COMDEX Las Vegas 2003レポート

SunとAMDが本格的提携
~Scott McNealy基調講演レポート


McNealyの基調講演に登場したHector de J. Ruiz CEO(右)

会場:米国ネバダ州ラスベガス市 ラスベガスコンベンションセンター
会期:11月16日~20日



 COMDEXの展示などは現地時間の月曜日(17日)から開催され、朝から基調講演も開始されている。16日に行なわれたビル・ゲイツの基調講演は、いわば前夜祭のようなものだ。

 17日の基調講演に登場したのは、Sun Microsystems(Sun)のScott McNealy CEOである。この機構講演には、AMDのHector de J. Ruiz CEOがゲストとして登場した。というのも17日にAMDとSun Microsystemsは、戦略的提携を結んだことを発表したからである。

 発表によれば、Sunは来年、Opteron搭載サーバー2機種を出荷し、さらにOpteronの64bitモード用にSunのOSであるSolarisを移植する。

 2月24日に開催されたSunのアナリスト会議で、AMDのプロセッサを使ったサーバーを開発する意向が表明されており、さらに8月に開催されたLinuxWorldでは、Opteronの64bitモード用のJava(具体的には2004年に出荷予定のJ2SE)を開発することを発表した。ただし、この時点では、Opteron用JavaはLinuxおよびWindows用とされており、Solarisについては触れられていなかった。

 また、AMDのOpteronの発表に、Sunがコメントを寄せていたという経緯から考えると、SunとAMDは、提携についてずっと交渉を進めていたのかもしれない。

McNealyとRuizの間にあった黒い布をとると来年登場予定のSun Fireマシンがあった左が2Way、右が4Wayのサーバー 左が2Way、右が4Wayのサーバー

●Opteronでローエンドサーバーを強化

 SUNがOpteronを採用したのには、いくつか理由があるが、最も大きいのは、同社のSPARCシリーズ、特に最新のUltraSPARC IIIが、単体では、他の64bitプロセッサに水を開けられつつあるという点。

 UltraSPARC IIIは現時点では動作クロック周波数1.2GHzで、Opteronと同様にメモリコントローラを内蔵する。内蔵キャッシュは1次キャッシュ(命令32KB、データ64KB)のみ。外部に8MBの2次キャッシュを配置できるようなインターフェイスを持っているが、3次キャッシュを接続することはできない。

 古くからのパートナーである富士通は、UltraSPARC IIIと同じSPARCスペックV9を採用したSPARC 64 Vを開発しており、自社のPRIMEPOWERシリーズに採用している。こちらも動作クロックは最大で1.35GHz、1次キャッシュが256KB(データ、命令各128KB)で、SunのUltraSPARC IIIとあまり変わらない。

 システムとしては最大106個のUltraSPARCを搭載できるSun Fire 15Kなどがあり、マルチプロセッサでの性能は確保できている。が、問題はシングルプロセッサや2~4プロセッサ程度のローエンドサーバー領域である。つまり、UltraSPARCの単体性能が高くないために、この領域での競争力を失いつつある。

 現時点では、対策としてIntelのXeonプロセッサを使ったサーバーを提供している。このとき、オペレーティングシステムとしては、Linuxもしくは、Solaris x86を使う。

 AMDとの提携は、このような1~数プロセッサ程度のローエンドサーバー領域を強化するというねらいがある。単体で比較すれば、Opteronは性能が高く、ベンチマークソフトのSPEC(CPU2000)ではUltraSPARC IIIの倍近い速度差が出ている。

 つまりSunは、Opteronを採用することでローエンドサーバーの性能を倍程度にまで向上させることができ、他社のXeonマシンのみならず、IntelのItaniumやIBMのPOWER4+と十分対抗可能になるわけだ。

●AMDにもメリット

 AMDとSunとの戦略的な提携では、AMDにも大きなメリットがある。Intelと比較してAMDの不利な点は、パートナーにインテグレーションまでが可能な大手のハードウェアベンダーがほとんどなかった点。こうしたパートナーがいない限りOpteronは、エンタープライズ市場に参入することが不可能であった。

 IBMがOpteronサーバーを製品化しているが、IBM自身もPowerシリーズを持ち、またIntel系CPUでも広くビジネスを行なっているので、Opteronだけを積極的にプロモートするとは考えにくい。

 しかしSunは、ローエンド領域では、性能の高いOpteronを積極的に活用することになる。これによりAMDは、エンタープライズ領域に本格的に参入することができる。

 もう1つは、Solarisが特にマルチプロセッサでの実行効率が相対的に高く、マルチプロセッサで有利になるOpteronと相性が悪くないこと。Linuxなどもマルチプロセッサ性能は向上しているものの、いわゆる純正Unix系とはまだ差がある。

 Opteronは、Solarisでマルチプロセッサ性能を他のアーキテクチャと比較して高めることが可能だ。これにより、ベンチマークなどで有利な値を得られるようになる。

 SunとAMDの提携は、来年登場するOpteron版Sun Fireだけでなく、Hypertransportの実装での技術協力なとが含まれるという。現在のHypertransportは、Link Widthが仕様上32bitまでとなっており、おそらく64bit化にSunが協力するということになる。また、Sunが今後のプロセッサにHypertransportを採用する可能性もあるだろう。

 基調講演では、壇上に登場したHector de J. RuizとScott McNarlyが握手。Sunが提供予定のOpteron搭載Sun Fireマシン2機種を一瞬だけ披露した。しかし動作デモはなかった。

●Java Desktop Systemや3Dデスクトップをデモ

 基調講演では、いくつかの技術デモも行なわれた。1つは、Sun Java Desktop Systemと呼ばれるLinux Desktopシステム。これはSunが企業向けなどに開発したLinux用のデスクトップ環境で、StarOfficeやRealOne Player、MacroMedia Flash Playerなどと同時に提供される。かつてProject MadHatterと呼ばれていたものだ。

 エンタープライズ向けデスクトップは、一括導入でかつ利用方法が限定されることから、Linuxディストリビュータなども参入を始めたところ。Sunのものは、SuSEのLinuxをベースにGnomeを使って記述されている。なお、Javaは利用可能で、一部Javaアプリケーションもあるものの、現在のバージョンは、すべてがJavaで記述されているわけではない。

 デモではサーバーとネットワーク接続し、作業中のデスクトップが他のJava Desktop Systemマシンに再現される様子や、市販のノートマシンを使ったデモが行なわれた。

 また、将来的な技術として開発中の「Looking Glass」と呼ばれる技術のデモも行なわれた。これはJava Desktop Systemの発展形で、3Dグラフィックスカードの描画機能を使い、3Dデスクトップ環境を提供するもの。たとえば再生中の動画ファイルへのコメントをつけるのに、動画再生ウィンドウがクルリとひっくりかえって、裏にテキスト入力ウィンドウが現れたり、半透明のウィンドウの背後に動画がうっすらと透けて見えるようになっている。

 また、ウィンドウを一時的に待避するのに画面を斜め(つまり、手前から奥へウィンドウが広がる状態)にして横に配置するなど、3D機能を多用したものになっている。3D描画には、Javaで記述されたOpenGL(JOGL)を使い、ウィンドウマネージャなどもJavaで記述されているという。現在のJava Desktop Systemから見るとデスクトップテーマのような扱いになっているが、実行にはX Window Systemにも手を入れる必要があるという。

Sun Java Desktop SystemにおけるLooking Glassのデモ。動画を表示しているRealPlayerがクルリとひっくりかえってメモの入力ウィンドウに。写真ではわかりづらいが、背景に裏返しになったRealplayerがあり、うっすらと動いている動画が透けて見える 同じく、RealPlayerと端末ウィンドウの重ね合わせ。やはり背景に動画が透けて見える。画面下のウィンドウを表すアイコンも同じ動画が小さく表示されている ウィンドウを斜めにして端に片づけることができる。この状態でもやはり動画の再生は続いている
商品がいっぱいのショッピングカート押してRF-Tagリーダー(写真左の後ろに見える白い箱)の前を通過すると、すべてのタグが読み取られて集計が行なわれる(写真右)

●富士通の動向にも注目が集まる

基調講演後に行なわれたQ&Aセッション。McNealyとRuizが質問に答えた

 基調講演後、別室でQ&Aセッションが開催され、Scott McNealyとHector de J. Ruizが質問を受けた。

 その中でSPARCの今後についての質問が出たが、Sunは投資を続けるとし、SPARCの代わりにOpteronを採用したのではないことを強調していた。システムとしては、ハイエンドクラスに引き続きSPARCを採用し、エントリー/ローエンド領域にはOpteronを使うという役割分担だという。従来、ローエンド領域はx86ベースの32bitマシンを用いていたが、Opteronを採用することで、ラインアップ全体で64bit化が達成でき、それぞれの領域で十分なパフォーマンスが得られるとしていた。ただし、すでに顧客に提供したIA-32ベースのSun Fireサーバーについては継続して提供していくという。

 会場には「POWER PLAY」(集中攻撃、力の政策)と書かれたタイトルが掲げられ、両者の組合せが強力であることをアピールしようとしていた。しかし、数的にはItamiumを採用するメーカーのほうが多く、こちらのほうがPOWER PLAYという気がしないでもない。

 去就が注目されるのは、Sun MicrosystemsのSPARC開発パートナーでもある富士通だ。今回の発表に富士通は参加していないが、AMDは引き続き売り込みをかけていくという。

 しかし富士通は、今年1月にIntelと協業をすることで合意し、2005年にはItaniumプロセッサマシンを投入する予定とされている。富士通は、2001年にItanium搭載のPRIMERGYを投入したものの、後継機種はなく、現状ではItanium陣営には属してはいない。

 また、サーバー製品のラインアップは上位にSPARC 64シリーズ(PRIMEPOWERシリーズ)、下位(PRIMERGYシリーズ)にはXeonなどのIA-32を採用しており、Intelともまったく無関係ではない。Opteronを導入するとなると、既存のIA-32系列のサーバーとの競合もありえる。富士通にとってはSunとAMDの連合に加わるのは簡単な問題ではないようだ。

□COMDEXのホームページ(英文)
http://www.comdex.com/
□関連記事
【11月18日】Sun、Opteron搭載サーバーを2004年中に投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1118/sunamd.htm
【4月17日】サン、「チップ・マルチスレッディング」を推進
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0417/sun.htm

(2003年11月19日)

[Reported by 塩田紳二]


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