第221回
新しいLaVie Jはバランス重視
〜NEC 商品企画担当者インタビュー



 先日発表されたNECの新型LaVie J。その製品レビューは本サイトでも既に掲載済みだが、読者の中には、短期間でのフルモデルチェンジに驚いた方もいるのではないだろうか。先代モデルが発表されたのは今年1月のこと。現行機、LJ700/7Eが発表される10カ月前でしかない。

 しかもその間、Pentium Mの登場に沸き、各社が次々にPentium M搭載のモバイル機を発表する中、NECは2スピンドル機のLaVie Mを発表したものの、より携帯性を重視した軽量ノートPCは手付かずのまま。先代LaVie JはモバイルPentium III-Mを継続採用していた。

 IntelのCentrino戦略に乗って、先代機のPentium Mモデルをリリースするのが得策だったハズだが、そうしなかったのにはもちろん理由がある。だからこそ、先代機で言われていたいくつかの問題を解決する必要があると判断した。

 LaVie Jの商品企画を担当しているNECパーソナルプロダクツPC事業本部商品企画部主任の水野勝之氏、担当の田中秀典氏に話を伺った。

LaVie J LJ700/7E NECパーソナルプロダクツPC事業本部商品企画部主任の水野勝之氏(左)と、担当の田中秀典氏

●本当は1〜2年は使うつもりだった

LaVie J LJ500

 ここで先代モデルと称しているLJ700/5EとLJ500/5Aは、以前にこの連載の中でも紹介したように、スペック面において魅力的な面を持つ製品だった。PCカード+CFカードの拡張スロット構成、SDカードの高速モードに対応する専用4-in-1メモリカードアダプタ、12.1型モデルとしては比較的軽量なボディ、消費電力の大きなUSBドライブをサポートできる拡張電源コネクタ付きUSBポート、USB 2.0×3+IEEE 1394×1の豊富なI/Oポートまわり、IEEE 802.11a/bデュアルバンドの内蔵無線LANなどだ。

 しかしその一方で、縦ピッチが極端に詰まったキーボード、奥に2セル分が飛び出してしまう大容量バッテリ、極端に凸凹の多いアンダーシャシーなど、洗練されていない面も目立っていた。当時からLaVie Jの商品企画を担当していた水野氏は「当時としては省電力や軽量化、薄型化などの面で、NECとしてできることはやったという満足はあった」と話すが、実際には自身の中にも不満を抱えていたようだ。

 水野氏と初めて会ったのは、昨年末、初めてLJ500を披露してもらった時のこと。上記に挙げたような、改善点について意見を交換した時、水野氏自身も僕がその時感じたものと同じ点を何とかしたい、そう話していたからだ。コンセプト作りから仕様決定、設計、製造に至るまでの間に、水野氏が思い描いていたモバイルPCとは違う姿になっていたのだろう。ある種の悔しさを、当時滲ませていたように感じる。

 しかしコストをかけて開発したモデルを、短期間に再モデルチェンジすることは難しい。マイナーチェンジならともかく、完全に新規に作り直すとなると、またもう一度コストをかけて設計をやり直す必要がある。実際「LJ500の筐体は、1年から2年は使うつもりで作っていた。Pentium Mの超低電圧版とグラフィックス内蔵チップセットが揃う5月に、LJ500のPentium Mモデルを投入しようと思えばできた」と話す。

 ところが、LJ500にはユーザーからも厳しい意見が寄せられたという。特にキーボードやバッテリ構成に関する改善要求の声は大きく、それを反映する形でLJ700の早期開発を目指した。当然、社内には“この前出たばかりで、また作るのか”といった意見があったことは想像に難くない。そうした声を抑え込んでまで、やり直しを望んだというのだから、水野氏の気合いのほどが知れる。

●見直されたキーボード

 LJ500に対する不満の中でも、特に我々プレスの間で大きな声として上がっていたのが、キーボードである。タッチに対する不満もあったが、横ピッチ19mmを確保しながら、縦ピッチが17mm足らずしかない、極端な横長キーボードだったことに対する不満が、筆者だけでなくその周りからも聞こえてきた。

 実は、あまりにNECの(一部機種だが)キーボードは悪くなったという声が大きくなったことを懸念して、NECは何人かの記者を集め、12.1型クラスのモバイル機として、どのようなキーボードが良いか意見交換会を実施したことがあった。2月中旬の事である。

 その際に出されたLJ500のキーボードに対する意見は、まとめると次のようなものだった。

  • キーの縦ピッチを横ピッチに揃える
  • ピッチそのものは(無理があるならば)19mmに拘らず、配列の自然さを優先する
  • ファンクションキーとメインキーの間には隙間を空ける
  • ファンクションキーは、4個ごとにグループ化し、それぞれの間に隙間を空ける

 このほかにも、細かなタッチやキートップの印刷などについても意見が出されたが、それらには少なからず“好み”の要素もある。ただ、上記4件については、ごく基本的な部分で集まった記者全員が一致した意見だった。

 水野氏はこの会合の後、2月中にはキーボードベンダーに意見を反映させたデザインのキーボードを発注し、新しいキーボードのサンプルは3月中には出来上がっていたそうだ。

 その甲斐あってか、以前はかなり意識して横長キーを押す必要があったのが、他の一般的なノートPCやデスクトップキーボードを使った直後、あまり意識しなくとも、自然にタイプできる快適なキーボードになった。

 贅沢を言えば、キートップの細かな感触や押し込み感に、一層の洗練が欲しいところだが、以前に比べれば劇的な改善が施されている。もちろん、劇的な改善とはLJ500と比較しての事であり、他社製品と並べてどの程度の位置にあるか? といった議論になれば、中の上といった位置付けだろう。しかし、よほど拘りがなければNGとはならないレベルはクリアしている。前モデルでキーボードに不満を持ったユーザーも、新モデルを再評価する価値はある。

●“デスクトップPCの性能を可能な限りモバイルPCに”

 もっともキーボードだけが改良点ではない。水野氏によるとコンセプトそのものを見直したという。

 「“NECのモバイルPC”が市場で苦戦するだろうということは、あらかじめ予想していたことでした。一部のコアユーザーが毎年一定のボリュームを消費する、というのがこれまでのモバイルPC市場です。一方、店頭市場におけるNECの顧客は、もっと幅広い一般的なユーザー層です。この市場には小型のモバイル機ではなく、性能や機能を優先したモデルが中心になります。

 ところが、LaVie Mでプロセッサ、グラフィック、ハードディスクなどを強化し、DVD-Multiドライブを内蔵した、平たく言えばA4ファイルサイズクラスと機能ギャップを小さくした製品を出したところ、予想以上の顧客が選んでくれた」(水野氏)。

 従来のNECモバイル機は、軽さや薄さなどコアなモバイルユーザーの求める要素を提供しようとしたが、モバイル市場はNECが得意とするフィールドではない。他社と同じようなコンセプトを踏襲していたのではダメと判断したようだ。

 NECが得意とするユーザー層に対してアピールするためには「A4ファイルサイズの製品を使っているユーザーが、そのまま乗り換えても全く違和感がない性能が必要。そこで12.1型クラスシングルスピンドルという枠の中で、可能な限りの機能を実装し、デスクトップPCを使い慣れているユーザーも、普段と同じように作業を行えるように配慮している」(水野氏)。

 このために、製品全体のコンセプトも様変わりしている。従来は無理に薄型化を目指しているように見えたが、LJ700は極端な薄型とせず、その代わりに無理なく2.5インチ80GBハードディスクを内蔵。レイアウトの自由度が増したことで、グラフィックスもチップセット内蔵ではなく別チップを搭載できた。

 モバイルPCならば軽さも求めたいところだが「軽量化のために何でもやるというメーカーもあるが、そうした製品と対決するつもりはない。軽量化は行なうが、数字の上での軽さだけを追い求め、機能を落としたり、使い勝手を犠牲にすることはしたくなかったからだ。ハードディスクの高速・大容量化、グラフィックパフォーマンス、キーボードについては特に気を遣ったところ。突出したスペックを実現するのではなく、使いにくい部分がないようにバランスを取ることを重視し1.36kgに収まった」(水野氏)。

 先代モデルは、スペック上は魅力的な数字が並ぶものの、個人的には今ひとつ釈然としない部分も多かった。価格的には魅力だったものの、純粋にハードウェアだけを見れば多くの競合製品の中からLJ500を積極的に選ぶ必然性はなかったように思う。

 「自分たちも、実際の開発現場の担当たちも、実際に先代モデルを使って、改良しなければならないという意識は持っていた。だからこそ、思い切ったモデルチェンジが行なえたとも言える。また、機能を増やした割には軽くすることもできたと思う」(水野氏)。

 その背景には従来機で薄型に挑戦した経験が生きている。薄型を実現するには、筐体の剛性を出すため、より厚い筐体よりも重くしなければならない。そこで厚みと重量のバランスを見直した。先代モデルまでに筐体にかかる各部のストレスに関しても情報が集まっていたため、筐体素材の厚みを部分ごとに変更することで、強度を落とさずに軽量化を果たすことができた。

 ハードディスクの容量と性能も拘った部分だという。本機の店頭モデルは2.5インチ80GBを内蔵。このドライブは富士通の最新モデルだが静粛性が高い。パフォーマンスは最新ドライブの中では平均点といったところだが、先代モデルの東芝製1.8インチドライブ比では約2倍のパフォーマンスを実現しているという。

 「シングルスピンドル機の場合、可能な限りハードディスクに様々な情報を詰め込んでおきたい。あらかじめアプリケーションが決まっているビジネス向けならば20GB程度で十分だが、個人で仕事にも趣味にも使いたい、あるいは仕事オンリーでもパワーポイントのデータをすべてモバイルPCに詰め込んで……となると、40GBがミニマム。余裕を考えると80GBは欲しい。だから店頭モデルは80GBモデル1本に絞ったんです(なおカスタムオーダー可能な121wareモデルのLaVie G タイプJには40GB、60GBのモデルも用意されている)」(水野氏)。

●購入するユーザーの満足度を上げるために

 ここまで話を伺ってわかるのは、開発陣が薄さや軽さよりも、ユーザーが必要とするスペックを無理なく、バランスよくまとめることに気を遣っていること。少しでも軽くなるならと削るのではなく、どの点がバランスとして丁度いいのか。その頃合いはユーザーごとに異なるものだが、NECなりにそのバランスポイントをユーザーの立場で考えた結果が今回の製品になっている。

LaVie J LJ700/7Eのマザーボード

 例えば本機は超低電圧版Pentium Mが採用されている。筐体の容積が増えた現行モデルなら、(個人的にはPentium Mモデルは冷却ファンを装備すべきと考えているが)ファンレス設計とすることも可能だっただろう。モバイルユーザーの中には、現在でも根強くファンレス信仰がある。設計次第では冷却部の軽量化を行なうこともできる。もしくは冷却ファンを備えようとするならば、低電圧版や通常電圧版を使うこともできたかもしれない。この点について、今回のインタビューが行なわれる前、製品を紹介して頂いた時に開発陣に伺ったことがあった。

 しかし高性能プロセッサをむやみに採用することが、ユーザーメリットにはならないと判断したようだ。平均消費電力の増加、筐体に伝わる熱、冷却ファンの動作頻度といった問題があり、高クロック品を積むことによる営業的なメリットよりも、トータルのユーザー体験を向上させるために超低電圧版を選んだというわけだ。冷却ファンに関しても「強い負荷がかかった時に、過熱しないように性能を落とす必要がある」ため、削りたくなかった。

 グラフィックチップに、モバイル機としては高性能なMobility RADEON7500を採用したことも、まわりから見ればLaVie MでMobility RADEON9000を搭載し、コンシューマユーザーにウケたため、今回の製品でも3Dゲームができるモバイル機を狙ったのか? と思われそうだが、実際にはパフォーマンスと省電力の両方を狙った結果だったという。

 「チップセット内蔵のグラフィック回路を評価したが、TDP(熱設計電力)の面では有利になるものの、平均消費電力はMobility RADEONなどの外部チップを使う方が低くなる。パフォーマンス面の優位性も考えはしましたが、むしろ省電力でバッテリ動作時間を長くできるからという方が大きい。我々はユーザーがPCを持ち出した先で、しっかりと望みの仕事をこなせる製品を狙った。突出した性能は不要」(水野氏)。

●LaVie Jの今後は?

 もっとも、ごく個人的な目から見ると、ここはこうなれば良かったのにと思う部分もある。たとえばバッテリの構成、それに奥行き方向の大きさである。

 バッテリ構成は容量、重量、コストのバランスが最も優れている18650というセルを4本内蔵。これは従来機と同じだが、出先でライトに使うには十分な容量ではあるものの、本格的にバッテリで仕事をする人には、ちょっと物足りない。12.1型クラスのサイズを考えれば、6セルバッテリを背負うことも可能だったのではないか? もちろん、そのためには約100gの重量増加が伴うのだが。

 「6セル化は検討していた。しかし本格的に出先でバッテリのみで仕事をするには、6セルでも不足してしまう。そこで出先で一仕事する程度、スペックで言うと5時間をひとつの目安にした。それ以上は追加のバッテリで対応した。実際、企業向けのモバイル機としては、8時間以上の長時間駆動を求める声が多く、軽量を求めるユーザーとのバランスを取ると4セル+追加バッテリの構成とした」(水野氏)。

 ただその拡張バッテリはいわゆる“座布団型”で、装着することで10.5時間程度の駆動時間(スペック値)になるものの、重さは545gも増えてしまう。内蔵するバッテリ自身は軽量だが、座布団型バッテリはセルを収めるケースが重くなってしまうからだろうが、背面のコネクタ類を側面に移動させ、背面に1列、4本のバッテリを出っ張らせるといった選択肢もある。

 「前回、18650を2列分外に出し、8セル構成にできる大容量バッテリを用意したが、これが非常に不評だった。そこで、出っ張りだけは避けようと。製品本体との一体感を出せるなら、多少重くなってもしかたがない。製品全体のレイアウトを考えても、背面からすべてのコネクタを廃することは無理だった」(水野氏)。

 一方、奥行きの大きさが伸びたのは、キーボードの縦方向のサイズが増えたことに主因があるのは見た目にも明らかだが、もうひとつLEDインジケータが配置された部分が液晶パネル部よりも出っ張っているせいでもある。この出っ張りがあることで、液晶パネルが開きにくいという短所にも繋がってしまっている。しかも、この出っ張り部分には何も入っていない空洞なのだ。

 これに関して水野氏は悔しそうな表情を浮かべながら、少しだけ話してくれた。この部分、削ろうと思えば削れたところだが、特定用途向け(病院など)に用意しなければならないタッチパネルモデルと筐体を共通化する必要があったのが、存在の理由だとか。タッチパネル用の液晶パネルサイズが大きく、筐体を共用するためにはボディ先端を数mm伸ばさなければならなかった。

 こうした細かな部分での疑問はあったものの、LJ700を俯瞰してみると、3ポートのUSB 2.0、IEEE 1394、CFスロットなど、従来機で好評だった部分を踏襲しながら、ハードディスクやグラフィックが強化され、増加した重量以上のユーザーメリットを提供している(狙い通り)バランスの良い製品にはなっている。“売れる製品”になるためには、もうひとつ何か、ユーザーに対するアピールも必要だろう。

 「自分自身では、最初に掲げたコンセプトはしっかりとやれたと考えている。(点数を付けると? と訊くと)80点。70点以上を製品レベル、90%が理想に近いレベルとすれば、その中間以上の点数は出せると思う。ただ、現状で満足しているわけではない。新型に関する改良すべき点も把握しているつもりだ」とは水野氏。

 一方、田中氏は「次のモデルでは、部品の調達が可能ならば12.1型で、XGAよりも高解像のモデルも作ってみたい。また(消費電力の面では不利だが)広視野角のIPS液晶パネルをモバイル製品に導入することなど、(表面をツルツルにするのではなく)液晶を本当の意味できれいにする努力も必要だと思っています」と、表示周りの改良を示唆した。

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【11月5日】【HotHot】高い基本性能を誇るモバイルノート「LaVie J LJ700/7E」レビュー
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【11月4日】NEC、超低電圧版Pentium Mを搭載した「LaVie J」
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【1月29日】【本田】魅力的スペックとその実現のギャップ
〜新型LaVie GタイプJレビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0129/mobile188.htm

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(2003年12月2日)

[Text by 本田雅一]


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