すでに大手PCベンダ各社は、今年の秋冬モデルを発表し、ショップの店頭にも並び始めている。そんな中で、筆者もテレビ番組録画用のPCとして、ソニーのバイオRZシリーズを導入してみた。理由は本文中で詳しく述べるが、外出先から録画したビデオ、およびライブのテレビを見たいというのが最も大きな理由だった。 というのも、ソニーのTVチューナ搭載モデルには、ソニーのホームネットワークソフトであるVAIO Mediaのサーバーがインストールされており、VAIO MediaのクライアントPCを利用すれば、録画したTV番組やライブテレビを外出先からインターネット経由で見ることができるからだ。 ●出張先のホテルでF1が見たい、ただそれだけのために……
外から録画したビデオやテレビを見たいという最大の理由は、筆者の趣味のモータースポーツ観戦にある。最近、ようやくスカイパーフェクTV(いわゆるスカパー!)を導入し、フジテレビ721でやっているF1の生中継を見ることができるようになった。 全然PCとは関係ない話で恐縮だが、昨年はM・シューマッハの独走で、この時期(9月中旬)にはドライバー部門も、チーム部門もチャンピオンが決定しており、興味もそがれる状況だが、今年は昨日行なわれたアメリカGPでも、まだチャンピオンは決定していない状況で、まさに毎戦見逃すことができない。 ところが、筆者は先々週はIDF、先週はCOMPUTEXと海外の取材が続いており、今週も引き続き台湾での取材が続いている現状だ。つまり、せっかく導入したスカパー! も、家にいなければ見ることができないわけで、実際、これまでは涙をのんできた。 家にあるHDDレコーダで録画だけはしてきたのだが、今回のような3週間も海外に滞在という状況では、見るのはレースが終わってから3週間後という可能性もでてくる。その間にインターネットなどで結果を見てしまうことは間違いない。やはりスポーツは筋書きがないから見ていておもしろいのであって、結果を知ってしまってから見ても全然おもしろくない。 今回3週間も海外に出っぱなしという状況の中で、その間にイタリアGP、アメリカGPと絶対に見逃せない2戦があり、なんとかそれを海外で見たいと考えていた。そんな時に入手したのが、バイオRZだったのだ。 ●ダイヤルアップからブロードバンドで使い方が変わる
幸いなことに、最近では多くのホテルにブロードバンド回線が用意されていることが多い。というか、海外イベントのレポートという筆者の仕事では、現地からファイルサイズが大きな写真を送る必要があるため、ブロードバンド回線の有無は必須であり、ホテルを決める最上位の条件にブロードバンドを入れているほどだ。筆者に限らず、出張族の人はそういう人が少なくないのではないだろうか。 さて、帯域幅がダイヤルアップに比べて圧倒的に広いブロードバンド回線の場合、従来のダイヤルアップでは考えられなかった使い方ができるようになる。 筆者の知人は、外出先から自宅にVPNで接続し、デスクトップPCのTVチューナカードで録画したMPEG-2の動画ファイルを、DivXのような高圧縮率のコーデックでエンコードし、それを視聴しているという。 筆者もその方法を試してみたことがあったのだが、面倒なのと、2時間の番組だとそれでも1GB近いファイルサイズになってしまうので7時間も、8時間も転送にかかったあげく、エラーが起きて最初からやり直しということを何度か経験してから、この方法はあまりリーズナブルではないなと考えるようになった。 確かにこの方法だと、動画のクオリティは自宅のPCで見るのとほとんど変わらないはずだが、「タイムラグを最小限にして、すぐ見たい」という筆者の用途にはあまり適していないといえる。 そこで、バイオRZにプレインストールされていたVAIO Media Version 2.6を利用することにした。VAIO Mediaというのは、ソニーのホームネットワークソフトで、サーバーとクライアントの両方のソフトウェアが用意されている。 サーバーはTVチューナが内蔵されているバイオシリーズにプレインストールされており、サーバーにクライアント用ソフトウェアインストールファイルが用意されており、ノートPCなどのクライアントにインストールして利用できる。 なお、クライアントは、バイオシリーズ以外のPCにもインストールして利用することも可能だが、稼働保証はバイオシリーズのみとなっており、他社製PCで利用する場合には自己責任で、ということになる。 ●DDNSの機能を利用して自宅のVAIO Mediaサーバーに接続する
さて、外出先からVAIO Mediaにアクセスする場合には、必ず必要なものとしてグローバルIPアドレス、固定IPアドレスではない場合にはDDNSをサポートし、UPnPの機能をサポートしたルータなどが必要になる。 筆者の場合にはヤマハのネットボランチ RT56vというルータを利用している。RT56vは、ヤマハ独自のDDNS機能(ネットボランチDNSサービス)を持っており、ネットボランチ独自のドメインアドレスが付与され、IPアドレスが変更されるたびにDNSを更新していく仕組みを採用している。 ユーザーは、付与されたドメインアドレスにアクセスするだけで、自分のRT56vにアクセスすることができる。なお、こうした独自のサービスを利用可能なルータを持っていない場合は、MEETサービスと呼ばれるソニーのサービスを利用できる。 ちなみに、イメージとしては下記のようなイメージで自宅のバイオRZに接続することになる。
筆者がサーバーにバイオシリーズを選んだ理由は、スカパー! のチューナに対応しているというのが大きな理由だった。図でも書いたように、バイオシリーズはスカパー! のチューナがサポートしているAVマウス機能をサポートしている。これはスカパー! のAVマウスをバイオのリモコン受光部に貼り付けることで、スカパー!のチューナで予約した番組が再生されると同時にバイオでも録画することが可能になるという機能だ。 これがあるおかげで、通常であればスカパー! のチューナとPCの両方で予約しなければならないのが、スカパー! のチューナだけですんでしまう。とても便利だ。 外からVAIO Mediaのサーバーにアクセスするためには、一度自宅のネットワークで接続し、サーバーからアクセス許可をもらっておく必要がある。あとは、設定の項目で、自分のルータのアドレスを入力すれば接続することができる。 それが終われば外出先のブロードバンド回線に接続し、“「外から楽しむ」へ”というアイコンを押すことで、自宅のバイオに接続され、“ビデオを見る”を選ぶと、バイオで録画した動画ファイルの一覧が表示される。“テレビを見る”を選ぶとライブテレビを見ることが可能だ。 動画ファイルはストリーミング形式で配信され、どのような形式で転送するかは、ユーザー側で設定できる。選べる形式は以下の通りだ。 【動画の場合】 【ライブテレビの場合】 MPEG-4に変換する場合には、サーバー側に負荷がかかるが、筆者の持つバイオRZ73Pでは、CPUにPentium 4 3.20GHzを搭載していることもあってか、特に問題なく利用できた。
●インターネットの帯域幅はQoSがないので、ビットレートは280kbpsあたりが限界
問題はどちらかといえば、インターネットの帯域側にあった。実際、筆者はこの3週間で3つのホテルのブロードバンド回線で試してみたが、2つのホテルではMPEG-4の160kbpsのビットレートでもなんとか、1つのホテルでは280kbpsのビットレートがなんとかとぎれずに使える限界だった。 表示品質はどちらのビットレートもブロックノイズがかなりでてしまい、なんとか見られるレベルというところだった。現在のインターネットの仕組みでは、QoS(回線品質保証)をすることは不可能であるため、おそらくどこへいっても280kbpsあたりが限界と考えていいだろう。 ともあれ、バイオRZのおかげで、ほぼタイムラグなしに録画したビデオを見ることができるようになった。例えば、アメリカGPでは、日本時間の朝5時に中継が終了したので、その時間に起きて、すぐに見ることができた。また、取材先のプレスルームなどで、ご飯を食べているときに、VAIO Mediaを起動することで、自宅のテレビをライブで見ることも可能になった。テレビっ子の筆者にとっては、これはなんとも快感なことで、しばらくはやめられそうにない。 ●確実性を求めるならVPNなどでリモート管理できるようにすべし
ただし、問題もある。第一に筆者宅で利用しているヤマハのルータがやや不安定で、時々ルータがハングアップしてしまい、つながらなくなってしまったことがあった。 結局、家族に連絡してルータの電源を入れ直してもらうことで解決したのだが、家族がちょうど留守にしている時で、それまで12時間程度は何もすることができなかった。こうしたことを考えると、別途別の回線を用意したり、とバックアップを検討する必要もあるのかもしれない。 また、ルータ側には問題がないのに、なぜかVAIO Mediaのサーバーに接続することができなくなる場合があった。この場合には、VPNで自宅のネットワークに接続し、リモートデスクトップ接続でバイオに接続し、バイオをリセットしたり、あるいはVAIO Mediaのサーバーを再起動したりという必要があった。 筆者が利用した限りでは、何度かサーバーを再起動する必要があったことから、もう少し安定性を増す必要があるかなとは感じた。そうした意味では、他にも家電製品で同じようなことができる製品もあり、かつ家電である以上は安定性では勝っていると考えることができるので、そっちを選ぶという選択肢もあるだろう。 ただ、PCであれば、筆者がやったようにリモートコントロールも可能だ。筆者としては、PCにはそうした自由度があることが利点であると考えているので、今回はPCを選択してよかったと考えている。 もう1つの問題は、家族がバイオRZを起動してテレビチューナを利用して録画したり、テレビを見ている場合には、ライブテレビ機能を利用できないことだ。これは、テレビチューナが1つしかないことからくる制限で、日本と海外でチャンネル争いが起こってしまうというわけだ。 そういう意味では、できればVAIO Media用にもう1つチューナを追加してほしいところだ。次期モデルではTVチューナカードを追加できるオプションなどを用意してほしい。 ●外出先からTVを見るには現時点で最も現実的な解
このように、外出先からは実質的にMPEG-4の280kbps程度が限界であると考えることができるので、表示品質に関しては望むべくもない。どうしても高品質でなければ我慢できないという人であれば、本製品のようなソリューションはあまり意味がないかもしれない。 その場合には、リモートデスクトップ機能で自宅PCにログインし、DivXでエンコードして転送するというのが現実的だと思う。 しかし、筆者にとってはこれまで全くできなかった、“すぐ見る、生で見れる”という用途には、現時点で最も現実的な解ではないかと考えている。つまり、完璧が100点だとすれば、筆者はVAIO Mediaは60点ぐらいかなと考えている。 今回選択したバイオ以外にも、リモートでテレビを見せるソフトは他にもある。今後はそうした製品も含めて、「外出先からテレビ」をもう少し研究してみたいと思う。 □関連記事
(2003年9月30日) [Reported by 笠原一輝]
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