COMDEX Las Vegas 2003 ビル・ゲイツ氏 基調講演レポート

シームレスコンピューティングという方向性を打ち出したMicrosoft


基調講演の会場となったアラジンシアター

会場:米国ネバダ州ラスベガス市 ラスベガスコンベンションセンター
会期:11月16日~20日



 例年通り、COMDEXのキックオフはビル・ゲイツ氏の基調講演から始まった。

 基調講演の会場は、昨年までのMGMグランドホテルのシアター(17,000人収容)から、今年はアラジンホテルのシアター(7,000人収容)へと小さくなったが、入場できなかった来場者のために、モニターで視聴できる別会場が用意されるほどの盛況だった。

 この中でゲイツ氏は、エンタープライズ向けと新たに位置づけられた新生COMDEXにあわせて、企業向けのソリューションに時間を割いたほか、新しいテクノロジである“Stuff I've Seen”などを紹介した。

●デジタルの時代を実現するのに必要なシームレスコンピューティング

Microsoftの会長兼CSAのビル・ゲイツ氏

 初めてゲイツ氏がCOMDEXの基調講演に登場したのは、今を遡ること20年前の'83年だった。ゲイツ氏はその当時のことから話を始めた。「当時、ポール・アレンと私はソフトウェアには夢があると考えていた。そして、それはハードウェアと組み合わせることですばらしいデジタルの世界が実現するはずだと。確かに、'83年に比べて今はすばらしいソフトウェアとハードウェアがある。だが、夢はすべて叶ったわけではなく、未だ道半ばだ」と述べ、現在のIT業界は理想を実現する途中の段階にすぎないという見解を明らかにした。

 「'80年代にはハードウェアの制限によって、ソフトウェアでやりたいことを実現するのは難しかった。例えば、CPUは286の時代でWindowsを動かすには十分ではなかった。これが、386、486……と進化していくに従ってそうした制限はなくなっていた。'90年代には、ハードウェア同士が接続していった時代だ。Ethernetの普及によりローカルのハードウェアが接続され、インターネットの普及により遠隔地のハードウェア同士が接続されるようになっていった」と、過去の歴史を振り返りつつ、そろそろ次の段階へ進むべきだと指摘した。

'80年代はハードウェアの普及が、'90年代はそれが相互に接続され、そして2000年代はソフトウェア同士の接続が課題となるとゲイツ氏 デジタルの時代を実現するには、コンピューティングをよりシンプルにするシームレスコンピューティングが鍵に Microsoftはシームレスコンピューティングを実現するために68億ドルの投資を行なっているという。これは5年前の倍にあたるものだという

 「次の段階は、ソフトウェア同士が通信するようになる時代がやってくる。具体的にはユーザーとユーザーの持つ情報を自然な形で結びつけていくという作業だ」と述べ、それを実現する具体的な手法として「シームレスコンピューティング(Seemless Computing)という概念を提案した。

 ゲイツ氏のいうシームレスコンピューティングとは、ソフトウェア同士がお互いにコミュニケーションすることでユーザーが難しいことを考えなくても、簡単に使うことができるという意味。ゲイツ氏は“Very, very simple”(非常に、非常に簡単)と、シンプルなことが重要であると強調した。

 ゲイツ氏は、Microsoftがこうしたシームレスコンピューティングの実現には多大な投資が必要であるとし、すでに68億ドル(日本円で7,480億円)もの投資を行なっていることを明らかにした。ゲイツ氏によれば、この額は5年前の倍にあたるものであり、Microsoftとしても今後そうした動きを加速していきたいと述べた。

恒例となっているビデオは、今年もCOMDEXで新作が披露された。今年の新作は、Matrixのパロディで、ネオに扮したバルマー氏が、デジタルの世界へ飛び出ていくためにゲイツ氏から空手の訓練を受け強くなっていくというストーリー。途中、ハングアップしたコンピュータがLinuxベースだったりなど、相変わらずブラックジョークが効いたものになっていた

●SPOTのサービス開始は来年に延期、Tablet PCは第2世代へ

 ゲイツ氏のいうシームレスコンピューティングを実現する3つの要素が、サーバーなどに代表される“システム”、.net、XML、Webサービスといった“ソフトウェア”、SPOTやTablet PCなどの“スマートデバイス”であるという。これらのシステム、ソフトウェア、スマートデバイスなどを実現する要素技術として、ゲイツ氏はセキュリティとSPOT、Tablet PCなどについて言及した。

シームレスコンピューティングを実現する要素はシステム、ソフトウェア、スマートデバイスの3つであるという。そのうち、SPOTについての説明が行なわれた

 セキュリティに関しては、“Trustworthy Computing”を今後も推進していくとし、その具体的な例として既にリリースされたWindows Server 2003用の管理ソフトウェア“System Management Server 2003”(SMS 2003)、“Internet Secutiry & Acceleration Server 2004”(ISA Server 2004)の2つについて言及、デモを行なった。

 ここ数年のCOMDEXでは、コンシューマ向けの内容が多かっただけに、エンタープライズ向けのデモはやや意外な感があったが、これはCOMDEXのテーマ自体がエンタープライズ向けに変更されたことに配慮したためかもしれない。

 さらに、その後スマートデバイスの例として、SPOTとTablet PCに関して言及した。

 「当社はSPOTやTablet PCなどユニークなフォームファクタを業界に提案してきた。今後もそうした提案を行なっていきたい」(ゲイツ氏)と、SPOTやTablet PCの成果を強調した。

 SPOTは、昨年のCOMDEX/Fallで構想が発表され、今年の1月に開催されたInternational CESにおいて製品などが発表された製品。FM放送に載せて送られるデータを受信する時計ライクなデバイスだ。各SPOTのクライアントは個別のIDを持っており、PCからパーソナライズされたWebサイトに接続することで受信するデータを選択することなどが可能になっている。

 当初は、今年の秋にサービスが開始される予定となっていたが、結局延期されていた。今回ゲイツ氏は「来年の早い時期に市場に投入されるだろう」と、サービス開始が来年に持ち越されたことを明らかにした。

第2世代のTablet PCについて説明した

 また、ゲイツ氏は第2世代のTablet PCをこのCOMDEXで公開することを明らかにした。といっても、Tablet PC用のOSであるWindows XP Tablet PC Editionが新しいバージョンになったわけではなく、製品としてのTablet PCに第2世代の製品が登場したという意味だ。

 今回の基調講演においてゲイツ氏は、東芝、HP、ViewSonic、Acer、GatewayのTablet PCを紹介し「これらの新しい製品に大変興奮している」と述べ、第2世代Tablet PCの登場で、Tablet PCの普及はより進むだろうと強調した。

 また、次世代のTablet PC用OSについて触れ、「現在Windows XP Tablet PC Editionの新しいバージョンを開発しており、来年の半ばに投入する予定だ。この新しいバージョンは現行のTablet PCを所有しているユーザーに無償で提供されるだろう」とし、既存のTablet PCユーザーが無償でアップグレード可能であるということを明らかにした。

 おそらく、サービスパックのようにダウンロード可能なパッケージとして提供されるという意味だと思われるが、これからTablet PCを購入しようと思っているユーザーにとっては朗報といえるだろう。

●人間に替わって必要な情報を検索収集してくれる“Stuff I've Seen”

 基調講演の最後に、ゲイツ氏は同社がWindows XPの次世代OSとして開発しているLongHornについて触れ、観衆に向かって「LongHornは非常に意欲的な製品となるだろう」と、LongHornの魅力について語り出した。

 「LongHornはシームレスコンピューティングにフィットした製品になるだろう。LongHornではWindows File System(WinFS)と呼ばれる新しいファイル管理の仕組みが導入され、ユーザーがメール送ったり、Webを見たり、音楽を聴いたり、ということのやり方を変えてしまうような製品になる」と述べた。つまり、LongHornにより、ユーザーはよりシンプルにPCを使うことが出来るようになり、シームレスコンピューティングの世界に近づくということだろう。ただ、肝心のリリース時期については、「まだリリース時期を公開する段階にはない」とし、PDCに引き続き明らかにされなかった。

 さらにゲイツ氏は、同社のリサーチグループの成果として、“Stuff I've Seen”と呼ばれるプロトタイプソフトウェアを公開した。このソフトは、言ってみれば人間に替わって、必要なデータを探してくれるタイプのソフトウェアだ。

 これまでの検索ツールでは、例えばメールの検索をするのであればメールソフトから、Webサイトの検索をするならWebサイトからと、各アプリケーションごとに行なわなければならなかった。そこで、“Stuff I've Seen”では、これらを統一してアクセスすることを可能にする。

 デモではWindowsのタスクバーに用意されたダイアログに検索したい用語を入れると、Webサイト、メールソフト、PDF、PowerPoint……とすべてのファイルを検索しに行き、その結果をユーザーに表示してくれる。表示順などはユーザー側で自由で設定することができる。

 あるいは、あるメールを受け取ると、それに関連した過去に閲覧したファイルなどを自動で探してきてくれて表示するという。ちょうどWindowsの検索機能と“最近使ったファイル”の機能をより高度にしたような機能だが、たしかに実現すれば便利そうだ。

 “Stuff I've Seen”のデモを行なったMicrosoftリサーチ シニアリサーチャー Susan Dumais氏は「我々はLongHornの開発チームと密接に協力し、WinFSのような機能でこうしたビジョンが共有できないか準備をしている」ということを明らかにした。

 最後にゲイツ氏は、「こうした様々なビジョンを実現していくことで、“デジタルの時代”を現実にしていきたい」と語り、今後も“デジタルの時代”を加速すべく努力を続けていくと、意気込みを語った。そして、「今夜ここで語ったことは、まだ始まりにすぎない、しかし、今後その速度はどんどん加速していくだろう」と述べ、講演を締めくくった。

LongHornに関しては概念的なものが説明されただけで、詳細や出荷時期などに関しては語られなかった “Stuff I've Seen”ではファイルから横断的に検索を行なえ、かつそれが高速に実行できる メールを受信すると、それに関連したメッセージなどを表示してくれる

□COMDEXのホームページ(英文)
http://www.comdex.com/

(2003年11月18日)

[Reported by 笠原一輝]


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