●MpegCraftの上位版となる「MpegCraft DVD」
現在市販されているPC、特に量販店で売られるデスクトップPCの多くが、いわゆるテレパソで占められている。 ひとくちにテレパソといっても、テレビを見れれば良いというものから、キャプチャや編集に重点を置いたものまで様々だが、大半はソフトウェアかハードウェアかは別にしてMPEG-2によるキャプチャをサポートしているものと思われる。 加えてカノープスのMTVシリーズに代表されるMPEG-2キャプチャカードのユーザーを含めると、わが国でデスクトップPCを使っているコンシューマーのうち、PCでテレビの録画を行なっているユーザーがかなりの割合で含まれているに違いない。 もちろん筆者もそんな一人。民生用DVDレコーダーをBS/CS主体に使う一方で、地上波(もうアナログと断らないといけないんだよなぁ)の録画にMTVシリーズを使っている。
MTVシリーズで録画したファイルをどう処理するかだが、残すものの場合、基本的にはカノープス製の簡易編集ソフトであるMpegCraftでCMをカットし、カット部だけの部分再エンコードで1つのMPEG-2ファイルにし、そのままMPEG-2ファイルとしてDVD-Rに書き出して保存している。 要するにオーサリングソフトを使ってDVD-Video互換フォーマットにするのではなく、単なるデータDVD-ROMとしてMPEG-2ファイルが書き込まれた状態で残しているわけだ。こうした手順を使っている理由は、色々と個人的かつ歴史的な経緯があってのもの。この方法が良いなどというつもりはさらさらない。気に入ったオーサリングソフトが現れたら、それを前提に手順そのものから見直してもいいとさえ思っている。 それはともかく、現在カット編集に使っているMpegCraftに上位バージョンが登場することになった。名前の「MpegCraft DVD」が示すように、基本的にはMpegCraftにDVD-Video作成機能を加えたもの。価格は7,800円。 MpegCraftは下位バージョンとして販売が継続されるほか、MpegCraftからMpegCraft DVDへのアップグレードパッケージ(3,000円)も用意される。なお、このバージョンからアクティベーション機能が導入され、インターネット、FAX、電話等でアクティベーションコードを入手することが必要となる(アクティベーションしない場合、使用期間が30日間に限定される)。 ●DVD作成機能は簡易的なもの
さて、MpegCraft DVDで加わったDVD-Video作成機能だが、基本的にはMpegCraftの「ムービーファイルの保存」機能の延長線上にある。 使ったことのない人のために簡単に説明すると、MpegCraftでは編集対象として読み込んだ複数のMPEGファイルは、編集区間ごとに細切れのファイルとして出力する(ファイル名には連番が振られる)か、1つのファイルとして出力するかのどちらかとなる。元のMPEGファイルの単位ごとに出力するというオプションはない。 DVD作成機能は、1つのファイルとして出力するというオプションをDVD作成に当てはめたようなもので、作成されるDVD-Videoは1トラックのDVDとなる(VRフォーマット等はサポートしていない)。 たとえば、4つのMPEG-2ファイルからDVD-Videoを作成すると、出来上がるDVD-Videoは4つのMPEG-2ファイルが1つのトラックに順番に並ぶだけでメニューの類も一切ないシンプルなタイトルとなる。当然、最初のファイルの再生が終わったらメニュー表示に戻る、といったナビゲーションはできないし、何もしなければファイルの先頭にチャプターを打つこともない。再生すると、単に先頭からシーケンシャルに再生できるだけのタイトルが出来上がる。DVDオーサリングソフトとしては、極めて簡易な作りだといえる。
上で「何もしなければ」と断り書きを入れたことでも分かるように、MpegCraft DVDではチャプターを打つことは可能だ。任意のポイントにチャプターを打つことはもちろんのこと、編集した区間(カット)の先頭、一定時間間隔、シーンの変わり目などに自動的にチャプターを設定することができる。つまりCMをカットすると、自動的にCM明けの地点にチャプターを設定する、といったこも可能だ(この機能はTMPGEnc DVD Author 1.5にもあった)。 というわけで、DVD-Videoオーサリングソフトとしては、MpegCraft DVDは決して高機能なソフトウェアではない。が、DVD-Videoを作成する際、凝ったメニューを作りたいことももちろんあるが、とりあえず民生用プレーヤーで見ることができるDVD-Videoさえできればいい、ということだって珍しくない。出来合いでいいからメニューを作るオプションがあってもいいとは思うものの、メニュー作りなどオーサリングに長けたソフトはほかにもある。凝ったメニューやナビゲーションを必要とする場合とで、ソフトを使い分ければ良いように思う。 もうひとつ決して強力と言えないのが、ライティング機能だ。上述したように、MpegCraft DVDがサポートするのはDVD-Video互換のフォーマット(VOB形式)だけで、サポートするメディアもDVD-RとDVD-RWに限られる。追記もできない。 また、筆者の手元にあるDVD±RWドライブでDVD-RWメディアに書き込もうとしたところ、なぜか書き込みが中止されてしまった。ハードディスクの任意のフォルダにファイル出力できる(VIDEO_TSフォルダを作成できる)から、とりあえずファイル出力しておいて、別のライティングソフトで書き込めば済む話なのであまり気にしてはいないのだが、このあたりはリリース後のバージョンアップに期待したいところだ。 ●作業状況がひと目で分かるのが便利
では、MpegCraft DVDの良いところはなにか。それは、今ソフトが何をやっているのか、ちゃんと把握できる、ということかもしれない。市販されている多くのオーサリングソフトの多くは、AVIキャプチャしたデータをオーサリングソフトの中で編集し、MPEG-2エンコードする、という仕様になっている。こうしたオーサリングソフトでも外部ファイル取り込みの機能を用いることでエンコード済みのMPEG-2ファイルによるDVD-Videoの作成ができるのだが、必ずしも見通しが良いとはいえない。 オーサリングソフト自身でMPEG-2エンコードしていないファイルについて、再エンコードなしで済む条件と再エンコードとなる条件が、ハッキリしないことが少なくないのである(多くのソフトは、内蔵エンコーダにより作成されたMPEG-2データであれば編集や音声の変換時に再エンコードしないという仕様のようだ)。 その点MpegCraft DVDは、今何をやっているのか、そのままデータを流用しているのか、編集点付近を部分再エンコードしているのか、全体を再エンコードしているのかが、一目瞭然で分かる。再エンコード拒否派の筆者としては、全体再エンコードが発生した場合は、何かがうまくいっていないと判断して中止するので、この見通しの良さは助かる。 MpegCraft DVDのオーサリング機能は「簡易」の域を出ないものだが、個人的には利用可能な局面がある、という評価を下している。特にMpegCraftに対する3,000円の追加オプションとしては、これで悪くないように思う。 ●ドルビーデジタル変換が欲しい
さらに追加機能を望むとしたら、筆者はオーサリング系の強化より、音声のドルビーデジタル変換を望みたい。筆者がMPEG-2ファイルをオーサリングしないでデータファイルとして保存する理由の1つは、NTSC版のDVD-Videoでは音声はリニアPCMかドルビーデジタルが必須で、MPEGオーディオがオプション扱いになっていることだったりする。 DVD-Videoを作成する際、音声をキャプチャしたままMPEGオーディオにできれば、収納効率と作業時間の両面で望ましいのだが、これでは規格外のDVD-Videoとなってしまう。規格外とはいえ、この仕様のDVD-Videoを再生できないプレーヤーの方が少数派であることは十分承知しているのだが、やはり気持ちが悪い。 現状MpegCraft DVDは、DVD-Video作成時の音声の扱いについてはMPEGオーディオとリニアPCM変換の2本立てだが、これでは互換性に目をつぶるか、収納効率を犠牲にするかの二者択一となる。できればドルビーデジタル変換のサポートが欲しいのである。 ちなみに、TMPGEnc DVD Authoer 1.5は、ドルビーデジタルのエンコード/デコードをサポートするプラグイン付のバージョン(および既存ユーザーに対するプラグインの単体販売)が12月26日に開始されることになっている。こちらも気になるところだ。
(2003年12月3日)
[Text by 元麻布春男]
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