計画を発表している。そこでは2003年中の製品投入が明らかにされていた。だが、実際には2003年中には、こうした製品はひとつも発表されなかった。 「12月1日を目標に1~2機種の新製品を投入しようという計画もあった。だが、店頭に2機種程度が並んでも、果たして、アイワがこの分野に攻勢をかけるという意気込みが販売店やユーザーに伝わるのだろうか。答えはノー。それならば、年明けに一気に製品を発表したほうがいいと判断した」 この結論を出したのが11月中旬。まさに、ギリギリの判断だった。 奥田統括部長は、「初球になにを投げるか、という点がまずは重要だ」と、野球のピッチャーに例えて話す。 そして、「この1年は、まさに初球に威力のあるボールを投げるための準備をすすめてきた」と続ける だが、製品投入が当初計画に比べて遅れているのは明らかだ。その理由はなんなのか。 「設計が遅れたとか、部材が調達できないためという理由ではない。やはり、コンセプトづくりに時間がかかったのが原因」という。 「新規事業をゼロから始めるようなものだし、ソニーの中途半端なクローン製品といわれるようなものも作りたくない。実際に全世界の主要な市場に飛んで、どんなオーディオの使い方をしているのか、どんな売り方をしているのか、競合メーカーはどんな設計をし、どんな部品を使い、どんな流通施策をとっているのかを徹底的に調べた。そのなかでアイワブランドは、どんな製品を投入すれば勝てるのかを徹底に議論した」 それだけ時間をかけて作りあげた製品が、いよいよ今年デビューすることになる。
●最初の発表は1月中にも
そして、先に触れた「わずか2機種では少ない」という奥田統括部長の言葉からもわかるように、アイワが投入する製品数は、10製品以上になる公算が強い。それらを、日本市場だけでなく、海外市場に向けても順次、投入することになる。 製品の正式発表前ということもあり、製品内容の詳細を聞くことはできなかったが、USBフラッシュメモリーを採用した携帯型オーディオプレーヤーになることは間違いない。 そして、奥田統括部長は、こんなヒントも出してくれた。 「MDならば四角い形状、CDならば丸い形状に限定されるが、シリコンオーディオプレーヤーであれば、3次元的に様々な形状でのデザインが可能になる。米国では身につけて利用する例が多いし、韓国では首からぶら下げて利用することが多い。それぞれの国の利用環境にも最適化したデザインの製品を投入したい」 さらに、以前から明らかにされているように、iPodのようなHDDベースのシリコンオーディオプレーヤーの製品投入も視野に入れるほか、将来的には、5.1chのスピーカーシステムやデジタルカメラ分野への参入も検討しているという。 「初球の配球は、2球目、3球目になにを投げるかを考えた上でのもの。今後も早いペースで製品を投入していくことになるだろう」 正式な製品発表まで、カウントダウンのタイミングとなってきたアイワ。いよいよ再生の道に向けた戦いが開始されることになる。 今年は、再生の道をパソコン業界に求めたアイワの挑戦に注目したい。
□アイワのホームページ (2004年1月7日)
[Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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